◇222
「教えてって言ったのエミちゃんじゃないか!」
「うるせー! だからって本気で叩く事ないだろ! やり返させろよ!」
「本気じゃないし、やり返せるならやってみなよ!」
拝啓、どっかの誰かさんへ。
お元気ですか? わたしは今とても、とても、怒ってます。
剣術や体術などの動きを
お陰さまで今わたしは憤怒のエミリオです。
追伸、いい感じの棒を拾っても人を叩いてはいけませんよ。
「あ、出口だ」
「あら。プンちゃんエミリオ、一旦終わりにして街まで戻るわよ」
「オッケー! じゃあ街に戻ったら次はボクが教わる番ね!」
「なーにが、次はボクの番だねビリビリみこ魅狐コンコンコン だ! ずっとプーのターンだったろ! 次はわたしのターン───あぁ? 誰だよこの忙しい時に」
洞窟の出口を前に、わたしのフォンがメッセージ受信音を響かせた。
送信者は人間を中退した悪魔のナナミンだった。
◆
どうする?
そんなピエロの囁きがルービッドの汗ばむ脳を駆け回る。
クラウンのメンバーとして動きつつ魔女を追うか、今のまま腐るのを待つか。
ルービッドもクラウンの話は耳にした事があり、仲間になれば自分もレッドリスト───犯罪者リストの仲間入りは確定する事を理解している。
「今の状態ならゆっくり腐るだろう.....それでは雲母と琥珀には指一本触れられないと思うぞ?」
「......お前達の目的はなんだ? なぜ私を必要とする?」
「それは直接ジョーカーに聞いてくれ。一緒にくるか、ひとりで腐るか、それを今決めろ」
「.....お前達に付き合って、雲母と琥珀を殺すだけの力が手に入るのか?」
ルービッドの言葉は最もな意見も言える。自ら犯罪者になるリスクは想像を遥かに越え、今のままではリストハンター達に狙われれば勝ち目はない。すぐに実感出来る力の見返りがなければ好き好んでレッドリストに落ちるバカは存在しない。ダプネもフローもそれは予想出来た答えだった。
「その言葉が出たら、これをプレゼントしろって言われている」
ベルトポーチからダプネが取り出したモノは───綺麗な球体だった。濃いサクラ色の球体をルービッドへ投げ渡し、ダプネは続ける。
「それはシルキ大陸で作られた人工魔結晶だ」
「人工.....それって、人の命を」
「それはノムーとイフリーのレシピだな。シルキは独自のレシピで作ってる。人の命は使われていないからこそ、人工魔結晶の色も効果も同じになる」
シルキ大陸。
四大陸の中でも鎖国的で他大陸とはあまり関わらない大陸。通称 和國。
和國産の代表的なモノは【カタナ】と呼ばれるサーベルにも似た剣や【和服】と呼ばれる繊細な刺繍が施された防具。他にも様々なモノが少数だが和國から別大陸のポートへ輸出される。独自の文化が根強く残り、今もそのスタイルが変わらない大陸。
それがシルキ───和國。
「シルキの事は全くわからないが.....この石の原料はなんだ? 答えろピエロ」
「サクラって言われている鉱石.....いや、原石か? 魔結晶に似たパワーを持つ石で和國でしか採掘出来ない。扱い方を間違えれば人間はまず間違いなく、サクラ病にかかる」
「......サクラ」
濃いサクラ色の球体を眺め、ルービッドは黙る。その様子を観察していたダプネは空間内で別の空間魔法を使い、外と繋いだ。
「フ.....グルグル眼鏡、ルービッドに説明してくれ」
ダプネは空間の入り口───か出口かわからないが、虹色の穴へ言葉を入れると、数秒後言葉が響くように返ってくる。
「ちょっとちょっと、そこでグルグル眼鏡ってダサすぎでしょーに。ジョーカーちゃんって呼んでクレロん」
緊張感の欠片もない声色で届く返事へルービッドは眉を寄せる。直後、空間を通り現れたグルグル眼鏡は胡散臭さの塊にしか見えなかった。
「よっ、ルービッドちゃん。わたしがクラウンのボス的存在のジョーカーちゃんだよ! 好きな食べ物は人の不幸、嫌いな食べ物は人の幸せ! よろしくね!」
絶望的に似合わない、可愛らしいポーズで挨拶するふざけたグルグル眼鏡を、ルービッドは鋭く睨み、ダプネは肩をガックリ落とし呆れた。
◆
雨が強くなりはじめたアイレインで忙しく走る冒険者や騎士。
アイレインは大きな街だが、これだけの数で街中を駆け回ると簡単に見つかる───と思っていたが、全くルービッドの姿は見当たらない。
「うーん、ねぇナナちゃん。ちょっとダケいい?」
悪魔ナナミをナナちゃんと呼んだのは、キノコ帽子のししだった。
「どうした? えっと.....ししちゃん?」
「うん、えっとね、みんな探し回ってて大丈夫なのかなーってちょっとダケ心配になった」
「心配?」
「偉い人達が今この街に居るんダシ、そこ開けてたらピエロさん叩きに来ないかな?」
マイペースな雰囲気を纏うキノコ帽子のししはその雰囲気からは想像出来ない危機管理能力を見せた。ルービッドを発見し手柄をあげれば他大陸よりも有能だと見せつける事が出来る。その欲が教会の防御を手薄にてしまった。
三大陸が集まるこの場で三大陸の者を一括で指示できる者はいない。
「ッ、ししちゃんはそのまま」
「ううん、私も後で行くから先に行って!」
強くなる雨の中、ししは教会とは逆方向へ走っていった。
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