◆272
魅狐火が竜騎士達の人形を包み、消滅すると同時にリリスは舌打ちを入れる。
「っ、気持ち悪い。死体のくせに心があるって言いたいの? 人形のくせに......死んでも使えない種族だったね竜騎士族は」
「お? 普通に喋ってますな。お怒りですか? リリスちゃん」
「呆れ、よ。本当にくだらない気持ち悪い吐きそう。なんなのさっきの火」
「それは後でゆーっくり話してやるわさ。それよりどうする? お狐様と遊ぶナリ?」
「.......やめて、おく、わ。フロー、から、話、を、聞いて、から、ゆっく、り、狩る、事に、する」
「さいですかい。んじゃ、わたしの番なー!」
グヒヒと笑い、グルグル眼鏡のピエロはプンプン、そしてセツカ達を見た。
◆
初めて見る謎の炎は竜騎士人形を焼き消した。魔女のわたしも見た事のない炎、そして感じた事のない───魔力とは別の何か。元々プンプンは魔力が少ない方だとは思っていたが、剣術を使うにも微量ながら魔力は必要になる。魔力とマナを持たない生き物はこの世に存在していないし、微量でも魔力があれば全然剣術は使える。でもプンプンは今までも、今も、何かが違った。
例えば雷。能力で出してるとは言え、それを操るには魔力や体力といった何かを消費して操る事になる。わたしも能力を使って魔術を同時に使ったとしても、使う分に必要な魔力は要求されるし、ワタポの眼は集中力とそれ以上の体力を削られる。
何かをするには必ず何かを支払う事で可能になる......プンプンの能力は今まで何を支払って操っていたのか......その秘密が今感じた不思議な───魔力に近い別の何かだろうか。
「ハロルド、今のワザ何だ?」
「......わからない。私も初めて見た。でも、プンちゃんはいつものプンちゃんよ」
魔力ではなくマナの感知はわたしよりもハロルドの方が鋭い。暴走や能力に掴まれ呑まれの状態ならば必ず魔力にもマナにも変化が現れる。しかし今それがない......か。
「とりあえずプンちゃんは大丈夫。私はプンちゃんを連れてくるから、エミリオは先にセツカの所へ。クラウンがこのまま黙ってるなんて考えられないわよ」
言い終えると同時に翅を広げ、ハロルドはプンプンの元へ。今の時点で人形ピエロ───リリスは動こうともしない。隣にいるダプネもグルグル目玉のピエロも。
わたし個人は今すぐ突っ込んでダプネをぶん殴ってやりたい気持ちもあるが、他大陸の偉そうな連中や騎士、ウンディーの冒険者達も集まっている中で単独行動をし、下手な事でもすれば「やっぱり魔女は処刑しようぜ」に逆戻りしかねない。
それは勘弁してほしいし、クイーンクエストを貰った以上は面倒事を女王様に持ち込むのはおいしくない。
自分でも大人になったな、と思える思考でわたしはセツカ達の元へ向かい、到着した。
「エミリオ! 今のプンプンは......」
「ハロルドが言うには大丈夫らしいぜ。それよりセッカ......これどんな状況だ?」
歩み寄ってきたセッカへわたしは言い、ノムーの王、ドメイライト騎士、イフリーの軍人などを見た。
ウンディーだけではなく、ノムー、イフリーの者も一緒に行動している現状に正直違和感がある。
「ノムーもイフリーも、今は
「殺されたのか......、赤眼ピエロか?」
「......はい」
「ッ、あのクソが......調子に乗り過ぎだぞ」
「エミリオ、落ち着けという方が難しいですが、今は落ち着いてください」
セッカと会話しているとハロルドとプンプンが合流、それを待っていたかのようにグルグル目玉のクソピエロが声を響かせた。
「はいはいほーい! みんな集まったかいな? 本当は教会前で話してみたかったんだけど、ここでもいいや。こん中で一番偉い人は?」
ゆっくり近付いてくるグルグルピエロと取り巻きの赤眼と人形。冒険者や騎士が武器を構えるとクラウンは足を止め、セッカは冒険者達を手で制し、一歩前へ。
「話とはなんですか? あなた方の起こした事を考えれば話などしたくもありませんが、力だけでは何の解決にもならないと言えばそれも事実です。会話を求めるなら応じます」
「おーおー、いい事言ってるくせに後ろはやる気満々じゃないかい? んま、やるならやるでもいいんだけども、その前にすこーしだけ話をしましょーよん」
グルグルピエロは挑発を含ませた言葉を放ち、耳障りな笑い声を響かせた。
◆
アイレインの雨が一際冷たく落ちる中、妙な胸騒ぎを感じ、リピナは教会を飛び出した。外は酷い有り様だったが死体はリリスが使い、プンプンが能力暴走で焼き消したため、周囲は崩壊した建物と血痕だけの不気味な風景がリピナの眼に届く。
崩壊している故郷、辺りに散る血痕、姿を消した友人。
不安が膨れ上がる中でリピナは必死に感知術を使い人がいる場所を探る。
「........! いた」
大勢の人が集まるエリアを感知したリピナは不安に重くなる足を必死に上げ、進んだ。
◆
「何か話すみたいだな.....つーかリリスのヤロー完全にクラウンかよ。この場合は敵だよな?」
崩壊した建物の影で、レッドキャップのベルは楽しげな口調でパドロックへ訪ねる。するとパドロックは無言で頷き、フローから眼を放さない。
「ハッ、最高じゃねぇーか。リリスは強ぇし、他のピエロも痺れるじゃねぇか」
「今はおとなしくしているべきだぞ、ベル」
「あー? わかってるっての、どんな話をしてるか盗み聞きすんだろ? お前はいちいちうるせぇ野郎だぜフィリグリー」
「───おい、お前ら少し黙れ」
パドロックは聴覚を研ぎ澄ませ、フローとセツカの会話へ集中し、ヘラヘラと笑うフローは一瞬視線をパドロックへ向け、グルグル眼鏡が嫌に輝き、さらにヘラヘラと笑った。
◆
「グハハ、グヒヒ、グフフ、グヘヘ、グホホ、これだけ集まってると凄いねー! ウンディーの女王様とノムーの王様とイフリー.....はうちのピエロが殺っちゃったけども問題ないでしょ。ソイツ結構悪い事してたし」
転がるビルウォールの死体を指差し、フローはグヒヒと笑う。
「.....人の命を奪って問題ない、で終わると思っているの?」
「あーあーそういうのは他でやってくださいな! 命だの魂だの、わたしから見ればどーでもいい事わさ。溶けてしまったアイスはもうアイスじゃないでしょ? それと一緒。死んだ生き物は死んだ瞬間からただの物、儚いねぇー」
わざとらしい仕草を挟み、フローは集まるウンディーやノムー、イフリーの者を見渡した。
「───さてさて、みなさん! おはにちばん! クラウンと申します! 今日は名前だけでも覚えて帰ってねん! 最後にプレゼントも用意してるから今すぐ帰っちゃダメだよー?」
馬鹿にしているかのような声質で言うフローは、近くの瓦礫へ移動し、座る。
ポケットからコミカルな骨型のクッキーを取り出しガリガリとかじる姿にイフリーのひとりがしびれを切らし叫んだ。
「いい加減にしろ! 話があるならそんなもの食べずに話せばいいだろう! こちらとしては今すぐ貴様等を拘束.....いや、処刑してやりたいというのに!」
「怒るなよー。それと、殺れるもんなら殺ってみろん! 一瞬でグチャグチャにしてやるから」
挑発行為を続けるフローは本当に話たい事があるのかさえ、見えなくなり始めた。
冒険者や騎士の苛立ちも露になる中、青髪の魔女がクチを開く。
「おいピエロ、お前の話に全員が興味あると思うか?」
青髪の魔女はフローの返事を待たずに炎魔術を放った。
「捕まえれば後でいくらでも話聞けんだろ! 黙って聞いてどうすんだよアホ共!」
エミリオはセツカ達へ言い、すぐに追撃の風魔術を放った瞬間───炎も風も吸い込まれるように消え、フローはクチからプスプスと煙をあげていた。
「......、お行儀がよろしくなくってよ? 黝簾さん」
「───んぐぁ!?」
ふざけた口調と共に自分を周囲にキラキラと輝く薔薇を咲かせ、どこか上品なおふざけを入れたフローは、詠唱なしにも思える高速詠唱で重力魔術を発動、エミリオを地面へ圧し黙らせる。
「わたしもふざけすぎたねん、悪かったわさ。ちゃんとするから、お前達もちゃんと聞けよ? 次は圧し潰しちゃうからねん」
重力魔法を消し、鬱陶しい雨を見上げ、フローは真面目に話とやらを始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます