◆270
フローは不思議の移動でエミリオから距離を取り、ダプネは得意の空間移動でひぃたろから離れ、魅狐プンプンを観察するクラウン。
エミリオは今すぐダプネを殴り、霧棘竜に何をしたのか、なぜそんな事をしたのか、などを聞きたい気持ちでいたが、プンプンが纏う雰囲気───変化しているマナが気になる。
「ッ、なんだってこう......色々起こってんだよクソ」
クラウン、霧棘竜、プンプンの変化、他にも気になる事がいくつもあり、これらが一気に起こっている現状にエミリオは舌打ちする。
「エミリオ、一旦セツカ達の所へ戻るわよ。プンちゃんの様子が普段と違う気がする......」
苛立つエミリオの前に半妖精が現れ、プンプンの変化を気にする。しかしその変化もハッキリとわからず、以前プンプンが暴走した時の記憶が蘇り不安を煽られたひぃたろは暴走した場合を予想し、近くにいたエミリオにも声をかけた。
「たしかにプンプンのマナは違うな。クッソ......───おいピエロ!」
「お? なんナリ?」
「お前じゃねーよグルグル。わたしが用事あんのは隣の赤眼ピエロだ」
「.......」
「プンプンの観察終わったらちょっと話相手になってくれよ?」
魔女の魔力を溢れさせ威圧的に言うエミリオへ、ダプネは無反応を決め込むが、一瞬乱れた魔力を今のエミリオは逃さない。
「OK........行こうぜハロルド」
エミリオはこれ以上ダプネに何も言わず、半妖精と共にセツカ達の元へと走り去った。
「いいのかいな? あの感じだと黝簾のヤツ、今の時点でも相当に
「いいんだ。もう何を言ってもどうにもならないだろ」
「まーな。だからピエロになろうってかい?」
「........」
「ま、どーでもいいけど~。わたしはわたしの好きに遊ぶ、お前はお前の好きにやれよ。クラウンとしてのお仕事さえちゃーんとやってくれりゃ文句ないナリ~」
◆
赤系の髪を持つリリスの死体人形は、寂しさをプンプンに与えた。
「いつか出てくるだろうとは思ってたけど.....今でよかった.....」
プンプンは苦しい笑顔で人形達───竜騎士族へ言い、視線を落とす。
魅狐であるプンプンだが、産まれ時に竜騎士族へ預けられ、竜騎士族として育てられた身。里でひとりだけ髪色が違うとの事でよく絡まれていた事をプンプンは思い出した。
「懐か、しい、わね。竜、騎士、が、いて、プン、プン、がいて、私、がいて。モモカ、も、呼ぼ、う、か?」
糸切れ口調で話す人形ピエロのリリス。ピエロメイクはゆっくり剥がれ落ち毒々しい笑みが浮かぶ。
「リリス。ボクね......もう決めたんだ」
「?」
「どんな事があっても、もう揺れない。みんなも、モモカ達もボクが送り還す」
「へぇ。やれる、と、いい、わね。私、は、今───凄くお前の存在にイライラしてるからもう遊びなしで殺るぞプンプン」
能力に呑まれかけていたプンプンに形はどうあれ負けたという自覚を持つリリス。
リリスは負けず嫌いというワケではないが、自分より格下だと思っていたプンプンに押された事が気に入らず、次からは全力で殺す事を決めていた。
「おとなしく捕まって罰を受けろリリス───って言いたい所だけど、お前はトリプルだ。ボクも手加減しないぞ」
トリプル───SSS-S3指定の犯罪者リリス。拘束できればそれに越したことはないが、S1ランクの犯罪者からは生死に関わらず拘束する事を許されている。砕いて言えば、殺しても問題ないという事になる。
一瞬の睨み合いの後、プンプンが青白の雷を強く纏い、リリスは指を蟲のように蠢かせる。
雷魅狐が地面を蹴った瞬間、ワイバーンが攻撃を降らせる。火、風のブレスがアイレインの雨を打ち消す程降り注ぐ中でもプンプンは止まらず地面を蹴り宙へ。
空を泳ぐワイバーン達をひと睨みし雷撃を広範囲拡散させた。以前よりも広く細かく、鋭く素早く荒れる青白の雷は数十匹のワイバーンを撃ち落とし、そのまま宙で尾を振り針状の雷を残る数十のワイバーンへ。広範囲雷撃から針状の雷を放つまで僅か3秒。プンプンは文字通り秒殺でワイバーンを戦闘不能にした。
「あら......へぇ少しは強くなったみたいねプンプンでもワイバーンを壊したくらいじゃまだまだよ?」
イライラしていると発言したはずのリリスだったが、どこか愉しそうな声質と雰囲気で、句切りなく喋る。
そんなリリスを綺麗に無視し、プンプンは竜騎士達へ朱色の瞳を向ける。懐かしく、悲しい想いが視界をうっすらと歪める。
───ごめんね、みんな。
プンプンは胸中で呟き、リリスが指を躍らせるよりも速く雷を横薙ぎに走らせ、雷撃は竜騎士達を豪快に飲み込んだ。
「!?───麻痺.....チッ」
指先には操作時の感覚はあるものの、重く不愉快で、酷いラグがある事からリリスはすぐに人形が麻痺状態に陥った事を知る。人形を動かせない今、プンプンはリリスへ攻撃する絶好のチャンスだが───動かず、麻痺する竜騎士達を悲しい色の瞳で見詰めた。
◆
半妖精のひぃたろ───ハロルドと共にセッカの所まで向かっている途中、プンプンが赤髪の集団を麻痺らせたにも関わらず、攻めようとしない事にわたしは声を響かせた。
「なにやってんだプー! 麻痺ってるならチャンスだろ!」
「あの赤髪の人達......リリス人形よね?」
わたしと同じタイミングで止まりプンプンを見たハロルドは、相手側───赤髪の連中とその奥で歯噛みするリリスを見て呟いた。
「そうだろうな.....人形も今麻痺ってるしリリス叩くチャンスだろ! プー!」
わたしはこれまで何度もリリスを見て、猫人族の里では一度やり合っている。わたしが思うにリリスが操っている人形こそが戦闘において本気で邪魔な存在でしかない。痛みも恐怖心もない文字通りの人形は、ちょっとやそっとのダメージではヌルヌル動き続ける。
しかし今その人形が停止状態となれば迷う事なく本体───リリスを叩くべきだ。
「あの人形......竜騎士族って言ってたわよね?」
「知らねーよ.....でもそれがどうした?」
「プンちゃんは魅狐だけど、竜騎士族の里で育った。もしかして......手を出せない?」
「はぁ!? この状況でも知り合いだから手を出せませんってか!? バカかよアイツ!」
そうは言ったものの、プンプンはそういうヤツだ。今までも妹モモカを傷付けられずにいた。
「.......優しすぎるのも考えもんだな」
わたしはそう言い、魔術の詠唱を済ませた。プンプンが何もせず麻痺が終わるようなら、わたしが魔術で人形を消す。悪いけど、今リリスの人形遊びに付き合ってる余裕はない。詠唱済みの魔術を留めた状態で、わたしは遠くでプンプンを見ているダプネへ視線を送った。
───お前が相手だろうと、わたしはプンプンのように優しくないぜダプネ。
そう胸中で呟き、プンプンへ視線を戻すと、魅狐の尾が一本、青白の炎へと変わり、大きく振られた。
青白の炎は雷撃と変わらない速度で燃え進み、竜騎士達を残す事なく包み込んだ。
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