◆168
「うっわ......想像と全然違う」
雨の街【アイレイン】の門前───馬車場で降り、わたしは思わず呟いてしまった。
青く晴れた空から降り注ぐ雨は、太陽の光を反射させキラキラと輝き、空にはハッキリとした七色のアーチが、わたし達を迎えた。
想像していたアイレインは、厚く重たい雲に被われた薄暗い街。しかし眼の前に広がるアイレインは、明るくカラフルだ。
「凄いでしょ? でも中はもっと凄いよ」
どこか嬉しそうな笑顔のルービッドは、わたし達へ手招きしアイレインの門へ近付くと、すぐ近くの店へ入った。
「いこうぜ、ダプネ」
「うん」
あとを追い、わたしとダプネもその店へ入り、また驚かされる。こじんまりとした店内だが、先程みた虹よりもカラフル。
「ここは雨具屋だよ」
先に入っていたルービッドは赤い傘と丸い何かを手に持ち、また嬉しそうな笑顔を。
雨具屋....雨の街だからこその店で、雨具を持たない観光客や、わたし達の様な冒険者には最高の位置にある店だ。雨具のラインナップも多く、販売の他にレンタルやオーダーメイドまである。
「いらっしゃーい、お? ルビー 久しぶりじゃん」
店の奥から現れたのは女性。しかし何と言うか....あの雰囲気、誰かに似ている。
「久しぶりです、ラピナさん」
巻き盛りヘアーで、髪が謎にキラキラしている女性は【ラピナ】という名で、ルービッドの知り合いらしい。しかし....いくら知り合いでも、客が来てるのにフォンを触り続けるのはどうなんだ?
「里帰りか? .....え、そっちの小さいの2人、まさか....アンタの子供!?」
「え、違いますよ!」
「だよね、青と黒....いや、緑? アンタの子供なら赤毛だろうし、先越されたかと焦ったわ」
.......驚く、というより、情報量が多すぎてフリーズしてしまう、という感じだ。ダプネも同じ反応で、ただ立ち、2人の会話を聞いていると、色々とわかってくる。
まず、この街アイレインは、ルービッドが産まれた街で、この雨具屋の女性はヒーラーギルド 白金の橋のマスター【リピナ】の姉。リピナもアイレイン産まれという事か。
ルービッドが何度もわたしやダプネへ、嬉しそう顔を見せていたのは、産まれ育った故郷を褒められて嬉しかったのだろう。
素直にこの街は綺麗で素敵だと思う。
「おチビちゃん2人は、どんな雨具がいいの? 子供用のカエルポンチョとかでもイケそうだけど」
リピナの姉、ラピナはカエルポンチョとやらを見せてくれた。緑色のポンチョというよりはマントやローブに近い形だが、素材は全く違う。
防御力───DEFやMEFは全く無さそう。特種はどうなんだ? マントやローブ、ポンチョは防具として優秀なモノも多く存在しているし、このカエルポンチョは何に特化した装備なのか....フードを被ればカエルになれる、なりきり系と見て間違いない。もしや、カエルと会話出来る特種持ちか?
「わたしは傘がいいな、透明の傘ってある?」
カエルと会話を夢見るわたしの隣で、夢を見る事を諦めた魔女、ダプネは傘を求めた。
「あるけど、ダントツで不人気の傘よ? いいの?」
「いい、それ貸して」
不思議そうな顔でラピナは透明の傘を渡し、不思議な顔のままダプネを見詰める。
「ダプネ黒の傘じゃなくていいの?」
ダプネは昔から黒や濃緑など、暗い色を好む魔女だったので、今回も黒やらを選ぶと予想していたが、透明の傘....わたしは気になり質問してみると、あっさり答えてくれた。
「透明だと見えるじゃん? この街は見てるだけでも楽しいのに傘が必須。なら透明の傘がいいかなって」
「お、嬉しい事言ってくれるじゃん。それなら、これ塗ってあげる」
ラピナも傘の色が気になっていたらしく、理由を聞き本当に嬉しそうな顔で謎の塗り薬を取り出し、透明の傘を開き、塗り始めた。
「.....よし、これで雨水が傘に溜まる事なく流れるよ。普段は背伸び貴族に高くぼったくる水捌け剤なんだけど、特別無料でいいわよ。そっちのおチビちゃんは雨具決まった?」
「んーと、ラピナ、青いカエルない?」
わたしはカエルポンチョに決めていたが、色が緑ではなく青が好ましく、ラピナへ青を要求してみた。すると、
「あるけど、緑や桃以外は全然人気ないならね....あった、コレだけどいいの?」
「おぉ! カッコイイ! これでいい! 」
青に黒の斑点模様を持つカエルポンチョ。これこそが、わたしの求めていたカエルポンチョだ。
「ルビーの知り合いだし、そっちのおチビちゃんは街を楽しんでくれそうだし、カエルちゃんはウキウキしてくれてるし、今回は無料でいいけど、無くした場合は即買い取り、壊した場合はとりあえず持ってきてね。破損具合を見て買い取りか判断するから」
雨具屋とは思えない見た目のラピナだが、リピナの姉となればその容貌も納得出来る。わたし達はイケイケな雨具屋へお礼を言い、雨具を装備し、外へ出た。
「今は11時か、12時過ぎに依頼人と会う約束だから、それまでアイレインの街を案内するよ」
ご機嫌なルービッドの言葉にわたし達は頷き、雨だというのに楽しい気持ちになれるアイレインを見て回る事に。
カエルポンチョを柔らかく叩く雨音も含めて、アイレインの魅力を全身で楽しませてもらおう。
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