◇237



無言のまま視線をぶつけるダプネとエミリオ。しかしふたりの視線はまるで色が違う。

ダプネの視線は驚きと戸惑い。エミリオの視線は確信。


エミリオは眼の前に立つピエロの正体を一瞬で看破リビールしていたが、その名をクチにしなかった。そのため【マジカルピエロ】が解ける事はなかった。





「この中で一番速いのは.....ヘソか?」


わたしはピエロ───ダプネを見つつ、瑠璃狼ローウェルの名を持つ人間カイトへ呟いた。


「多分カイトが一番速いよぉ、それがどしたのエミー?」


カイト───ヘソのかわりに錬金銃師のだっぷーが返事をした。ヘソ本人よりヘソを良く知る人物がその速度を認めているならば、尚更いい。


「ヘソ、あそこに転がってる短剣あるしょ? あれを拾って───教会にブン投げてくれ」


「俺が短剣を教会に?」


「一番速いのはヘソだろ? あのピエロが動いたらこっちでどうにかする。短剣を投げた後は.....中からセッカと多分キューレもいるから呼んできてくれると助かる」


「理由はわからないけど、やる事はわかった」


説明してる時間は、無くはなかった。ダプネはわたしを見てフリーズ状態、他にピエロが何名いるのか謎だが近くに気配───魔力やマナは感じないが説明する余裕をわたしは持っていなかった。


ヘソが動きダプネが反応したとしても、フリーズから行動となればワンテンポ遅れる。そこをわたしが叩いて止めれば、短剣を拾って教会へ投げるくらいは可能。短剣が教会に当たれば最悪ヘソが教会内に入れなくてもどうにかなる。


あの教会には───術式がかけられている。魔力隠蔽マジックハイドを重ね掛けしている事から、術式のルールは単純でリスクも少ないものだろう。

効果は.....中の者は外の状況を一切感知しない、といった所か? だからこそ眼の前で騒いでいても教会内から誰も出て来ないのだろう。魔法陣が見当たらないので術式を破壊するのも難しいが、わたしの短剣【ローユ】なら魔法破壊が可能だ。


「走り出すタイミングは任せるから、頼むぜヘソ」


そう告げ、わたしは一歩前へ出た。


「よぉピエロ、ここへ来る途中、建物がボッコボコだったりゴッチャゴチャしてたんよ。色々な所で魔力が荒れてたりな.......お前らの仕業だろ?」


この街に来て最初に思った事は───想像以上、予想以上に酷い、だった。

建物が破壊されていたり、魔力が揺れては消えたり、鼻のいいハロルドならば血の匂いなども拾ってたかも知れない。

ピエロメイクで遊んでいたなら別にいいが、これは遊びの度を越えている。


「.......、そうだ」


「お? 喋れるのか」


てっきり黙り続けると思ったが反応したダプネへ少々驚いた。ダプネに会話をする気があるのならば隙を作る事も難しくない。


「お前の目的はなによ? ただ暴れるだけなら会話なんてしねーよな?」


「───クラウンって知ってるか?」


「知らねーし興味ねーよ。わたしはお前の目的を聞いてんだ」


「........」


「チッ、だんまりかよ.....クソピエロ」



クチを閉じたダプネに対して、わたしはイライラした。

ダプネがピエロメイクで何をしているか知らないが、みんながピエロの前に立って武器を持っていた事からピエロ───ダプネ敵だ。


唯一友達と言ってもいい同族が、理由は知らないが今現在敵として現れた。この事実をわたしは受け入れたくなかった。


だから、自分に余裕がなくなり、どうする事も出来ないモヤモヤやイライラを孕んでいるんだろう。


ダプネ......お前がお前の意思でピエロを選んだならば、ピエロ団体に入る事をわたしは止めたりしない。入る理由もピエロサーカス団の目的も聞かないし興味もない。お前が自分で決めてピエロになってるならそれはいいし、わたしがクチを挟む必要もない。


でも、わたしに迷惑や面倒事、わたしの大事な何かを奪いに来るなら───



「なら......覚悟しろよ? クソピエロ」



わたしはわたしの大事な人達がいる地界を、わたしを認め受け入れてくれた人達がいる地界を滅茶苦茶にするヤツを許さない。


例えお前でもだ、ダプネ。





緑色の鱗───のようなデザインを持つ太刀。刀身は黄色で、いかにも状態異常バッドステータスを持っていそうな特種効果武具エクストラウェポンに、半妖精のひぃたろは警戒していた。


レッドキャップのメンバーであり、霧化する異能を持っていたスウィルを討ったひぃたろ。それを知ったベルはひぃたろを探していた。今眼の前に現れた半妖精が、ベルから落ち着きを奪った。

狂う様に太刀を振り、辺り構わず攻撃的な行動をとるベルと、冷静に観察、分析するひぃたろ。


───刃が触れた地面や瓦礫に一瞬黄色の火花......雷が走る。あの武器は麻痺デバフ持ちか。


雷属性ならば基本的に青白の雷が走り、麻痺デバフならば黄色の火花のような雷。そこをひぃたろは確認しつつ逃げ、周囲に人がいないエリアまでベルを誘導した。


翅を使い優雅に旋回し、ベルと向き合う半妖精。

ガラス細工のように繊細だが、決して華奢ではない美しい刃を持つ剣【エタニティ ライト】を向け、半妖精は挑発的に笑った。


「その剣でウィルを殺ったのか......痺れねぇデザインだな」


ギラつく視線を妖精の剣へ突き刺し、ベルは太刀を両手で握った。ベルは普段から片手で太刀を使っていた。本来両手持ちがメインとなる太刀だが、片手持ちの状態で並みの太刀使いよりも高い威力と斬れ味を誇っていたのは武器スペックではなく、ベルの実力。基本的にデバフ武器は斬れ味や攻撃力───殺傷力は低く生産される。殺傷力を求めると異常率や異常力が弱まり、異常値を求めれば殺傷力、火力が弱まる。ベルが持つ麻痺太刀は異常値優先のスペック。それでいて鋭い剣筋を披露している事から、ベルの実力は武器スペックでは簡単にブレないもの。


「.....そろそろ強い人と戦いたかった。犯罪者だし手足の1本2本奪っても問題ないわよね?」


ひぃたろは挑発するような言葉を添え、小さく笑った。


「───いいねぇ、その余裕、その態度、頭にくるほど痺れるぜ」







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