-魔力-
◇287
雨の女帝 事件から3日が経過した朝。フローが起こした大きな事件から僅か3日、アイレインには冒険者や騎士達がまだ大勢残っている。各国の重任達は自国へ戻り、すぐにクラウンの存在や今回の事件などが拡散され、今後の話しなどもすぐに行われる。レッドキャップは数年放置されていたというのにクラウンはすぐに議題に上げられ、ノムーとウンディーはこの件でさらに距離を近付ける。イフリーは王や女王といったトップに君臨する者が不在な為、国のバランスを保つ事さえ危うい。が、
「.....人間は凄いな」
クラウンのメンバーであり、宝石名を持つ魔女のダプネは得意の空間魔法でアイレインを覗き、呟いた。
ダプネから見ても決して仲良くは見えなかったノムーの騎士とウンディーの冒険者、そしてイフリーの軍だが、今は力を合わせてアイレインの復興や周辺の警備、他の街や自国な手薄にならないよう様々な案を出し合って歩む姿に、ダプネは羨ましさにも似た感情を覚えた。
人間だけではない。他の種族も雨の女帝が残した深い傷を必死に癒そうと、一般人を不安にさせぬよう必死に行動や活動を始めていた。
「......エミリオの所へいくか」
ダプネは自分に言い、空間魔法を繋ぎ、敵対する事になったであろう親友的存在、エミリオの元へと飛んだ。
◆
ドメイライト騎士のテント内でわたしはひとり、ぼーっとしていた。ワタポやハロルド、プーはアイレイン周辺のモンスターを狩りに。
なんでも今回の件で【結界マテリア】が痛んでしまったらしく、アイレインにモンスターが侵入する恐れがあるとかで周辺のモンスターを寄せないよう、狩りへ。騎士や軍も手伝っているみたいで、交代で周辺の警備をしているらしい。
アスランは「イフリーの王様になって戻ってくる。そん時はウンディーと同盟組んで、冒険者に戻るわ」と意味不明な事をクチにし、イフリー大陸へ。だっぷーとヘソもイフリーへ戻り、引っ越し準備を済ませてウンディー大陸へ来るとか。
ゆきち、みょん、ナナミンの悪魔天使ズはセッカと共にバリアリバルへ戻った。何でもドメイライトへ向かうとか何とか.....詳しい話はわたしも知らない。
ゆりぽよも天使みょんのおかげで怪我も治り、リナやるーと共に一旦猫人族の里へ戻り、バリアリバルに住めるよう話をしてくるとか。ついでに使えそうな情報があったら引っ張ってくるとか言って帰っていった。
「........」
リピナは───アルミナルの石材職人へ、ラピナとルービッドの墓を依頼。墓を設置する場所などはアルミナルの建築家達と話し合い、決定した所でアイレインの復興を手伝っている。
しし屋は一旦アルコルードへ戻り、店を空っぽにしてからアイレイン復興を手伝うと言い、キノコ帽子を揺らして帰っていった。なんでも、バリアリバルで店を出したくなったらしい。しし屋のお弁当屋さんは美食の街の激戦区にオープンしたばかりだし、他にも店舗があるだろうけど、まぁ.....しし屋は好きなスタイルでやるのがお似合いだ。
音楽家とビビ様は職人に混ざり、アイレインの建物設計図などで毎日職人と口喧嘩している。そこへララも登場し、設計班は毎日毎日言い合いだ。
アクロスとジュジュは復興に必要な材料などを調達したりで、ウンディーポート、バリアリバル、アルミナル、アイレインをギルメンと走り回っている。そこに烈風も混ざっている。
「みんな元気だな.....空元気か?」
テントの隙間から街を見て、わたしは再びゴロリと寝転がる。復興の手伝いから逃げているワケではない。しかし今は少し考えたい、頭の中を整理したい。わたしだけではなく、リピナもそうしたいだろうけど、アイツは強いのか強がりなのか考え止まる事を今はしない。
「空元気ってのはあるのぉ。まぁ、今すぐ癒えるような事じゃったら誰も悩んだり苦しんだりせんじゃろ」
わたしの呟きに時間差で返事を飛ばして来たのは、声や口調から考えてキューレだ。わたしはテントの外に居るであろう情報屋へ、
「いたのか、入れよ」
と返した。
「んじゃ、失礼するのじゃ」
普段は赤茶色の前髪を束ね上げている情報屋のキューレだが、今は下ろしていて新鮮な感覚に。アップヘアの時とは違い、可愛らしささえ感じる。
「前髪下ろしてんの初めて見たぜ。イメチェン?」
「ヘアゴムが切れてしもーてのぉ。そう言うお前さんは髪伸びとるのぉ。イメチェンかえ?」
「
キューレ口調で返事をし、わたしは身体を起こす。お腹の上に乗せていたキャスケット帽子を手に取り、黙っているとキューレが珍しく飲み物をくれた。
「オレンジジュースじゃん、サンキュー.....ってお前が何かくれる時って情報が欲しい時だよな?」
「わかっとるのぉ、さすが1年弱の付き合いじゃが濃さが違うのぉ濃さが!」
「.....まぁいいか、わたしもお前に聞きたい事あったし、ジュースも欲しい。話す場所変えようぜ」
ドメイライト騎士のテントからわたし達は出て、アイレイン入り口付近の馬車乗り場にあるベンチへ向かった。街の中心はやはり損傷が酷く、崩壊という言葉しか思い浮かばないが、街全体で見れば40パーセントほどの崩壊。アルミナルの職人達や冒険者の職人、騎士や軍も全力で復興を手伝っているので.....早くて数週間以内にアイレインは復活するだろう。崩壊した規模なども関係するが、アルミナルの職人達のスキルはやはり驚かされるものがあり、復興が数週間以内に終わるだろう。
「雨も小降りでええのぉ。相変わらずの曇り空じゃが」
「晴れたアイレインは綺麗だよな.....」
ベンチへ腰を降ろし、キューレから貰ったオレンジジュースをひとクチ飲み、わたしは鬱陶しい曇り空を睨むように視線だけ上げる。
「早速情報を~といきたい所じゃが、お前さんや」
「あん?」
「昨日今日で一度でも鏡見たかえ?」
「.....顔洗った時にチラ見くらいか? 何かついてる?」
わたしは頬や鼻などに触れ、何かついているのか? と確認しているとキューレが一瞬鋭い雰囲気───キューレからは感じた事ない程の鋭利な雰囲気を一瞬だけ視線に乗せ、言う。
「酷い顔しとるぞ、今すぐにでも誰かを殺しそうな。んや.....死にそうな、か? お前さんがそんな顔するとはのぉ.....今まで見た事ない顔じゃ」
「......どんな顔だよ」
酷い顔、か。普段ならオイシイネタだと食い付くように「不細工って事か!?」などと反応するが、今のはそういうフリでも何でもない。女帝───ルービッド戦を終えてから張り詰めていた緊張が緩み、わたしはダプネやフロー、他の魔女の事を考えた。そして昔の事も。
「......わたしはさ」
「ん?」
「ダプネの母魔女───人間とかで言う、お母さんを殺したんだ」
「..........は?」
「色々あったんだよ。でな、わたしはその頃すでにダプネとは知り合い.....友達だった」
「......」
「ダプネには話してないんだ。わたしが───」
「 !? おいエミリオちと黙れ!」
「───わたしがダプネの母魔女、メリクリウスを殺したって事」
キューレが何か言っていたが、わたしは止まることなく言いきった。そして、
「.....お前が.....
いるハズのないダプネが───紅玉色の瞳を見開き、立っていた。
「.......ダプネ」
雨が少し強く、冷たく、わたしの肩を叩いた。
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