女の文学論(十)
(これは逃げられぬ……)
劉協は観念した。
劉協は、曹節がという女が得体のしれない化物のように思えてきた。
「くだらない文学論よりもこっちのが面白いわ……いや、こういう血の通った話こそが本当の文学というべきかしら」
身を乗り出して訊ねる曹華の目が爛々と輝いている。
「私と夫の馴れ初めですか?」
「そうそう。なるべく詳しく」
清河長公主は手酌で酒を飲み始めた。
「あなたもどうですか?」
曹節が関飛に化けた劉協に酒をすすめた。
「いや、それは畏れ多い……」
「あら? 私の酒が飲めないのですか?」
劉協は、この場では漢の皇帝ではなかった。一介の書生に過ぎない。
劉協はしぶしぶ従った。
「私たちの結婚は親同士で決めた結婚ではなかったんです」
「というと、恋愛!?」
と、曹華。
「ええ、まあ。初恋は別の人だったんですけど……」
「素晴らしいですわ」
うっとりとした表情の清河長公主が一息に酒を飲み干す。空になった杯に曹節が黙って酒を注ぐ。
「それでどちらから言い寄ったんですか?」
「それは夫から」
「まぁ」
清河長公主は弾んだ声を出した。
「夫は今でこそ馬超を追い返すほどの人物になりましたが、昔は気が弱く、私を好きになっても一年は何も言い出せず、布団をかぶって悶々とした日々を過ごしていたそうですよ。ある日、意を決していきなり我が家にやってきて私と結婚したいと父に談判したのです」
「それで? それで?」
曹華が話の続きをせがむ。
「父は娘を弱い男に嫁がせるわけにはいかないと。剣で勝負して勝ったらあたしをくれてやるって。それが夫は散々に負けて……。来る日も来る日も挑戦したんだけど負け続けて……。夫は襤褸のようになったわ。でも夫はあきらめず……」
「最後に勝ったのね!?」
「ええ。試合の前に父に痺れ薬を飲ませましたから」
曹華をはじめ、みな愕然とした。
「なんという思い切ったことを……」
清河長公主は怯えたようにつぶやいた。
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