◆277



大型系モンスター、高難度モンスターなどを討伐する際はパーティをいくつかまとめた連繋パーティ、レイドを組む。

レイド───襲撃の意を持つ言葉で、討伐対象を大人数で襲撃するスタイルからそうつけられた。


レイドパーティには様々な役割がある。

モンスターのターゲットを自分に向け続け、攻撃を捌き続ける壁役のタンカー。

モンスターを攻撃する事に特化した火力役のアタッカー。

レイドメンバーのダメージやデバフを回復する癒役のヒーラー。

壁や癒、火力などの様々な能力を上げつつ、ボスに様々な異常を与える役のバッファー、デバファー。


大きく分けてこれだけの役目があり、各々役割をこなすことで大型、高難度モンスターを討伐する。

この時、クチに出さずともお互いがお互いの存在を認め合い、頼り合い、助け合う事が重要になる。


これがレイド初参戦者などに伝えられる事であり、伝えるまでもない事でもある。

しかしこれはレイド中の言葉ではなく、安全な街などでの言葉。頼り頼られ感謝し合う事でモンスターを討伐できるならば誰も苦労しない。


高難度SS-S2レートの特異個体、雨の女帝 アイレインを前にレイドが半壊状態に陥った今、元冒険者の現雨具屋ラピナは、命令するような強い口調をレイドメンバーへと響かせた。これが街───安置などでの発言ならばヘイトを感じる者もいるだろう。しかし今は討伐対象が君臨している状況。強い口調で素早く言い、強きな発言でレイド全体の士気を上げるようにラピナは発言していた。

その意に答えるようにタンカー達は声を上げ女帝アイレインへ挑む。


「セツカ! 仕切りが堂々としていないでどうする! 命令口調でも何でもいいから、眼の前に討伐対象が居る場面では誰よりも強気でいけ!」


ラピナはセツカの背を叩くように言い、広範囲設置型の治癒術を女帝の背後にいるタンカー救出チームへ。設置型の治癒術は発動すれば数秒から数十秒間その場に癒しの魔法陣を広げ、中の者を癒す。つまり発動さえしてしまえば次の行動へ移れる。ラピナはすぐに同じ魔術を先程女帝の攻撃で圧し飛ばされたメンバーの足下へ設置したかと思えばすぐに次の詠唱へ。

ヒーラー達の魔力を回復させる設置型魔法陣を展開させ、「組み直せ」とセツカへ言葉を残し後ろ───濡れた地面に膝を付けた妹リピナの元へ。


「......ラピ姉」


「お前はヒーラーだろ? ここで何をやってる?」


「ルビーが.....」


「ルビーが女帝化したから戦えないか? それなら今すぐここから消えろ」


ラピナの声質も言葉も冷たく、リピナは小さく震えた。


「今ここにいるレイドはルビーを.....女帝を討伐する。邪魔されても迷惑だ、お前は今すぐバリアリバルへ帰れ」


「───ッ......」


立ち上がろうとしないリピナを数秒見て、ラピナはこれ以上何も言わずレイドへ合流した。





無色の魔法陣が優しい光で傷や体力を回復させる。


「すげーなコレ.....中級くらいの回復量じゃね?」


わたしエミリオは帽子を拾い上げ、足下の魔法陣を見つつ近くのレイドメンバーへ声をかけたが、話す余裕がないのか誰ひとり反応してくれない。それもそうだ。すぐ前にはタブルレートの女帝がタンカー達を八本の腕で攻撃している状況。話す暇があるなら参戦すべき現状だ。

前衛を勤めていた者達はすぐに立ち上がりアタッカーとして女帝へ攻撃を仕掛ける。ドメイライトの騎士やイフリーの人、冒険者が全力で女帝を叩くも全くダメージが通らない。


「.......おかしい」


いくらダブル───最高ランクのSSだとしても、これだけの攻撃を無視出来るほど堅いものなのか? ワタポなんて爆破剣術まで使っているのに火傷どころか焦げ痕ひとつ付けられない状態。単純に物理耐性がイカレているなら納得も出来るが、その場合は魔法耐性が低くなる。両方高める事は可能だが、あくまでも高めるだけ。イカレ耐性にするのは不可能。そして女帝は魔術に対しても物理と同じように無傷に近い状態。


「とりあえず撃ってみるか」


考えていても何もわからない。わたしはとりあえず魔術を放ち、何が起こっているのかを調べる事にした。

もちろん、危ないので距離は中衛よりも少し後ろで。

下級魔術の、火、水、土を能力と魔女力を使いノータイムで同時に発動させる。初級の下級魔術程度ならば詠唱を必要としない魔女力は本当に便利な種族特性だな、と思うも常時詠唱なしで使うのはまた話が違う。今は女帝へのダメージや牽制ではなく、何が起こっているのかを知る事が最優先───つまり実験だ。威力や手数を考えるのはその後でいい。


三種の魔術がレイドメンバーの頭上を越え女帝へヒット、手応えは充分にあったものの、やはり女帝は無傷で仰け反りや警戒もなく後衛の癒隊を睨みつつ前衛を叩き続けていた。何が起こっているのか.....それを調べるための魔術だったが、天才魔女エミリオ様とした事がミスを犯してしまっていた。クラウン───ダプネの件でイライラしていたわたしはここで一度落ち着く必要があると判断し、大きく深呼吸をする。


「───ふぅ。よし」


先ほどの三種の下級魔術盛り合わせはチョイスミス。冷静に考えれば女帝が何かしらの防御をしているのだろう....それが魔術ヒット時の爆煙めいた煙幕で全く見えなかった。一旦ダプネの事を隅へ押し潰し、いつもの調子に戻ってきたわたしは風属性下級魔術を三発分同時に発動させる。

魔女力を微量使って下級詠唱なし状態での攻撃。注ぐ魔力は微量なので普通の詠唱や高速詠唱よりも弱めになる。が、今はこの弱めが大事だ。風魔術は弱ければ薄くなる、つまり、何をどう防ぎやり過ごしているのか見える確率が高くなるという天才的な閃きからのスーパーチョイスだ。


薄緑の魔法陣から薄い風の刃が再び女帝へ。女帝の視線は───眼球に瞳が沢山あるが───前衛の壁と火力、後衛は癒隊へと向けられていてわたしや背後にいるメンバーを見ようともしていない。

つまり、わたしの魔術に対しては対応をしなくても防げると言っているようなものだ。


「ルービッド......わたしをナメてんな?」


対応するまでもない攻撃.....か、ふざけやがって。このわたしが暴いてやるぜ.....お前の謎防御を。





タンカー救出を終えたメンバーは水魔術を回避または破壊しつつ女帝の背後から離れる。距離をあければ徐々に時限式水魔術も発動しなくなり、範囲外まで下がれば魔法陣さえ展開されない。

全員が範囲外まで移動し、各々が先程の設置型治癒術に驚いていると、微量の魔女力を持つ風魔術が空を走る。

風の刃は一直線に女帝へ進み、ヒット───したようにも見えたが、横から見ていたタンカー救出隊は驚きの表情を浮かべた。


「今にょ....にゃんだ?」


「女帝の数センチ前で魔術が破裂した?」


「デスねぇ。正確には女帝の前にある薄すぎて簡単には見えない壁に魔術がヒットした、デスかねぇ」


猫人族のるー、瑠璃狼のカイト、万華鏡吸血鬼のマユキはその瞬間をハッキリと見ていた。


「それって.....いくら攻撃してもその壁が全部受けちゃってダメージを与えられないって事?」


金魅狐プンプンが呟くと、万華鏡吸血鬼は「そういう事デス」と諦め風に答えた。いくら攻撃しても削れず、女帝は攻撃されている間でも攻撃を仕掛けてくる。

このままでは先にバテるのはレイド.....時間を使い攻略法を考えてもいいが、その時間を女帝が与えてくれるとは思えない。


「とにかく私達はレイドへ合流して、近くの者へ今の説明をすべきだ。私は後衛に伝えて、前衛に合流する」


悪魔ナナミの言葉に頷き、タンカー救出隊は散り散りに。


背後は時限式魔術の餌食になる事、女帝は謎の防御壁で攻撃を全て受けきっている事をレイド全体へ伝え終えるまで数分とかからなかった。


入手した情報は全体へ回った。あとはどう攻略すべきかを考えつつ、穴がないかを戦いながら探る。


偵察、対応、ばかりで攻撃に回れない現状、これを討伐レイドと言えるのか.....と全員が思いつつも、必死に女帝へ挑み続けた。





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