第12話◆ 知らないだけで一番損するかもしれない制度『平均課税』

 今回は、プロデビューした人はもちろんとして、まだしていない人にとっても覚えておくと非常に有効な話です。しかも効果のほどは、あの青色申告特別控除も真っ青なほど!(青色だけに)


 それが『平均課税』という制度です


 これはもうは節税制度のラスボスとも言える、非常に効果の高い制度です。

 ただし! 信じられないほど計算が厄介です。なので、今ここでその計算方法について把握する必要はありません。(本エッセイでも一応ざっくり解説しておりますが、私も詳細には解説したくありません。本当に信じられないほど厄介なんです)


 ただ、ざっくり概要だけでも、特にどのような状況下で大きな効果を発揮するかだけでも知っていってください。付け加えると、もし平均課税の適用が必要な状況になるとしたら、それなりの収入もあるはずですので税理士さんに相談する方がいいです。


 特に是非覚えておいて欲しいのですが、平均課税のいいところは、制度を適用したいときに適用すればいいということです。平均課税が使えない年・効果が大して見込めない年は使わなければいいだけなんです。


 というわけでざっくり解説を始めましょう。

 平均課税とは簡単に言うと『今年の所得を、一昨年・去年分の所得で平均化し、結果的に支払う所得税を安くすることができる』というものなんです。(住民税、国保は安くなりません)


 たとえば一昨年・去年・今年の所得がそれぞれ100万・150万・500万だったとしましょう。こちらをご覧ください。


(※所得税は平成27年の式で計算しております)


例1:今年だけ収入が増えた場合(経費50万、控除38万として)

 一昨年 年収150万 所得100万 所得税  3万1000

 去年  年収200万 所得150万 所得税  5万6000

 今年  年収550万 所得500万 所得税 49万6500

 合計    900万   750万     58万3500


 こうなると当然ながら所得500万だった今年支払う所得税は結構な額になります。ですが、もしこの500万という所得を、一昨年・去年の額と平均化することができれば、所得税がかなり安くなるということはお察しいただけると思います。


 なお、詳しくは後述しますが、この例で平均課税を適用した場合、所得500万の所得税49万6500円が、23万1000円になります。実に25万の節税効果! 青色申告特別控除も真っ青です! 青色だけに!


 ただし――何度も言いますが、適用条件や計算が非常に厄介です。実は今回の投稿、前回からちょっと時間が空いてしまったのですが、それも税理士さんに何度も確認を取ってたためなんですよね……。その計算は、どんなベテランの税理士さんでも暗算できないと言われるほどだとかで。


 というわけでまずは『平均課税』が適用可能な条件について。


 ただし、実は小説家や漫画家さんであれば問題ありません。

 すごくざっくり言いますと、原稿料や印税収入が総所得の20%以上を占めていればOKなんです。小説家や漫画家をやっていればどうやっても原稿料や印税が収入のほとんどを占めることになるので大丈夫です。(兼業による収入がよっぽど多いとかですと問題が生じる場合もありますが)


 問題はライターやイラストレーターさんの場合で、これは契約状況次第になるんですよね……。というわけで、以下詳しく解説しますが、関係ないと思えば読み飛ばして頂いても構いません。


――――――平均課税が適用可能な所得のお話―――――――


 小説家や漫画家であればOKと書きましたが、正しくは総所得の二割以上が『変動所得』であれば、平均課税が適用可能なんです。


(注:あと『臨時所得』もOKなんですが、臨時所得は作家・ライター等にはあまり関係ないので本エッセイでは触れません。不動産とか船舶貸与の権利金とか、プロ野球選手の契約金とかそういうのです。ややこしくなるので触れたくないというのが本音ですが)


 では『変動所得』とは? 簡単に言えば漁師や小説家など、いかにも年収が毎年上下しそうな職業で得られる収入が、大体変動所得になります。

 これが非常に厳密に定められている一方、なかなか興味深いので国税庁のサイトから転載してみましょう。


1・漁獲又はのりの採取から生ずる所得

2・はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝又は真珠(真珠貝を含む。)の養殖から生ずる所得

3・原稿又は作曲の報酬に係る所得及び著作権の使用料に係る所得


 唐突に出てくるはまちに草wwwwみたいなコメントをしたくなりますね。今後、養殖の種類が増えたらその都度条文変わっていくらしいです。ちなみに、『のりの採取』はいいらしいですが、『こんぶ、わかめ、てんぐさ等の水産植物の採取』はダメらしいです。(本当にそう書いてるんですよね……)


 とにかく、作家・漫画家さんとかでしたら大体の場合、3に該当するわけですから大丈夫です。問題はイラストレーターさんや、ブロガーさんとかですね……。残念ながら現時点ではアフィリエイト収入などは変動所得になりそうもありません。また、著作権の発生しない買い切りのお仕事なども、該当しない場合があります。(契約状況次第ですね)


 また、前述したように『変動所得がその年の総所得の20%以上であること』という条件もあるんですが、専業の作家や漫画家などの場合、収入はほとんどが変動所得になる……というか変動所得に頼らざるを得なくなるわけですから、まず問題ないと思います。


――――――ここまで――――――


 さて、では続いて平均課税がどれぐらいの効果を生むかを解説していきましょう。


 まず前提として、所得税は年収が高いほど税金が高くなります。たとえば、冒頭で挙げた例をもう一度再掲してみましょう。


例1:今年だけ収入が増えた場合(経費50万、控除38万として)

 一昨年 年収150万 所得100万 所得税  3万1000

 去年  年収200万 所得150万 所得税  5万6000

 今年  年収550万 所得500万 所得税 49万6500

 合計    900万   750万     58万3500


 今年の分だけ所得税が跳ね上がっております。


 そこで今度は、三年連続で年収が300万だった場合を見てみましょう。当たり前ですが3年間で得られる合計収入は同じ1900万なわけですが……。


例2:三年間収入が同じだった場合(経費50万、控除38万として)

 一昨年 年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 去年  年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 今年  年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 合計    900万   750万     34万3500


 お分かりいただけるでしょうか……。


 三年間同じ収入の例2より、一年だけ極端に年収が上がった例1の方が支払う所得税は24万も高くなってるんです。


 これは不公平ですし、なにより大変困ります。たとえば我々フリーランスの場合、働きアリのごとく年収が多い年に貯金して、その後に備えなければならないわけですし。


 おまけに例1の場合、年収600万あった翌年には、非常に高くなった住民税・国保を支払う必要もあるわけです。これでは貯金どころではありません。


 ただ、さすがにこれでは不平等だということで国が用意してくれたのが、『平均課税』なわけですね。

(逆に言うと、お分かりいただけるでしょうか……。この制度のことを知らないだけで、どれだけ余計に税金を納めることになるかを……)


 では平均課税による節税効果がどれぐらいあるかを具体的に見ていきましょう。


 前述しましたが、例一の場合、平均課税を適用すれば25万も所得税が安くなります。以下なぜそうなるかという解説になりますが、正直ややこしいです。恐らく本エッセイの中でも一番ややこしい計算です……!


 もし面倒になったら読み飛ばしてください本当に。計算方法なんて必要になってから知ればいいわけです。


―――――――平均課税のクソややこしい計算方法―――――――


 まず始めに、一点思い出して欲しいことがあります。


・年収から経費を引いたものが『所得』

・所得から控除を引いたものが『課税される所得金額』ないし『課税所得』


 つまり年収から経費・控除を引いた額が所得税の対象金額となるわけですね。

 本エッセイでも過去に触れましたが、この概念を覚えておかないと平均課税は計算できないんです……。


 続いてこちらを再掲しておきます。平成27年の所得税率一覧です。


課税される所得金額      税率  控除額

195万円以下          5%  0

195万円を超え 330万円以下  10%  97,500

330万円を超え 695万円以下  20%  427,500

695万円を超え 900万円以下  23%  636,000

900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000

1,800万円を超え4.000万円以下 40% 2,796,000

4,000万円超          45% 4,796,000


 この表の通り、所得税は課税される所得金額に応じて5%、10%、20%とパーセンテージが増えていきます。だから前述の例1のように、所得が『100万、150万、500万』と三年目だけ突出すると、控除が基礎控除しかなかった場合、その年だけ税率は20%にもなり、所得税がかなり上がってしまうわけですね。


 一方で、三年目だけ突出した所得を過去二年分と平均化することで下げられれば、かなり所得税を低く抑えることができるわけです。


(注:でも住民税と国保は別です! つまり年収が突出して高い年があると、翌年の住民税と国保の請求がびっくりするほど高くなることだけは避けられません。国保は文美に切り替えておけば防げますが)


 さて、では実際に平均課税制度を適用してみましょう。先ほどの例1をそのまま使います。


例1:今年だけ収入が増えた場合(経費50万、控除38万として)

 一昨年 年収150万 所得100万 所得税  3万1000

 去年  年収200万 所得150万 所得税  5万6000

 今年  年収550万 所得500万 所得税 49万6500

 合計    900万   750万     58万3500


 この条件で平均課税制度を利用したとします。

 そのためにはまず去年と一昨年の所得の平均を出します。つまり足して2で割るわけです。


『一昨年の所得100万』+『去年の所得150万』÷2=125万


 次に今年の所得500万から上記の平均値を引きます。

 500万-125万=375万 ①


 続いて今年の所得から課税所得を出します。つまり控除を引くわけですね。

 今回は基礎控除38万だけなので、500万-38万=462万 ② です。


(注:実はここで①と②のどちらが大きいかで以下の計算式が変わったりするらしいです。でも今回は平均課税の概要をざっくり知ってもらうのが目的なので割愛させてください)


 で、こういう計算をします。


(500万-38万)-375万×4÷5=162万


 なんで×4とか÷5が出てきてるのかとか聞かないでください……。いや多分理由はあるとは思うんですが、とにかくこういう計算をするんです。しろって言われるんです。


 で、ここで出てきた162万という数値を元に所得税率を出します。

 前述の所得税率一覧から、162万の場合の所得税率は5%。(所得控除は気にしないでいいです)

 すると①の462万から162万を引いた残りの300万についての所得税率が5%になるんです。

 つまり今年の課税所得462万について、300万分が税率5%。162万分について税率5%。


 300万×5%+162万×5%=23万1000円という計算になるわけですね。

(もし間違ってたら誰かご指摘ください……)


 なお、前述しましたが平均課税は所得税にしか適用できません。所得税はかなり安くなっても、住民税・国保の請求は高いままなので気をつけましょう。


--------ここまで---------


 いかがでしたでしょうか?


 とにかくなにか平均化っぽいことをやっていて、なんやかんやで今年の所得税が安くなってることだけはお分かり頂けるんじゃないかと思います。


 できる限り簡潔にまとめますと、『今年の500万という所得に本来かかる所得税率20%を、一昨年・去年の所得の平均値から割り出した所得税5%にできる』みたいな感じらしいです。(注:厳密に計算すると二割ぐらいの差異は出ますが!)


 つまり一昨年・去年・今年の課税所得が300万・300万・1000万だったとしましょう。

 300万の所得税率は10%。1000万なら33%です。

 ここで平均課税を適用すると、課税所得1000万にかかる税率が、本来なら33%のところが10%になるようなものと考えればいいと思います。(注:厳密に計算したら絶対差異は出ます!)


 ちなみに、こういう計算の関係上、3年間の所得、厳密に言えば『所得税率』が同じだった場合、平均課税を適用する意味はなくなるそうです。つまり、前述の例2のような場合ですね。


例2:三年間収入が同じだった場合(経費50万、控除38万として)

 一昨年 年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 去年  年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 今年  年収300万 所得250万 所得税 11万4500

 合計    900万   750万     34万3500


 また、三年間の所得に大きな増減があったとしても、常に所得税率が最大ランクになるような場合も、適用は意味がありません。

 つまり、次のような場合です。


例3:三年間、収入が極端に高かった場合

 一昨年 所得5000万 税率 45% 所得税 1970万4000円

 去年  所得6000万 税率 45% 所得税 2220万4000円

 今年  所得1億    税率 45% 所得税 4020万4000円


 見ての通り、この場合も所得に大きなバラ付きがあります。いかにも平均化したら節税できそうな感じです。


 ですがいずれの年も、所得税が最大の45%です。

 この状態で平均課税を適用しても、税率は結局45%なので効果がないそうです。


 ちなみに。平均課税については実はものすごい有効な使い方があります。


 平均課税は、一昨年・去年の変動所得の平均値が重要になってくる。


 これを見てあることに気付きませんか? 

 デビュー一年目に莫大な効果が発生する可能性があるということです。


 考えてもみてください、作家としてデビューした一年目は、当然ながら一昨年・去年の変動所得はゼロです。


 するとどうなるか。一昨年・去年の平均値はゼロですから、デビュー一年目の収入はほぼ全額が平均課税の対象になる、すなわち年収がそれなりの額になったとしても、所得税は5%で済む可能性があるわけですね。

(年収が極端に多ければ5%より高くなるかもしれませんが、いずれにせよ平均化の恩恵はたっぷり受けられるわけです)


 というわけで、以上が平均課税のざっくりな仕組みです。


 前にも書きましたが、フリーランスは年収が大きく増減するのが特徴です。つまり減ることもあれば増えることも珍しくありません。


 年収が極端に増えた年――というか『所得税率』が極端に上がった年があった場合、退職金の積立額の増加だけではなく、この平均課税も忘れずに利用しましょう。状況によってはこれだけで50万ぐらい簡単に節税できることもあります。


 ちなみに平均課税のやり方ですが。

 今回だけは、『解説しているサイトがたくさんあるのでそちらをご覧ください』とはなかなか言えません。だってこんなややこしい計算見たことありませんもん。


 なので、年収が極端に増える年があったら、その年だけでも税理士さんを雇うないし相談することを検討した方がいいと思います。ふるさと納税とか、他の制度と組み合わせると、もっと複雑になりますしね……。



――――――――読み飛ばしていいオマケ―――――――――


 国税庁の『変動所得・臨時所得の平均課税の計算書』のURLを貼っておきます。

 正しくはどういう計算するのか見てみたい人は、是非ちらっと見てみてください。なにも知識ない状態で見たら並のホラーより怖いです……。

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2005/category/kakutei/tempu/pdf/011.pdf

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