◇136
ウンディー大陸から外へ出ていた冒険者達は連絡を受け、迷い渋る事なくウンディー大陸の首都───冒険者とギルドの街や女王の庭と呼ばれる【バリアリバル】へ戻った。トリプル───SSSランク冒険者の姿はない。しかしC+~SSまでの冒険者達が集まり、顔を会わせるこの光景は何十年ぶりだろうか。
「こんなに沢山の人々が.....」
冒険者としては約1年、ウンディー大陸の女王になって1年も経っていないセツカはユニオン本部の中庭広場に集まっている人々の数にただ驚く。
「ピシッとせい。お前さんはこのウンディー大陸のトップ、冒険者やギルドをまとめる女王じゃろ」
皇位情報屋のキューレは年寄り染みた口調だが、強い声色をセツカへ飛ばし、背を軽く叩き中庭へ向かった。
「.....よし」
セツカは古く錆び付いた、レアリティも高くない量産されているダガーをギッュと握り、自分に気合いを入れた。
───あの日、私の人生を大きく変えたのがこのダガー。何度も捨ててしまおうと考えたダガーだったけど....これが無かったらエミリオにもキューレにも、今の私自身にも出会えていない。父や母、他の方々の顔色を見て、自分がどう思われるべきなのかを気にして生きていた日々が終わり、私が私として生きる事を決めさせてくれたダガー。私のお守り。
セツカの瞳に確かな光が宿る。
女王としてこの大陸にある不安、または不安になりうる要素を排除したい。
セツカの想いはもう立派な大陸主となっている事を冒険者達も知っているからこそ、自分達の予定を中断してまで集まってくれた。
「急な呼び掛けに答えてくださり、ありがとうございます。早速ですが───」
地界全土に溢れ流れた魔力の原因を探る。魔力の原因が危険なモンスターだった場合は討伐する。命をかける覚悟がある冒険者は私に同行しなさい。
と、お願いではなく、命令する様にセツカは声を響かせた。
「うむ。たまに威張るくらいが丁度いいんじゃ」
呟いたキューレも、集まった冒険者達も、セツカも、まだ知らない。冷たく濃度の高いあの魔力の主が───SSランクのモンスター【女帝 ニンフ】である事を。
◆
赤と黒と紫が混じる靄を纏った星霊の宝剣を持つ
ひぃたろのオリジナル剣術は全て、~シュティルツと名がついている。由来は妖精種族の間で昔から語られている童話【ルンペル シュティルツ ヒェン】から名を。外界、魔女界などではその童話の内容も少し違い、名前は【トム ティット トット】とされている。
一方のプンプンが使ったオリジナル剣術は
両者とも独自の剣術、同数連撃で激しく斬り合う。
お互い同じ冒険者でSランク、同じギルド。10年以上も一緒にいるお互い大切に思える存在で───お互いが半覚醒状態で殺し合う。
自分の存在が見えなくなり、力に手を伸ばした半妖精。
大切な人を止めるために力に手を伸ばし魅狐。
大きすぎる力に手をかけた者はその力を見事操るか、力に呑まれるか。
禍々しい靄を溢れさせ微粒子を周囲に拡散させる半妖精と鳴き叫ぶ様に白金色の雷を放出し、自分を守る様に雷を纏う魅狐がお互いを斬った。
バランスを崩し落下する魅狐、フラフラと揺れ落ちる半妖精。お互い痛みで表情を歪めるも、着地と同時に引き寄せられる様に衝突。武器を槍から長刀へと形状変化させたプンプン。片手持ちから両手持ちに変えた ひぃたろ。突き抜ける様な鋭い衝突音が先に走り、衝突時の風が追う様に部屋を駆け抜けた。
共食い。変化系ディア。本来の限界を越える力に手を伸ばし、半覚醒状態になった2人はここで初めて顔を近づける。歯を噛む半妖精の表情は斬られた痛みに耐える ではなく、別の何かに抗う様で、朱色に染まった魅狐の瞳が揺れる。
「ッ....」
「───.....」
力で押してくる半妖精の剣。魅狐は下がり距離を取った。プンプンが放つ荒々しい雷が徐々に優しく、上がっていた短い太眉は優しく、そして悲しそうに下がる。
「....ひぃちゃん」
狐の力に呑まれていたプンプンはひぃたろの苦痛に耐える表情を見て、意識を取り戻した。制御できる限界を越えたプンプンだったが、心に痛みを感じたのか、何なのか、九本目の尻尾を消さずに自分を取り戻した。呟いた大切な人の名。返事はなく、代わりに剣が迫る。靄を纏う剣を回避する事も、ガード、パリィする事もせずプンプンは雷まで消し、ひぃたろを受け入れた。脳に響く突き刺さる音と痛み。しかしプンプンは表情を歪める事なく、悲しく寂しい瞳でひぃたろを見る。
「ひぃちゃん、ボクだよ?プンプンだよ?」
突き刺されたプンプンではなく、突き刺したひぃたろが表情を痛々しく歪め、苦しそうな瞳をブレさせる。
「さっきはごめんね。ボク、わからなくなってて....痛かったよね。ごめんね」
ひぃたろは喉から声を溢し、剣を抜き離れようとする。その直後、耳を突き抜ける不協和音と濃く冷たい魔力が下から湧き上がった。威嚇の咆哮ではなく、悲鳴の咆哮ともとれる声、激しく揺れる地面に2人バランスを崩す。
「「 ───!? 」」
激しい揺れの中バランスをとっていた2人は同時に驚く。離れた位置の地面が爆破する様に破壊され、人でも
「今のが女帝....ニンフ?」
プンプンが女帝に気を取られている隙に、ひぃたろは翅を羽ばたかせ女帝が貫いた天井の穴から外へ。
「ひぃちゃん!」
プンプンは声を響かせ雷を纏い、ひぃたろの後を追った。
◆
致命傷を負い、倒れる友人の姿を見てわたしは息を鋭く止めた。倒れている友人の横にいるのは....ハロルドによく似ているが髪色も雰囲気も、何より魔力の質が違う。
「ワタポ」
名を呟き、わたしは倒れるワタポへ近づく。
「エミリオ!今は人間よりコイツだ!」
「ごめん、今はソイツより人間だ」
わたしは振り向かず答え、ダプネの言うコイツとやらの存在を確認せずハロルドによく似た女性へ声をかける。
「治癒術使える?」
「え、私は」
「他の事はいいから、質問の答えだけ言ってくれればいい。治癒術は?」
「使えます」
「おっけー、とりあえず血がこれ以上出ない様にして。すぐ戻る」
形のいい細長い耳を持つライムグリーンヘアーの女性。純妖精だろうか。治癒術を使えると答えたので止血を任せ、わたしは後ろにいる、ダプネが言っていたコイツとやらを見る。
黄緑色の肌と黒緑一色の瞳。
身体を蔓でかろうじて隠している様な衣服、眼の様な模様を持つ翅と、脚変わりかスカート変わりか、腰回りからダラリと伸びる六本の触手。なんだコイツは。
サイズは人型と変わらないが雰囲気と魔力は並みの生物ではない。
「アイツがワタポをやったのかな?」
フォンを操作しビビララから借りていた剣を取り出しつつ呟くと、後天性ヴァンパイアのマユキ───ゆきちが言う。
「ワタポさんを攻撃したのはアイツで間違いないデスよ。手や触手につく血の匂いが同じデス」
さすがヴァンパイアだ。わたし達じゃ感じない血の匂いを拾うだけではなく、そこから情報を拾うとは。
「マユッキー血の匂いわかんの!?すげー!」
天使であるみよっちは ゆきちがヴァンパイアである事を知らない。わたしを魔女だと見抜いた、あるいは知っていた天使だが、ゆきちとダプネの事は知らない様子。ヴァンパイアや魔女の事をみよっちに話すなら後でいい。今は───
「おいクソビッチ。お前がワタポに穴開けたの?」
ウネウネの喜ぶ様にのたうつ触手と笑うクチ元がわたしのヘイトを撫でる。
「あ、おいエミリオ!」
ダプネの声を置き去りにわたしは一気に駆ける。ブーツに雷魔術を纏わせた行動速度をあげる、プンプンのディアを見て思い付いたバフ。次にわたしは自分の魔力を微粒子に変え、自身を包む様に拡散、微粒子が小さな風をも感知し揺れる。これで相手の動きを先読みする魔術。ダプネと空間内で戦闘した時に空間移動を読む為に考え思いついた。ハロルドがエアリアル時に拡散させる微粒子、ワタポのディアは動きを見る。これらからヒントを得て産まれたわたしだけの感知魔術。わたしを包む様に舞う微粒子がわたしの移動の風ではなく、外側で風を感知し揺れる───攻撃が来る。耳障りな声を上げモンスターは触手を伸ばす。ここでわたしは微粒子に新たな魔力を混ぜ込み、床を強く蹴り、雷を弾けさせ高く飛んだ。モンスターの触手が微粒子の一粒に触れた瞬間、その微粒子は小さく爆破する。周囲の微粒子も連鎖する様に爆破し、結果大きな爆破を産み出す。混ぜた魔力は火属性と地属性。これで爆破属性が産まれる。微粒子を爆破させるスキルは昔ワタポが使っていた爆破する蝶の鱗粉からヒントを。今その爆破微粒子を使った理由は感知しつつ攻撃する、ではなく、
「爆破が苦手なんだろ?クソモンス」
触手にある傷が爆破によるモノだったのをわたしは見逃さなかった。他の傷はほぼ治癒しているが爆破でついた傷は残っていた。わたしは宙にいる状態でダプネへ視線を送った。
「....ッ!」
舌打ちしつつも、ダプネはわたしの視線、眼の動きで理解してくれたらしく、すぐに空間魔法を発動させる。宙の空間が入り口となり───
「お前が何なのか知らないけど、ここ貰うぞ」
出口は謎のモンスターの背後。出ると同時にわたしは風属性を纏う剣をモンスターの左腹部へ突き刺し、剣の風を破裂させた。悲鳴を響かせるモンスターの腹部───ワタポと同じ部分を吹き飛ばしたわたしは止まる事なく2つの魔法陣を展開させる。
「次はその腕だ」
地属性上級魔術がモンスターの触手を岩の槍が貫き、風属性上級魔術がモンスターの腕を撥ねる。最後は自分の剣で首を───
「!?」
剣術を使う構えを見せた瞬間、モンスターの魔力は更に濃くなり、同時にわたしは背後から強く引かれ、モンスターの背後から正面へ、それも離れた位置の正面へ移動していた。ダプネが空間魔法を使い、空間の入り口に手を入れ、出口から手を出しわたしを強制的に引き戻した。やれる瞬間に強制移動させられた場合は「邪魔すんなよ!」とキレていただろう。しかし今のは違う。
「サンキュー」
わたしはダプネへ礼を呟いた。モンスターが魔力を濃くした瞬間、翅が大きくなり翅から鋭い槍の様な針を後ろへ飛ばしていた。質も威力も魔術ランクで言えば上級ランクだ。詠唱していない事から魔術ではないが、強力な攻撃には変わりない。
「コイツなんなんだよ....弱いのか強いのかハッキリしろよな」
「きめーって事だけはハッキリしてるな」
「確かにキモイ」
みよっちと軽く会話すると、モンスターは攻撃的な咆哮───バインドボイスを放つ。耳が痛み視界が揺れる様な感覚に耐えつつも、わたし達は眼を閉じる事なくモンスターを捉えている。
「あ、逃げますよ!」
ゆきちが大声で言うも、バインドボイスの中では通常ボリュームに聞こえる。
「追うな!」
「「なんでよ!!」」
ダプネへわたしとみよっちが声を揃えて答えると、モンスターは翅を重く強く羽ばたかせ翔んだ。触手を伸ばし天井を破壊し、この建物から逃げる。すぐに追ってあのモンスターを討伐してやりたいが、完全にこの場から逃げるつもりならば放置だ。今はモンスターよりもワタポが最優先。
純妖精の元へわたしは急ぎ、状況を確認した。治癒術でギリギリ止血に成功している状況、止血しか出来ない状況と言う方が正しい。
「この人はエミーの知り合いデス?」
謎のモンスターを眼の前にしても、酷い傷の人を眼の前にしても、表情ひとつ変えない後天性ヴァンパイア。わたしが黙ったまま頷くと後天性ヴァンパイアの ゆきちは「了解デス!」と言い、床に溜まった血液を指で撫でる。
「マユッキーなにしてんの?血好きなの?」
「好きか聞かれれば好きデスよー」
みよっちの質問にあっさり答えたゆきちは指に付着した血液を観察し、舐めた。うげぇ....とみよっちが声を出すも、ゆきちは味わう様に血液を口内で転がし、頷いた。
「人間デスね!結構深い所から出た血デスので...3%くらいデスかね。
何を始めるのか全く予想出来ないが、わたしの頭では今ワタポを助ける手段が思い付かない。ゆきちが奇怪な行動に走りワタポが更に危険な状態になる様なら、その時はゆきちを攻撃してでも止めればいい。今はこのヴァンパイアに任せよう。
純妖精は、再生術が出来るのか?との質問に頷いた。
「それじゃあ、あたしがこの人に血をかけたら、再生術で内部から繋いでくださいナ。エミ-達はそこで見ててください。大丈夫デスよ」
そう言うとゆきちはスカートの内側から手品の様に滑らかな動きでナイフを取り出し、一切の迷いも無く自身の手首を斬った。わたし達の反応を気にする事なく手首から吹き出る血液をワタポの傷口へと。すがに純妖精が再生術を詠唱、大きな無色の魔法陣が人間、純妖精、吸血鬼を飲み込む様に展開。するとすぐに吸血鬼は肘付近にナイフを突き刺し、手のひらまで一気に銀を走らせた。痛々しいなんてレベルではない行動の中、表情を歪めたのは魔法陣の外にいるわたし、ダプネ、みよっちだけだった。純妖精は両眼を閉じ集中、吸血鬼は唇を少し動かし、笑っていた。
大量の血液がまるで生きている様にワタポの傷口へ入り込み、千切れた部分を繋げる様に動く。
「なんっだ...あれ」
わたしが思わず呟くとダプネはすぐに反応する。
「カーレイドって名前はあの吸血鬼が使う “血液を操るディア” から。万華鏡の様に姿形を自在に変える血液。万華鏡はカレイド、血液はブラッドやレッド、スカーレッドと色々な言い方がある。その全てを混ぜて【カーレイド】って呼ばれる様になったらしい」
「え、マユッキーって吸血鬼なの!?こえー!」
「カレイドスカーレッド、カーレイド....なるほどね」
そんな事を話しているうちに再生術の魔方陣が消滅する。
「一応、治癒術をして上げてくださいデス。エミ-!さっきの魔術で純妖精さんに魔力を貸してあげてください」
わたしは言われるがまま純妖精に【マナリチャージ】で魔力を送り込んだ。魔女のわたしは詠唱中も魔術発動中も自由に動けるので歩み寄り、ワタポの様子を確認する。酷かった傷は完全に塞がり、千切り奪われた肌もある....ゆきちは何をしたんだ?
「説明しろ!と言われたら後で説明しますよ。今はその人の体力を回復させる事が最優先デス」
「げっ!?マユッキー手の傷もう塞がってんの!?吸血鬼やべー!」
今の言葉でわたしもその傷を見たいと思ったが、それも後でいい。ゆきちが言った通り、今はワタポが最優先だ。
マナリチャージを続ける事、約10分。純妖精は両手で展開させていた治癒術の魔方陣を消滅させ、ゆっくり深く息を吐き出した。
ワタポの呼吸も安定し、表情もどこか安心出来る表情に変わっていた。
◆
ぼんやりとする頭とハッキリしている頭。自分が両膝を抱えてる。暗くて冷たくて、誰もいなくて、怖くて。
昔の事が高速で何度も頭の中を廻る。私は半妖精で、純妖精達は私を嫌う。人間と純妖精が長年喧嘩していた....喧嘩と言えば可愛いが、殺し合い。戦争でもなく、純妖精は人間を排除したい、人間はこの森に住み着いた純妖精を排除したい。森に入り込んだ人間を純妖精が殺し、森に入り込んだ人間は純妖精を殺す。この森の木々は両族の血を吸い、マナが変異し、迷いの森やニンフの森が今の複雑なマナに、完成形になった。
ある日の事。いつもの様に森へ入り込んだ人間達を純妖精達が殺しに行った。入り込んでいた人間は人間側が純妖精を殺す為に用意した騎士ではなく、人間貴族が雇った騎士ではない者達。純妖精の戦士達は何も出来ず殺され、その死体を全て人間が持ち帰った。
純妖精の死体───剥製を作れば高く売れ、貴族は純妖精の剥製を欲しがっていた。
戦闘のプロとも言えるその人間達は連日、何人もの純妖精を殺し持ち帰る。1人の純妖精がその人間達から逃げ、街に戻り「考えが全て読まれている様で、何も通じなかった」と情報を伝え死んだ。
相手の考えを読み取れる力を持った人間がいる。一見戦闘では使えない能力に思えたが、何も考えずに行動する生き物は存在しない。その能力を持つ人間はその能力を使えるだけの脳を持ち、人間離れした実力も持った者。純妖精達はその人間に何人も殺されている。勝ち目がない。そう判断した純妖精達は人間達へ「生きた半妖精を1匹譲る。その代わりにこの森をよこせ」とトレードを持ち掛けた。すると人間達はすぐにその条件を飲み、殺し合いは終わった。
純妖精側は欲しかった森を手に入れ、邪魔だった半妖精を処分出来た。
人間側はレアな半妖精、それも生きた半妖精を手に入れる事が出来た。
半妖精。半分違うだけで、全てが違う、全てが可笑しな存在として嫌われていた。
半分は同じなんだよ?
産まれた時からみんなと暮らしてたんだよ?
それなのに、なんで?
半妖精はそう思うも、純妖精達は半妖精を見ようともしない。いや、正確には “同じ種族として” 見ようともしない。半妖精が純妖精達に殺されなかった理由は他族との取引材料になるから。
半妖精───私は人間との取引材料として、人間側に送られ、薄暗い部屋で生活する日々が始まった。
───いつか純妖精を全員殺してやる。
火種を心の深い所で燃やし、辛くて痛くて苦しい生活にも耐えた。そんな生活の中で出会った金色の髪を持つ魅狐は不思議と私の火種を小さく、弱くしていった。全てに絶望していた魅狐の姿はまるで自分の姿の様で、自分を見詰め直す機会を与えられた様で。私は純妖精を殺したいと思っていたが、それ以上に....この世界の事を知りたいと思っている事を知った。私は生きたいんだ、と。
生きたい事を伝えた私へ魅狐は「外の世界はキミを受け入れないと思う。きっともっと酷い差別が待ってる。それなのに、どうして?」と質問をしてきた。確かに外は想像を越える酷い世界かも知れない。でもそれは外の世界に対しての材料が少ない私の想像でしかない。凄く綺麗で楽しい世界かもしれない。それも知りたい。他にも知りたい事が沢山ある。
純妖精を殺した。そんな事じゃなく、知らない事を知りたい。生きる理由はそれでいいと心から思えた。
私は魅狐と外に出た。
外の世界は私や魅狐の想像とは違い、酷い事もあれば楽しい事も沢山あった。知らない事が多すぎて、それを1つ1つ知れる事が楽しくて。
出会った時は死んでいる様に生きていた魅狐も、必死に生きる事を決めた。その理由が妹との約束、願い。
私はそれも知りたいと思った。何をどう知りたいのな細かくはわからないけど、この魅狐の事が知りたい。漠然とそう思った。一緒に行動して、一緒に生きて、一緒に世界を知っていった。
でも、その魅狐は私のせいで大怪我をした。私が弱いから。
私は純妖精に殺されそうになった。殺したいほど嫌いな純妖精を助ける為に純妖精達に近付いたから?違う。単純に私は弱いから殺されそうになったんだ。
強ければ殺されそうになる事もなかった。
純妖精に殺されるのは嫌だ。
弱い自分はもっと嫌だ。
私を否定した純妖精を私が否定して、支配して、死ぬまで使ってやろう。苦しめてから殺しても遅くないよね?
その為には力がいる。もっと大きな、挑もう、逆らおうなんて考えもしない大きな力が。
それがあれば私が大切だと思うモノも守れる。
強くならなきゃ。
私が強くなって.....そもそも私はいつから私は弱くなったのだろうか?心の深い所にあった火種は何処へ?
....そうだ───
「ひぃちゃん!」
───私が弱くなったのは、この魅狐と会ってからだ。
内側が熱い。痛い。熱くて我慢出来ない。痛い。早く出たい。熱い、アツい、痛い。強くなれば痛くないかな?熱くないかな?私はいつから弱くなった?
「魅狐が私を、プンちゃんは私が守ってあげるからね。私を弱くした、お前が私を弱く....プンちゃん釣れた?」
「え?....ひぃちゃん?」
「ヌシ?ヌシシシ?お父さんんんん?ギルドとかもあるのかしらね?テイマーや魔女、ピーチタルトに興味ない、バターとミルクも、お姉ちゃん達は別のモノでも大丈夫だかららLaLaラLa」
◆
眼の前のひぃちゃんが、恐ろしい存在に変わる。何を言っているかもわからない。顔を押さえて、苦しそうに笑って、一度翅を割り、大きな翅を広げた。薄い翅にはハッキリとした桃色と、流れる黄緑色。ボクの知ってるひぃちゃんが持つ翅じゃない。
ボクの知ってる.....ひぃちゃん じゃない。
「キャッって言って、キャッって、キャッって聞かせて、可愛いね、可愛い声でキャッってもう1度キャッって、私が守ってあげる!」
「ひぃちゃ───ッ....アッつ」
グズグズの言葉を適当に並べて吐き出したひぃちゃんは、さっきとは比べ物にならない速度で移動し、靄を放つ剣を振った。ガードする事は何とか成功したものの、重い衝撃はボクの身体を押し飛ばす。
「キャッって聞かせて、ヌシは?お父さんどこ?生きようプンちゃん。私は沢山採れたわよ!プンちゃんどこ?どこ?どこにいるの?」
予想を越えた重さに腕が折れるかと思った。
「なんでこんな....」
「どこ?キャッって聞かせて?お姉ちゃん達は別のモノでも大丈夫だから」
「ひぃちゃん...見えない....の?」
キョロキョロと子供の様に辺りを見渡し呟き続けるひぃちゃん。ローズクォーツ色の綺麗な瞳を見て、ボクは鋭く息を止めた。
1つの瞳に...1つの眼球に2つの瞳孔が。眼球が動き、瞳孔は忙しくボクを探す様に回っている。
「こんなの......なんで」
───自分の命が危なくなる前に、殺さない なんて甘い考えは捨ててよ。
ワタポに言われた言葉が今このタイミングで、ボクの頭で再生される。
ひぃちゃんの雰囲気はさっき遺跡で見たモンスターと似ていて、あの眼はもう人のものじゃない....。
「プンちゃんどこ?みんなの気持ちを捨てないで、生きよう。妹を救ってあげられるのはプンちゃんだけよ...。私も手伝うから、支えるから」
「それ....あの時の」
ひぃちゃんと出会った施設、研究所から逃げる時に、崩れていたボクを建て直して支えてくれたひぃちゃんの言葉。たしかあの時「いい加減にしなさい!」ってボク怒られたっけなぁ。
月が顔を出す。雲が泳ぎ月明かりがボクを照らし作り出した影。あの夜もこんな風に自分の影を見た。今夜は....今度は───
「助けるよ。絶対に」
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