◆95




イフリー大陸の夕方はどの大陸よりも真っ赤に、空が燃えているかの様に染まる。

イフリーに住んでいない者はこの空の美しさに心奪われ言葉を失う。闘技大会 参加または観戦の為デザリア入りした者は今まさに空を見上げ、その美しさに見惚れる。

ある宿屋の一室にいるメンバーを除いて。


青色の宿[アストール]の一室。チームエミリオの部屋に窓から空を見上げる者はいない。

テーブルに置かれたビンの中では、リピナ率いるギルド白金の橋のメンバー が 魔女の魔力溢れるエミリオの治療をしている。



地下での一件後、リピナに会う為、キューレとるーは闘技大会 会場にある医務室へ向かった。

リピナのギルドは癒...治癒に特化したギルドで、その活動とスキルが認められ今回の大会では参加者の傷を癒す役割を任された。

このリピナという女性は見た目は正直、癒ではない。

髪も巻き盛りでデコレーションが施された爪に、キラキラのフォン。初見では治癒術師どころか冒険者にも見えない。

しかしそれは見た目だ。

中身は見た目以上に凄い。


攻撃系魔術を捨て、治癒、支援、全てではないが再生術も使える癒。そして医者だ。

治癒術の知識だけではなく医学、医療の知識も持つ存在。

冒険者として、治癒術師として活動でき、医者として病院で働く事も可能と言う事だ。

本人は病院だと頭髪や服装などが絞り縛られ嫌だとか...。


その治癒と医療に特化したリピナがいる所へキューレとるーが到着した時、音楽家ユカがベッドで眠っていた。

何があったのか聞きたそうにするキューレよりも先に、るーが話をした。ざっくりをさらに、ざっくり割り話をした。

するとリピナは「詳しい話は終わったら聞く」と言い、慣れた手つきでフォンを操作しギルメンを1分程で数名集めた。両手に色々と持った白金の橋メンバーをリピナの指示でキューレが小型化させビンの中へ、ビンの中に居たフェアリーパンプキンのメンバーは外へ。

この瞬間にも微量の、魔女の魔力が溢れる。

るーは医務室に残り怪我の治療をリピナがする。

キューレ達は宿屋でリピナを待つ事になり、今アストールの宿屋にはキューレ、ワタポ、ひぃたろ、プンプン、クゥとビンの中にエミリオと数名の白金の橋メンバーが居る。


宿屋にいるメンバーは何があったのかさえ、詳しく知らない。

しかし今この、情報がほぼ無い状態でも解る事は1つ。

間違いなくレッドキャップが絡んでいるという事だ。


キュッと眉を寄せ黙るプンプン。彼女が一番レッドキャップの危険度と限度の無さを知っている。


「キューレさん」


沈んだ部屋に響くプンプンの声はキューレだけではなく、全員の眼を集めた。


「エミちゃんにはボク達がついてるから、キューレさんは街で情報を集めて来てくれないかな?地下で何があったのかはるーさんに聞けばいいから」


「今の現状じゃな?闘技大会、街、魔女...了解じゃ。何かあったらすぐ連絡しとくれ」


キューレは茶色のフードローブを装備解除し黒いフードローブを装備、「窓閉めといとくれ」と言い、窓から飛び降り夕焼け色の空に沈む街へ走って行った。




空の色が、遠くの世界が青黒く染まり始める頃、無言が続いていた室内にノックと声が響く。


「ウチじゃ。みんなも居るのじゃ」


年寄り染みた口調の女性。

数時間前に窓から飛び降りるアクションを見せた情報屋のキューレが戻った様で、みんなもいる。と言った。

ドアの近くにいたワタポが鍵を開けると、ドアが開かれ室内へ流れる様にキューレ、るー、リピナ、チーム芸術家が入る。


「キューレ、早速お願い」


リピナは派手な見た目に合わない真面目な表情で言うと、キューレはリピナをタッチし、ビンに入れる大きさまで小さくする。

ビンのコルクを抜き、リピナを中へ入れ素早くコルクで蓋をする。この一瞬でも限りなくゼロに近い量だが、魔女の魔力は溢れる。



「....。ウチが集めた情報やら聞きたい事やらはこのバカが起きてからにせんか?」


全員の表情を見てキューレはそう言った。

ここにいる全員が色々と聞きたい事や知りたい事がある。魔女について以外もだが、エミリオが起きてから話す方が確かにいい。


「....うむ。1つだけ言っとくのじゃ、闘技大会はのぉ...お偉いさん達が今会議しとるからストップ状態じゃ。時間ならまぁ...多めにあるって事じゃの」


キューレの言った会議は闘技大会を続行するかどうかの会議。1日目の盛り上がりは充分すぎる結果だったが、その影でレッドキャップが動いていたのは事実だ。大会主催者はレッドキャップが動いていた事実を知らない。となると議題は街で暴れた者の存在と出場者が殺害された件と、魔女の件。


重い空気が室内を圧し潰そうとした時、テーブルのビンがコツコツと音をたてる。

中からビンを叩くリピナがキューレを見て何かを言っているが全く聞こえない。ビンを叩くリピナの手が止まると、キューレのフォンが鳴る。


「リピナからじゃ。毎度さん、なんじゃ?」


『治療も治癒も終わったわ、これ誰にお金請求すればいいわけ?これでタダ働きなんて有り得ないし』


「そのビンコで寝とるバカに後で請求せぃ」


キューレは通話を終了させ、るーへ「よろしくのぉ」と言った。右眼、上半身はほぼ包帯に包まれた大怪我猫は頷きビンへ近付く。

キューレが自分の身体をタッチし小さくなり、るーがビンを開けキューレを中へ。

素早くコルクを挿し封印。

中でキューレは自分のサイズをビンより少しだけ小さいサイズに調整し、エミリオ以外を手に乗せる。

それを確認したるーはコルクを抜き、中へヒモを入れるとキューレが掴む。

釣りする様にビンからキューレを出す事に成功すると、またまた素早くコルクを挿す。


「どうやって出るんだろって思ってたよ」


プンプンが小さく笑って呟くとキューレもリピナも元々のサイズに。

リピナは1度背伸びして、るーを見て言う。


「そこのミイラ男、アンタの右眼は完全に死んでる。でも魔女の両眼は戻せた。魔女の傷はアンタ程酷くなかったし2時間くらいで起きるかな」


そう言いリピナは勝手にベッドルームへ進み、ベッドにダイブ。ギルドメンバーは礼儀正しく挨拶し、宿屋を後にした。



沈黙のまま空が青黒く染まり、夜。ビンの中で魔女はゆっくり身体を起こす。









薬品の匂いと眼の痛みでわたしは目覚めた。

身体中が痛むも、眼の痛みは群を抜いて強い。そして暗い。


「痛ッ....。なんだコレ」


わたしの眼を隠す様に巻かれた布に手を触れさせて、やっと思い出す。

わたしエミリオは謎の地下でレッドキャップと戦闘し、負けた。


魔女の魂、魔女の瞳。この2つを狙ってレッドキャップはわたしを襲い、わたしは負けた。しかし生きてる。

痛みに堪え布の上から瞼を押すと、そこには眼球がある。

魂も瞳も奪われていない。


「..しっかし...ここどこだ?」


キョロキョロと辺りを見渡しても、布が邪魔して何も見えない。この邪魔な布を外して状況確認を。と手を伸ばした時、わたしのポケットにあるフォンが鳴った。

音が響く...どこかの空間にいるのか?

地下...にしては埃っぽさはない。


見えない中で自分の感覚を頼りにフォンの通話機能へ応対する。


「あっぽっぽい!」


『あ、エミちゃ大丈夫そうだよ』


わたしの応答に対しワタポらしき声がフォンと、外?から聞こえる。


「ワタポ?ちょい見えないんだけどさ」


『うん、今から状況を簡単に説明するから通話切らないでね』


ゴトッ...とフォンを置いた様な音が聞こえ、ワタポが説明してくれた。


なんでも今わたしはホムンクルス状態らしく、ビンの中にいる。魔女の魔力がムンムンしていてビンから出るとまぁ大変面倒な事になるからホムンクルスモード。

眼の布についてはビンの中に入ってきたリピナから説明された。

激しい死闘の中、わたしは両眼を奪われてしまい、その眼を乱入したるーが取り返してくれた。

そして治癒術、再生術、医術を駆使してリピナがわたしに両眼を戻してくれたらしい。

今まさに仕上げの治癒術と再生術を使い、この邪魔な包帯から解放される。


「いいよ。まだ痛むと思うけど眼開けてみて」


「おっけ...おわぁーいってぇー」


半眼状態でわたしは必死に痛みあります!と伝えるもリピナは笑う。


「なにその顔芸、そりゃ笑うわ」


顔芸なんてしてるつもりはない。本当に痛くて眩しくて、少しずつ瞼を開くミリ作業をしているというのに、この女は爆笑しすぎだ。


「眼開いたら治癒術と再生術するから、閉じないでね」


所々を笑い色に染め言うリピナ。完全に開いた瞼を強靭な眼のその、筋肉的な感じので固定し、リピナの治療を待つ。

再生術で眼球の奥の神経を繋ぎ、治癒術でその神経や眼球、眼元を癒す。

そして最後にわたしの全身を対象としたヒールとリジェネをかけてくれた。


「よし。これ飲んで」


そう言い渡されたのは結構高い、全状態異常に対して耐性を上昇させるポーション。


「まぢかよ」


「うん、一気一気!」


これは有能ポーションの1つで値段も中々...そしてクッソ不味い。


「アァァ...まっず」


「痛み以外に違和感があったらすぐ言ってね。それと治療費30万vよろしく」


「うぇい...30万!?たっか!」


「これでも緊急事態&知り合いって事で半額にしたのよ。よろしく」


急ぎフォンを操作し所持金の確認をした所...奇跡的に32万v持っていた。

が、ここで30万支払えば残金2万。

30万を貯めるにはB+以上の素材を大量に売りまくって、自分には必要ない有能装備を売って、B+以上のボス討伐系クエストをいくつかして、やっと貯まる。

それか魔結晶をドロップして売るか...しかし半端な性能の魔結晶では10万くらいか...くっそ。あの悪魔女のせいで大金を失った。


「お大事に~、私はビンから出るけどアンタはダメよ。魔女の魔力どうにかならないの?」


「んぁ~、これについては後で話すよ」


リピナは30万v受け取り外のキューレへサインを出す。するとコルクが抜けビンの中にロープが降りてくる。それを掴み、リピナはビンから脱出した。


「ビンから出る時、格好いいな...ってお前誰だよ!」


わたしはリピナを見送り、ちらっとロープを操作していた人物を見て驚いた。

灰色の長髪、黒い角、薄黒い肌を持つ包帯まみれの誰かがいた。


その誰かは素早くコルクでわたしをビンの中に封印する。

ビンの中で騒ぐわたしの声は通話機能中のフォンを通して外へ聞こえる。


『今から色々と話もするし話も聞くから黙っとれ。まずは今の状況から話すのじゃ。何があったか...それはウチも気になるがのぉ、もう起こって、一旦終わった事じゃし、今現在何がどうなっとるのか...これの方が大事じゃろ。対応や対策も考えれるしのぉ』


後半は呟く様に言ってテーブルにあったアメ玉をクチへ数粒入れ、現状を話した。


闘技大会は主催者のお偉いさん達が続けるべきか会議している。

なぜそんな会議が入ったか。それは街で暴れた謎の少年や溢れだした魔女の魔力、参加者が殺害された事から、このまま闘技大会を続けるのは危険ではないか?と声が上がった為。

参加者は未だに魔女を探して探索する者もいる。

ドメイライト騎士とデザリア軍は街中と外を徘徊している。


これが数時間でキューレが集めてきた情報。


そして次はワタポ達が話した。


ドメイライトの騎士がデザリア入りした理由はワタポ...元騎士隊長ヒロの討伐任務でこの国にきた。入ってきた隊がワタポの知り合いで、その場は上手く話はついた。

直後レッドキャップの少年...リョウちんが現れ街で暴れた。破裂した閃光玉の光を見てキューレ達がユカ達と別れワタポ達を助ける為乱入した。



次は音楽家ユカが短く言った。


みんなと別れた後、会場目指してラミーと歩いていた時、突然ピンク色の長髪を持つ双子?の少女が襲ってきた。そしてラミーは殺された。



ワタポと音楽家の話を聞いて、キューレが集めてきた情報にあった、街で暴れた少年と参加者の死が繋がる。そのどちらも恐らくレッドキャップだろう。

ピンクの髪を持つ双子の少女...この言葉を聞いた瞬間、プーは腕を強く握り、眼を閉じ顔を下げた。

ハロルドはそれを見て複雑な表情を浮かべる。

ラミーを殺したのはモモカだろう。

プーの妹であり、リリスの人形であり、死体のモモカ。


黙る室内の空気を鋭く斬る様に音楽家が呟いた。


『あの双子、よく解らない能力を持ってた。ラミーを助けられなかった...あの双子は許さない』


今まで聞いた事ない程鋭く重い声。

許さない。音楽家が言ったこの言葉の意味は...わたしにはこう聞こえた。


ラミーを殺したモモカを殺す。


『...ごめん』


顔を伏せる様にし、震える肩と湿る声でプーが溢した微かな声。


モモカはプーの妹。

量産された人形でも、ベースとなるデータはモモカ。

生きていても死んでいても、どっちでもなくても、モモカはプーの妹。

最初は違ったかも知れない。でも襲撃事件で再会して、プーはモモカを終わらせる為にリリスを追う事を決めた。

生きてるとも言えない、死んでいるとも言えない、今を終わらせる為に。


『そのレッドキャップって言う連絡...全員逮捕できにゃいにょか?』


「にゃ...え、ミイラ男って、るーなの!?」


この口調は間違いなく猫人族のもの。ここに居てもおかしくない猫人族はるー。

見た目の全てが、わたしの知る猫人族のるーとは違うが...。


『フロー今更かよ、るーだニャ』


「なにその姿!?猫卒業してミイラ男なったの!?いや、鬼か?」


全員がるーを見た事から、なぜ姿が変わっているのかはまだ話していない様子。頭を数回掻き、耳があった部分にある角を触り、るーが説明した。


るーはプーと似たタイプのエンハンス系ディアを持っているらしく、姿が変わり、ステータスが上昇する。

このディアを数年前から使用した結果、ステータス上昇は大きく成長し、姿の変化もこの通り。

そして今、元の姿に戻れなくなってしまった。


ディアは使えば使う程 成長し、使えば使う程 ディアに呑まれる。

今日姿が戻らなくなった...と言う事はるーのディアはまだ成長する。姿が戻らなくなった事はリスクの内に入らない。本当のリスクが出てくるのはまだ先だろう。


元の姿に二度と戻らない事。

まだディアは成長する...完成形ではない事。

などをわたしはるーに伝えた。


「少しでも変化...見た目じゃなくて、別の何か変化や違和感を感じたらすぐ教えて。みんなもね」


『わかったニャ。それにぃしても、フロー詳しいニャ』


「うん!魔女だからね」


もう隠す必要...と言うか隠せてない。ハッキリ自分は魔女です。と言ってみると全員が頷く。

るー、音楽家、大空先輩、リピナは わたしが魔女だという事を知らないハズだったが、この魔力を感じれば、それこそ今更...となる。


人間よりも、悪魔よりも、どの種族よりもディアに詳しいのが魔女。

そしてわたしは魔術を貪っていた幼少期に自然とディアについても調べる様になった結果、その辺りにいる魔女より有能で、有害になった。


『一通り解ったわ。レッドキャップが動いてた事もみんなに何があったかも。次はエミリオが話す番よ。まず地下で何があったのか』


ハロルドがうまくまとめる様に言い、話の流れを変えた。

わたしはその流れに乗り、話を始める。


「ワタポ達の試合が終わってすぐ、一番におめでとうダイブをしたくて走った。んで地雷術式踏んで、空間魔法で地下に飛ばされて、地下でレッドキャップの...何人かに会った」


サラサラと話してみると素早くキューレが食い付いた。


『何人じゃ!?』


「5...6人かな?」


濃いメンバーだったし、ヤバイ奴等だったし、ハッキリ覚えていた。モモカもメンバーに入るのか解らない為5、6人と答えた。するとリピナが何かを取り出し読み上げる。


『パドロック、リリス、モモカ、スウィル、ベル、フィリグリー。みんなが会ったレッドキャップメンバーの名前はここにある?』


「フィリグリー?以外は地下で会った。それとそこに名前がないナナミってのも」


答えると、音楽家はモモカの名を、ワタポはリョウちんの名を言った。


『リピナ、それなんじゃ?』


『これ、そこの鬼さんが持ってたベルトポーチの中に入ってた紙切れ。あとはポーション類と魔女の瞳だけだった。返すわ』


リピナはそう言って紙切れとポーチをテーブルの上に置く。

るーはそのポーチの持ち主が誰なのかを言って、わたしは驚いた。

わたしの眼を取り返す為に、自分の右眼を捨ててナナミからポーチを奪ったのか?


『魔女の瞳って高く売れるらしいニャ。相手も奪ったモノっていってたかりゃ、俺も奪って売る気だったニャ。それがフローの眼だったとは知らにゃかったニャ...右眼潰して全トッピングピザを食べる夢も潰れて最悪ニャ。食べたい物を諦めて眼を返してやった事にぃ感謝しろにゃフロー』


わざとらしく溜め息を吐き出す鬼猫。魔女の瞳を売ってそのお金で全トッピングピザを食べるつもりだったらしいが...何千、何億枚食べる気だったんだ?


魔女の瞳は片方だけで数億する。自分でいうのもアレだが、わたしの眼なら片方だけで他の魔女の両眼を越える価格がつくハズだ。

これを言えばピザ奢れ!なんて言われそうなので秘密にしておくが。



『その8人が...レッドキャップのメンバー?』


魔女の瞳とピザトークで話が脱線し盛り上がっていた所で、意外にもプーが話を戻した。


『そうじゃろな...このポーチの持ち主じゃったナナミは名前を覚えるのにメモしとったんじゃろ。リョウとやらの名前がない事から、最近リョウがレッドキャップ入りしたんじゃろ。新人の名前を覚えるのは楽じゃが、新人が自分の場合は名前を覚えるのは大変じゃしのぉ』


確かに新人の名前を覚えるのは楽だ。数人だろうし。

ただ自分が新人として加入した場合はメンバー全員の名前を覚える必要があるし、大変だ。メモってたとか...あの悪魔、絶対友達ほしいだろ。


『そのナナミって人が結構強いって事ね?』


るーを見て、わたしを見て、ハロルドが言った。


『強かったニャ...多分本気じゃにゃかったかもニャー、雰囲気変わった所でみんにゃの足音や気配を感じて逃げたニャ』


「るーでも勝てないとか、わたしじゃ瞬殺されるわな!」


笑い言ってみたものの、空気は変わらない。重い空気の中で黙っていたワタポが真面目な視線をわたしに送り、言った。


『エミちゃ....大丈夫なの?』


「痛いけど、大丈夫だよ」


わたしはそう答えると素早く言葉が飛んでくる。


『傷もだけど、それ以上に今エミちゃはその...大丈夫なの?魔女の魔力とか...』


「あー、これ大丈夫だよ。このレベルと、もう少しならちゃんと扱えるし!よゆーよゆー!」


『よゆーよゆーって...いつもそう言ってるけど、余裕無かったから魔女の力使ったんでしょ!?結果オーライみたいな言い方してるけど、エミちゃから見たら微量でもワタシ達から見れば疑う必要がない程 完璧な魔女の魔力なんだよ?るーさんだって笑ってああ言ったけど怪我してるし、みんながどれだけ不安になったか、ワタシ達がどれだけ心配したか少しは考えた事あるの!?』


突然ワタポが爆発する様に言った。


「なになに...突然」


『突然じゃないよ!いつもいつも、いつもいつもいつもいつも、そうやってるけど、少しは他人の気持ちとか考えた事あるの!?心配かけたかな。とか、悪い事したな。とか、考えた事ないでしょ!?』


「何なの突然ガーガーガーガーさ!カラスかよ。それにわたしが何も考えてないみたいな言い方!悪い事したな とかさ、わたし何も悪い事してないじゃん!?心配かけたなぁとか、今まで1人だったしそんなの突然思うワケないじゃん!心配かけたくて行動したワケじゃないし、魔女の魔力を使った事が気に入らないの!?何なの!?」



ワタポの言葉にわたしは反論した。キューレやビビ様が止めに入るも、その声を消す様にワタポが再びクチを開く。



『るーさんを巻き込んだのはエミちゃでしょ!?勘で走ったら居たってるーさん言ってたけど、エミちゃズル賢いから何か伝えれる様な事したんじゃないの!?巻き込んで怪我させて、それでも自分は悪い事してないって思ってるの!?それにワタシは心配したんだよ!魔女の魔力使うって事は命に関わるくらい大変な状況なんじゃないかって、心配したんだよ!』


「確かにるーってか猫人族なら誰か気付いてくれると思ってマタタビ爆弾使ったのはわたしだし、そう言われれば悪い事したって思う。けど、何でそんな怒ってんの!?ズル賢いとか喧嘩売ってくるしさ、それとわたしは、心配してなんて1回も頼んだ事ないし!勝手に心配したのワタポじゃん!そんなん知らねーよ!」


『やっぱエミちゃは魔女だよ!魔女だからそんな考えしかないんだよ!みんなに心配かけて、みんなを不安にさせて、みんなを巻き込んで!』


「なにその言い方!こっちだって必死だったし、るーを巻き込んだのはわたしだけど、他に誰を巻き込んだ!?誰をどう不安にさせたよ!?」


『街にいるみんなを不安にさせた!魔女がいるって知ったら魔女以外は不安になるの当たり前じゃん!それに闘技大会も今止まってる!それはエミちゃだけのせいじゃないけど、エミちゃのせいでもあるし、ワタシ達も少しだけど治癒術したし、リピナさんに治療してもらったんだし、巻き込んでるでしょ!自分1人で今生きてると思ってるの!?』


「街の人が不安になってるとか、そんなの知らねーよ!じゃあ魔女の魔力を使わないで黙って殺されればよかったの!?ふざけんな!闘技大会が止まってるとか、そんなのわたし関係ない!レッドキャップが動いてなかったらこうならなかったしょ!わたしが今生きてるのは魔女の力とズル賢さで死なずに済んだ、治療してもらった事は感謝してるけどわたしが生き延びる様に行動してなかったら、治療も無かったって事だし、わたしの力じゃん!」


『エミちゃが言ってるのは結果論でしょ!レッドキャップが動いた結果、自分が行動した結果って、そう言う事を言ってるんじゃない!少しは自分以外の人の事も考えてって言ってるの!』


「んならそう言えよ、それだけ言えよ!それにわたしは人間じゃなくて魔女だから人間みたいに、他人の事を考えるなんて事しねーよ!」


『本気で言ってるの?他人って...』


「他人じゃん!家族でもないし、他人以外なんて言うの?家族だったとしても他人だしょ!相手の気持ちなんて1回1回考えないし!」


『やっぱりエミちゃは魔女だよ!少しは違うのかなって思ったけど、酷い魔女と何も変わらないよ!』


「魔女だよ!だから何だよ!?酷い魔女ってワタポ魔女に会った事ないでしょ!?噂話だけで勝手に想像したり嫌ったり、まぢ人間のそーゆー所ウザいんだけど!仲良しの人が誰かを嫌いになったら自分も嫌いに~ 的なの人間得意だもんね!ワタポも得意そうだなそーゆーの!それこそ巻き込むなって話だわ。勝手に想像して勝手にしてろ。うぜぇ」


『エミちゃのそれも噂話を想像しただけでしょ!確かにそういう人間もいるけど...みんながみんなそうじゃない!少なくともワタシは簡単に人を嫌ったり、家族や友人を他人だって割りきったりできないよ!』


「ワタポがどーとか知らねーし聞いてねーよ。家族も他人だって割りきらなきゃやってけない事もあるんだよ!人間には理解できないかもだけど」



ここまで言ってわたしは両手を広げてわざとらしく頭を揺らした。


それを見たワタポが何か言おうとしたが、ワタポよりも先に声を出し、この言い合いを止めに入る人物。



『もうやめなって2人とも!人間とか魔女とか、種族の話してないじゃん!』



人間でも魔女でもない、魅狐のプンプンがわたしとワタポの言い合いをやめさせる為に入る。しかしここまで言い合って、はいやめます。とはいかない。引くに引けないってやつなのか、わたしはプーに言った。



「プーだって今の話わかるんじゃねーの?家族も他人って割りきってるからモモカと戦えたんでしょ?もう死んだって割りきってるからじゃないの?ワタポもそうじゃん。リョウちんと戦ったんだし、気付いてないだけで割りきってんじゃん。他人だって思ってるからやれるんしょ?」



話が脱線している事にも気付かず、わたしはそう言ってしまった。

ワタポの表情が一瞬鋭く変化したがすぐに驚きに似た色を見せ、わたしの世界は大きく揺れる。


わたしはビンの中からフォンを繋ぎ、みんなと会話していた。今わたしはビンの中にいる。

そのビンをハロルドが掴み揺らし、ソファーに投げ捨てる。


「痛っ...なんだよ!」


ハロルドは何も言わずわたしを見て、テーブルの上にあったワタポのフォンを操作し通話機能を終わらせた。



その直後ワタポはわたしを見てこれまた何も言わず、部屋を出た。


音楽家とリピナはワタポを追いかける様に部屋を出る。


るーがキューレに目線を送り、何とも言えない表情を浮かべたキューレも外へ。


プーも立ち上がったが、妙な表情を浮かべ座る。ハロルドがプーに何か言い、小さく笑って、ハロルドも部屋を出ていった。





もうワケわかんない。



なぜワタポが怒ったのか。





いくら考えてもわたしには わからなかった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る