女の文学論(六)
「では最初に誰から話しますか?」
王異が問うたが返事がなかったので、
「それでは辛さんからどうぞ」
「え? 私からですか……?」
突然指名された辛憲英はすこし驚いたが、どのみち話さなければいけないので先陣を切って文学について語ることにした。
「そもそも文芸というのは人を啓蒙するような内容でなければいけません。上っ面だけの面白さを追ってばかりではいけません。軽薄なのは駄目で、価値がなければいけないのです」
「でも、面白くなければ誰も読まないわよ」
曹華が呟く。
辛憲英はむっとしたが話をつづけた。
「孔子の教えは数百年経った今もなお生き続けています。小手先ばかりの文面を弄った文章などよりも、五経(儒学の教科書)をまず学ぶべきだと思いますわ」
曹節は、王異の方を向いた。
「次はあなたの番ですよ」
うなずいた王異は、語りはじめた。
「どんなに勉強しても勇気がなければ人間は役に立ちませんわ。敵と立ち向かうこと、国を愛すること。今の時勢には英雄を作る文学がありませんわ」
「勇気ばかりの匹夫が生まれそうだわ」
王異は曹華を睨んだが、またすぐに話をつづけた。
「高祖(漢の創設者劉邦)や光武帝(漢の中興の祖)、または高祖を支えた軍師張良、または武帝に使えた衛青や霍去病(匈奴討伐に功のあった将軍)に憧れるような文学を作らなければならないのです。いまの我が国の文学は女々しすぎます。男は若くて気の強い女に言い寄られるような、また女は美しい小説に誘惑されるような小説ばかり望んでいるような気がしてなりません」
「あら? それはいけないことかしら?」
そう言ったのは清河長公主だった。
「やはり文学には胸にときめくものがなければいけませんわ。日常の生活なんて退屈ですもの。夢のような恋愛など現実にはないものですわ。だからこそ、文学の世界では花咲き乱れるような愛の世界を……」
「ずいぶん甘ったるい文学ですこと。男は読まないでしょうね」
「ちょっと、あなた」
清河長公主は声を荒げた。
「さっきから横槍入れてばかりだけど、そこまで言うからにはきっと素晴らしい考えがあるのでしょうね?」
「ええ。もちろん」
「では仰いなさい」
「簡単ですわ。お三方の内容を全部盛り込んだ話を作ればいいのですわ」
三人とも開いた口がふさがらなかった。
「まるで子供の意見だわ……」
「子供の意見が真実を言い当てていることだってあるのですよ」
「屁理屈よ! あなたも漢豊のようにしっかりした大人の女性になったらどう?」
「あら? 漢豊お姉さまはたしかに賢いけど、果たして本当の意味で大人になったと言えるかしら?」
「どういうこと?」
「たしかに陛下には立派に仕えていますよ。でも、陛下は私たちのことを大事に扱ってはくれますけど、大人扱いしてくれているかどうかは……」
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