◆210
お弁当屋さん【しし屋 アルコルード店】のヌシに誘われ、わたしは店の奥へ進んだ。
この店を拠点に生活しているなら二階がベストでは? と思ったが、この店は今日初オープン。開店準備を優先したのだろう、奥の部屋は家具すら設置されていない生活感のない部屋。
「お店の方はみんなにちょっとダケお願いして.....えっと、エミたんは冒険者だよね?」
エミたん.....うん、今度は名前をベースにしし屋アレンジを施された呼び名だ。菌類キノコを卒業出来ただけでも大出世だ。
「そだぜ。冒険者だから店の手伝いじゃなくて、別の仕事?」
「そー! 私が自分でノコノコ行きたいんダケど、お店が今日初オープンだし、猫ちゃんの話だと早い方がいいみたいだし、ちょうど良くエミたんノコノコ生えたからお願いするね! でも無理ダケはしないでね?」
「ふむ......まず、内容を聞かせてくれると助かるんだけども」
「あ、そっかそっか!説明するの忘れてた」
......このキノコはマイペースというか、なんというか。
でも今確実に猫語を理解している風な事を言っていた。
しし屋は人間ではない、のか?
「エミたんにお願いしたいのは、プリュイ山の中層部にある “ミストミール” の採取! 青白い小さなヒマワリなんだけど、中々咲かない花なんだ。今日は気温と水分が良くて花が咲いてるかもって、さっき猫ちゃん達に聞いてね!」
「プリュイ山って、あの霧山か! またあのモヤモヤ山かよ!」
数日前に行ったばっかりだし、霧が鬱陶しくて好きではないマップだ。中層ならすぐに到着できるがモンスターも出るし、ポーション代も満足にない状態だしなぁ.....。と悩みつつ上手く断る道を探していると、
「無理ならいいんダケど、行ってくれるならちょっとダケダケどポーションご
「じゅ........、オーケー。青白ヒマワリ単価10万vで数は咲いてるだけ。ポーション数が不安だったが支給されるならば渋る理由はない。あの山は個人的に嫌いではないし、この依頼はわたしが引き受けよう、なに心配するな。こう見えてSランクの冒険者、俗にゆー所のシングルだ」
単価10万v、しかも花だぜ?
モンスター素材とかでなく、そこら辺にパヤパヤ咲いてるであろう花が10万。ポーションもくれるみたいだし、あるだけ採取してしし屋に買い取ってもらえば.....10なら100万、20なら200万!? 最高すぎるだろ.....こーゆーボロいクエを待ってましたよ神様! 地界に落ちてよかったー!
「ノコノコ行ってくれるの!? ありガオー!」
個性的なお礼の言葉を残し、しし屋は箱を漁り始めた。多分ポーション類を用意しているのだろう。こういった待ち時間を効率良く使う事こそクエスト攻略のカギであり、Sランク冒険者エミリオの天才的であり有能なポイントだ。
わたしはフォンを取り出し指を
雨具屋のボス、ラピナへ「雨具を大至急貸してほしい」とメッセージを送り、次にだっぷーへ「霧山に花探し行くから今から雨街来て」と半強制的文のメッセージを送信した。
だっぷーにはさっき会ったし、年中暇そうな顔してるから多分来てくれるだろう。ラピナは.....何してるか知らんけど多分大丈夫だろう。
フェアリーパンプキンの暇人共も誘おうか? と考えたが、奴等は危険だ。花が10万vで売れる事を知った途端、わたしを殺し花を奪いにくるのは眼に見えている。そんな連中なのだ。
「はいこれ、ポーションと採取したミストミールを入れるビン!」
「おぉ! こんなに沢山!」
凄い数のポーションがいつの間にかテーブル並べられていた。種類も豊富で全てのポーション瓶にキノコマークが.....、
「このポーションって、しし屋産?」
「そー! 私は料理ダケじゃなく、ポーション類も作ってるんだ! 効果は市販のモノと同じだから売ってもいいよって偉い人に許可もらえたの」
「まぢか! すげーなしし屋!」
「マジダケシメジだ!すげーでしょ! 好きなダケ持っていっていいからね!」
市販と同じレベルのポーションを作れる料理人か。こういうアイテムを作って売ってるのは、だっぷーだけだと思っていたが.....考えて見れば生産者が沢山いないとポーションが世界から消えてしまうよな。それくらい消費者が多いアイテムだし。
「そだ、さっきの小人達を小さくしたのしし屋なんだろ? どやって小さくしたの?」
わたしはポーションを選びつつ、しし屋へ先程のチビ人間について質問してみた。
「収縮ポーションで小さくしてるんだよ。効果は約1日だから毎日一回みんなに飲んでもらってるけど、凄く苦くてね」
「へぇ.....」
マイペースで元気のいい雰囲気だったしし屋だが、今の声は少し違った。
「なんで小さくしてんの? おぉ!? バイタルアップもあるじゃん! すげー! これで体力ムキムキだ!」
「.........1秒でも長く生きてもらいたいから」
「あ、ごめ。なんて?」
バイタルアップというポーションもあり、これは市販ならばひと瓶(小)で1500vする代物。今わたしが手にとっているのは大瓶。3500vはするであろうポーションに踊り夢中になっていたせいで、しし屋の言葉が聞き取れずもう一度耳を向ける。しかし、しし屋は一瞬寂しそうに笑い、話題を変えた。
「ミストミールがあればみんな元のサイズに戻れるんだ! だからお願いね! 私もお弁当売り切れたらノコノコ向かうから!」
「なぬ!? それはやべー! しし屋が来る前にわたしが取り尽くす! 花は取ったらフォンポーチじゃなくビンに入れればいいの?」
ポーション類の横に置かれている特大サイズの瓶を持ち上げ、覗きつつ質問してみると元気を取り戻したしし屋が戻っていた。
「そー! そのビンの方がいい状態でミストミールを運べるから、ビンに入れた状態でフォンポーチに入れてね」
「ふむ。乾燥カエルの半身浴 って言うし、花も魚も鮮度は大事だな。任せろとけって! ポーションありがと、行ってくるぜ!」
「缶詰めカエルの魚釣り? よくわかんないけど任せたぜい! いてらさい!」
遠慮する事なくポーションを頂戴し、準備完了したわたしはしし屋へビシッと親指を立て、プリュイ山がある雨の街【アイレイン】へ突っ走った。
ラピナ、だっぷーからも返事が届き、2人とも雨街へ向かってくれている。今朝の騒ぎで1日ぶっ壊れると思っていたがラッキーな流れがキテるよエミリオさん!
◆
「ひぃちゃん、どう?」
「靄はある程度大丈夫よ。
「まだまだかな。落ち着いていなきゃ魔術感知が全然出来ないし、魔力で判断するのがこんなに難しいとは思わなかったよ.....雷の微操作はいい感じ! ワタポの方は?」
「ワタシもまだ全然.....白は今まで通りだけど、黒、動きを捉える眼 が難しいなぁ。翅ももって3分が限界かな。でも3分も出してたら疲労でラグっちゃうかも」
ギルド【フェアリーパンプキン】のメンバーは討伐系クエストを受注していた。蜥蜴頭の亜人種を複数討伐するクエストで対象の巣突撃し、ただ討伐するのではなく、成長するため実戦の中で力を伸ばすパワーレベリングを行っていた。
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