◆43




猫族の里シケット。猫人族が暮らす場所なのでメルヘンチックな癒される様な世界を想像していたが...。


街の中心部には大きな噴水、その周辺にはベンチにカフェテラス、店等も並んでいる。

中心部の少し先にある階段。その上には大きなスペースがあり そしてまた階段。

ドメイライト程の広さはないが段階層になった街。


一階は街。

二階は謎の空間。

三階は城。


街どころか二階にも三階にも誰もいない。


巨大鳥は街の中心に着陸し、落とされる事なく無事シケットへ到着できた安心感は湧かない。


「冒険者達よ。この街、世界樹を救ってやってほしい 」


そう言葉を残し巨大鳥はどこか遠くの空へ飛び去ってしまった。


カフェテラスやベンチの足部分は優雅に巻き返す猫の尻尾を想わせるデザイン。

街灯は猫のにくきゅう?足?のデザイン。

街の至る所に猫のデザインが施されていて...猫好きはたまらない街だろうな。

わたしはどっちかと言えば猫は好きではないので楽しい気持ちや癒しを感じないが....少なくても この空が晴れていれば沈んだ気持ちにはならないだろう。


青黒い空と灰色の雲が覆う街。


「とにかくクエストの話を聞けそうな場所を探そう」


このままでは心までもやに覆われそうだ。とにかく人がいる場所を探してクエスト内容を聞かなければ始まらない。

街には人影はない。二階層目には建物すらない。目指すは三階層。


猫族の城を目指し階段を登った。





この空はシケットに降り注ぐ太陽の光を奪う。街路樹は弱り階段を彩っていた花は首を曲げる。

これでは噂の世界樹も息苦しく思うのでは...その世界樹は何処に?


この街に来てから1度もその姿を見ていない。あの巨大鳥が「翼を休めるには大きな木が必要でな...世界樹で休ませてもらっていた」と言っていた事から隠せる様な大きさでもないハズ......、世界樹は臆病な性格で高い魔力を持つ樹木。ケットシーの森に入った者へ幻を見せる魔術をかけていたので自分の姿を隠すハイド系の魔術を使えてもおかしくない。


何も無いのに広い空間が設けられたこの二階層....恐らくあの空間に世界樹は存在する。

触れてしまえばハイドは剥がれる。しかしそれでは臆病な世界樹を驚かせる事になるだろう...相手は植物とは言え世界樹だ。何が起こるか予想すら出来ないのでここは端を通って三階層を目指すのが最速で安全。誰かが触れればハイドは剥がれる。


「いらん事するなよ、犬と狐」


「エミちゃはいらん事言わなくていいから」


む...。最近ワタポがわたしをよく怒る。ワタポがわたしに噛み付くのを見てあの犬も?飼い主に似るって言うしここはワタポを屈服させエミリオ様の恐ろしさと偉大さをあの犬にも思い知らせてやるべきか?

よし。ワタポを後ろから...、


「何者ニャ!?」


「くせ者ニャ!?」


「悪者ニャ!?」


突然飛び交う声、ワタポを屈服させたるぜ作戦 は中断し声の聞こえた方向を見る。

語尾にニャ....街でたまに語尾ニャを使う人もいるし新鮮味がないのは残念だが猫人族の声なのは間違いないだろう。しかし姿を捉えられない...世界樹の隠蔽魔法いんぺいまほうが猫にもかけられているのか?

隠蔽魔法は姿や気配を完全に消せる、隠せる魔術だが動きや声で簡単に解けてしまう魔術でもある。もし世界樹の隠蔽魔法がケットシー達にもかかっているなら今の声でハイドレートは一気に低下し姿を見つける事が出来るハズなのだが...看破かんぱどころか更に迷彩かかる。

声をあげた瞬間に魔力は感じなかった....これは隠蔽魔法ではなく、ハイディングスキルだ。


「隠れてる。魔術じゃない」


わたしはポツリとそう言い全員の脳にある隠蔽魔法のもやを消し飛ばす。

魔法ではない。となればただ身を隠しているだけ。しかし物陰に隠れて息を殺しているだけではない。

これは立派な戦闘スキル、ハイディングだ。

気配や意識を拡散させ風景に溶け込む と 言えばいいのか...情報屋のキューレが得意とするスキルでストーカー達が血眼で磨く戦闘技術。盗賊ギルド等はこのスキルを愛している。


隠蔽魔法ではない となればわたしには看破する事は難しい。


「....、見えた。あの猫像の後ろに2、噴水の裏に4、街灯の上1と階段には沢山いる。上も下もね」


ワタポはわたし達だけに聞こえる声で場所と数まで言った。ハイディングを見破った....いや違う。看破した訳ではなく違和感に気付き、そこに居る という答えに辿り着いたんだ。

ワタポの眼は1.5秒先を見る事が出来る。ハイディングしているとはいえ、数センチも動かないまま何十分も停止出来る生き物は存在しない。

たった数センチの動きはワタポの眼から見ると違和感を感じずにはいられない程のブレ。


場所を特定出来たのは大きいが...階段の上と下、一階へ降りる階段と三階へ登る階段に沢山いるこの状況はマズイ。

階段猫だけに気を取られると噴水や街灯に居る猫が攻めてくる。かと言って階段猫は無視できない数だろう...ここは1発、デカイ爆発を起こす魔術で上下どちらかの階段猫を吹き飛ばして、


「私達はこの街を襲撃しに来た訳じゃない!太陽について話を聞きに来た冒険者よ」


爆破魔術の詠唱を密かに始めていたので わざとファンブルさせ詠唱を止める。

ハロルドは叫び、剣を腰から取り地面へ置く。続く様にわたし達も武器を捨て相手の反応を待つ。

コソコソと話し声が聞こえるも内容までは聞き取れない。


「そのまま動くニャ、今 おさへ報告しているニャ。怪しい動きを少しでも見せたニャら攻撃するっニャ」


出たな噂の長。それよりニャを無理矢理使ってる様に思えるのは気のせいか?最後の攻撃するっニャのニャはいらない気が...いや待てよ、無理矢理ニャではなく人語を使っているとすればこの苦しい感じも仕方ないのか?

わたしも相手が魔女の場合は魔女語で話すし...それと同じ感じでケットシーも猫語を使っていて、でもわたし達には通じないので慣れない人語を使った....カワイイ所あるじゃん。


どうでもいい事を本気で考えていたわたしへ再びコソコソ声、そして苦しい人語が届く。


「冒険者達を城へ案ニャいする、武器は拾うニャよ」


そう言った途端にハイディングスキルを解除し、恐ろしい数のケットシーが視界に入る。


猫族ではなくまさに猫人族。

顔や手足は人間そのもの。しかし頭の上には耳、お尻からは細い尻尾。プーの耳は耳ではなく対象や地形、範囲等をサーチングするモノ。

猫人族のアレは紛れもなく耳だろう。コソコソと話す猫人族は頭の横ではなく上に向かって声を出している。その声を拾う様にピクピクと揺らしている事から間違いない。


猫人族の騎士と思われる者達がわたし達へ槍を向け囲み歩く。

鎧系防具ではなく革や布の軽量防具....鉱石や金属類が採れない地域だとは思えないし槍もシンプルなデザイン...猫人族達が、自分達の武器は俊敏力。だと理解した上でその武具を選んでいるならば数えきれない程の戦闘を繰り返して辿り着いた答えになる。

もしそうならばハロルドが船で言っていた「1対1でも強いケットシーは存在すると思うけど」という言葉はほぼ全ての猫人族に言える事にならないか?


全てのケットシーがソロでも強いステータスと経験値を持っていたとしても、戦いに来た訳ではない。


長く緩い螺旋を描く階段を登る事 数分、ついに城の扉の前まで到着した。

幼い頃わたしはどうしてもドメイライト城が見たくなって何度も二階層攻略へと足を運んだ。しかし二階層入り口の騎士達に毎回摘まみ出されていた。今の実力では城を眼の前で見る事は不可能、しかし遠くから見る事なら可能だ。と踏んだわたしは街で一番大きな教会の屋根へ登り、十字架の上にまで登りやっとドメイライト城を見る事が出来た。

その時、扉の前にいた人達が朝食後必ずテーブルに残るパンくずの様に小さく思えた。


あの頃と同じ様に遠くから城を見た場合、今わたしがそのパンくずの様に思える程小さく見えるだろう。それ程までに城が、扉が大きい。


「中で爪でも磨き始めたら迷惑ニャ、その者達に鈴をつけるニャ!」


鈴と呼ばれるモノは手錠ではなく首輪。本当に鈴の様なモノが首輪から下げられ揺れている。


「その鈴は激しい振動や魔力に反応して爆発する爆弾ニャ」


爆弾首につけるとかお前等バカかよ!

と言いたいが振動で爆発すると言われれば声を出すのも怖くなる。「入れ」と言われ少し押された事に対しても、ふざけんな!と思ったが言えない。


中はまさに城。綺麗な服装のケットシーやメイド服のケットシー...本物の猫耳メイドが沢山いる。勿論 騎士猫も。

おさって言ってるけど王でいいじゃん。

王猫様!とか呼んだ方がいいと思うぞ。雰囲気的にも。


「ニャ!?人間!?人間ニャ!....ンニャ?見た事ある...ワケにゃいに。お勤めご苦労ワン!」


何か凄いのが出てきたぞ。

ボサボサ頭でサイドを小さく結んでいるグルグルメガネの青い奴...緩んだクチ...なんだコイツ。

髪も水色なのに服もネクタイも水色系...ご苦労ワン!とか犬語まで炸裂させる面倒そうな性格。


「フロー殿...勝手に城内を彷徨かれては困りますニャ」


「ニャ?キミの服ダサいにぇ~、それ着てわたしに話かけにゃいでほしいニャ。ん?...甘い匂いがするニャ!クッキー!クッキー持ってるニャ?!ちょっと ちょーだいニャ!」


「え、えぇぇ!?ボク!?ちょっと騎士さん助けてよ!ボクの匂い嗅がないでよ!爆弾爆発しちゃうよ、やめてって!」


「爆弾が爆発しても食べたいニャ!甘い爆弾くって爆死にゃら本望ニャ!」


なんだコイツ。

同族の騎士猫へ騎士服ダサいから話かけるな。と言ったかと思えば次はクッキーの匂いを嗅ぎ付けてプーにクッキーをよこせと...絶対頭オカシイだろ。


「何か...」


ここでワタポもクチを開いた。猫爆弾が爆発する危険を犯してまで言いたい事がある様子...プーの爆弾はもう終わりだな...さらばプー。


「何かあのフローって人、友人を見てるみたいで...」


そう言って じとぉー とした眼でわたしを見るワタポ。続くようにプーが じとぉーっとした眼でわたしと青い奴を交互に。ハロルドとクゥは溜め息。


「なんでわたしを見るの!?あんな変なヤツとわたしが似てる??勘弁してよ!どう考えてもコイツの方が知能低いって!」


指さし言うと突然、グルグルメガネの青い奴はわたしへ攻撃してくる。


「指ガブ!」


「いだだだ、おま、バカじゃないの!?」


指ガブ、と言いわたしの可愛らしくも美しい左人差し指を噛んできた。

コイツ本物だ、本物のキチ猫だ。

まさかコイツ...どっちが水色ヘアーに相応しいか勝負を挑んできてるのか?もしそうならコイツの性格的に言ってくるハズだ。


「にゃははは、どっちが水色ヘアーに相応しいか勝負するニャ!偽物!」


やはり言ってきたか。ここで逃げる訳にもいかないし、逃げる気などこのエミリオ様には無い。それに丁度わたしも、どっちが水色に相応しいか決めたいと思っていた所。


「ふっふっふ、考えてる事は同じか...面白い!偽物め!お前を葬って水色の神になるのはこのエミリオ様だ!」


「ほぉ...このフローさんに睨まれても震えにゃいとは...お主ただ者ではないにゃ?」


「お互い様だろ...さすが水色に選ば、れぇっ!?....痛っ、なにすんのワタポ!?ベロ噛んだじゃん」


「勝っ、たニャ!?...痛っ、なにすんの猫騎士!?ベロ噛んだにゃん」


「「....??」」


.....みんなもケットシーも、わたしとこのキチ猫を見て何も言わない。しかしあの眼は「うっせーぞ青いの。黙らねぇとベロ切るぞ」と言っている顔だ。

今日の所はこれくらいで勘弁してやるぜ。


「エミリオ、だったにゃ?」


叩かれた頭に手をおきそう言うグルグルメガネ。


「うん、フロー、だったけ?」


わたしもコイツの名前を確認し、そして。


「「次はお前の水色を血の色で染める!おぼえとけ偽物め!」」


「「 む.... 」」



こうしてわたしはフローという名のライバルと衝撃的な出会いをした。


水色は絶対に渡さんぞフロー.....フロー?どこかでその名前を聞いた事ある...ワケないな。お勤めご苦労さん。



「騒がしいニャ~?冒険者達はまだ到着しにゃいのニャ?」



フローとの激しい戦いを終えると同時に地鳴りの様な声が城内広場に響く。するとケットシー達は全員姿勢を整え奥の一際大きな扉を見る。

騎士猫4人で開かれる扉、その奥は更に広くなっていて、大きな影が眼に入る。


「冒険者達を連れて来ましたニャ!」


鈴をつけるニャ!と言った偉そうな騎士が開かれた奥の扉へ向かい大声で言うと、再び地鳴りの様な声でニャー、と言う。するとケットシー達は左手を顔の横まで運び指を揃えて敬礼し、ニャーと言った。


「んぬ?この声の主が長ってやつ?」


「ぽいね」


「長って言うより隊長?王様かなぁ?」


「何でもいいわよ」



わたし達は長と思われる声の主が待つ扉の向こうへ招かれた。






扉の先は王室。と言ってもそこに居るのは王ではなく長。

騎士が挨拶し、わたし達が中へ入ると騎士達は下がり扉は閉じられ低く揺れる様な声が広い王室に響く。


「よく来てくれたニャ、冒険者達。適当に座りニャさい」


そう言ったのはこのシケットの、猫人族の長だろう。

トラ模様で巨大な、本当に巨大な人語を話す猫。

どう見ても猫人族 ではなく 猫族。そしてどう見ても王。

頭の上に王冠、赤いマント、イスも豪華な感じで...王って名乗れよ。と言いたくなる。


「エミちゃ」


「いらん事言うな。ね、わかってるってばワタポ」


先に釘を刺してくるとはレベルを上げたなワタポ、しかしまぁ...みんな思っただろう。

このデブ猫少し痩せろ と。


「クエスト受注者は1人のはずにゃのだが...」


「そそわたし。んでね、みんなはお助け隊!気にしないでクエスト内容と報酬教えてよ王猫さん」


やっとクエスト内容が聞ける。そして報酬もやっと。正直クエスト内容なんてどうでもいいから報酬だけ先に教えて、よければ報酬先渡しにしてほしい。


「うむ、この街の異変にゃもう気付いているニャ?」


異変。その言葉は間違いなくこの街を覆う靄、空の事だろう。わたし達は何も言わずただ頷き王猫の続きを聞いた。


「数週間前にゃ見知らぬ人間がシケットへ...そして世界樹の宝珠をよこせ。と言ってきたニャ。勿論ワシらは断ったニャ...するとその人間は怒り、自分で探すと言ってこの街から太陽を奪ったニャ」


短気なヤツだな。でも人間にあんな空を作れるとは思えない。徐々に靄が濃くなる感じだったとしても無理ではないか?


「幸い世界樹はワシ等以外には姿を隠しているのでその人間は森の中へ行ったニャ。しかし太陽の光を奪われたワシ等や植物達は徐々に体力を....」


「それでボク達 冒険者に助けを求めたんだね。でも...何をどうすればいいんだろうね...空に覆う靄を消してもその宝珠を狙った人はまた来ると思う」


確かにプーの言う通りだ。何をどうすればいいのか謎、宝珠狙いのヤツもまた来るに違いない。


「ニャ。そこで冒険者達、あの空を覆う靄を消して、宝珠を狙う者が2度と現れにゃい様にしてほしいニャ。やり方は任せるニャ。報酬は可能なモノにゃらば何でも好きなだけ支払うニャ」



「何でも!?」


と、わたしが言いワタポを見る。


「好きなだけ!?」


と、ワタポが言いプーを見る。


「支払う!?」


と、プーが言いハロルドを見る。


「....言わないわよ」



残念!ハロルドの「ニャ」はおあずけ。


しかし可能なモノなら何でも好きなだけ貰えるとは....空を晴れさせる方法も宝珠泥棒撃退方法もわからない。でもやる気だけは最大倍率まで高まった。


やっとクエスト [太陽の産声] が始まった。




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