◇320 -シルキ大陸-3
わたし、超天才魔女であり、最強の冒険者であり、絶世の美女であるエミリオさんは猫人族の里付近にある海底洞窟を通って地界最後の大陸【シルキ大陸】へ向かった。目的は【夜鴉】と【夕鴉】という謎の素材。この素材はわたしが使うワケではなく、金を作るのに必要なワケで、まぁとにかくほしいのだ。
待ちに待った新装備も完成し、いざシルキへ! と海底洞窟へ突撃したのだが、骨マンと遭遇、戦闘になりわたしは魔剣術だけでなく魔術も暴発させてしまったのだ。荒れ狂うわたしの攻撃は最強すぎたのか洞窟を面白いほど抉り、洞窟には海水が流れ込み、わたしは知らない海岸。ここまでは誰がなんと言おうと作戦通りだった。
その海岸で話を聞き、わたしはとりあえず近くの街まで飛んでいこうと竹林付近を箒で爆走していたら、この世のモノとは思えないキモくてグロくて気持ち悪いモンスターなのかも不明なヤツに捕まり、温厚で世界的に有名なエミリオさんも流石にプッツン。
しかしコイツがまたウザい強いウザいで、本気を出すか迷ったが
......したのだが、予想外のダメージに受けていたわたしは竹林でおっちんだのだ。
うっすらとしている記憶では確か.....武器の特種効果のおかげで......何かいい感じになったハズなのだが、今わたしは知らない家で謎の巨乳狸女とお茶を飲むというご褒美イベントが発生していた。
「ほれ、今度はちゃんとしたお茶じゃ」
「おう」
狸女の.....ポコちゃんはわたしへお茶をくれた。竹の絵が描かれたマグカップ.....のようなカップには先程貰ったクソ苦いヤツに似た色の液体が。罠かも知れないので湯気を少し鼻でドレインし、ニオイを確かめるも、もうさっきのクソ苦いヤツのせいで何もわからん。
「煎餅もあるぞ、食うか?」
「せんべー! 食う!」
確か和國産のお菓子であるせんべー。これは中々うまいのでありがたい。欲を言えばケーキやチョコ.....最低ポテチが欲しかったが下手な事を言えばせんべーも貰えないという結果を招いてしまうので、ここは黙っていただこう。
「して、聞きたい事とはなんじゃ?」
「んあ、まず、ここどこなの?」
「......どんな育ちをすればそんな風になるんじゃ? クチから煎餅飛んどるぞ」
クソ苦薬がチート級に効いたのか、本当に今は痛みも
「ここってウンディ......熱ッ!? なんだこれ!」
「少し落ち着け!」
熱々茶に舌を焼かれたわたしは嫌でも落ち着かされる。改めてゆっくりお茶を飲み、真面目に質問をスタート。
「ここはウンディー大陸か?」
「いや、ここはシルキじゃよ」
さらっと答えたポコちゃんだったが、さらっと流せるワードではなく、
「シルキ!? わたしシルキに上陸してたの!?」
あの激流の中、奇跡の運を炸裂させたわたしは狙い通りシルキ大陸へ上陸していたらしい。海岸の風景も何かが違ったし、竹林も初めて見たが、ウンディーでのわたしの行動範囲は “用事ないならいかない” スタイルなので知らない場所や街なんて数えきれないほどある。ので、ここがシルキ大陸だなんて考えもしていなかった。もっと人に会っていれば和國装備だらけで予想出来ただろうけど......まぁシルキ大陸に上陸出来ているならok問題ない。ってヤツだ。
「シルキか.....初めて来たけど全然気付かなかったぜ。もっとこう、和國って感じの大陸だと思ったけど全然なんだな」
せんべーをバリバリ食べながら「これはシルキのお菓子」と改めて味わうが、全然普通のせんべーだ。ウンディーに来た時もイフリーへ行った時も、その大陸へ行く! その大陸に到着! という気持ちがあったから到着したぜ感も湧いたが.....激流に飲まれてこっそり到着してましたってのは、ここシルキだぜって言われても実感が湧かない。
「まぁこの辺りは別にじゃの。一応お主が倒れておった竹林はシルキにしかないんじゃがのぉ」
「へぇーそなんだ」
「海岸付近の木々もシルキのものじゃし、この家もシルキの文化じゃしの」
「へぇーそなんだ」
「そのお茶も煎餅もシルキの原産じゃし、もっと大きな街へ行けば嫌でも実感が湧くじゃろ」
「へぇーそなんだ」
「........おい」
「あん?」
せんべーを丸テーブルの上で重ねるタワーオブせんべーをしていたわたしへ、ポコちゃんこと狸女がジットリとした視線を突き刺してきた。
「.....はぁ~.....いつの時代も魔女ってのは自分のプラスになる事にしか耳を向けんのぉ! 魔術ばっかりでなく、もっと会話を楽しむって事を学ぼうとは思わんのかのぉ」
「いやいや、耳向けてんじゃん。ちゃんと返事.......え? ポコちゃん魔女に会った事あんの? つか、わたし魔女ってシルキまで広まってんの?」
だとしたらわたしはシルキでも天才魔女エミリオさんとしてモテてしまうではないか。それは.....悪い気はしないが、それよりもポコちゃんはわたし以外の魔女に会った事があって、今の感じだと会話した事もあるのか? だとしたら......本格的にこの狸女の年齢を知りたくなる。
「会った事あるもなにも、お主のように倒れとった所を助けたんじゃよ。魔女って奴はいつの時代も無茶ばっかりする種じゃのぉ」
「だっせー魔女もいたもんだな。で、その魔女の名前は? てかいつ会ったの?」
最近の話ならばダプネかフローになるだろう。もしそうならクラウンがこの大陸に......究極に面倒臭い連中がここにいるとなれば、すぐセッカへ連絡すべきだ。今やクラウンはレッドキャップと同じくらい危険な存在でいて発見次第討伐すべき対象だからな。
「名前を知りたいかえ? 会ったのはそうじゃのぉ.....2000年くらい前じゃのぉ」
「2000!? わたしが誕生する前か.....つかポコちゃん何歳なの?」
「ワラワの正確な年齢はわからん。8000を少し過ぎた所で数えるのをやめた」
「8000!? クソババーじゃん.....なーにがポコちゃんだよ───んぎっ」
ついクチを滑らせてしまったわたしへポコちゃんのゲンコツがポコン、ではなく、ズドンと落ちた。ありゃ一種の拳術だぞ.....頭の中に嫌に響く感じだし。
「.......んで、その魔女はなんでシルキ来たんだ? 略奪?」
「シルキには探し物というか別の魔女を追って来たって感じじゃったのぉ。まぁあの頃はシルキ大陸じゃのぉて 多種界のエリア2 じゃったがのぉ」
「多種界のエリア2.....だっせー名前だな。まぁもうこの話いいや」
「勝手じゃのぉ。で、他に何が聞きたいんじゃ?」
「竹林で気持ち悪いヤツがいたんだ。アイツはなんだ?」
「.....やっぱり遭遇しとったか。そやつはどうした?」
また雰囲気が変わった───いやさっきの独特な雰囲気に戻ったというべきか。こりゃ下手な嘘はなしで答えた方がいいな。
「殺したぜ」
「なんと! お主ひとりでかえ?」
「あぁ。襲ってきたからな。マズかったか?」
「いやいや、それよりよく無事じゃったのぉ」
「無事じゃねーよ。ポコちゃんが拾ってくれなかったらまぢで死んでたかもだったぜ。で、アイツは何なんだ?」
「
「ほう、やっぱり
「フム。雰囲気とかはどうじゃった?」
「雰囲気.........」
わたしはあの気持ち悪い変態野郎を思い出す。雰囲気は、ただただキモい。って感じだがそれは今どうでもいい。もっと別の何かを言いたい。あれは───
「剣術でもない、魔術でもない別の力を使うヤツで.......雰囲気ってか、魔力が違った。それを詳しく知りたい」
「ほぅ、そんなちんちくりんでも本物の魔女じゃのぉ」
狸女、ポコちゃんは立ち上がり、壁の棚.....とはまた違う収納スペースの扉を開け、中から取り出したのはウンディーでも見かける和國デザインの武器【カタナ】だった。
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