第百二十九章 逆襲の剣神

 ずっと逆立ちしたままの冥界の住人シュル・ルシュは不気味に笑う。


「冥界の者に何かを頼むときには取引が必要だぎゃ。それが冥界の決まり事なんだぎゃあ」


 私が戸惑っていると、ウノが話に入ってくる。


「リスタルテ様。取引の際、必要となるもの――それこそが『HP』なのです」

「ええっと、つまり、その……『体力』って意味?」

「いえ。此処、冥界に於いては違います。結論から申し上げると、リスタルテ様には今から辱めを受けて頂くことになります」

「!! えええええええええええ!? 冥王が言ってたのって、この取引のことだったの!?」


 神妙な顔でこくりと頷くウノ。そしてシュル・ルシュが声を上げる。

 

「さぁ時間がもったいないぎゃ! とっとと始めるぎゃ!」


 は、辱めって、まさかエッチなことする気じゃないよね!?


「両手を高く挙げるだぎゃ!」


 怖くて言う通りに出来ない。不安な私に聖哉は言う。


「リスタ。神界を救う為だ」

「ううっ……」


 そう言われてはやらざるを得ない。ま、まぁシュル・ルシュって逆立ちしてるから両手がふさがってるし、変なことされないよね?


 私はおそるおそる手を高く挙げた。その途端、シュル・ルシュが叫ぶ。


リバース逆立て!!」


 ぐるん、と天と地が入れ替わる! 気付けば私の目の前にはシュル・ルシュのにたりと笑う顔! 周りの世界が全て逆さまに見えて……って私、逆立ちしてる!?


「ちょ、ちょっと、アンタ!! いきなり何するのよ!?」


 強制的に逆立ちさせられたことに動揺するが……こ、これが辱め? でもこれくらいなら別に……


 ずるり。


 逆立ちしたことで、私のドレスのスカート部分が腰の方まで落ちた。股の辺りがスースーと風通しよくなっている。自分からは見えないが間違いない。今、私はパンツ丸見え状態だ。


「!? 見ないでええええええええええええ!!」


 聖哉にもセルセウスにも見られていると思うと恥ずかしすぎて叫ぶ! 元の体勢に戻ろうとするが身動きが取れない。どうやらこれはシュル・ルシュの魔法らしい。


 テンパりまくる私を見て、シュル・ルシュとウノがうっとりとした表情を浮かべていた。


「ああ、最高の気分だぎゃあ……!」

「HPで体が満たされていく……何という歓喜でしょう……!」

「ど、どういうこと!?」


 逆立ちしたまま聖哉の方を見ると、コクコクと納得したように頷いていた。


「なるほど。神の痴態を見て、こいつらはエネルギーを得ているらしい」

「わ、私の恥ずかしい姿を見て!?」


 しばしの間を置いて、ウノは厳かに言う。


「その通りです。HPとは『恥ずかしみポイント』の略なのです」

「!? 恥ずかしみ……いや何だソレ!!」


 どうして私が恥ずかしいと冥界の者のエネルギーになるのよ!! 意味分かんない!!


 ふと、隣のセルセウスが私の方を見てニヤニヤしていることに気付く。


「何、見てんだよっ!!」

「えっ。いや見てないよ、見てない見てない。白いパンツなんか全然見てない」

「見てんじゃねえか、この野郎!!」


 するとシュル・ルシュはセルセウスにひょこひょこと近付き、


「リバース!」


 セルセウスも強制的に逆立ちさせた。


「お、お、お、俺もかよ!?」

「これからお前達には、私の言う通りにして貰うだぎゃ」


 ま、まだ辱めが続くというの!?


 おののく私とセルセウスだったが、


「その状態で上から読んでも下から読んでも同じ言葉を連続して二十個、叫ぶだぎゃ」

「ちょ、ちょっと待って!! 何でパンツ丸出しのまま言葉遊びなんかしなくちゃならないのよ!?」

「……出来ないなら取引は不成立だぎゃ」


 聖哉がコホンと咳払いした。「やれ」と言わんばかりの鋭い視線を私に送っている。


 ううっ! 死ぬほどイヤだけど……神界を取り戻す為! 何とか頑張らなきゃ!


「じゃあ……えぇと……『トマト』!」

「はい。じゃあ次、お前だぎゃ」

「……『キュウリ』」

「ダメ。最初からやり直しだぎゃ」


 私はセルセウスのキュウリに愕然とする。


「アンタ、何やってんのォ!?」

「わ、悪い。野菜に引っ張られた。逆立ちしてるから、どうも頭の回転が……」


 確かに段々と頭に血が上ってくる! 苦しい……そしてパートナーはアホ! でも我慢、我慢よリスタルテ! 頑張って神界を救うのよ!


「えっと……『ママ』!」

「うーん。じゃあ『パパ』」

「『一位』!」

「……や、『山本山』?」

「それだと『まやともまや』になるぎゃ。やり直し」


 !? いやもう、ホントアホだわ、コイツ!!


 ゲッソリして傍にいる聖哉に話し掛ける。


「ね、ねえ。聖哉はやらないの?」

「無論、俺がやっても良いのだが、」

「人間より神の方がHPが豊富だぎゃ」

「……だ、そうだ。残念だな」


 ぐうっ! どうして私達だけがこんな汚れ芸人みたいなことを!


 恥ずかしみを通り越して、悔しみと憤りみを感じていると、聖哉が私の頭上から言う。


「頑張れ、リスタ。応援しているぞ」

「えっ……」 


 う、嘘でしょ!! 聖哉が私を励ますなんて!?


「わ、分かったわ!! 私、やるよ!!」


 パンツ丸出しな上、頭に血が上る劣悪な環境。それでも聖哉の応援を励みにして、私はセルセウスと交互に言葉を言い続けた。


「『八百屋』!」

「『マグマ』」

「『南』!」

「『ちくわ』……あっ、リスタごめん……」

「!? お前、いい加減にしろよ!!」


 セルセウスがちょくちょく間違えて足を引っ張るので遅々として進まない。ウノが私に話し掛けてくる。


「リスタルテ様。ずいぶんとHPが減ってしまったのではありませんか?」

「う、うーん、どうだろ。私には恥ずかしみポイントが増えたのか減ったのかなんて分かんないよ」

「あ、いえ。私が今、言ったHPは体力という意味でのHPです。疲れたのではないかと思いまして」

「!? ややこしいな、もう!! そりゃ体力は減ってるよ!! ずうっと逆立ちしてんだから!!」

「や、やはりお疲れのご様子ですね。……シュル・ルシュ。休憩にしましょう?」

「仕方ないぎゃ。十分間だけだぎゃ」


 ホッ、よかった! 少し休める!


 そう思ったのだが、聖哉がこう申し出た。


「いや。時間の無駄だ。このままノンストップで続けてくれ」

「「そ、そんなっ!!」」


 セルセウスと共に叫ぶと、聖哉はもう一度言う。


「お前達。応援しているぞ」


 !? い、今、分かったわ!! コイツのは応援じゃない!! 『応援という名の虐待』よ!!


 結局、休憩無しで進めることになる。……十五分後、私とセルセウスは何とか二十回、反対にしても同じになる言葉を言い切った。達成感よりも、女神として大事なものがまた一つ無くなったような気がして悲しかった。そんな落ち込む私とは逆に、


「ああ、HPをいっぱい貰ったぎゃ」

「ええ。こんなに充実したのは久し振りです」


 シュル・ルシュもウノも嬉しそうだった。そして、ようやく強制逆立ちが解除され、私とセルセウスの体は自由になる。私は大きく息を吐いて、その場にへたり込んだ。


「とにかくこれで、その魔神化ってのを教えてくれるのよね?」

「ん? 何を言ってるぎゃ。もう既に秘儀『タイプ・オポジット形態転換法』は授けているぎゃ」

「ええっ!?」

「今のは辱めでありつつ、同時にオーラと技を伝授する修行でもあったのだぎゃ」

「じゃあ私達、魔神になれるの!?」

「もう一度逆立ちして、自分の名前を逆さまに唱えるぎゃ」


 私は言われるままに逆立ちする。パンツは全開だが、何かもう別にいいや!


 ――ええっと、私の名前を逆さに読むと……


「テルタスリ!」


 突然、『ぼん!』という音がして私の周りが煙に包まれる。煙が晴れた後、私は自分の体の変化に驚く。着ていた純白のドレスが黒い革のドレスになって、腕や脚の皮膚も何だか日焼けしたように浅黒い。


「わ、私、今どうなってんの!?」

「リスタルテ様。姿見がこちらに」


 ウノが指し示した鏡に全身を映して驚いてしまう。


 胸元の開いた黒革のドレス。そこから突き出しているのは浅黒い皮膚の手足。いつもより艶っぽい唇。そして何より、背中にはコウモリのような羽! お尻から生えた尻尾! 何だかちょっと小悪魔っぽい!


「こ、これが魔神化……! ちょっとセクシーかも……!」


 どうなることかと心配していたが案外、気に入ってしまった。逆立ち頑張って良かったかも!


「ねえ、聖哉! 私、魔神になれたよ! 何すれば良い?」

「そうだな。特に用はない。眠っていろ」

「!? せっかく頑張って魔神になったのに、いつもと変わんねえな!!」

「多少、能力が上がったところでお前は戦闘向きではないだろうが」

「そ、そりゃあそうかもだけど!」

「メインはこっちだ」


 私の変化を見てセルセウスも息を荒立てる。


「よ、ようし! 俺もやるぞ! ……スウセルセ!」


 ぼん、と音がしてセルセウスが煙に包まれる。やがて煙が晴れた後、その場に立ち尽くすセルセウスがいた。しかし、それはいつものセルセウスではない。


 私と同じように肌が浅黒くなっているのは勿論、より全身の筋肉量が増している。そして何故か黒革のジャケットに、ジャラジャラとしたシルバーのアクセサリーやドクロのペンダントを付けていた。中でも私が一番、驚いたのは頭に牛のような角が生えていることだ。


「何だコレは……! 今まで感じたこともない程、力が満ちている! これが俺の体なのか……!」

「ほう。どうやら少しは剣神らしいステータスになったようだな。それでは早速ウノポルタの家に戻った後でトレーニングを開始しよう」


 ――こ、この後、またトレーニングするの!?


 逆立ち拷問の後である。今日はもうゆっくり休みたい。しかし、意外にもセルセウスは不敵な笑みを浮かべていた。


「ああ、いいぞ。それじゃあ修行を始めようじゃないか」



 



 シュル・ルシュと別れた後、すぐに私達はポルタ邸に戻ってきた。広い庭は夜だというのに魔光石の付けられた外灯のお陰でほの明るい。聖哉とセルセウスが兄のドゥエポルタに用意して貰った木刀を受け取る。


「聖哉。油断しちゃダメだよ。セルセウスは魔神化して能力値が十倍になってるんだからね?」

「冥王の話を聞いている時、冥界を歩いている時、そしてお前達が逆さ女と遊んでいる時、密かに自主トレを続けていた。そこそこレベルは上がっている」

「そ、そーなんだ……ってか別に遊んでねえし!」


 叫ぶ私を無視し、ワイルドな容姿になったセルセウスと木刀を構えて向かい合う。


「よし、セルセウス。全力で来い」

「……分かった」


 セルセウスが呟く――と同時に姿が消える! 鈍い音が聞こえたと思った次の瞬間、木刀を振り切ったセルセウスと腹を押さえて、うずくまる聖哉の姿があった。


「ちょ、ちょっと、セルセウス!? 聖哉はまだまだレベル、低いのよ!? そんないきなり、」

「『全力で』と言われたから、そうしたまでよ」


 それにしても聖哉がセルセウスに一撃、喰らわされるなんて!!


 腹を押さえながら聖哉が立ち上がる。


「いいぞ、セルセウス。続けよう」

「ふふ。俺は木刀無しでも構わんよ」


 ……その後はまるでリンチだった。素手のセルセウスは聖哉の剣を軽々とかわしつつ、強烈な拳を体に打ち込む。聖哉の体がくの字に折れる。ラッシュを浴び、体が前後左右に揺れた。


 や、やだ! 何よ、コレ! 聖哉がセルセウスなんかにズタボロにやられてる!


 見ていられなくて私は間に割って入った。 


「やめてよ、セルセウス!!」

「どうした、リスタ? 俺は修行に付き合ってやっているだけだぞ?」

「こんなの今までの仕返しじゃない!!」

「……どけ。リスタ」


 だが、フラフラになりながらも聖哉は立ち上がり、アザだらけの顔で庭に血の唾を吐いた。


「セルセウス。続けてくれ」

「ほうほう。良い度胸だ」


 だが、私は聖哉の体が赤黒いオーラに包まれていることに気付く。


「……ステイト・バーサーク状態狂戦士


 おおっ! 能力値を倍にした! これできっと魔神化したセルセウスとも渡り合えるわ!


 だが狂戦士となった後、大上段から降り下ろした聖哉の木刀を、セルセウスは人差し指だけで止めた。


「何だソレは。痛くもかゆくもないぞ」


 にやりと笑い、腕を振りかぶる。


「受けてみろ! これが魔神の絶大なるパワーだ!」


 代わってセルセウスの拳が聖哉の顔面を直撃! ゴッという音が響き、聖哉は数メートル弾き飛ばされた。


 ――い、今までの聖哉とセルセウスとの修行と真逆! いくら聖哉のレベルが低いからって……魔神化ってこれ程すごいんだ……!


 セルセウスが血の付いた拳を払いながら言う。


「そろそろ眠くなってきた。今日はここまでにしておいてやろう。続きはまた明日だ」






 セルセウスが悠々と洋館に戻った後、聖哉は庭園に大の字になって倒れていた。


「何なのよ、アイツ! 強くなったら態度、豹変するなんて! ホント最低!」


 私は聖哉を膝枕して、治癒魔法を唱える。まるで凶悪な魔物にやられたように酷い傷だ。制限された私の治癒魔法ではすぐに治らない。


「ごめんね。こんなことになって」


 傷を負う聖哉を見るのは珍しい。私は何だか、居たたまれないような気分になる。しばらく無言の後、聖哉はぼそりと言う。


「トレーニングは順調だ。それに面倒は、いつものことだろう?」

「で、でも今回は異世界の救済っていうよりは、神界のゴタゴタに巻き込んじゃったみたいで……」

「俺にとっても、この件は無関係ではない」

「えっ」

「メルサイスが何故、神界を追放されたのか定かではない。最奥神界のやり方も客観的に見て非があるように思う。それでも、」


 満身創痍ながらもその目は鋭く尖っていた。


「前回からのやりかけの仕事だ。メルサイスは必ず倒す」

「う、うん」


 そして聖哉はゆっくりと立ち上がり、歩き出す。私は胸に付けたキリコのペンダントを握りしめながら、去りゆく聖哉の背中を眺めていた。

 




 


 翌朝。


 ウノに割り当てられた部屋のベッドで寝ていると、遠くで剣を打ち鳴らす音がした。ビックリして飛び起き、庭に向かうと案の定、セルセウスと聖哉が稽古を始めている。いや……一方的なリンチを。


「喰らえ、魔神斬り!」


 目にも止まらぬセルセウスの剣技をかわせず、木刀が聖哉の肩にめり込む。骨のきしむ音がして聖哉はその場にくずおれた。


「もうやめてよ!!」


 私は聖哉の前で両手を広げるが、背後から聖哉自身に押し退けられる。


「……続けてくれ」

「ならば何度でも思い知るが良い! 魔神の絶大なるパワーをな!」


 狂戦士と化している聖哉はどうにかしてセルセウスの技をかわそうとするが、体も目も追いついていないようだ。セルセウスの優位は圧倒的。何度やられても立ち上がる聖哉だったが、強烈な突きをみぞおちに喰らい、顔を歪めて動かなくなる。私は聖哉に駆け寄った。


「聖哉! ここまでやる必要ないよ! 今までみたいに、もっと時間をかけてゆっくり準備して強くなればいいじゃん!」

「……三つの捻れた異世界を救い、神域の勇者と共にいるメルサイスを倒すことは、これまでとは比べものにならない程の難関。今まで通りの修行ではおそらく追いつかない」

「だからって!」


 聖哉がふらりと立ち上がるのを見て、セルセウスが溜め息を吐いた。


「何だかもう面倒くせえなあ。強烈な一撃で気絶させて、今日の修行は終了といこうか」


 セルセウスの体から黒いオーラが溢れる! そして木刀を大きく引いて聖哉に飛びかかった!


「ふはははは!! 全力魔神斬り!!」


 ――聖哉っ!!


 私は思わず目を瞑ってしまう。そしてその後、そろりと目を開けて……驚く! 何と、聖哉が片手でセルセウスの木刀を受け止めていた!


「あ、あれっ……?」


 セルセウスが素っ頓狂な声を出す。


「現在レベル58。いいぞ、セルセウス。お前のお陰で短期間で急速に成長している」


 目が点になって、後ずさるセルセウスに続けて言う。


「それでは、そろそろステイト・バーサーク状態狂戦士の段階を上げてみるか」

「ええっ!? 聖哉、ギリギリまで上げてたんじゃないの!?」

「今まで1.1倍に留めておいた。これが本来のステイト・バーサークだ」


 途端、聖哉の外見が変化する。髪はより赤く染まり、口から鋭い牙を剥いた。


ステイトバーサーク・フェイズセカンド状態狂戦士・第二段階


 セルセウスのオーラを上回る狂気の赤黒いオーラが全身から噴出する!


「更にステイトバーサーク・フェイズ2.8……」


 自身に出来る最大限まで狂戦士化を進める! 凄まじい覇気に私の体がビリビリと痺れた!


「それでは行くぞ、セルセウス」

「えっ。いやちょっと待っ、」


 赤の軌跡がセルセウスを通過した途端『パキッ』と乾いた音がした。一瞬何が起きたのか分からなかったが、


「!? 痛ったああああああああああい!!」


 情けない声で魔神が叫ぶ。見ればセルセウスの角が片方無い。聖哉は落ちたセルセウスの角を拾い、見詰めていた。


「おや。何か落ちたぞ。何だコレは。ゴミか?」

「ゴミじゃねえよ!! 俺の角だよ!! 返せよ!!」


 聖哉は「フン」と鼻を鳴らして、セルセウスの角を庭の草むらに放り捨てた。木刀を持っていない方の拳を、片手でこきりと鳴らす。


「冥界にはしばらく滞在するつもりでいたが、どうやら随分と早く仕上がりそうだ」

「そ、そう……ですか……」


 角を折られたセルセウスは同時に心も折られたようだ。いつもの情けない愛想笑いを浮かべる。


「いやあ、お役に立てて良かったです! それじゃあ僕はこの辺で失礼しますね!」

「それは魔神ジョークか?」

「ええっと、別にジョークではなく……」

「まだまだ日も高い。レベルMAXになるまでこれから毎日、食事睡眠を極限まで切り詰めてトレーニングに付き合って貰うぞ」

「そ、そんな……!」

「さぁ『魔神の絶大なるパワー』を見せてくれ」

「いやあの、絶大っていうかよく考えたらそんなに絶大でもないっていうか……むしろ卑小で矮小っていうか……」


 こうして結局、いつも通りの見慣れた関係に戻ったのだが……まぁうん、憐れむ気にもなんないわ! セルセウス、ざまぁ!


 それにしても『修行効果を高める為に狂戦士状態をあえて低く設定し、魔神化したセルセウスに自身をギリギリの状態まで痛めつけさせる』。今までとは違う冥界でのトレーニングで、私は聖哉の決意を見たような気がした。


 ――そう……全ては捻れた世界を救い、メルサイスと神域の勇者を倒す為! 


 そして。


「痛い痛い痛い痛い!! 助けてえええええええええええええええええええ!!」


 叫ぶセルセウスに無表情で木刀を叩き付ける聖哉の方が、もっとずっと魔神に思えてくるのであった。

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