◆55




世界樹がその命を終わらせた事により今この世界にあるマナが急激に増加した。

剣術、魔術、体術、他にもフォンを使う時や日常生活に必要不可欠なモノが マナ。

本来植物達は呼吸時にもマナを吐き出す。勿論ロスト...死んだ時にもだ。植物の他にはモンスター、人間達、勿論 魔女や他族も命を終わらせた時に体内からマナを排出する。

1生命が生きる事を止めた時に排出するマナ量にバラつきはあるが 薔薇一輪で小型モンスター1体分くらいはある。

なので この世界に漂うマナは100年経とうが1000年経とうが 使いきる等 不可能に近い。今さら増えようが問題はないのだが、世界樹が死に際に排出したマナの 質 が問題なんだ。


普段わたし達が使っているマナの他に リソースマナ も大量に排出したハズだ。

リソースマナ...これはモンスターが再召喚する時に使うマナ。

モンスターは繁殖期に子供を作り種族を増やす他にリソースマナが自身のリソースマナと合わさり集まり再召喚 リポップする誕生方法もある。


1 親から産まれる。


2 死んだ時に排出した自身のリソースマナが空気中のリソースマナを集め混ぜ合わせリポップする。



ドラゴン等は200~300年かけリポップするがリポップ時は子供。しかし他のモンスターの大半はリポップ時点で同種の平均レベルで産まれる為、非常に面倒だ。


リソースマナが大量に増えたと言う事は倒せば倒す程モンスターがリポップし、リポップまでの時間が大幅に短縮されたと言う事になる。

それだけでも面倒だがリソースマナを体内に取り込み自身を強化するモンスターも希に存在する。

自身を強化したモンスターがボスモンスターになる。





世界樹が死んで3日経った今日、ボスモンスターが早速暴れていると情報屋のキューレからメッセージを受信した。







3日前わたし達はシケットを覆う靄を消す事に成功した。しかしその直後現れた 宝珠泥棒...レッドキャップにより世界樹は命を落とし宝珠を奪われ、猫人族達も数人命を奪われた。


わたしが被害を受けた種族ならばすぐにレッドキャップを追い奪われた命の怒りをぶつけるだろう。

しかし猫人族達はそれをしなかった。

悲しみや怒りが無い訳ではないが、今はレッドキャップを追うよりも生きている命、無事な命を大切にする事を迷わず選んだ。

死んでしまった仲間を見捨てた訳でもない。聞いた所、命を落とした猫人族は全て騎士猫。つまり仲間を守る仕事をしていた猫人族だ。

勇敢に戦い、命に変えても仲間を守った。

人間の騎士とは大違いだ。

最後の最後まで騎士道を貫き通した猫人族達には立派な墓と数えきれない程の花束を感謝の言葉と共に捧げた。



その後 わたし達は王に呼ばれクエスト報酬の話をされるも、受けとる気になった者は誰1人いない。

わたしは自らの意思でクエストを破棄し [太陽の産声] は失敗に終わる。

それから街の復興の手伝い等を全員でやり2日で何とか生活出来るまでに回復。

靄を消してから3日後の今日キューレから送られて来たメッセージに眼を通すも返事はせず シケットの空を、太陽をただ見つめていた。



「帰らにゃいのかフロー」


「ん?あぁ、るー。おはよ」



宿屋の屋上から太陽を見ていたわたしを発見し、ケットシーの るーが わざわざ声をかけてくれた。

出会った時は何処かくすんだ黒髪も今は艶のある黒髪に。

ゆりぽよ の髪も紫が消えピンク色になっている。

太陽の光を長期間浴びていなかった猫人族は毛の色が変色する個体も存在するらしい。

ゆりぽよのピンクメッシュは残っていた本来の色だったという事か。


「まだ気にしてるにょか?」


これも新たな発見。

ケットシーは絶対に語尾にニャをつける訳ではない。

高確率で語尾ニャを炸裂させるが 今みたいに喋る事も普通にある。


「フロー達がいたから被害も最小限に抑えられたニャ。太陽も戻ったし俺達は感謝してるニャ」


「...そう言ってくれると少し楽になる。にゃ」



足りなかった。

実力も覚悟も何もかも足りなかったんだ。

レッドキャップの存在は知っていた。でも心の何処かで わたしには関係ない と思っていた。

情報をもっと集めて知って、力をつけていればこんな事にならなかったのでは?

自分の無能さに苛立つわたしを見てか、るー は話を帰る様に 思い出したフリをして言った。



「にゃ、そうそう、王猫様が呼んでたニャ。他のみんにゃにぃは別のケットシーが伝えてるニャ」


「デブ猫が?何で?」


「さぁにゃ、行ってみればわかる事ニャ。俺は街の修理へ行くニャ、またにゃフロー」


「ん、また」



また...か。猫人族は誰1人としてわたし達を怨んでいない。子供達は太陽の下で笑顔を咲かせわたしに手を振る。


「...猫は強いな」


無意識に言葉を溢し、沈んだ気持ちも一緒に吐き出した。

大人のわたしが いつまでもウジウジしてられない。


「おーい!エミちゃ!お城行くよー!」


ワタポ達だ。

...みんなも同じ気持ちなのか昨日までの沈んだ表情はない。


「うん!今いく!」


夜がくれば朝がくる。

わたしの心の夜も色々な人の太陽でゆっくり静かに明けていく。


「お待たせ、行こうぜ城」


背中を押す様に太陽が光を強める中、わたし達4人と1匹は城へ向かった。

途中ゆりぽよと会い、昼食を一緒にとる事を約束しデブ猫が待つ城の奥へ進んだ。


「よく来てくれたニャ」


何度見ても...デカイただの猫だ。猫人族はデブると猫になるのか?人間型の面影が全くないが...まぁそれはいい。


「冒険者達はいつ国へ帰るニャ?」


この言葉でわたし達は忘れていた事を思い出した。このシケットがある場所はウンディー大陸ではない。帰るにはそれなりの時間がかかる。

街も本来の姿を取り戻し始めたし今日辺りには帰ろう。


「今日帰るよ」


言うと他のメンバーも小さく頷く。


「うむ、にゃらばコレを持って行ってくれニャ」


デブ猫が言うと騎士猫が何かを持ってわたしの前へ。

大きくて濃い緑の...葉っぱか?


「世界樹の天辺の葉ニャ。これは我々猫人族の感謝で冒険者達に送るモノニャ。受け取ってほしいニャ」


少々迷ったが、感謝の気持ちと言われれば断るは失礼だろう。わたし達は騎士から世界樹の葉を受け取った。コレが本当に 世界樹の葉 という固有名だったから驚いた。

全員がその葉をフォンポーチへ収納するとデブ猫は騎士達を退室させた。


「...世界樹の宝珠」


ポツリと呟かれた言葉にわたし達の表情は一瞬曇るもデブ猫は言葉を繋げた。


「本当の名前は...黄金魔結晶 というニャ」


この言葉に瞳が一気に開かれた。黄金の魔結晶。

名前がダサすぎてハッキリ覚えている。人工的に作られた魔結晶の中でも...いや、この世に存在する魔結晶の中で一番ヤバイ結晶。それが黄金の魔結晶だ。

本気出せば世界をブッ壊せるとかブッ壊せないとか。

他のメンバーもその存在を知っているらしく表情を一気に曇らせる。

世界樹の宝珠がその魔結晶だったとは予想もしていなかっ.....、


「じゃあ金玉は今アイツ等が持ってるって事!?」


「そうニャ。どこの誰か知らにゃいが危険な連中に持って行かれたという事ニャ」



よりによって黄金の魔結晶をレッドキャップに奪われるなんて...。でもその魔結晶をどう使えばどうなるんだ?


「その魔結晶にはどんな力が?」


ハロルドがさらりと質問するとデブ猫もすぐ答える。


「守り壊す力 ニャ。世界樹の中にあった魔結晶は世界樹の根を通してこの世界に塔が出現しない様にしていたニャ」


守り壊す力ってどっちだよ。塔って何だ?

解らない事だらけだがデブ猫の話は続く。


「魔結晶単体では本来の力を発揮しないニャ。世界樹の様に大きな力を持つものと合わさって 守る力が発揮されるニャ。しかしその世界樹は死に魔結晶も奪われた今、世界中の何処かに塔が出現するのは間違いないニャ」


なるほど、世界樹クラスの化け物と合わさって魔結晶は守る力とやらを発動していたのね。

で、世界樹と魔結晶が離れた今 封印的なモノが解放されてしまった と。


「その塔に封印されている魔結晶を全て集め、最後に出現する塔の最上階にある巨大なクリスタルに結晶を全てはめ込めば世界を自由に出来るニャ」



話のスケールが凄すぎて理解出来ない。

まず塔って何だ?その塔とやらにも人工魔結晶があると?

それを全部集めて最後の塔にあるクリスタル?にはめ込めば世界を自由に?

どこの世界の話だよそれ。



「自由...ってどのレベルなの?例えばボクがそれをやって、世界をボクのモノに!とか、死なない身体に!とか、そーゆーのも?」


「そうだニャ...願いが叶う。と言えば早いニャ。神になって世界を作り変えたり、不死身になる事もできるニャ...あ」


「あ?」


「塔結晶の他に3つ必要なモノがあったはずニャ...爪と魂と心臓?...忘れたニャ」



....。

結構大事な所じゃないか?それ。爪って...なんの?魂と心臓に至っては意味さえ解らない。魂とか見えないし、心臓とか気持ち悪。

しかもなんの心臓だよ。



「全てを集めると願いが叶うんですね?その願いは1つ?」


おいおいワタポ、そりゃ願いが叶うなんてチート使えるの1回だけだろ。1回も許せないけど。


「1つだけニャ。でも願いを叶えた後に魔結晶はまた何処かで眠るニャ。集めれば何度でも願いは叶うニャ」


おいおいおいおい、それ知ってるぞ。

7つ?の玉集めたら願い叶うってゆーアレじゃん?願い叶えた後はどっかに飛んでって、それまた集めれば...人工魔結晶って球体だし塔の結晶も人工魔結晶、球体だろ?

これ完全アウトなヤツじゃんか。

わたしの気持ちを置き去りに話はグングン進む。



「その塔って何時、どこに現れるとか わかります?」


「誰にもわからにゃいニャ」


「その塔ってボク達も出入り自由だよね?」


「そうニャ」


「どうしてあなたは そんなに詳しく知っているの?」


「元人間ニャ。人工魔結晶を最初に作り出したメンバーの1人がワシニャ。魔結晶の影響でワシだけ長く生きられて猫の姿になってたニャ。でももうすぐ死ぬニャ」



驚いた なんてレベルではない。確かに猫人族と言うより猫族...巨大猫だが、まさか人間だったとは。それも人工魔結晶を最初に作ったバカの1人、生き残りだと。

魔結晶の影響と言っていたがそれが黄金の魔結晶だろう。それを失った今、このデブ猫の命ももうすぐ終わる。



「病気で死ぬって感じにするニャ。心配いらないニャ....冒険者達よ。どうかこの世界から黄金魔結晶とその力を解放する為の魔結晶を消してほしいニャ」



最後の願い。というやつか。

それをわたし達へ...このデブ猫は悪い奴じゃないし世界を悪いキモいウザい奴にどーこーされるのは わたし達も嫌だ。



「...勝手だよ」


「ん?ワタポ?」


「魔結晶を消してほしい?そんなの始めから人工的に作らなきゃよかった事でしょ!?作って壊すのが惜しくなって、その結果今生きてるワタシ達がどれだけ苦しんだか、どれだけ辛い思いをしたか、そして今度はそれを押し付けて....勝手すぎるよ!!」


「ちょ、ワタポ!?」



わたしの呼び止めに耳を貸さずワタポは城を出て行ってしまった。

あんなに怒り叫んだワタポは初めて見た...。勝手すぎる。確かにそうかも知れないけど放置も出来ないし...。



「デブ猫の願いとか、そーゆーのじゃなくて...今生きてるわたし達が黄金魔結晶の存在が目障りだから壊す。それでいい?」


「済まないニャ。話は終わりニャ」


「ん、そんじゃわたし行くね。ごめ、2人とも」



プーとハロルドへ一言いい、わたしはワタポを追った。

考えてみれば ワタポの事をなにも知らない。

なぜギルドマスターなのに騎士団にいたのか。

確かリョウちんが 騎士団が自分達の村を消した って言ってた...人工魔結晶の素材にされたって。

その村にワタポも?

なら尚更わからない。なぜ憎い騎士団に入っていたのか。


人工的に魔結晶を作り出す方法も消さずに残しておいた。そのせいでワタポ達の村が無くなった。そして魔結晶を壊してくれ と。

ワタポの立場ならわたしも怒っているだろうな。


ワタポの姿は見えないが、何だろう...どこに居るのか不思議とわかる。

魔力を感知したワケでも、ホーミング魔術を使ったワケでもない。でも わかる。


「....、ワタポ」


枯れ果てた世界樹に寄り掛かるワタポへ声をかけるも続きの言葉が思い付かない。


「...ごめんね」


濡れた声で小さく。

わたしは頭を揺らしただ黙る事しか出来ない。

こんな時 人間はどう声をかけているんだろうか...どう対応しているのだろうか。

わたしは答えを出せないままワタポを黙って見つめる事しか出来なかった。







「そっか...んや、そうだと思った」


ポツリ、ポツリと並べられた言葉を黙って拾い集めた。


ワタポもリョウちんと同じ村出身で騎士団に入った理由は敵の戦力を調べる為。

すぐに手を出さなかったのはワタポ達と騎士との間には圧倒的な差が存在していたから。力をつけ騎士を叩く事を考えている時、ギルドメンバーが人工魔結晶の生成方法を知ってしまった。

マスターであるワタポにバレない様に人工魔結晶を生成していた時わたしとセッカが現れあの日に繋がる。



「人工魔結晶の作り方なんて残さなきゃよかったのに...消していればワタシ達は...」



何も言えない。

わたしにはワタポの気持ちがわからない。

同情したり理解したフリをするのは簡単だ。

でもそんなモノ何の意味もない。本当に気持ちを理解できるのは同じ境遇の人だけだ。



「ごめんね、こんな話してもエミちゃ困るだけだよね」


「困るってか...ワタポがどんだけ苦しくて辛くて憎んでるのか、わたしには解らない。でも誰よりも人工魔結晶の存在が許せない って思ってるのはわかったよ。ブッ壊そう一緒に。そんでその後ワタポは誰にも人工生成させるな」


「え?」


「どーやればいいとか、何をすればいいとか、そんなのわかんない。でももうワタポみたいな人を増やしちゃダメだと思う。わたしも手伝える事はするし」


「やるのはワタシでエミちゃは手伝いなんだね。ハハハ、変わらないね」


「エミちゃんだけじゃないぞ!ボク達も手伝う!ボクに出来る事があったら何でも言ってねワタポ!」


「プンちゃん、またすぐ そうやって出来る事があるなら~って...どうせ私にも手伝わせるんでしょ!」


「うん!」



この2人は何時から聞いてたんだ?まぁでもこの2人なら聞かれても問題ないか。



「私もいるニャ!」


世界樹の影から現れたピンク色のツインテール。隠蔽スキルを使っていたのか?この猫め。


「にゃにをブッ壊そうとしてるにょか知らにゃいけど...壊すのは得意ニャ!」


「ハハハ...。ゆりぽよもみんなも、ありがとう」



何かグダグダになったけど、ワタポが元気になったしよかった。

人工的に天然のモノを生産するのは悪い事じゃない。食べ物や植物もそうやって増やしてる。

でも その方法が酷く、結果 誰も望んでいないモノなら無くなった方がいい。



「さて、お昼ご飯たべ...クゥお城においてきちゃった!!」


「なにぃー!?ボクが連れてくる!」


「私も行くニャ!」





こーゆーのが平和で誰もが求める日常なのかも知れない。



この日常を続ける為に、わたしは黄金の魔結晶を消す。



その為には避けて通れない相手。

それが レッドキャップ...強くなる理由がハッキリした。




「精神と時の部屋 でもあればいいのにね?」


「...何の話?」


「んやんや、こっちの話。行こうぜハロルド」





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