◆26
無茶苦茶な勧誘を断っただけで地下牢...まぁ牢に居なかったら今頃は黒紫の炎に包まれて死んでるだろうけど。
あんな男に 魔女の魂 をくれてやる気はないしユニオンに入る気もない。
対人戦闘...アイツはそう言っていた。国だの世界だのそんな事はどうでもいい。人間が人間を殺す...人を殺す為に より強い人を仲間にし今よりも大きくしようとしている。
みんなが気付いた時には恐ろしい程大きく圧倒的な力を持つ集団になるだろう。
いくら自由の街バリアリバルと言ってもやりすぎだ。
とにかくこの牢から脱出しなければ何も始まらない。
ここに来て1日くらいか?
確か一昨日アスランが2日後と言っていた。一昨日から計算して2日後は...今日だ!
てか、あのゲス男は格好つけて2日後とか言わず明後日って言えよ!解らなくなるわ!...今日バリアリバルにいる冒険者やギルド...少なくても自分の腕に覚えがある強者がこの上、ユニオン本部に集まる。集合時間は10時。今の時間は...いつも通り腰へ手を伸ばし思い出す。フォンも武器もポーチも没収状態。
時間を知った所でここから出る方法を思いつく訳でもないが...まてよ。ここは自分が超最強冒険者という設定で...。
「おーーい!見張りの人きてー!」
わたしは地下牢で大声を出し見張りを呼ぶ。声は響くもやはり外に漏れる事はない、か。防音なのか確認をする為に叫んだが目的はそれだけではない。
ガシャガシャと鎧を揺らし歩く音が地下牢に響く。
大声を聞き見張りがわたしの牢へ近付いて来ている音。これがもう1つの目的だ。
ここでユニオンの幹部クラスが見張りだったらアウト...でもあれだけ人がいたんだ。幹部のお偉いさんは見張りなんてダサくてショボい仕事はしないだろう。
「なんの用だ、出してくれーなら聞かんぞ」
よし!狙い通りモブクラスの見張りだ。さて、この人はどこまでわたしの事を聞いているのか...、
「んじゃさ、いつ出れるの?」
「何をやったか知らんがあと2、3日で出れるだろ。黙って座ってろ」
何も聞かされてないのか...なら。
「2、3日じゃ話にならない!今日の10時に冒険者が集まるでしょ?それにわたしも行かなきゃならないんだ!」
「無理だ!上の指示がなきゃお前を出す事はできん!」
「アスランに伝えなきゃならない事があるんだよ!今日戦うモンスターの情報をゲットしたから先にユニオン本部へ来てみたら不法侵入だの何だのでこっちの話も聞かず牢に入れられてさ...知らないよ?どーなっても!」
アスランの言い方的に今日間違いなくモンスターと戦うだろう。それも結構なレベルの。ただバカ騒ぎする為なら強者!なんて言わないしユニオンも祭り会場に本部を提供したりしないハズ。
「お前...なぜ今日発表される情報を知っている?」
よっし!ビンゴ!ショボいユニオンの人間でも少しは情報を持っていて助かった。
「アスラン達とモンスター捕獲したんだよね。その時ここの...グレイスさん?から話を聞かせてもらってね。その後わたしはモンスターの情報集め、アスラン達はフテクロ出演ってワケ。キミにモンスター情報を渡せばいいんだけど結構難しい情報でさ...」
見張りの男はアゴに手を当て難しい顔で黙る。やはり無理がある作戦だったか...?
「確かに俺が情報を受け取り運べばいいのだが...お前の言い回し的にその情報は言葉だろうか...子供の頃から伝言ゲームは苦手でな...」
コイツ久しぶりのバカだ!
よし、よし!このまま上手く話を運べば出れる!
「伝言ゲームって難しいけど面白いよねー、わたしは得意なんだけどね。記憶力が凄いらしくて今じゃキューレと情報集めをする仲なのじゃ」
「それは情報屋キューレの口癖!...わかった。お前を出してやる!上には俺から説明しておくからお前はすぐ皆のもとへ急げ!」
コイツ見張り役に向いてないって!!
でもこの騎士を絵に書いた様な性格のおかげで出られる。
男はわたしの腕に付いている鎖を外し、ポーチとフォンまで返してくれた。
ありがとう、そしてごめん。
腕の鎖が外れた瞬間に詠唱した魔術で男を気絶させ、わたしは牢を出た。
「ごめんね、弱々で使ったから怪我しないと思うけど...ありがとー!」
脱出は難しいと思っていたが見張り役が恐ろしくバカな人間でよかった。気絶状態で見つかると思うしユニオンをクビになる事は無いと思うけど、もしクビになっていたら別のギルドをわたしも一緒に探してあげるから怒らないでね。
足音を殺し進み、ドアを発見。見張りがさっきの人しか居なかった事に呆れつつドアをゆっくり開く。
...誰もいない?冒険者達は会議室か?しかし他のユニオンメンバーは?
辺りを警戒しつつドアの先へ出る背中から首、頭へと冷たい何かを感じ慌てて振り向く。
「これはこれは、グレイスさんではないですか」
二階からわたしの居る広間を見下ろす冷たい視線。庭で会ったどの人間よりも鋭く、冷たく光る。
「残念ながら皆様は10分前に会議を終え平原へ旅立たれましたよ。アスランという男性は意外にも10分前行動をする人でした」
な...アスランが、あのアスランが10分前行動!?...あり得る。
セッカの時も地竜の時もいつも集合場所に先に居たのはアスランだ。
適当な生き方をしている様で、確りとした人間だったのか...。お願いだから完全適当人間になってくれ。10分前行動なんて迷惑だぞアスラン。
「で?グレイスさんは何でここにいんの?他の人も一緒に行ったんしょ?」
他のユニオンメンバーが見当たらない事から考えれば、そのモンスター討伐に行ったのだろう。これは街を守る為。とか適当にいい事言えば戦わないユニオンも街の為なら戦う。に変化し株は上がる。
そうなれば今まで以上に勧誘が楽になるだろう。詳しく言わなくて済むし入れてしまえばやり方なんて無限にある。
軽く波打つ髪を揺らしグレイスは答えた。
「私は貴女が牢から出てきた時の為に残ったのですよ。地下牢からネズミが脱走した場合は速やかに掃除せよ。との命を受けて」
これはどう足掻いてもユニオン襲撃犯になってしまうルートだったか...。
と、心で呟き黙ってフルーレへ手を伸ばし薄青の刀身露にし剣先をグレイスへ向ける。
同時に、やるならやってやる。後悔は地獄でしろ。と言わんばかりの瞳をグレイスへ向けると整っていた顔が歪み崩れた。
「素晴らしい。貴女みたいな人と踊れる事を願い、私はこの組織に所属している!」
後半は叫び、腰に吊るされていた気取った剣を抜き二階から飛びわたしへ斬りかかってくる。
「騎士の次は貴族の真似ですか」
向かい討つ姿勢全開、と見せ掛けグレイスの斬り下ろしを避け反撃の突き。しかしフルーレの剣先はグレイスに届かなかった。
「...。へぇ、やるじゃん偽騎士」
やってもうた!回避した時 思った以上に距離が離れてしまっていた。格好つけてコロリン回避なんてしなきゃよかったよ...。
初撃はお互いミス。
ここからが本当の戦いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます