新任理事は穴あき団地妻

作者 大橋慶三

202

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★★★ Excellent!!!

この作者の処女作は、購入して読みました。その時はそんなに惹かれませんでしたが、今回の作品はリアルな?いつの間にか自分に置き換えて読んでる自分が、、、別のものも読んでみたいと思いました。

★★★ Excellent!!!

決して大げさではない。この小説は、物語の殻を借りた人生の応援歌だ。眠れない夜に、人生の岐路に立ったときに、背中をそっと押してくれる友だ。
それぞれの正義や当事者にとっての想い。それがひしめきあうのが我々が生きる世界、現実だ。ではどのようにサヴァイヴしていくのか。この作家は一つの方法を提示している。

舞台は郊外のマンモス団地。第一部は、ある事件により精神の病気にかかってしまった主人公・加奈の、自分を取り戻していく物語だ。第一章では母子の繋がりを、第二章では恋する老人の生き様を、第三章では傷のある過去を引きずる役者の姿を、映像が目に浮かんでくるような生き生きとした描写で示していく。読み手は、加奈の目線で、登場人物の目線で、それぞれに当てはまる感情に移入することができる。それはNHKの朝の連続ドラマの続きを楽しみにするような、とても幸せな読書体験だ。

しかし第二部からは(第一部の最後から)次第に不穏な空気が滲み出す。どこか穏やかでのどかだった第一部とは一変し、自分がいつも見ている足元が崩れ去っていく。それは大穴や、秘密の地下室として具体的に表出される。穴の出現を契機に、問題を抱えていた当事者たちが、次第に本音を吐露していく。加奈はそんな人たちを尻目に、自分にとっての当事者意識とは何なのか、ぶつかりながら動き、存在を消した夫との関係や、病気を発症し苦しめる原因となった人物に向き合っていくことを選ぶ。

物語の後半に加奈が発する、「~お互いにわかりあえるはずなんてないんだよね。あんな小さな団地ですらそれぞれの正義がぶつかりあってる~」というセリフ。加奈がこの言葉を身体に入れるためには(当事者意識になるには)、色々な他人の物語を通過するしかなかった。
そもそも人間は、社会と関わることでしか生きていけない。そこで発生するどんなに小さなコミュニケーションにも、このことは付きまとう。果…続きを読む

★★★ Excellent!!!

私が学生時代を団地で過ごした事もあり、その独特の世界感が匂ってくるほど生々しく描かれていていると感じた。事実、穴は開かなかったがこの話に出てくる登場人物の設定に近い住人や出来事を目の当たりにした少年時代だった。現代のドライな人間関係では想像できない事が起こりその混沌の中には光と影があった。主人公が関わる人との経験を投影する事によってそれが私の人格を形成する上で不可欠な要素だった事を気づかされた。
設定的にミステリアスな要素もあるがミステリー小説を読んでいる時のドキドキというよりは、小学生の時の初めての読書とも言える「ズッコケ三人組」を読んだ時のワクワク感に通ずる読みやすさと爽快感で一気に読み終えた。
ただそれは決してただの冒険心を掻き立てるだけの幼稚な表現ではなく、時に鋭利に刺さり、また時には暖かく包まれ、その緩急にリアルが混ざる事によって作者のワールドに引き込まれる。
多分、団地に住んだ私の世代にも平成生まれの人達にも楽しめるこれぞエンターテイメントと呼べる作品だと思う。
今後期待する点としては、登場人物の存在意義や展開の仕方をグレードアップさせて、読んでも映像化しても楽しめる作品を作って欲しいと思う。