◆208



「ごめんね、猫ちゃんがこっち見てたから」


木製のマグカップを木製のテーブルへ置き、しし屋はクスクス笑った。

数分前わたしは、猫を見つけた途端に走り出したしし屋を空間魔法に落とし、キノコの暴走をどうにか止める事が出来た。正気を取り戻したしし屋は照れ笑いしつつ看板を出し、店の中へわたしを招いてくれた。


「猫は勘弁してくれよ、わたしは.....コレで来たんだけど」


看板は出したがまだ店をオープンしていない【しし屋 アルコルード店】で、わたしはフォンを見せる。クエストリストにあるしし屋のお使いクエスト───バイトだ。


「あら、ノコノコ来た子キノコちゃんだったんだね! でもさっき冒険者って」


「うん、わたし冒険者だけどお金が絶望的だからここでバイトしてから討伐系いこうかなーって。だからよろしく!」


「うんうん、頑張ろう! って言いたい所ダケど、冒険者なら別の仕事お願いしてもいい?」


「別の仕事? 手が足りなくてバイト募集したんじゃないの?」


わたしが質問するとしし屋のキノコは「手は足りてるー」と流すように呟きながら、頭を───キノコ帽子をポンポン叩き始めた。

何度か叩くとキノコから色々なモノが落ちてくる。飴玉や猫じゃらし、そしてフォンがテーブルに落下。あのキノコ帽子は異次元的などこかに繋がっているのか、色々収納されているらしい.....あの帽子を奪い中身を見てみたい。という衝動を必死に抑え、別の仕事とやらの内容を待った。


「手は足りてるんだ、ちょっとダケ見せたげる」


「んや別の仕事の話を.....まぁいいけども」


仕事の話を待っていたわたしはしし屋で働く愉快な仲間達を紹介されてもなぁ....と思っていた。しかしここで話を止め、また猫でも現れたら面倒だ。という事でブツクサ言いつつも、しし屋の足りている手を待った。キノコ帽子はご機嫌な鼻唄を奏でながら壁へ向かい、コンコンコン、と三度ノック。すると───


「───うぉ!?......なんだ!? え、秘密基地みたい!」


しし屋の壁の下....と言えば意味が変になるが、床に最も近い壁。そこに無数の小さな扉があり、鍵がガチャガチャと解かれる音が走った。


「フフフ、みんな可愛いけど拐っちゃダメだよ?」


可愛い.....という言葉は嫌いではない。カエルやトカゲでも現れるのか!? と夢広がるわたしの前に、ついに噂の可愛い存在が───.....


「ししさんししさん、お腹へった」


「ししちゃんお腹すいたー!」


「マスター腹ペコ!」


「お腹すいた! お腹へった! 腹ペコった!」


───賑やかに現れた噂の可愛い存在は、小さな小さな.....人型種だった。予想外の範囲を越えた予想外のあまり、開いたクチが塞がらない。わたしはクチを開いたままキノコ帽子を見て「説明を!」と眼で訴える。


「この子達は私のギルドメンバー! よろしくねん」


「待て待てキノコ、よろしくねん でなくて、このちっこいのはなんだ!? 小人族か!?」


「ブー! ちがうー!」


「「「 ブッブー! ちがうー! 」」」


謎のクイズ大会が合図なしにスタートしてしまい、わたしの最初の回答はハズレだったらしい。

小人族ではないなら何だ? 小人族を見たことはないが、噂では全長15センチほどの人型種族と聞く。今ここにいるの小さいのは全員15センチというワケではないが、全員人型種族。身長は様々だが小人族で以外に小さい人型なんているのか?


しし屋のギルドメンバー.....冒険者ではない者もギルドを立ち上げるのはよくある。天気予報をフォンへ配信したり新聞に載せたりする天体ギルドがその例とも言える。

しし屋は.....お弁当ギルドか?


「よいしょ、みんなゴハンだよー」


しし屋は小さいギルドメンバー達へそういい、ゴハンをテーブルの上へ置いた。

どんなモノを食べているのか.....そこからヒントを拾えそうだと思い、ゴハンを確認すると、


「え、普通に人が食べるゴハンで.....量も普通の人型と同じなの!?」


様々な料理がテーブルに並べられ、その皿は平均的な皿の大きさと変わらない。もちろん中身の量も平均的な量。飲み物も同じく。


「みんな小人族とかじゃないからね、小人族は食べる量少ないの?」


「いや.....知らないけども、でもおかしくね!? どこにこの量入るの!?」


「「「 お腹 」」」


声を揃えて言うしし屋のメンバー。ひとりはパスタを凄い勢いで吸い、ひとりはパンのベッドで頬をふくらませ、ひとりはブロッコリーの木へ登る。

他にも様々なスタイルで食事を楽しむ謎の小人達.....観察すればするとぼ、何の種族なのかわからなくなっていく。


わたしは恐る恐るフォンを向け、マナのやり取りをしてみた。モンスター図鑑機能は種族も拾ってくれる事があるので、これに賭けフォンを向ける。マナのやり取りは1秒とかからず終わり、画面に表示された文字は───.....


人間にんげん

人型種の代表的種族で、地界全土に生息している。探求心が強く勉強熱心で、地界で様々な繁栄を続ける種族。

平均的な危険度は低く温厚だが、中には恐ろしく危険な人間───人間離れした人間 も存在する。



「.....人間? このちっこいのが?」


ワタポやセッカ、キューレと同じ人間? それにしては小さすぎるだろ.....人間の赤ちゃんを見た事はないが.....さすがに今わたしの眼の前でワイワイ食事している人間よりは大きいだろ。



「........図鑑バグったか?」





大玉から転び落ちそうなピエロのマーク。

ベタ塗りされたような艶のない黒の長髪を垂らし【クラウン】のマークをじっと見詰めているのはギルド【レッドキャップ】のマスターでありSSS-S3指定の犯罪者【パドロック】

ソファーに身を沈め、紙切れに書かれた内容ではなくピエロマークをただ静かに見ていると、ノックが響く。


「......入れ」


ギルドマスターの声に扉が軋み、室内へ流れ込むレッドキャップのメンバー達。

落ち着いた雰囲気を常に纏う【フィリグリー】

殺気を溢れさせる【ベル】

つまらなさそうする【リリス】と顔を沈める人形の【モモカ】

これが現在のレッドキャップメンバー。

人数は少ないものの、全員がSSS指定になった凶悪な物達。


「これから全員でアイレインへ向かう。準備しろ」


パドロックの言葉に全員がピクリと反応する。つまらなさそうにしていたリリスに至っては徐々に表情をとろけさせ、不気味な笑顔を浮かべご機嫌に。


「いつ出るかもわからねぇ “塔” を待ちつつ下準備するばかりだったが.....まぁこれからも下準備だ。ただ───」


パドロックはフォンを操作し、真っ黒な大剣を取り出した。それを見たメンバーは驚きの表情を浮かべる。


「これからの下準備には、邪魔を排除する って作業も追加する。今まで通り各自必要なモノを集めつつ、塔や魔結晶の情報を集める。そして今後、邪魔になりそうなヤツがいた場合、弾け」


「......、玉、乗り、ピエロ、ね?」


リリスがククッと喉から嗤いを漏らし呟くと、パドロックは頷く。


「クラウンも騎士も冒険者も王族も、邪魔になると思ったヤツは全て弾く。使えると思ったヤツは殺して使えばいい。影から動くのはもう終わりだ」






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