◆196
四大元素精霊の水【ウンディーネ】をモチーフとした石像があるバリアリバルの中央公園。石像が立つ噴水は今も水を出し続けているが水面を毒雨が強く叩き続けている。
わたしの勘通り、この噴水に冒険者達が集まっているが、全員が忙しく公園内を駆け回っていた。
「.....なんだ?」
公園が見え冒険者達が見えた時、走る速度を落としたわたしだったが、遠眼からもわかるほど緊迫した雰囲気に包まれていたので再び速度を上げ走り公園内へ。
近くにいた名も知らぬ冒険者を捕まえ、何があったか聞いてみた所、ギルド【アクロディア】のメンバー全員が無惨な姿で発見され、今その治療を【白金の橋】メンバーが行っているらしい。
治療の邪魔にならない程度接近し、状態を確認して見たわたしは走り上がる息を鋭く止めた。
ひとりは頭部が潰されており、ひとりは腹部から切断され、ひとりは最早人間とは思えない程.....。
「何があったのかわからないが、メンバー全員があの姿で発見されたんだ」
「───!?....音楽家、無事だったか」
バリアリバルに到着してすぐ別れた冒険者で音楽家の【ユカ】がいつの間にかわたしの隣に立ち、唇を強く噛んでいた。
イフリー大陸で行われた闘技大会の時、リリスの人形でありプンプンの妹である【モモカ】が、音楽家の眼の前で対戦した相手を潰した、との話をわたしは思い出した。
おそらく、音楽家自身もその時の事を思い出し、自分が街にいたならばアクロディアのメンバーを守れたのではないか? と思っているだろう。
バリアリバルはウンディー大陸一大きな街、音楽家が居たからといってアクロディアメンバーと共に行動していたかと考えれば確率は低い。しかし、音楽家の気持ちもわかる。
わたしが.....わたしがアイレインに行っていなければ毒雨も降らなかっただろう。
「.....ごめん」
「なんでエミリオが謝るんだ?」
「この雨も、多分あの人達をやったのも、魔女だ」
「魔女.....か。でも雨もアクロディアメンバーを襲ったのもエミリオじゃないでしょ? 謝る必要ないんじゃない?」
確かに【ギフト レーゲン】も、アクロディアメンバーを襲ったのもわたしではない。でも、わたしを発見出来ず、わたしを釣るという理由で毒雨を降らせて、冒険者が襲われて....。
そう言いたかったが、それを言った時に「お前のせいか」と言われるのが怖くなり、わたしはクチを閉じてしまった。
.....わたしは自分のせいで出た毒雨だからどうにかしようと必死になっているだけで、もし今回の毒雨が別の誰かを狙ったものだったのならば、わたしの立場に別の誰かが立っていたならば「お前を釣るために出された毒だろ、お前が責任とれ」と言っているかもしれない。その人に怒っているかもしれない。
今自分は雨に対しても毒に対しても、被害者や犠牲者に対しても、何も出来ていないというのに。
「わたしじゃないけど.....でも、わたしと同じ種族が」
「それ言い出したらキリがないな。どの種族にもいいヤツがいれば悪いヤツもいる.....ん? ───来たぞ? いいヤツらが」
音楽家はわたしの肩をポンと叩き、わたしの背後───ユニオンの方向を見ると中央公園へ向かってくる人影が。
◆
「もう、ボクを置いていくなんて酷いよ! 起きたら知らない人の寝室だし、外は知らない街だし、ビックリしちゃったよ!」
「いやー、侵食の薬や解毒剤の事で頭いっぱいだった。ごめんよ狐ちゃん」
怪我の治療を終えたプンプンにラピナは軽く謝り、毒雨降るバリアリバルを走る。溜まった毒雨をバシャバシャと弾かせ走るのは2人だけではない。
「でもギリギリだったね。あと少し連絡が遅かったらプンちゃはアイレインで留守番だったかも」
「そうね.....で、あの犬と背中で寝てるヌイグルミみたいなワイバーンは、なに? クゥの友達?」
「ワタシはわかんないや」
「え、ボクの話終わり!? 怪我は大丈夫? とか、もっと、もっとこう.....」
頬を膨らませぶつぶつ言うプンプンは、見知らぬ部屋で目覚めるも無闇に動かず、すぐにギルドマスターであり相棒とも言える半妖精のひぃたろへ連絡した。丁度よくひぃたろ達はダプネの空間を待っていたので、ノムーならウンディーのアイレインへ空間移動しプンプンを拾い、アイレインからバリアリバルへと移動した。怪我は感知したワケではないものの、既に動ける状態まで回復したのはラピナの薬が傷と体力を効率良く回復させるモノだったからだろう。
バリアリバルへ到着してすぐに、ラピナ達は素材を受け取り、だっぷーが合成し、ラピナとリピナが調合、ひぃたろやプンプン、ワタポなどが箱詰め、その箱をダプネとルービッドがアルミナルなどに避難した人々へ空間魔法を使い届けている。バリアリバルの街に残るメンバーは街の者達へ届けるべく、街中を走っていた。
【和音樹の枝】と【笑う角】は
魔女の魔術といえと、毒は毒。魔術に対してではなく怪我や状態異常に対してならば薬剤師や医者、治癒術師、時として錬金術師の知識と技術が大きく結果に絡む。
魔術は万能ではない。
その言葉が意味するひとつが、人の知識や技術の存在だろうか。魔術でどうにもならない状態を知識や技術、科学や医学でどうにかしてしまう人々。魔法よりも地味だが魔法よりも信用出来る。という人も存在するほど人の力は偉大なものだ。
その偉大な力が合わさり完成した解毒剤を持つメンバーの眼線の先には、中央公園にある四大元素精霊のオブジェと集まる人々が見え、メンバーは速度をあげて合流した。
◆
毒雨の中を走り中央公園に現れたのは、良く知るメンバーだった。
「エミちゃん! さっきは助かったよー!」
と、元気よく笑顔でブイサインを向けてくる魅狐のプンプン。怪我は完治までいかないものの元気を取り戻したらしい。
「プー、え、みんななんで!?」
「薬が完成したからだよぉ、フローもみんなに配ってぇ!」
そう言い、大切と思われる薬入りの木箱をポンっと投げ渡してきたのはイフリーの銃使い、だっぷー。
落とさぬよう必死に受け取った木箱には小瓶がぎっしり並んでいた。
「それが解毒剤だから、エミちゃもひとつ飲んで他の人達にも渡して」
銀狼の背からワタポは言い、急ぎ公園にいる人々へと解毒剤を配り始める。
本当に毒に対抗できる....いや、毒を消すワクチンを作ったのか?
「消すだけじゃない。薬が体内にある間は同じ毒を消し続ける。そうだなぁ.....1時間はレジスト効果がある解毒剤だ」
雨に打たれ濡れてもキラキラ光る巻き髪はイチミリも崩れない、謎であり拘りでもあるヘアスタイルを持つ姉妹ラピナとリピナ。薬剤師のラピナが薬の効果を軽く説明してくれた。こんなモノを短時間で量産してみせるとは本当に凄い。
「アンタも早く一本飲んで、みんなにそれを───あれ? エミリオ毒は?」
わたしの肩に触れたリピナは眼を丸くし呟いた。
「え? まだ飲んでないからドクドクしてるハズだけど」
そう答えるもリピナはわたしの頬に手を当てた。リピナが持つ【ディア】は触れた者の怪我の具合や病気の有無を知る事ができ、状態異常───毒も例外なく感知する。
「やっぱりアンタ毒になってない.....なんで?」
「さぁ? とにかくわたし毒ってないなら全部配る.....いや、一本貰うわ。あと悪いけどこれ頼むわ」
わたしは木箱から解毒剤を一本取り、残りはリピナへ押し付けるように渡し、視界に入り込んだ者の前へ急いだ。
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