◇153
「ダプネ」
ワタポが意識を取り戻し、ディアに打ち勝った事が嬉しくなり、わたしはダプネの名を呼びニヤリと笑った。
「なんだその顔」
わたしの顔を見てダプネは眼を細め反応する。ニヤリ顔には「ほら見たか、ワタポなら大丈夫だっただろ?」という意味を込め、ダプネもそれを察知したのだろう。鼻をツンとさせた顔をしている。
戻ってきたワタポに魔力などに変化はない。しかし表情、雰囲気的なものはガラリと変わっている。何を話し何をしてきたのかはわからないが....何か覚悟を決めた表情と、どこか晴れた表情をしている。
「ディアに呑まれる....というワードはよく聞くが、具体的にどんな感じになるんじゃ?」
皇位情報屋で、対象のサイズを変更出来るディアを持つキューレが、ワタポ、そしてわたしとダプネを見て言った。
「わたしよりエミリオの方が詳しいんじゃない?」
ダプネは横眼で言い放つと、窓の外へ視線を送り二階の部屋を出ていく。ワタポも起きたし、わたし達も一旦下へ。と思った瞬間、わたしは妙な違和感───に似た気配....ぼんやりとした魔力を感知した。一階で眠るハロルドが起きたか?と思ったが起きただけならば妙な違和感など感知するハズがない....。そもそもこんな、ぼんやりとしたハッキリ魔力と言えない気配は初めてだ。気配は建物の中でもない....わたしは先頭になり二階を降り、そのまま外へ出た。
「.....」
フェリアを見渡すも、この街に変わった雰囲気はない。先に外へ出ていたダプネも、わたし同様に視線をあちらこちらへ動かし正体を探るも、
「ダメだ。消えた」
気配が消え、ダプネは舌打ち混じりに声を吐き出しわたしの方へ歩み寄る。
「なんだ今の....」
わたしはそう呟きもう一度、魔力を薄く広げる様に集中するも、気配は感じない。
「どうしたの?エミちゃ、ダプネさん」
ワタポが顔を出しわたし達へ問いかける。わたしは「なんでもない」と答え中へ戻ろうとした時、ある事に気付いた。今の違和感のある気配を感知出来たのはわたしとダプネだけ、つまり “魔女だけ” が感知出来た気配。気配感知ならば、わたしよりもワタポやキューレの方が圧倒的に高く、その2人よりも更に感度がいいプンプンが感知していないのはおかしい。
───....わたしが感知出来た事から気配の正体は間違いなく魔力か。違和感の正体は一般的な魔力ではなく、何かしらで魔力の質やらを変化させているから....例えば、隠蔽術を被せた魔力とか。それもわざと感知させる様に微量の魔力を隠蔽術から溢れさせれば、特定の種族の気を引ける。
「エミリオ、気付いたか?」
「うん。でも“魔女”の話しは後にしよう」
みんなの元へゆっくりと向かう中、ダプネと小声で会話し魔女の存在を確信した。聞かれるとマズイ会話ではないが、魔女と絡むのは危険すぎる。
アイツ等は平気で殺し、奪う。自分達は悪だと自覚し身を隠しつつ行動している【レッドキャップ】の方がまだ可愛く思える程、魔女の身勝手さは異常だ。
───....わたしもそうだった。
ワタポと出会ったばかりの時は本気で腹が立った場合、相手を殺してもいいと思っていた。現にワタポのギルドメンバーを殺したのはわたしだ。ダプネもディアに呑まれかけていたワタポを殺すつもりだったし、スイッチが入った魔女は邪魔な存在や目的の達成率を1でも下げる存在は平気で殺し、欲しいものは壊してでも手に入れようとする。
危険度では悪魔も魔女と変わらない。魔女と悪魔....他にも危険度が高い種族は沢山存在しているが、魔女はジャンルが違う。怒らせると危険、強くて危険....等々の攻撃的な面だけを見て誰かが勝手に危険な種族として認定したのだが、確かに魔女の魔術は強力で魔女の本能的な部分には破壊衝的なモノがある。しかし、その部分よりも危険な部分は─── 身勝手さだ。いうなれば魔女は “身勝手で危険” といった所か。
自分の目的の為なら平気で同族も手にかけ、それを同族は咎めない。殺した方が悪い、ではなく、殺されるのは弱いから、弱いのが悪い。という考えで終わる。殺されたくなければ殺されない様にずる賢くなるか、努力するしかないが努力でも届かない力の差は確かに存在する。助けてくれる魔女も中にはいるが、その “助ける” の裏には自分の目的があっての行動。ここにいるダプネがいい例だ。
「突然外に出るから何事かと思ったわい。魔女の頭の中は異空間より掴めないのじゃ」
「脳内異空間だってよ、言われてるぞダプネ」
「お前もだろ」
わたし達はキューレの言葉に上手く乗っかり、外に出た理由を聞かれる事なく中へ戻った。
◆
濃紺色の夜空は地界に住む種族全てに平等な色を見せる。
小さく煌めく星屑、夜行性のモンスターや小動物の声がフェリアの雰囲気を更に幻想的にする。
「.....」
「....?、夜空が好きなのか?」
瓦礫の山に座り夜空をただ見上げている【後天性 吸血鬼】へ【後天性 悪魔】が声をかける。瓦礫の撤去や建物の修復作業は1日でどうにかなるものでもなく、本日の作業は終わり皆夕食を楽しんでいる。冒険者も猫人族も純妖精の街の修復作業を手伝っている。命令されたワケでもなく、クエストとして受注したワケでもない。種族の枠などちっぽけなモノに囚われず共に進む者として困っていれば手を差し伸べている様な───そんな状況に【後天性 吸血鬼】は呟く。
「種族の枠を越えて仲良く出来るなんて、みんな凄いデスよねぇ」
「凄い....か。お前も元人間なら少しは理解出来るんじゃない?」
この2人、後天性吸血鬼の【マユキ】と後天性悪魔の【ナナミ】は元々人間。しかし───
「ひとつ聞いていいデスかぁ?悪魔さん」
「答えらるかはわからないけどね」
「───人間の頃の記憶や心って、残ってるデスか?」
マユキの質問にナナミは答えなかった。
ナナミには人間だった頃の記憶も、人間の心も確かに存在する。同時に悪魔になった記憶と悪魔の心も。妹のリーズが悪魔になる様に追い込み、殺した自分と、その死を後悔する自分。後天性が抱くこの感情はきっと本人にしか理解出来ず、本人が納得出来る答えを自ら見つけ、自分を納得させる以外に解決策はない。
「どう生きてきたか、が大切なのか、どう生きていくか、が大切なのか....あたしにはわからないデス」
「それは───....!?」
ナナミは答えようとクチを開くも、すぐに閉じ周囲を警戒する仕草を見せる。それを見たマユキも感知スキルを使い周囲を探ると、粘り付く様な気配と尖り荒れる気配を感知した。気配は───旧フェリア遺跡付近。
「....、どう生きてきたか、どう生きていくか、ではなく───今自分がどう生きたいか。それが大事なんだじゃないか?」
ナナミはそう答え、フォンポーチから愛刀を取り出し腰へ吊るす。
「私は悪魔になってから感知のレベルが恐ろしく上がった。停止して集中出来る状態なら、この気配が誰を狙っているのかも拾える」
ナナミは旧フェリア遺跡の方向を睨み、更に言葉をマユキへ。
「粘り付く気配はお前を見てる。相手はリリス....街の外で魅狐と戦闘していた “レッドキャップ” で一番頭のネジがトんでる女だ。どうする?」
マユキは瓦礫の山から降り、フォンをサラサラと撫で、渇いた灰色の大剣を背に。
「頭のネジをしめてあげるデス」
「私はもうひとりをやる。言っておくがリリスはヤバイ、絶対に油断するな」
「私は大丈夫デスよ」
「おい、待て」
ナナミの声を置き去りに、マユキは危険な笑顔を浮かべ、旧フェリア遺跡へ向かっていった。
◆
「来るよ」
「わ、かって、い、るわ。私、は中。あなた、は、外で、やって、ちょう、だい」
「....2人とも外で殺しても文句言うなよ」
「ふふふ、大、丈、夫」
リリスはゾクゾクと震え上がるモノを抑え、旧フェリア遺跡へ足を進めた。
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