◇117
レモンティーというものを初めて飲んだ。
お茶だけど甘くて、レモン感も確かにある、不思議な飲み物。暑い大陸ではレモンの酸味が妙に美味しく感じる事を今知った。
人間界...この世界に来て、冒険者になり、色々な場所へ足を運んでいなければレモンティーをクチにする事は一生無かったかもしれない。
大袈裟にも思えるが、自分でもなぜ、そんな事を思っているのか...わからない。
わたしは左手首に装備されているアクセサリ、魔力を超絶減らすマテリアへ視線を流し、レモンティーで妙な気持ちを流した。
◆
「そういえばフロー、空間魔法の直前にぃ何拾ってたニャ?」
上半身を解放する鬼角風な耳を持つ
たまにいるよね、飲み物の氷を食べるヤツ。
「わたし何か拾ったっけ?」
あの状況でどんな行動をしたか、ほとんど覚えていないわたしは質問に質問をぶつける荒業に。
するとるーではなく、だっぷーが声を上げる。
「あ!そだったあ!」
グローブとブーツを脱ぎ捨てただっぷーは慌ててフォンを取り出す。
忙しく動く指、フォンを見つめる真面目な瞳が不思議な緊張感を産み出す。
「...喉壊したのって、るーだったっけえ?」
「んー、多分そうニャ。それがどうしたニャ?」
「フォンポーチ見てみてよお!」
だっぷーは自分のフォンをテーブルに置き、るーへフォンのアイテムポーチを確認してほしいと言う。ここでわたしも気になりフォンを取り出し、ポーチを確認する。
そして数十秒後、わたしとるーは同時に声を出す。
「ぶぉわ!?」
「みギャ!?」
「なにその声、面白すぎいー!」
みギャ はさすがにキモすぎるぞるー。
潰れたカエルみたいな声じゃん。
しかし...驚いた。
これを見てやっと自分が空間魔法を発動させる前に、何かを拾った事を思い出す。
わたしが拾ったモノは、だっぷーが強撃の
部位破壊した部位───フレアヴォルならば喉部分の赤い鱗や、発光する何かやらが、見当たらなかった。だからわたしはコレを必死に拾ってたんだ。
拾ったモノを指でタップし、フォンポーチから取り出す。
右手に握れる程度の黒青色と言うべきか...そんな色をした鉱石とはまた違う石の様なモノがフォンから取り出される。
るーの左手には中が赤々と燃える球体。
わたしとるーは同時にテーブルへそれらを置き、固有名を言った。
「魔結晶フレアヴォル!」
「炎を宿した喉笛 ニャ!」
「おおぉ、2人ともやったねえー!」
わたしが拾った何かは固有名、【魔結晶 フレアヴォル】だった。昔アスラン、烈風、ゆうせーと戦った地竜から、ドロップした【魔結晶 ギガースドラゴ】を含め、人生で二回目の魔結晶ドロップ!
るーは喉を破壊したので、どうやら自動的にフォンへマナが送信される様なノリで、わたしが求めていた【炎を宿した喉笛】をゲットしていたらしい。
わたしが求める素材をるーが。
るーが求める魔結晶をわたしが。
これはもう作戦Emilioしかない。
「るー魔結晶と喉笛交換!はい決定!」
「お前、強引すぎるニャろ。まぁ俺は全然いいけどニャ」
るーはそう言って【炎を宿した喉笛】をわたしへ、わたしは【魔結晶 フレアヴォル】をるーへ渡し、闇取引は無事終了する。
「会いたかったよ~、喉笛ちゃ~ん」
球体を頬でスリスリとし、結構温度が高い事に驚きつつも、クチはシマリなくとろける。
るーは数回、手を動かし魔結晶を観察し、あっさりフォンポーチへ収納。同時にドロップしていたフレアヴォルの素材を取り出し、全てだっぷーへ渡す。
「わたしもお礼を...でもお金は勘弁してください!だっぷーさん」
お礼をしたい気持ちはある。
しかしお礼金を払う余裕は残念ながら...ない。
フォンへ【炎を宿した喉笛】を収納し、最近知った新?機能、ロックを使い喉笛をロック完了。
フォンポーチ内のアイテムはロックする事で取り出しもまとめ売りも出来なくなくなる。
取り出し、またはまとめ売りしたい場合はロックを解除すればいい。
「お礼はいいよおー、私も楽しかったし、討伐は出来てないからねえ」
「わかったありがと!」
「フローお前少しは...まぁいいけどニャ」
だっぷーのありがたいお言葉に即甘え、これでもうフレアヴォルに用事はない。
ウキウキ踊り狂う心で、わたしはある事を思う。
なぜフレアヴォルは魔結晶を吐き出したのか。
ギガースドラゴも討伐していないが魔結晶をドロップした。
魔結晶はその個体の体内で生成される魔力を持つ結晶。
大きさ形は様々だが、固有名が同じなら魔力も同じ。
人間等の命を材料に、人工的に魔結晶を作っていたバカもいたが、天然と人工は形がまず違う。そして固有名も【クリアストーン】のまま。
フレアヴォルもギガースドラゴも長い年月、体内でマナや魔力、力を濃く溜めて生成した魔結晶を部位破壊で落としたり、吐き出したり...てっきり命と言うか、力の塊だと思っていたが、本人達にとってはそんな重要なモノではないのか?
魔結晶マニアでもいれば聞いてみたいが、るーもだっぷーも、もちろんわたしも、そのテの生物ではない。
「しっかし、同時にぃゲット出来てよかったニャ。少人数でフレアに挑むにょは自殺行為だったニャ」
るーの言う通り、A+...今回は時期的な問題で実質S+だったが、この辺りに属するモンスターへ、少人数で挑むのは自殺行為だ。
討伐狙い...いや、素材狙いでもレイドパーティを組むべき相手。
恐らく...わたしはそんなランクのモンスターを後三体、【優雅な風切り】【濃霧の秘棘】【地核鉱石】をゲットしなければならない。
これが武器素材で、防具は...なんだっけ?
今わたしが愛用している紫系の防具【シャドー】はもうベース素材には出来ないから、多分コレから次なる防具の素材、武器で言うインゴットに戻す的なアレをして、まぁ詳しくわからないから武器素材集まったら行こう。
残る素材は三種類。
キューレに情報があるか聞こうと思っていたが、その前に2人に質問してみよう。知っていた場合、お金が浮くし!
「ねね、んーと...この三種って誰ドロかわかる?」
フォンで素材リストを表示し、テーブルへ置き、まだ入手していない三種類を指差す。
2人がわたしのフォンを覗いた瞬間、それは突如湧き、全身を優しく撫でた。
3人同時に同じ方向へ頭を向けるも、そこにその原因はいない。
もっと遠くに、でも確かに存在する。
独特な
魔女と悪魔ではない。
わたし自身が魔女なので魔女の魔力や瞳の感じ...何かウザい感じで、すぐわかる。
悪魔はもっと、ベトつく嫌な雰囲気。
モンスターでもない。
モンスターならば、モンスター戦闘に特化した猫人族が「初見です」という様な表情をしない。
人間でもない。
人間ならば、だっぷーが感知した瞬間、もっと鋭い...臨戦態勢に入る様な表情になるハズ。長年人間を見てきたからわかる。
じゃあ...今のは何だ?
雰囲気は種族─── 人間や魔女、モンスターで違う。
雰囲気が恐ろしいからといって、絶対に自分より強いワケではない。
現に魔女でも人間に勝てない魔女、悪魔でもモンスターに勝てない悪魔も存在する。
種族で個体値は様々。
どの種族が最強。といった定義は存在しない。
そんな定義に囚われていれば戦闘で即死する。
今の雰囲気は強者が纏うモノとは違って...何かに特化した者が纏う、特定の条件下なら有利に、または負ける気がしない。とただならぬ自信を持っている者が纏う雰囲気。
レッドキャップのメンバー等が持つ “どの条件下でヤれる” というステータスや経験からの雰囲気ではなく、貴族などが民間人などを威圧する、有利または得意とする条件下になった瞬間、漂わせるジャンルの雰囲気。
もちろん、そのジャンルは権力値の優劣ではなく...戦闘。
それだけは理解できた。
透き通る様で優しく、でも揺れない雰囲気を持つ何か。
現段階でわたしはそんな種族を知らない。
◆
人間界に降り立った、純白の翼が四枚、2つ。
翼は優しく透き通り、微粒子を残し消える。
「うっわ、暑いね地界って。もうシネって感じ」
「うーん...場所間違えたかな?」
「ゆゆ地図見てきたんでしょ?ここがノムー大陸?」
「地図は、みよが見てもわかんないって言うから私が見てきたよ。絵が上手だった!」
目的の大陸はノムー大陸だった様子だが、2人が降り立ったのはイフリー大陸の山脈地域。
エミリオ達がいるオルベイアからも遠い、イフリー大陸の孤島。
「あっ、みよ!またピアスとってるでしょ!【エンジェルリング】早く装備して!バレちゃうバレちゃう!」
ゆゆは慌てて、みよの両耳に金色のリングタイプのピアス、【エンジェルリング】を装着する。
「いやああああ!これ装備すると翼出せなくなんじゃん?可愛くないし、もうシネって感じ」
文句を言いつつも、みよは【エンジェルリング】を外さない。
「私達は天使なんだよ!ここは人間とか、他の種族も沢山いるの!怖い人とかいたら怖いじゃん」
「怖い人は...怖い人だから怖いよね。[つーくん]と[ぺん]は来ないの?」
「2人はお祈りを抜け出した事が大天使様にバレちゃって、罰として掃除させられてた。終わったら来ると思うよ!」
彼女達は
天使。
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