◇118




【優雅な風切り】はシルキ大陸に生息する鳥人型モンスター【ガルーダ】の鶏冠を破壊。


【地核鉱石】はノムー大陸に生息する巨大な亀【ガルームドーン】の尻尾の先にある槌の様な部分を破壊。


【濃霧の秘棘】に関しては全く情報がない。



るーとだっぷーから聞いた情報はこんな所だ。

2つの素材のモンスターなハッキリしただけでも助かったが、大陸までハッキリしているのは本当に助かる。

【濃霧の秘棘】については皇位情報屋のキューレに聞いてみるしかない。


2人から得た情報を脳内でまとめ、マップを見て次の行き先を決める。


雑談や相談できる相手が居ればいいのだが...わたし、エミリオさんは只今ぼっちでイフリーポートにいる。


ポートまでは3人、わたし、るー、だっぷーで来ていたのだが、るーはウンディー大陸へ帰り、だっぷーはオルベイアへ戻ってしまった。


「マップ見る限りノムー行くよりシルキの方が近いけども...シルキって和國だった気が」


ブツクサと呟き、ワールドマップで各大陸の位置と海路を確認してみると、やはりイフリーからノムーへ行くよりシルキへ行った方が断然早い。


シルキ大陸についてはウンディーにいても中々聞かない。和國からこっちに流れてくる武具や料理レシピは結構レベルが高く、素材も中々。それを考えればシルキ大陸自体のレベルが相当高いのか?


ま、どの大陸にも超低レベル~超高レベルの場所はあるし、別大陸への見栄って事もあり得る。

シルキへ行くにも、ノムーへ行くにもまだ時間があるので、わたしはポートのレストランへ。ヴァンズを節約したいが干からびるのはゴメンだ。


「うわ、結構混んでるのね」


時刻は夕食時。

次の船が出るまでに食事を済ませようと考える者は思いの外、多かった。

空いている席を探し、レストランをキョロキョロするも中々見当たらない。


何度かウェイトレスの邪魔になり、さすがに諦めてレストランを出ると、今ポートに到着した様子のフードの人物が、わたしを見て大袈裟な手招きをする。

自分を指差すとフードの頭を揺らし頷く謎の人物。顔どころか装備もフードローブに包まれていて見えない。


レッドキャップが愛用しているダサいフードとは違って、ゴールドで縁取られたワインレッドのフードローブ...どこかで見覚えがある。

ワタポのローブは定番カラー、キューレはこの時間帯は艶消しの真っ黒ローブ。

そこまで考えて、わたしは思い出す。

あのタイプのフードローブはわたしが持っている魔法型のローブと同じ。と、言う事はアイツは魔術を主体にする戦闘スタイル。


手首が吹き飛びそうな速度で手招きするフードローブの人物に、わたしは呆れた表情を浮かべつつ、心の中では戦闘になる確率も充分考えて近付く。

冒険者になって約1年、警戒心が強化された自分に少し成長を感じつつ、フードローブの人物と通常の声音で会話出来る距離まで進む。


「相変わらずキモイ髪色してんのな、久しぶり」


「は?」


第一声でキュートな髪色をバカにされ、一瞬でフルヘイトまで貯まる中、相手はフォンを素早く操作し、フードローブを装備解除する。


濃い緑色の髪とルビーの様に真っ赤な瞳、背中には片手剣。モスグリーンをメインとした、どこか植物的な雰囲気を持つ防具。


わたしはその姿に両眼を見開き、フリーズした。


「お?どうした?エミリオ?おーい」


なぜここに居るのか。ここに───地界に居るハズのない存在が、わたしの名を呼び、わたしの顔を覗き込む。

フリーズから解放されたわたしは彼女の手を掴み、どのポートにもある、倉庫の裏まで走った。


「なんで」


聞きたい事が沢山ありすぎて、言葉が喉で詰まる。


「落ち着けってば」


そう言って彼女は薄緑色の液体をわたしに。

これは...外界に咲く魔花草まかそうを加工して作られた、地界で言う お茶。

気持ちを落ち着かせる効果がある。

わたしは受け取り、ゆっくり飲んだ。

懐かしい味、嫌いな味。


「魔花草のお茶は摩訶不思議!ってか。落ち着いたか?エミリオちゃん」


「...まだそんな事言ってるんだ。久しぶり、ダプネ」


彼女は外界───魔女界の魔女で、数少ない剣を好む魔女【魔剣士ダプネ】。わたし魔女界にいた頃一番仲良くしていた魔女───と言っても冷めた会話する程度の仲だが。


「お互い色々聞きたい事あると思うけど、その前にこの魔術を使って」


そう言ってダプネは詠唱、魔術を発動させる。

わたしの知らない詠唱と魔術、効果もハッキリわからない。


「これはマナサプレーションってゆー魔女専用の魔術。エミリオが地界に行ってから完成した魔術だから知らなくて当然っしょ。魔女の魔力を感知出来なくする魔術ね」


マナサプレーション。

魔女の魔力を抑える。ではなく、感知出来なくする魔術か。今現在、魔女の魔力がムンムン溢れているわたしには丁度いい魔術だ。


詠唱し、発動してみると一瞬身体が紫色の光に包まれる。


「おっけ、それで魔女としては感知されない。でも魔力は感知されるから、エミリオの魔力が溢れる前の状況って感じ。魔女力を抑える効果はないから気を付けて」


「...で、何しに来たの?この魔術を教えに来た...って感じじゃないしょ?」


ダプネは真っ赤な瞳に一瞬熱を宿し言う。


「宿借りよーぜ。わたし疲れたし、こっちも色々話したい事あるし」


「わかった。でも宿代はダプネが払えよ。わたしお金ないし」


とりあえず、今晩はイフリーポートにある宿屋で一泊する事になった。

シンプルな2人部屋に案内され、武具を解除。楽な服を装備し、わたしはベッドにダイブしているダプネへ再び質問する。


「何しに来たの?」


「わたしはエミリオを見に来た」


枕をモフモフするダプネは短く答え、水槽に眼を向け、小さなティポルがヘラヘラとした顔で泳いでいる姿に驚く。


「なにコイツ!?これが変態ってヤツ!?」


ダプネは今 “わたしは” と言った。他にも魔女が地界に入ったと言う事だろう。そしてその魔女の名前を言わなかったのは、ダプネもトレースまたはピーピング対象である。と言う事か。

言わなかった。ではなく、言えなかった...が正解か。


「エミリオ」


ダプネは水槽を指で突つき、わたしの名前を呼んだ。

紅玉色の瞳を深く、濃く耀かせ傾く様に頭を揺らし言う。


「アンタの魔女力、わたしも手伝うからマスターしよう」


「...は!?なんでダプネが手伝うの?」


ダプネは周囲を警戒する様な仕草を見せ、一度両眼を閉じ詠唱。広範囲で感知、看破する魔術を使ったのだろう。

わたしはアレが苦手だ。


「エンジェリアは化物だ。他の魔女も相当強くなってる。それに他の種族も動き始めた。アンタの魔力が2回溢れたでしょ?エミリオの魔力は魔女や悪魔から見ても異質なんよ。それでただ事じゃないって踏んで、みんな黄金の魔結晶を本気で狙い始めてる」


「どゆこと?」


「魔女や悪魔、他の種族もなぜ地界を壊さなかったのか。その気になれば余裕じゃん?でもしなかった」


確かに魔女や悪魔が全員その気になれば、地界に住む種族を一掃する事は出来なくもない。もちろん簡単ではないが、現在外界に住む種族はそれ程までに異質。

過去、外界に住んでいたであろう種族も地界で暮らし、簡単に言うと平和ボケしている。わたしもそうだ。


でも、ここに来て魔女が動き始めた。ダプネの話では他の種族も...わたしの魔力が関係してる?いや、それはない。

じゃあ...


「魔結晶がどこにあるかハッキリしていないから?」


ダプネが部屋にあるグラスを取り出し、氷を入れ薄赤色の液体を注いでいる中、わたしは呟いた。


「...正解。エミリオの魔力が1回目に溢れた時、すぐにピーピングしたけど魔結晶の反応は無かった。2回目にピーピングした時は近くに悪魔と結構ヤバそうな人間がいたね?アンタを魔女って理解した上で襲ってくる人間は魔結晶を狙ってる」


謎の液体が入った氷が浮かぶグラスをわたしに1つ渡し言い、ダプネはベッドに座る。


「なんでそう言い切れる?ただの戦闘狂かも知れないじゃん」


「戦闘狂ならまずモンスターを相手にする。そんで人間達は昔のルール...心臓だの魂だのが今も必要だと思ってる。エンジェリアが地界にアンタを投げたのも、排除と同時に魔結晶探させるため。魔女を恨んで地界へ行ったなら、必ず魔女を圧殺できる力を求めるだろう。ってね」


「話がよくわからん」


「んー。2回目のピーピングで、こっちはもうエミリオが魔結晶の所在を知ってるって事で行動してる。邪魔する奴は人間でも何でも殺す。魔結晶だけ手に入ればいいしさ。そんで、今話した感じだとマジで魔結晶の在処知ってるのな!笑うわ」



グラスの氷が小さな音をたてて割れる。

ダプネはフォンポーチから2つの何かを取り出し、わたしへ見せ、言う。



「これはアンタが欲しがってる素材【優雅な風切り】と【地核鉱石】もちろん人間から奪った物だけどね。ピーピングの時素材も聞かせてもらってね。【炎を宿した喉笛】を狙いつつ、アンタを探してこの大陸に来たんだけど、もう喉笛は持ってるみたいだね」


「...何が言いたいの?」



連鎖する様にグラスの氷に亀裂が入り、



「わたしに勝ったらこの素材あげる。わたしが勝ったら魔結晶の在処を教えて。空間魔法使って別空間でヤっから、魔女力もフルバーストしていいよん!それでも負ける気しねーけどな」



氷は砕けた。


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