◆44



猫人族ケットシーの長はわたし達のために宿屋をとってくれた。

街のケットシーや城にいるケットシーへは長が話してくれたのでもう敵視される事はなくなった。首の鈴もとれて安心。


宿屋はロフト式で上にベッドが4つ、下はテーブルと毛布が合体している謎の...コタツ?と呼ばれるテーブル。

足を入れてみると ぬくぬくあったかい。睡眠魔法にかけられた様にコクン、コクンと首を揺らすプー、街の店で買ったケットシーの森とシケットのマップを見るハロルド、クゥと遊ぶワタポ。何だろう...この宿屋は気持ちがユルんでしまう。


「わたし街見てこよっかな」


「ん、気を付けてね」


「いってらっしゃい」


プーは先に逝ったか...。


「いってきまー!」



落ち着いて街を見れなかったし、ケットシーから話も聞きたいし、何よりあの宿屋に居ると眠くなってしまう。

と、言っても空がアレじゃどこに行っても気分は晴れない。

ケットシーに敵視される事なく街を見学、わたし達は上空から街の広場へ着陸したので入り口を見ていない。見た所で何かある訳でもないが気まぐれでそこへ。


「....そりゃ普通に街の入り口と変わらないわな」


自分で何を期待していたのかも解らないが普通の街入り口だ。奥は森になっているのも当たり前。ケットシーの森を抜けてこのシケットに到着するのだから。

入り口も見たし、靄を消す手がかりやらを探しに街へ戻ろうとした時、メッセージが届いた。

ワタポから、戻ってきて と。

小さな事でもいい、何か閃きがあればそこから派生させて靄を消す方法が解るかもしれない。

宝珠狙いの奴の件も同じだけど、相手が人間なら方法は沢山あるハズだ。急ぎ宿屋へ戻り部屋へ。


「何かわかった!?」


ドアを開きそう言うとすぐ言葉が返ってくる。


「エミちゃ、ワタシが作った霧を晴れさせたでしょ?あれの要領で靄を消せないかなって」


霧。ワタポがネフィラ戦で使った血液を水分に使った赤い霧の事だろうか。確かにあの霧を晴れさせたのはわたしの風魔術だが....窓の外、街の空にある靄をもう1度よく見てから答える。


「あれは風や火じゃ消せないね。あれは魔術じゃないし質が謎すぎる...霧は水分が熱で蒸発したモノだけど、あの靄は水でもなければ雲でもない。太陽の光でも焼き消えないなら...穴あけて消してくしか無いんじゃない?」


最後の方はほんの冗談で言ったが、その冗談が半妖精の何かを刺激した。


「靄、闇...強い光で貫けば消えないかしらね?暗闇に太陽の光が射し込めば暗闇は消えるでしょ?」


確かに光で暗闇は消えるけど、太陽の光を遮断する程 分厚い靄のカーテン。太陽光で不可能ならもう方法は無いんじゃ...、太陽光は熱を持つ光、魔術で言えば炎属性。プーの雷も閃光の様な光を持つがそれは雷属性。この2つよりも更に強い光を持つのが光属性魔法。


「光属性魔法で靄を!?」


「そう考えたけど、エミリオは光属性の魔術使えないのよね?」


ハロルドの言う通り、わたしは光属性の魔術を全然使えない。全く使えない訳ではないが、靄相手に通用する様な強い光魔術をわたしは持っていない。しかしなぜわたしが光魔術を使えない と?


「もし使えるなら最初に絶対使ってると思うから、でもそれをしなかった。光魔術が使えない、または強い光魔術を使えない。それが答えよ」


観察力、洞察力、想像力。

この3つが高い半妖精だ。謎の靄が覆う街に到着した時も、ケットシーに囲まれた時も、落ち着いていたからこそ観察し洞察し、考え予想したのだろうか。

いや、ネフィラ戦でわたしの性格を少しでも掴んだからこそか...何にせよ頭の回転が早く正確に見極める事が出来るハロルドの存在は強い。


わたしは強い光魔術は使えない。ワタポとプー、ハロルドも無理だろう。

闇と光の魔術は下級魔術でも難しく、使えない魔女も当たり前の様に存在する。

闇と光の魔術は感知も難しく、詠唱時や発動時以外では感知する事はほぼ不可能。

あの靄が闇魔術によるモノなのか今となっては判断でき....待てよ、あの靄へ光魔術を放てば解るかも知れない。


「ちょっと外行ってくる」


「え!?エミちゃ...」


「私達も行くわよ」


「え、プンちゃは...寝かせておくのね」



出来るだけ靄の近くへ、高い建物の上へ。

わたしは光魔術の基本 ホーリーアローを詠唱する。

3本の光の矢が対象を貫く魔術。光属性魔法の基本であり下級魔術だが、魔力消費は他属性の中級レベル、威力は中級以下だが下級より高く、何より光魔術の強みはその速度。

雷魔術を越える速度を持つ。勿論、その速度を操る事もまた難しいが...今わたしが的に選んだ相手は空に大きく広がる靄。適当に放っても当たる。


もしあの靄が闇属性魔術によるモノならば靄に当たる前に光の矢は消滅する。

魔術ではないならば、当たってから矢は崩れ消えるだろう。


白とも黄色とも言えない魔方陣がわたしの前に3つ展開され、その魔方陣が光の矢へと姿を変え放たれる。

さぁ、どうなる。


甲高い音で風を切り的へ一直線に進む矢。そして、


「矢が消えた...?」


「靄は闇魔術の様ね」


見ていたワタポがポツリと呟き、ハロルドが答えを言う。


矢は靄にヒットする前に光を弱め消滅。これであの靄が闇属性魔術によるモノだと判明した。

闇と光は対立、強い闇は光を消し、強い光は闇を消す。

ホーリーアロー程度の力ではあの靄に触れる事すら出来なかった。予想はしていたがこんなにも早く消滅するとは....相当ランクの高い闇魔術...最悪だ。


「このクエに絡んでる奴は人間じゃない...」


人間がここまで高レベルの闇魔術を使えるとは思えない、いや、不可能だ。

人間はどちらかと言えば光魔術を得意とする種族。闇魔術を学んだ所で使えるのは中級ランクが1つ2つ...勿論他の魔術や剣術を全て犠牲にして全てを闇魔術に使って学んでの話だ。

このレベルを使える種族は2つ...でも1つは除外していい。となると世界樹の宝珠とやらを狙っているのもその種族か...。


「....悪魔」


呟いた言葉にワタポは驚きを隠せず言葉を失う。ハロルドは1度眼を閉じ、息をゆっくり吐き出す。


悪魔。

使える魔術は闇属性のみで魔力はエルフ程だが高い戦闘能力を持つ種族。どの種族からも恐れられていて魔女同様 悪魔全員がディアを持っている。

最悪なのは悪魔の産まれ方、悪魔の誕生方法だ。

人間も魔女も妖精も、全ての種族が悪魔になれる。

悪魔に魂を売る。よく聞く言葉だが本当にそうする事でその者は悪魔になれる。


最初から悪魔として産まれた物は醜い姿をしている。

しかし魂を売って悪魔になった物はその姿をベースに悪魔の力を得る。

王猫さんが 人間 と言っていた事からこの悪魔は人間型...知識や高い知能を持つ一番面倒なタイプだ。


「一旦宿屋へ戻ろう。プーも寝てるしさ」


これ以上ここで考えても始まらないので宿屋へ戻る事にしたが...戻っても状況は変わらない。

最悪すぎる。このクエストはBやAのランクではない。

悪魔が絡んだ時点でそのランクは最高のS3。

魔女の間でも相手が悪魔だと判明した時点で手加減など無くなる。

例えそれが弱く小さな悪魔でもだ。


「...強い光で闇を消す、かぁ。悪魔が闇って言うのは人間のワタシも知ってたけど、光は?」


黙っていても何も変わらない。そう言う様にワタポが話を始めた。

人間にも悪魔の情報は充分に与えられているのは知っていたが...光を持つ種族の情報は無い様子。


わたしの変わりにハロルドが答える。


「悪魔と言えば対立するのは天使でしょ?」


「正解」


「それじゃあ天使に言って」


「無理だね」


ワタポの言いたい事をすぐ理解しわたしは天使について、他の種族について話した。


悪魔も天使も魔女も、他の種族に力を貸すなんてあり得ない。力を貸す報酬として今後その種族を指揮できる絶対的な権利を獲られるなら話は別だが、その種族の為に~なんて理由は存在しない。


わたしもこの世界に来て数年はそう思っていたし、今も何の得もなく誰かを助ける行為は自ら選択しない。

セッカの時もネフィラの時も考えてみれば得や貸し借りがあったから動いたと思う。今回のコレもクエスト、報酬があってランクアップへ繋がるからやっているだけ...。

人間や他の種族と接して関係しているわたしでコレだ。

自分達の世界から出ない、外を見ようとしない他の者達は得があろうとその得が大きな物で自分達にリスクが全く無い状況にならない限り眼を向ける事すらしないだろう。


「そこまで酷くはないけど、エルフも似た様なものね」


確かにエルフも他種との関係を深く持たない種族だ。


「手詰まり、かぁ」


「そうでもないよ?」


「あら、プンちゃん起きてたのね。おはよう」


「おはよ~~...っ、蜘蛛の巣からあんまり寝てなかったからこの宿は助かったよ」



どうやら あの後....、ネフィラの件が終わった後も充分な睡眠をとっていなかった様で、この睡魔が充満する宿屋で回復する事に成功した様子。

大きなアクビで頭を起こし、そうでもないよ? の続きを話す。


「光が効く、小さいけど光はある、それじゃその光を大きくする方法を考えればいいんじゃないかな?悪魔の方も心配だけど、モヤモヤ出してから来てないみたいだし...アレ消した後でもいいと思うよ」


「確かにそうね...靄を出した後 悪魔が来たとは言っていなかったし、靄を消せばもう1度悪魔が現れる可能性も高まる。消すその時までに悪魔の方を...消す、光....!」


「それだね!多分だけど、モヤモヤ消せたって事は悪魔に対抗できるって事じゃないかな?光でモヤモヤ消すんだよね?ならその光を悪魔にもやっちゃえば撃退出来ないかな?」


なんとまぁ、この2人は....半妖精が 頭の回転が早い とすれば、この狐は脳内の整理が早い だ。

本当にいいコンビだ。

それに比べて魔女と人間のコンビは「それや!」と言わんばかりの顔...。


「エミちゃ」


「言うな言うな」


「「...頑張ろう」」


わたし達の無能っぷりはさて置き、これで靄にも悪魔にも対応、対抗できる手段は解った。あとは光を強く大きくできて、放てるモノを探せば完璧だ。


「さっきエミちゃが使った光魔術、あれをもっと強く出来ればいいんだよね?大きくしなくても強く出来て、それを空に放てれば靄は消せる。それに悪魔が来た時もさっきの大きさならすぐ対応できるしさ」


まてまてワタポ、わたしを放置して有能チームに加わる様な発言はよせ!

このままでは無能=エミリオになってしまうではないか!


「そうね...強い光の矢をエミリオが作って、それを放つ弓があれば可能ね」


「それなんですが、さっきのが今のわたしの限界でして...あれ以上の矢を作れ!は今のわたしには無理難題ってやつですね、はい」


完全無能だ。無能決定。

ほんっっとにクソ悪魔が。あんな靄とか作らなきゃわたしの無能が露になる事もなかったのに。ムカつく。


「大丈夫だよ!ボクが靄と矢のラインを雷で作る、エミちゃんは魔力を、その魔力を使ってひぃちゃんが矢を作る、そしてその弓矢を放つのが熱と痛みを感じない腕を持つワタポ!」


「確かにそれが出来れば矢は作れるわね。私個人は光魔法も使えるし...馬鹿に多い魔女の魔力があれば強い光の矢は作れる」


「ワタシの腕なら光の熱や力、雷の痛みも感じないし」


「ボクの雷で100パーセント当たる様に道を作れる!」


「やれる!わたし相手に自分の魔力をあげる魔術使えるし!」


無能卒業!

これでわたしも有能チームの仲間入りだ。ワタポの閃きからプーの作戦が産まれて...ハロルドの存在がわたしの馬鹿に多いだけの魔力に光を与えてくれる...感動、涙で前が見えないよあちし。


「ほらエミちゃ!汚い顔してないで凄い弓を作る方法がないか王猫様に聞きにいくよ!」


「汚いって、さらっと酷い事言ったぞワタポ」



繋がった。

靄を晴れさせる方法も、悪魔を撃退する方法も全く思い付かなかった状態から同時に2つへ繋がる答えを見つけ出した。

1人じゃ、1つの種じゃ見つけられない、出せない答えも4種族集まれば出せた。




ネフィラが風魔術で貫かれた時ワタポはわたしに「敵とか味方とか関係ない」と言った。

命を1つでも守れる様に、命の価値、意味、存在は何なのか。それを知る為にわたしは旅をしているのに、それを見れそうでワタポと一緒にいるのに、ネフィラの時はネフィラの命を見捨てる事しか考えていなかった。救う助ける等 頭になかった。


それは1人の魔女として出た答えだった。


でも今出した答えは1人ではなく4人、それも種族はみんなバラバラ。種族が違うからこそ、考えられない答えが出せたのかもしれない。


3ヶ月前わたしはバリアリバルへ到着した時、魔女も人間も他の種もみんな仲良くなれれば最高に楽しい世界になるだろう。と思った。

無理だと思っていたし、今もそれは夢のまた夢だと思う。けど、たった4人だけど今わたしの眼の前で他種が力を合わせて知恵を出しあって、他種の世界を救おうと動いている。


命に価値も大きいも小さいもない。種族に壁も違いも無い。


命はどの種族でも命で、生き物はどの種族でも生きていて、生きたい。


手を取り合って繋ぐ事は不可能ではないのかも知れない。




「ちょ、エミちゃ鼻水つけないでよ!」




わたしの中で何かが少しだけ変化した気がした。








産まれた瞬間、差は産まれる。

自由に歩ける者と歩けない者。この時点で平等は無くなる。しかし世界は平等を謳い続ける。


身体中に麻酔薬を打ち込まれた世界。


その世界に生きているから麻痺する。


圧倒的な力で支配し、麻酔を解く。

そして、人間が世界を貰う。

悪魔でもなく魔女でもなく、人間が中心で頂点の世界。















リーダーは私にそう言った。

元々人間で、今は悪魔になった私に。

面白いと思った。

だから私は悪魔達を捨てて、捨てたハズの人間と一緒にいる。



全ての生き物を支配して、争いのない世界を。


それがリーダーやみんなの理想。


それを私も見てみたい。


だからそれは私の理想になる。



こんな大きな理想を現実にするには...大きな犠牲が必要。


それもいい。


だってその犠牲で争いのない世界が産まれるんだ。


喜んでみんな犠牲になる。



そう思っていたけど、みんな反対した。


そして私達は世界最悪の犯罪者になった。


それでもやる事は変わらない。


だから私はここにいる。


迷いなんて始めからない。


邪魔するなら殺すだけ。


それは素晴らしい世界を創る為の犠牲。大事な犠牲。


だから後で許される。


今は許されなくても、絶対後でみんながクチを揃えて私達へ感謝する。


争いのない世界。


いい世界。


今の世界は悪い世界。


犠牲になった人達の血で染めたフードローブ。


これが私達に言う。


もう退けない、やりきるんだ。


退く気なんて始めからない。


やりきるのは当たり前。


だから、安心して。


きっと世界は変わるから。


私達が変えるから。





「...なぁ、お前、それウマイの?」


「うん」


「悪魔ってのは知ってたけど....本当に....食うんだな」


「うん」


「まぁなんだ...腹 壊すなよ」


「うん」






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