◇241
耳の奥で響く不協和音。
今でも消える事なくボクの脳に焼き付く言葉。
Lassen Sie das Puppenspiel───お人形遊びは好き?
「人形遊びがしたいなら、ひとりでしろ! もう関係ない人を巻き込むな!」
膨れ上がる怒りを、ボクは受け入れた。
いつもいつも、どこかで自分を押さえてしまう。それは悪い事じゃない。
エミちゃんみたいに、みんながみんな感情のまま、欲望のまま生きていたら世界はメチャクチャになっちゃう。でも───時には自分の気持ちを素直に受け入れるべきだ。
「アハ、怒っ、て、落ち、着き、を、無く、すと、死ぬ、わよ、?」
ひと嗤い入れたリリスの前には、数えきれない程の───。
◆
2体のモモカが展開させた魔法陣から召喚されたのは───量産されたモモカ達だった。その数は20。現在操っている人形を含めれば、リリスの人形は30を越える。
「さて、プン、プン。この、お、人形、達、を、抜けて、私、へ、触れて、ごらん、なさい」
リリスが発言した直後、人形達は一斉に動き出す。身軽な動き、ヌルリとした動きでプンプンへ迫る人形達。各々種類の違う武器を持ち、近距離、中距離、遠距離の攻撃を行う。
プンプンは、今の状態では回避不可能と踏み、尾の数を七まで増やし雷の衣を纏う。
銀色の毛先が逆立つ魅狐は、対象が動いた時に発生する振動を散らした雷で感知し、見事に回避を続ける。そんな中でプンプンの脳内で再生される言葉があった。それはまだ純妖精の森を訪れる前の事。
ギルドハウスでワタポが言った───リリスを殺せばモモカちゃは終わる。リリスを殺す事はモモカちゃを殺す事。でもリリスを殺さなきゃモモカちゃのお願いは達成できない。
今、プンプンを攻撃してきている
リリスは髪の毛1本でもあればその者の雰囲気に近い人形を作り出せる。ベース素材にモモカの髪を使い、適当な死体と混ぜ作られた人形達はモモカではない。しかしモモカでもある。そんな曖昧さがプンプンの中で雨水のように溜まる。
「......お姉ちゃん」
「───え?」
猛攻を回避している最中、ひとりのモモカが唇を震えさせた。量産されたモモカ達は瞼を縫われていて瞳は見えない。しかし声の質からモモカが悲しんでいるような音をプンプンは拾い、戸惑った。
気のせいだと自分に言い聞かせ、回避に集中するも───、
「お姉ちゃん.....」
「.....お姉.....ちゃん」
「お.....ゃん」
伝染したかのように次々とモモカ達が唇を震えさせる。
以前プンプンはモモカ達へ、ボクはお姉ちゃんじゃない、と答えた。あの時は初めて見たモモカ達に恐怖を感じ、逃げ出したい思いからそうクチにしたものの、プンプンの中に残っている曖昧さが、全てのモモカを助けたい。という答えを出していた。
───髪の毛1本でもモモカのものなら、ボクはモモカを助けてあげたい。
迅雷の動きをピタリと止め、プンプンはモモカ達を見た。
「モモカ......モモカ」
不思議とプンプンに恐怖はなかった。大勢の
「あら、諦、めたの、かしら、? いい、わ。それ、なら、遠、慮、なく、やらせ、て、もらう、わ」
リリスはプンプンの行動に一瞬つまらなさを感じるも、レッドキャップではなくクラウンとして行動する事を決めたリリスは、今後さらに楽しめるのではないかと心を踊らせている───ので、もうプンプンに対して楽しさを求めるのを辞めた。
今までのリリスならばここで殺さない程度の攻撃を仕掛けていたが、今回は確実に殺すべく、モモカ達を躍らせるも、
プツン、という儚い音がマリスの指先からリリスへ伝わった。
「な、に、今の、?」
指先を凝視するも、指に変化はない。感覚がある事も、自由に動かせる事も確認した。だが今確実に糸が切り離れる音と感覚がリリスに伝わった。正体不明の感覚にリリスは眉を寄せ、不機嫌そうに再び指を奇怪に動かす。すると、プツン、プツン、と今度は続いて。
「.....、、.....、なに今のなんなの今の感覚はイライラする何が起こっているの」
独特な句切りもなく溢れたリリスの声。人形ではなく人間だからこそ、普段は壊れた
泣きたくなるような、優しい声でモモカの名を呼ぶプンプン。
その声、表情、雰囲気、全てが温かくて、優しくて、悲しくて、綺麗で。どれもリリスにとっては吐き気がする程大嫌いなものだった。
「さっさとその狐を殺せ死体人形共!」
叫び指を急がせるも、人形達は一体も動かなかった。
「───ッなんでなんでなんでなんでなんで!」
リリスの
リリスの母であり指先の
操っている
操っている人間の中にはまだ生きている者もいる。
対照的な二種類を同時に使った事によりふたつの能力が一時的にフリーズした結果、人形は一時的に操師を失い力なく膝をつく。
「.....頼むアンタ.....もう息をするのも辛い.....殺して、くれ」
重い血液を吐き出しながらプンプンへ言う人間は、どう頑張ってもあと数分の命だとプンプンも理解していた。
「お姉、ちゃん、わたし、達、も、苦し、い───殺し、て」
人間に続くように人形がクチを開いた。ひとり、またひとりと、プンプンへ願うように “殺して” と。
◆
ボクは何も言えなくなった。
いくら言葉を探しても、モモカ達へ返す言葉が見つからない。
あの人にも......ボクに殺してほしいと頼んだ人に対しても、言葉は見つからなかった。
無言のまま視線を落とそうとするボクへ、モモカ達は何度も何度も、お願いするように言う。
「........ッ」
ボクはどうすればいいのだろうか。
「お姉ちゃん、お願い。もうわたし達は、人を傷付けたり、したくない。お姉ちゃんにしか、お願い出来ない」
「───ッ......」
「わたし達の、オリジナル、は、リリスが、持ってる、けど、この気持ちは、本物の、モモカのもの」
ボクは.....どうすれば.....
◆
「うっわ、今の水溜まり広くない!?」
「みよちゃん、前見た方いいデスよ」
「前?───ぎゃぶぁッ.....」
「だから言ったデスよ。何かあるって」
教会を目指し進んでいた天使と吸血鬼は───迷っていた。
中々に広いアイレイン、さらに天使みよは空腹で、感知をやめた。後天性吸血鬼のマユキは同じく後天性の悪魔ナナミを背負い、吸血鬼の特性とも言える血液を使ったスキルでナナミの腕を上手く繋ぎつつ、みよの後ろを歩いていた所で前方に何かを発見。みよへ注意を呼び掛けるも、天使は見事に躓き水溜まりへダイブした。
「前見ろって言われたけど、何かあるって言ってねーよマユッキー........うぉえ!?」
水溜まりから起き上がったみよは自分が躓いたそれを見て、驚き、大袈裟に仰け反った。
「これは.....死体、デスねぇ。みよちゃん殺したデスか?」
「いやいやいや、私の
「首が捻れてるデスねぇ......他にも沢山転がってますし、みよちゃんの躓キックとは関係なさそうデスね。あ、みよちゃんは死体の顔、見ない方がいいデスよぉ~」
周囲に転がる死体は全て冒険者や騎士だった。
マユキに言われた通り、みよは両手で眼を塞ぎ死体の顔を見ないように。
───凄い顔デスねぇ.....仲間にでも殺されたような。それに、この気配は、
「───プンプンだ! パチっとしたし、この先にプンプンがいる! 行こうマユッキー」
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