◆165
ウンディー大陸の首都、バリアリバルの集会場はわたしの想像を越えた進化を遂げていた。一階はより使いやすく、快適に。二階は冒険者だけではなく、観光客や街の人々も利用しやすい飲食系へと。三階は残念ながらまだ未確認となる。しかしいくら集会場が進化したとはいえ、冒険者が進化しなければ何の意味もない。
冒険者の申し子こと、わたくしエミリオは1年という長くも短い時間の中で、冒険者ランクが最低のDからS(S1) まで登り詰める爆発的成長を見せてしまった。のだが、今わたしの眼の前にいる、髪も瞳も赤い、通称───赤女は色々と教えてくれた。彼女は情報屋でもないので教えてくれた情報は無料。どこぞの情報屋が相手だったなら、こうもいかない。
わたしが冒険者になって1年と少しが経過。わたしのランクは先ほど言ったように、最低ランクの D から、高ランクの S(S1) までランクアップしている。
この1年で名を世に響かせた冒険者が何人、何十人と存在しているらしい。数十年に一度、こういった爆発的に冒険者が成長する年があるとか....まぁそんな豊作事情は置いといて、ここ1年で大幅にランクを上げ、世界的に名が広まった冒険者の中にわたしが含まれていた事を喜ぶべきだろう! ついに地界世界がわたしを崇め、奉り、祈る、最高の時代が訪れた! 若干気に入らない部分は、わたし以外も大きくランクアップした冒険者や、派手に動いていた冒険者が存在する部分だ。その話も詳しく聞きたいが、その前に、
「赤女....名前なんてゆーの?」
名前を呼ばず、いい感じに会話していたが、これだけ冒険者の話を聞けばそろそろこの赤女が誰なのか、気になり始める。
「やっぱり覚えてないか、私はルービッド。ギルド アクロディア のマスターで、一度ユニオンで顔を会わせてるよ。ほら....
赤女は【ルービッド】と名乗った直後、消えかけていた記憶が色付く。赤メガネの女と白黒の剣士───ワタポは確かに一度決闘し、ワタポが勝っている。あの時ユニオンでリピナの隣にいた赤女だったとは....まぁ絡みも無かったし忘れていたのは仕方ない事だ。うん。
「うむ、で、ルービッド! ランク上がりまくった冒険者ってわたし以外に誰がいるの?」
「私調べたワケじゃないから全員は知らないけど、ウチのギルドはね、受注するクエストの50%以上は直接受注なんだ」
「....直接?」
「そう、依頼人と実際に会って話を聞いて受注するクエスト。直接受注すると相手の事を知れる。相手が望んでる結果を出そうって頑張れていいんだよね」
ルービッドの話を聞きつつ、わたしはテーブルから伸び出ているコードをフォンに繋ぎ【フォンページ】を1年ぶりに使ってみる。コードがありフォンを繋げる環境ならば、どこででも見れるページ。ウンディー大陸に初めて上陸した時に【キューレ】から教わったモノだ。
フォンページは街や施設などの軽い紹介や、人物、ギルドなどの紹介も公開されている。情報とまで言えない内容だが、これを見て観光先を決めたり、依頼するギルドや騎士隊長を決めたりも出来るワケだ。わたしはギルド【アクロディア】を検索してみた。
【アクロディア (ギルド) 】
ギルドマスター:ルービッド(F)
ギルドランク:S
常に最高のパフォーマンスを。を掲げるギルドでクエストの50%以上が直接受注型クエスト。成功率は高く 依頼人を大切にするギルド。拠点はバリアリバル。
....なるほど。フォンページに書いてある通りか。使えるなこの機能。
「直接受注だから噂系はよく耳にするんだ。冒険者やモンスター、騎士、新しいお店なんかの噂もよく聞くかな」
「へぇー、キューレに情報のタネとして売ればネタに成長させてくれるんじゃね?」
「1つ100~300vでよく買い取ってもらってるよ」
ほう....情報の “タネ” も買い取るのかあの女。しかし直接受注にそんなプチ報酬が付いてくるとは知らなかったが、クエストを失敗すればギルドの評価は一気に下がるというリスクもある。集会場のクエストは誰が依頼し誰が受注したのかわからない仕様になっているから、腕試しノリでクエストを受注する事も可能になるワケだ。
「なんか....大変そうだな。ルービッドのギルド」
「そう? でもまぁ....私を含めてメンバーはみんな、おせっかい で お人好し かもね」
「だろうな。だからこそ上手くやっていけてるんしょ? いいじゃんそれで。大変そうだけど、みんながそうしたいって思ってるなら」
「....なんか楽になったよ。最近 みんなやりたい事が他にあるんじゃないかって考えちゃってさ。だからここ数日は集会場のクエストをメインに各々受注して、ギルドとしての活動は一旦休憩させてたんだ。直接クエストを持ちかけてくれる人が増えたのは嬉しいけど、そうなると、どうしてもね....」
ルービッドのギルドは冒険者ではない存在、つまり民間人などには最高のギルドかもしれない。騎士に依頼すれば報酬を用意する必要はないが、いつその依頼に手を出してくれるか、そして依頼は完了したのか、などは教えてもらえない。しかし冒険者に依頼を持ちかければ、必ず報告にくる。報酬を受け取りに来たり、失敗を謝りにきたり....そういう点では冒険者の方がいいと思う人間もいるだろう。ルービッドの悩みは多分....依頼人が増えた事でクエスト難易度に合ったメンバーを構成し、クエスト攻略をしなければならない、という部分だろう。マスターとしての責任感みたいなモノに押し潰されそうになってたんだろうな。
「わたしには、そゆ系の悩みは理解できないけども....今までのスタイルでいいんじゃね? 意見があるなら言うだろうし、みんなアクロディアのスタイルを知って入ったんだろ? マスターが揺れてたらメンバーは誰について行けばいいんだ?」
「そう....だよね。うん、そうだ! なんかありがとうね、霧が晴れたよ」
「おう、気にすんな」
わたしもよくわからないが、ルービッドの悩みが少し晴れたらしい。よかったよかった。
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