女の文学論(十一)

「そもそも痺れ薬なんてどうやって手に入れたのです?」

 曹節が訊ねる。

「名医である華佗が全国を回って旅をしていた頃、この涼州にも足を運んだのですわ。その際、戦場で傷ついた人たちを治癒するために手術に用いた麻酔薬の処方箋が残っていましたの。あたしはそれを手に入れて必要な薬草を探し、自分で調合しましたの」

 一同は王異の行動力に感嘆の声をあげた。

「お陰で私たちは幸せになりました。あの人の戦っている姿をみて、あれほど私を愛してくれる人は生涯現れないと思いましたから」

 曹華と清河長公主は互いに顔を見合わせた。

 彼女たちにしてみれば父親に逆らうなど信じられない。なにせ彼女の父親は『乱世の姦雄』といわれた男なのだ。

 しかし、曹節は複雑な表情をしていた。

「素人が薬になど手を出すものではありません。麻酔薬の使用はたいへんな危険をともなうと聞いたことがあります。いくら好きな人と結ばれるためとはいえ、滅多なことで使ってはいけません。お父様の命に係わることになったかもしれないんですよ」

 諭すように言われると、王異も反省の色を見せた。

「そうでございますわね……。あの頃は若かったと言わざるを得ません。恋は人の思慮を無くしますわね」

「それで、肝心の部分はどうなったのかしら?」

「え?」

「たしかに素晴らしいお話だわ。でもその続きが聞きたいわ」

 曹華は笑って話の先を急かした。王異を困らせてやろうという意図が見え隠れしていた。

 王異の顔から、また表情が消えた。

 涼州で生まれて戦塵のさなかを生き抜いた王異は、曹華が考えているような弱いな女ではなかった。

 まだ小娘にすぎない曹華に対して、成熟した女としての『何か』が鎌首をもたげた。

「聞きたいことはこういうことでございましょうか?」

 そして、曹華の目の前に拳を突き出すと人差し指を立てた。

「痛いかどうか、ということが聞きたいのでございましょう?」

 曹華は王異の人差し指を凝視した。女にしては力強い指だった。

 敵前で自ら弓を引いて戦ったと聞いているが、指が厚くて太い。

「そ、それが入るの……?」

「失礼。間違えました」

 王異は続けて中指を立てた。

「2本……」

 曹華は己の指を2本立てて凝視した。

「晴玉さま。そうではありません」

 さらに王異は薬指を立てた。

 曹華は、目を剥いた。

「それは……!! 王異さん、私を驚かそうとして嘘をついてないかしら!?」

「指をあてて測りましたから間違いないですわ」

「さすがにそれは怖がらせようとしているのよね……。そうでしょう? 一番上のお姉さま?」

 曹華は清河長公主に同意を求めた。

「すこし大袈裟だけどあながち嘘でもないわ……」

 それを聞いた曹華の顔色はみるみる蒼ざめていった。

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