◆25
ラウンドシールドという名の丸い盾が15,000vとは...高すぎる。
昨日のクエストで宝石が爆発した時 盾があれば1人でも何とかなったのでは?と思い朝から色々な武具屋へ行っては買わず行っては買わずを繰り返している。
ガードできるのはいいがガードする為だけに15,000vを出すのも...それに盾は重くて昨日までの戦闘スタイルでは盾無しが理想だろうか...剣でガードも出来るので必要ない気もするが、やはり拡散系や爆発系の攻撃を回避しきれなかった時が怖い。
大剣なら爆発系攻撃もガード出来るが大剣は重くて無理。
今のまま細剣だけでいくか、盾を一応買って使えなかったら売る作戦か...うーん。
無理に買うのはやめよう。何か適当なクエストへ行って魔術なしで戦ってみてどう思うか。その時 やっぱり盾欲しいなーと思ったらその時は買う、絶対。
そうと決まれば集会場だ。
どうせやるならランクが上がりそうなクエストを選んで、
「ん?メッセージ?」
急ぎ集会場まで行きたい所でフォンが鳴る。短い音はメッセージ受信を知らせる音。
素早くフォンを操作しメッセージを確認。
驚いた事にメッセージの相手はユニオン。
集会場を利用する時に冒険者登録は必須。この時に登録した情報がユニオンに送られ管理される。ユニオンから直接メッセージが届く事などまずあり得ないと聞いていたのだが...その あり得ない が今わたしに。
内容はイマイチ解らないがとにかくユニオン本部まで来い。との事。
集会場に行くつもりだったし方向は同じ、それにユニオン本部には1度行ってみたかった。
昨日アスランがモニターで2日後ユニオン本部まで。と言っていたので明日になれば行くつもりだったが呼ばれてしまった以上行かなくては。
下見のつもりで集会場を通りすぎユニオン本部へ。
「これがユニオン本部...騎士団みたい」
ついクチから漏れた言葉。
騎士団本部と言われればそう見えてしまう程の造り。
階段の先に門、もちろん門番も左右に立っている。
城壁に囲まれたユニオン本部はこの門を通らなければ入れないだろう..。
空高く延びる尖った屋根の先には火を吐くドラゴンのマークが描かれた旗。
ここだけバリアリバルとは思えない程緊張感のある空間。
この建物もアルミナルの芸術バカが造ったのか...
「青髪の細剣使い...エミリオ殿でございますね?どうぞ中へ」
門番の1人がわたしを見てそう言い持っていた槍の刃がない方で地面を叩くと鉄格子の様な門が開く。
言われるまま中へ入ると広い空間...庭の様な場所。
庭にいる人達は皆ハイレベルな装備...ここである事を思い出す。
ユニオンに居るのは冒険者でもギルドでもない。
ユニオンは戦ったりしない。
と、聞いた事がある。それに昨日のクエストもユニオンが冒険者やギルドに対して依頼する形だった事から戦わないのは本当だろう。と思っていたが...ここにいる、少なくともこの庭にいる連中は戦わない種ではない。装備もそうだが、向けられた鋭い視線は戦わない人間のモノではない。
「お待ちしておりました、エミリオ様」
庭で難しそうな本を読んでいた男がそう言い、わたしの方へゆっくり近付いてくる。
この男は昨日 斧男を受け取りにきたユニオンの人...しかし昨日の格好とは違う。
「あー、昨日の人ね。今日は随分とカッコイイ服来てるねー...、騎士の真似?」
腕や肩、胸に脚を鉄...最低限の部位を鎧素材で守るスタイルの防具は騎士に似ている。
勿論、その鉄の下も相当なレベルの防具だろうけど。なんか偉そうなオーラがあるのでつい噛み付いた言い方になってしまう。ユニオンは戦わないとか言っといてコテコテの戦闘用防具とか...不信感しか湧かない。
「少々トゲのある言い方ですね、騎士の真似...ここが王国でない以上、我々は騎士に等なれませんよ」
何かコイツのしゃべり方がムカつく。なにが、我々は騎士に~...だ。そんなの見ただけで解るわ貴族かぶれが。
「ユニオンは冒険者でもギルドでもない、戦わない人が集まった組織って聞いてたけど...その装備は戦う為のモノよね?」
貴族と騎士に憧れてるこの男が少しムカつくので少々攻めてみる事に。しかし笑って誤魔化され話は終わり。案内されるままに中へ入るとコレまた呆れる程 騎士団オーラが溢れている。
下級兵と思われる者は皆同じ防具で身を包み、この男を見るやすぐに挨拶的なポーズをするが、そのポーズも右拳を胸の中心に当てるポーズだ。
ドメイライトの騎士は右拳を左胸に、デザリアは逆と聞いていた。で、コイツ等は右拳を胸の中心...ここまで真似しているとはもう病気か何かだろう。
足を止めずに進み、騎士団長が居そうな大きなドアの前に到着。ここにも門番が配置されている。
団長室ではなく...会議室的な場所っぽいが入れば解る事だ。
ドアを開く前にこの金髪ウェーブ男は武器と防具の鎧素材をフォンへ収納し、門番へフォンを渡しこちらを見て申し訳なさそうな顔で小さく頷く。
キミも同じ様によろしく。と伝えたかったのだろう...ここはおとなしく従おう。
わたしは武器だけを収納し、同じ様に門番へフォンを。
「ありがとう、では行きましょう」
大きなドアをゆっくり押し開き少し端にずれ お先にどうぞ的なポーズ。やっとレディファーストか。貴族みたいな見た目だがまだ甘いな。
横眼で男を見ながらドアの先へ進み室内へ。
「リーダー、ただいま戻りました。こちらがB級犯罪者逮捕に協力してくださった エミリオ様でございます」
膝を付き深く頭を下げて言う男。そんなにヤバイ奴がリーダーなのか?
室内へ眼を向けるとやはりここは会議室的な場所、長いテーブルにイスがいくつも配置されていて奥のイスには偉そうに座る男。
「グレイス..お前は下がれ」
偉そうな男がコレまた偉そうに言う。グレイスはわたしをここまで連れてきた男の名前か。言われるままグレイスは部屋を出ていった。
「さて、お前がエミリオか。無所属ねぇ...ウチに入らないか?」
「ん?どゆこと?」
なんの説明も無しに突然何かの勧誘を始める男。話が突然すぎて全然見えない。
「ユニオンに入らないか?無所属で行動する冒険者は多いが固定メンバーを作らずソロでここまで行動する冒険者は少ない」
考えてみれば確かに固定メンバーはいない。アスランは烈風やゆうせー、ハコイヌはセシルとセットっぽい。他にもペアや無所属通しのパテも存在している。
でもわたしはソロ...いや。ただ友達がいないだけなんだけど。出来る事なら何人かでワイワイしたいし雰囲気もいいならギルドにも入りたいとは思うけど、わたしは魔女だ。
この事がバレた時、起こるであろうグダグダや喧嘩を避けたくて皆といい感じの距離を取っている。
今回の誘いも断ろう...、
「まってまって、ユニオンって戦わないんしょ?ソロで行動する冒険者とか関係なくない?」
やっぱり何かがオカシイ。
庭や本部内にいた連中もそうだが、この男も相当な装備...。
「モンスターと戦ったりクエストを消化したりはしない。ユニオンは大きな.....国の..違う...世界の種だ。最初の目的は対人戦闘に優れた者を厳選しメンバーに加えて他国と比べ物にならない力を持った国を創る。お前もどうだ?この大陸をユニオンと言う国にしないか?」
全く予想していなかった答えとあまりにもスケールが大きすぎる話に数秒間、全機能が停止する感覚に襲われる。
この大陸...ウンディー大陸は○○国の領土や○○王国と言った感じではなく、ギルドや冒険者達がルールを作りどの王国にも染まらない自由の大陸ではないのか?
現段階で他国がこのウンディー大陸を奪おうとしないのは力があるからだろう?
無理に国を作れば息苦しくなるだけでは?
アイツの言い方的に国王のポジションは自分、兵士達は自分の命令に従うそれなりの強者。そして国を創る事は通過点...最終的な目的はなんだ?
「最終目的は何だ?って顔だな」
「そりゃね。アンタの言ってる事は現段階では従えない...と言うか理解出来ない。この大陸に国が必要とは思えないしアンタが国王になったら酷い国になりそうじゃん」
鋭い瞳でわたしを睨む男...嫌な眼だ。
「温いんだよこの街にいる連中は。犯罪者には犯罪者の烙印を押しておきながら追わず捕らえず放置...その犯罪者が他国でまた罪を重ねても見向きもしない。他国には 犯罪者を産む大陸 なんて言われてる...」
「で?」
「犯罪者は全員殺す...圧倒的な力でな。そうすれば犯罪に手を染めるバカも産まれない。その後 他国の領土を奪ってこの世界を1つにまとめ誰もが住みやすい世界を創る」
凄い考えを持ったヤツだ。
国を創って国王になって世界をまとめて世界の王になる...子供が読む絵本に登場する悪者をそのまま演じてる様な性格だ。
「世界をまとめるって戦争して奪うって事でオケ?他の種族は?人間だけじゃないでしょ?この世界に生きてるのは」
「悪魔と魔女は毒だ。1匹残らず消す。エルフの知能は使えるな...縄でも付けて飼い慣らすか...人間以外は必要ないが使えそうな生き物は使ってやる」
「うーん...でもさ、そんな事したらアンタの言う世界で最低な犯罪者はアンタだけになるよ?監禁と監視に快感を感じる変態王?」
「目的通りの結果が出れば何でもいい、いい結果が出ればそれは必要な悪だろ?」
「そだね、でももうその計画必要なくない?だってアンタ...自分の頭の中に素敵な世界を持ってるじゃん?素敵な世界が完成しました!おめでとー おつかれー」
付き合っていられない。何が世界だ。人間以外は必要ないって時点でそれは世界でもなんでもない。
平等に なんて言うつもりは無いけどどの種族も住みやすい、生きやすい環境が存在する。例えその環境が小さな範囲でも0と1は全く違う。
必要な悪とか言ってる時点でコイツが最悪な犯罪者だろ。
「そうか、でもお前は色々知りすぎた...帰す訳にはいかない」
「んなっ!?」
コイツ本気で頭オカシイ!勝手にペラペラ喋っておいて断られたら突然斬りかかってくる。
気付くのが遅かったら今頃死んでたぞ!?
「クエスト中にモンスターにやられた。って事にしといてやるから安心しろ」
「何の安心だよ!お前バカすぎるって!!」
やられた。部屋の外にいる門番にフォンごと渡したままだ。今の大声でも誰1人この部屋に来ない事から完全な防音...。
「こうやって何人殺したの?昨日の斧男よりお前の方が犯罪者レベル高いんじゃない?」
「必要悪って言っただろ?」
脅しではなく確実に殺すつもりで剣を振ってくる。会話しつつ距離を取って回避しているがこれも時間の問題だろう...話は終わりだ。とか言われたら完全アウト。
かと言ってコイツを魔術でブッ飛ばせばわたしが最悪な犯罪者になってしまう。
外に出て ユニオンがヤバイぜ!なんて言っても犯罪者の話なんて誰1人信じない。
「どうした?魔術が得意なんだろ?詠唱する時間が欲しいなら待ってやろうか?」
コイツのこの余裕的にやはり魔術で反撃された場合はわたしがユニオン荒し、ユニオン襲撃犯で犯罪者にする作戦か。
勧誘を断られたら殺す、反撃されれば犯罪者。よく考えてるよ。防具も魔法耐性がバカ高いモノを装備しているのだろう。攻め方も大振りでわざと隙を作ってるとしか思えない。
殺されるか犯罪者になるか...どっちを選ぶかなんて考える必要もない。
攻撃を回避した時 やはり大きな隙をわざと作った。このムカつく顔に1発エミリオキックをブチ込んでやる!と攻撃体勢に入ろうとした時、暴れ回った時に倒れていたイスに躓いてしまった。
「終わりだな」
「まてまてまてまて!」
まてまての魔法が炸裂し男は剣を止めた。
「わたしエルフなんだよね、従わないなら飼い慣らすって言ってたでしょ?便利だと思うよーわたしの頭脳。それに友達と会ってる時に連絡きて少し行ってくるって別れたから帰って来なかったらヤバイんじゃないのー?ユニオンへの不信感を日々呟いてる人だしさ」
「バレバレの嘘をつくな」
「んなら、やってみ?小さな火種が世界の種を燃やしちゃうかもね」
苦し紛れの嘘を信じたのか、男はわたしを斬らずに拘束し、エルフらしい...地下牢で飼い慣らしてみる。と仲間に言い今死ぬ事は無くなった。
◆
薄暗く埃っぽい地下牢。灯りも奥のドア付近に1つある程度...見張りの姿もなく両手を後ろで拘束されているだけ。
しかし両手を拘束している鎖が邪魔だ。魔術を詠唱しても鎖が詠唱に反応し魔力を必要以上に出してくる。ファンブルではなくキャンセルさせられる。
下級魔術を詠唱している際に中級魔術に使う量の魔力を注ぐと詠唱がキャンセルされてしまう。
キャンセルされてしまうとその魔力は無駄になってしまい魔術も発動しない。こんな事やる人間はまず存在しないので詠唱キャンセルは地味に知られていない事だが...ユニオンの連中は知っていたのか。
武器もなく魔術も使用不可能。地面や鉄格子に鎖を強くぶつけてみても鎖に傷1つ付かない...面倒な鎖だ。
「さて、どうやって脱出しようかな」
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