◇365 -腐敗した女帝-3



枝先だけではなく胴自体をウネウネとクネらせた木と巻き貝の殻を宿にするヤドカリ。雲もハッキリした姿で泳ぎ、長年放置されているであろう看板には見た事もない文字が数個あった。


ウンディー勢は無事、シルキ大陸へと上陸し、木や雲などを各々観察し、まるで観光に来たかのような声をあげていた。

その姿を数分間見ていた螺梳ラスは、もういいだろう、と思い発言する。


「ここは間違いなくシルキ大陸だ。地図だとキョウの近くの海岸だ」


その声に情報屋のキューレは地図を広げ【京】とやらを探す。キューレの元へ全員が集まり、螺梳が海岸と京を交互に指差す。


「ここが今俺達のいる海岸だ。そしてここが、京っていう街だ」


「ほぉほぉ」


キューレは頷きながらペンで海岸に丸印をつけ、京まで線で繋ぐ。地図に書き込むなど何年、何十年ぶりだろうか、と思いながらもフォンを入手していなかった昔を思い出し、少し楽しい気持ちになっていた。


「この、京とやらは大きな街なのかえ?」


「ああ。和國で一番大きな街って言っても過言じゃないな。治安もいいし飯も美味いぞ」


どこか自慢気に言う螺梳は京の住民。

妖怪、アヤカシ、人間が暮らすシルキの首都とも言える街が【桜の都 京】なのだ。


「ほぉー、大きな街は情報集めに最適なのじゃ」


キューレは地図の京へ星印を書き込み、螺梳へ京までの道を細かく聞いた。

和國───シルキはどこへ行くにも基本的に夢幻竹林を通らなければならない。そしてこの夢幻竹林が恐ろしく広い為、慣れない者が歩けばほぼ迷う。螺梳は現在地の海岸から夢幻竹林、そして京までの最短ルートをキューレに代わり地図へ書き込んだ。

キューレが螺梳へ道を訪ねている間に他のメンバーはフォンが正常に機能しているかの確認と、ウンディーポートに残る小型潜水艦へのメッセージ送信を済ませ、その結果をジュジュが情報屋へ伝える。


「キューレ」


「んじゃ?」


「フォンは一応正常に働くんだが───」


フォンの全ての機能は正常といえば正常に働く。アイテムポーチもモンスター図鑑もマップ機能も。しかしメッセージや通話などの連絡手段がシルキ外の者には届かない様子。


「うむ。なるほどのぉ。それも小型へ伝えたんじゃったら問題ないじゃろ」


「だな。そっちはどうだ?」


地図をクルクル巻き、キューレは地図をフォンポーチではなくベルトポーチへ突き刺した。


「終わったのじゃ。で、ここからどうするんじゃ?」


目的はシルキとの関係協定ではなく、あくまでも腐敗仏の原因解明と可能な限りの排除。そのために戦闘経験値も高く、ウンディーが手薄にならないようメンバーを厳選した。


「そうだな.....螺梳はここで自由にしてくれ。地理を教えてくれてありがとう」


「こちらこそ送ってくれて助かった。俺は一先ず拠点へ戻る。京の連中には外からの客が来るって伝えておくから、変に警戒せず気楽に京へ行くといい」


「へぇ......、それはありがたい」


「んじゃ、俺はここで。また会おう」



螺梳は拠点へ戻ると言い、海岸でウンディー勢と別れた。現在地、首都、首都までのルートを教えてもらったうえに案内を頼むのはやはり申し訳ない。螺梳には螺梳のやる事があり、ウンディー勢も同じく。ここで解散し、後日会えたら「久しぶり」という関係が冒険者同士の関係とも言える。螺梳は冒険者ではないが。



「さて、じゃあ俺達は京って所を目指すか」


ジュジュはメンバーにそう告げ、先に上陸していたであろうエミリオへメッセージを飛ばした。





鬼の瘴鬼しょうきの柔和消滅と眠喰バクの能力暴走の抑制を終えた所で千秋ちゃんとその他がわたしを連れ戻しに来た。

来るのが遅すぎないか? と思っていたがテルテルの値札が破れてしまったため書き直していたとか。なぜ破れたのか.....それは多分あの時、まぁ、気にするなって事だ。


鬼と寝不足が気絶状態なため、千秋ちゃんが妖怪達を家まで送る事になったが、わたしと烈風はポコちゃんの寺で降ろされる事になった。


現在、わたしエミリオはシルキ上空を巨大鳥の背に乗り飛行中......全く、何やってんだわたしは。

夕鴉と夜鴉を探すために和國へ来たのに、快適な空の旅なんてしてる場合じゃねっての。


まぁ、色々疲れたし宿代節約としてポコちゃんの所へ一旦戻るけども。


「はぁ.....コーラ飲みたい」


甘くてシュワシュワなアイツが恋しくて、フォンに届いたメッセージに気付かないまま、わたしはもうすぐ到着するであろうポコちゃん家までおとなしくしていた。





前衛、カイト、るー、リナ。

中衛、だっぷー、キューレ、ゆりぽよ。

後衛、しし、ジュジュ。

この並びで夢幻竹林へ踏み込んだウンディー勢は薄いもののやはり鬱陶しい霧に気分が下がる───ような事はなかった。


天然の竹を前に、ししは瞳を輝かせだっぷーと共に根元を探る。カイト、リナ、ジュジュは「竹で作った器で酒もいいな」と安定の酒トーク。るー、キューレ、ゆりぽよ、は武器や防具の話題。全く緊張感のない連中は隊列も無視し、夢幻竹林をのし歩く。


「あ、あったよししちゃん!」


「なぬー!? どこどこ? タケノコどこどこ?」


どうやらアルケミストの2人は食材であるタケノコを探していたらしく、無事発見し採取成功。フォンポーチで固有名【夢筍】が表示された。


「ゆめたけのこ!」

「ユメタケノコ!」


2人が同時に固有名を言い、それにキューレが反応する。


「なんじゃそれ?」


「立派なタケノコだよ! 後で料理してあげるね!」


ししは夢筍をフォンポーチから取り出し、キューレへ見せた。


「ほぉー.......ん? それフォンポーチに突っ込んだ時に名前出たんか?」


「そうだよー! 夢筍って可愛い名前」


「固有名が出たって事は新種じゃないって事じゃの......つまり、誰かが発見して名前をつけて、その名前をフォンに登録して情報を更新したって事じゃ」


「???」


ししは「難しい話はわからない」というような表情で瞳をぱちくりさせたが、話を聞いていたジュジュはキューレの言いたい事を理解した。


「そういう食材系もウチのギルドで扱っているが、初めてみた。和國と交流があるっぽい猫人族ケットシーはどうだ?」


「んニャ、俺も初めて見たニャ」


「まず筍にゃんて入ってこないニャ」


「筍は酒に合うにゃ~! ししにゃん早く料理してくれニャ~」


「なるほどな」「なるほどのぉ」


猫人族の反応で何かわかったジュジュとキューレはクチを揃えて頷いた。


「シルキ内でフォンが使える時点で予想していたが」


「ここでも昔はフォンが使われておったんじゃろな。螺梳ラスを見た限りじゃ今は存在さえしとらんっぽいがのぉ」



他国と必要以上に関係を持たないシルキが、便利アイテムのフォンを過去に使っていた。或いは使っていた者がシルキにいた。

この情報は今コレと言って役には立たないが、今後ウンディーとシルキが関係を築き、そこからノムーやイフリーへと繋がれば、フォンの小難しいマナ設定も必要なくシルキにもフォンが流通するようになるだろう。



地界───四大陸が繋がる夢のような現在が実現する日は案外近いのかも知れない。



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