◆102
円卓の騎士。
ルキサはそう呟きフォンから鎧や武器を大量に取り出しカーペットへ捨てる様に散らした。
広場に出ることなく本部内で自分達を待ち構えていた騎士、本部に敵が潜入した場合の排除を任された騎士。広場にいる騎士とはレベルが違うはず。ひぃたろはそう読み動き1つ1つに警戒していたが警戒が裏目にでたのかフォンを素早く操作する動きにも機敏な反応を見せてしまい今の状態...部屋に武具が散らばる形になってしまった。
距離も充分あるのでその場で様子を見る事にし、ひぃたろは腰から抜剣しパールホワイトの刀身を露にする。
円卓の騎士...そんな魔術も剣術も聞いたことない。
剣を構えているワケでも詠唱しているワケでもないルキサだが口角が妙に揺れている事にひぃたろは眼を細めた。
何がくる?
言葉を飲み込んだ時ルキサはフォンをしまった。
装備を変更しながら戦闘するスタイルかと一瞬思うも、床に散らばる武具は今現在ルキサが装備しているモノよりもプロパティは低い...大斧に至ってはSTR要求が高そうで、とてもルキサでは装備できない代物だろう。ひぃたろは視界に映る全てから情報を得て、自身の記憶を探り次の動きを予想しようとするも、武具を撒き散らし戦闘する相手とエンカウントした事は今までない。
ひぃたろが床の武具へ視線を流した瞬間、ルキサはこの瞬間を待っていたかの様に蹴り進み大剣を背から荒く抜き振る。
鎧と大剣。重と重の装備にもかかわらず速度は異常に早い。ひぃたろはルキサの肘部分を星霊剣メビウスで叩き攻撃を潰す。両手持ちの武器を背から抜剣する際には肘を狙えばその攻撃を潰せる。
プンプンが抜刀する際、身体全体を使い長刀を抜くのは長刀の大きさが自分の身長に合っていないからではなく、抜刀を潰されない様に独自の抜刀方法を導きだした結果。
常にプンプンと行動しているひぃたろだからこそ長刀や大剣の抜刀攻撃を潰す方法を知れたと言える。
大型の武器を使う者全員に通用するワケではないが、ルキサには通用した。理由は身長だろう。長身が大剣を使う場合はそうそう通用するスキルではない。
鎧が剣を受け止めたのでダメージこそ無いが攻撃を潰された事に変わりはない。ルキサは追撃を予想しサイドステップを入れ抜剣を済ませる。
考える暇を与えぬ様、ルキサはひぃたろへ攻め、ひぃたろもそれを迎え撃つ。白金の大剣と銀白の剣が何度も火花を散らし衝突する中で床に散らばった武具が積木の様に組み合わさる。中身の無い騎士が降臨しルキサと競り合うひぃたろを迷い無く襲う。
剣、槍、斧、がターゲットを殺す事だけを考え振られる。隣にいる鎧騎士に槍が当たろうが剣を構えた時に腕が別の騎士に接触しようが関係なしにただ、ひぃたろを仕留める事だけを刻み込まれた機械的な動き。
武具が揺れ組み合わさり、動いた時は驚いたが、すぐに状況を理解したひぃたろは落ち着いてルキサの剣を弾き、光の粒子を残し高い天井へ翔び、鎧達の攻撃を掠める事なく回避した。
どんな相手でも全力で挑む。
デザリアでレッドキャップのリョウと街で戦闘になった時、ひぃたろ、プンプン、ワタポは成長した自分達の力を過信...までではないが、余裕と油断を持ち戦闘してしまった。結果関係ない人を簡単に奪われ、好きに暴れさせてしまった。
レベルアップ、強くなり力を持てばどの種族でも傲りが出る。それがほつれとなり、気付いた時にはどうする事も出来ずギルド等の集団は空中分解してしまう。
どんな事にも全力を出し、満足せず上を目指す。
こんなにも早くエアリアルを使ったのはルキサの実力が予想よりも高かっただけではなく、相手が騎士だろうとザコモンスターだろうと最後の最後まで油断せず全力で挑むと決めたからこそ、渋る事なくエアリアルを発動させた。
「翅...」
ルキサは天井付近でホバリングしているひぃたろを睨み呟いた。薄ピンク色の翅から微粒子が舞う中、ひぃたろは言う。
「エアリアル。フェアリー種族だけが使える魔術だったけど...人間にも使えるわよ?私は人間ではないけどね」
ひぃたろは
独りが嫌だったから、嫌われるのが怖かったから自分が半妖精である事を隠し冒険者として生きてきた。プンプンも自分が魅狐である事を他言せず2人でギルドを作り、目立つ事をせず生きてきたがある魔女が自分が魔女である事を人間に話し、その人間もそれを受け入れていた現実に、種族の枠という小さく息詰まる境界線など無いのでは?とひぃたろは思った。
その魔女が今、世界中の種族に自分は魔女ですと言わんばかりに魔力を溢れさせている。この先魔女がどうなるのか、世界はあの魔女をどう見るのか。
魔女救出に参加した者の中の数名はこれからその魔女が世界をどう生き、世界は魔女をどう見るのか...気になっていた。
「エルフか。これだから冒険者は....」
ルキサが呟くと停止していた鎧達が動き出す。槍を天井へ投げ半妖精を落とそうとする鎧、武器を失った鎧を足場に跳躍する鎧。
雑に武器を振っていた鎧達の動きが変わった事でひぃたろの中で確信が生まれた。
「円卓の騎士、所有する武具を使い騎士を作るディア。騎士の動きはあなたの考えで変わる」
ディアは奥の手。見抜かれない様に使う、または見抜かれても対策できないレベルまで高めておくのがセオリーだがルキサは奥の手として使うべき能力を即座に披露してしまっていた。能力的には騙し討ちも可能な能力だが対策は難しくない。使うタイミングを考えていないの舐めプだったのか...。
ルキサをターゲットに降下するひぃたろを中身の無い騎士が迎撃しようとするも翅を器用に操り簡単に回避する。
現時点でルキサのディアはネタバレしてしまえば終わり。今のレベルが最大なのか必死に騎士を動かしひぃたろを追うも粗末な騎士達では触れる事さえ出来ない。
そしてルキサは騎士団長直属の騎士で、一番弱い。
エアリアルのスピードを剣に乗せた 単発重剣術 グライア がルキサにクリティカルヒットし、扉を突き破る形でルキサは場外。鎧は砕け散りひぃたろの圧勝で終わった。
◆
ひぃたろがルキサと
「はいはい残念!この階に魔女いないよ...お!猫耳にゃんにゃん族!?」
「うにゃ...面倒そうにゃ騎士だニャ」
タレ眼で猫人族を舐める様に見る騎士団長直属の騎士シンディ。眼鏡の奥の瞳はおっとりした外見に合わない輝きを宿す魔法学者。
「尻尾あるのにツインテール...尻尾好きなんだね!名前は?年齢は?ネギ食べれるの?お風呂は苦手?爪は?高い所から落ちても平気なの?ねぇねぇ」
シンディはエミリオの時の様に猫人族へ質問を乱射する。ピンク色の毛を揺らし、やれやれ。と言う様なアクションする猫人族の ゆりぽよ を見てシンディはクチをユルく開け笑う。
「私はシンディ、あなたは?」
「ゆりぽよ。キティって呼んでニャ.......チッ」
ゆりぽよは自己紹介を返し眼線を少し下げ、揺れるシンディを見て舌打ちする。
以前は桃色の和服だった防具は茶色のエプロンドレスへと変わり、今は弓ではなく太刀を装備している猫人族のゆりぽよ。
「猫耳尻尾、猫語のエプロンドレス!そんなウェイトレスがいる店なら私週8で言っちゃうよぉ~!」
テンション高めにシンディは言い、ローブの袖へ手を入れ指揮棒の様に短い杖を取り出す。
「猫人族と戦うのは初めてなんだけどー...よろしくね!」
「私もおっぱいお化けをブッた斬った事ないニャ...よろしくニャ」
◆
みんなが助けに来たくれたのか、ただわたしを理由に日頃からトラブルの対象だった騎士と戦闘したいのか、冒険者がドメイライト騎士団本部に来たのは間違いない。
冒険者と騎士...ウンディーとノムー。これは手を繋ぐ事のできない者達が喧嘩をするレベルではなく、国と国が喧嘩...戦争するレベルの話だ。
その原因がわたし...ビンをぶっ壊して外に出てキューレを探しサイズを戻してもらい冒険者と騎士を止めるか?いや、そんな事してももう止まらない。それに今わたしは魔女として簡単に感知されてしまう。キューレに会う前に騎士に見つかって終わりだろう。
ここで誰かが助けに来てくれるのを待つ?その後どうする?それに...わたしはワタポに色々と言ってしまった。言った事は後悔していない。しかしあれだけズカズカ言って今さら会わせる顔は持ち合わせていない。
もしワタポが助けに来てくれたとしても、わたしは素直にそれを受け入れるのだろうか?
それもわからない。
「エミリオ」
突然、わたしに声が届けられビンの中で恥ずかしいくらいビクッとしてしまった。
気配もなく、ドアが開く音も聞こえなかったハズだが、声の主はこの散らかった狭い研究部屋にいた。
黒髪に赤眼の女...コイツはデザリアの地下でわたしをまぢで殺そうとしたクソ悪魔のナナミ。
「なんでお前がここにいるんだよ...こわ」
恐ろしい程のハイディングスキル。レッドキャップのメンバーはハイディング熟練度が妙に高く半端なリビール力ではとても看破できない。
「外の状況教えてあげようと思ってね」
悪魔はイスに座りフォンを操作しマップを立体化させる。
フォンのマップにはソリッドと呼ばれる機能が付いているのは知っていたが使った事は1度もない。どうやらマップデータを立体的に表示する機能らしいが、その出来はマップを立体化させ現実で起こっている事をそのまま覗ける魔術とは比べ物にならない程レベルが低い。しかし魔術と違い、隅々までマッピングされていなくても立体化出来るのがソリッド機能の利点か。
立体的に表示されるマップをビンの中から見て、悪魔の表情も横眼で確認しようとした瞬間、ドアが斬り開けられる。
今度はなんだよ!と思いつつ驚きで跳ね上がった心を落ち着かせようと深呼吸を1度して、ドアの方を見ると赤黒の大鎌を持つ鉄鎧系ではなく布革系装備の女騎士が鋭い視線をわたし、ではなく、悪魔に突き刺す。
「やっと見つけましたわ。ナナミお姉様」
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