第8話◆ 知らないと30万損する! 国民健康保険と文芸美術健康保険

 毎度毎度、詐欺臭いタイトルですいません。

 いやでも本当にタイトルに偽りはありません。結構有名な話でもありますし。


 今更ですが、我々が普段病院で支払う医療費は、総額の3割程度です。

(注:もちろん国民健康保険には入っているという前提です。確定申告も住民税の自己申告もしなかった場合、国保にも入れず全額自費になることもあり得ます)


 残りの7割は国から出てるわけでして、そのおかげでアメリカなどで問題になった高額医療費問題からもそれなりに無縁でいられるわけですね。もちろん、その7割分は結局我々の財布から出てるわけですが。


 この健康保険には、大きく二種類あります。


 多くの自営業者・フリーランスが入っている国民健康保険こと国保。

 企業に勤めている方が勤務先を通して加入する社会保険、いわゆる社保。


 兼業などで、社保に入れてる分にはなんの問題もありません。あれは上限も国保に比べれば安く、しかも会社側とで費用を折半することになりますから大変安く済みます。いやその、会社員やってる方からすれば結構高いと思われるかもしれませんが、それでも国保に比べれば安いんですよ……。


 一方の国保。何度か解説してきましたが、ざっくり課税所得の8%~10%は持って行かれるイメージで、しかも扶養家族の有無や年齢によって増減し、最大50万、地域によっては85万とか持って行かれます。

(ただし、翌年の所得税・住民税の控除にできるため、50万払っても最低15%、つまり7.5万円ぐらい戻ってくることにはなるんですが)


 特に作家の場合、収入の上下が異常に激しいんですよね。具体例があった方がいいと思うので私の体験談を上げますと。


 たとえば私は2003年に専業作家になり、この年に4冊出しました。ところがうち一冊は12月に出しました。そして翌年も結構頑張りまして、確か5冊出したんですよね。


 すると不思議なことが置きます。

 12月に出した本の印税は、翌月以降に振り込まれます。つまり2003年は4冊出したけど印税は3冊分。

 一方、翌2004年には1+5冊分の印税が振り込まれるわけです。すると年収は無駄に跳ね上がり、あっさり保険料50万を持って行かれたりします。(あの金額を見ると結構衝撃受けます)


 2004年は前年より一冊分多く仕事したのは確かです。しかし仕事量としてはそれほど増えたわけでもないのに、ただお金が振り込まれるスケジュールの関係だけで、国保は簡単に跳ね上がるわけです。(余談ながら所得税なら平均課税という手も考えられるんですが)


 さて、そこで本題です。

 こういう年収の上下があるから――というのも一因かもしれませんが、作家とか漫画家さんを始めとして多くのフリーランスの場合、国民健康保険から『文芸美術健康保険』に切り替えることで、この保険料を安くすることができる場合があります。(最近では『ネットクリエイター』でも可能だそうです)


『文芸美術健康保険』。略して『文美』とか『文美保険』とか呼ばれてます。


 では文美保険のどこがいいのか? 8%ぐらい取られる国保と違い、保険料が定額なところです。

 一人当り月額17200円(平成28年度)。つまり年間20万ちょい。私も2004年にこの文美に入っていれば、国保で50万取られるところを20万にできていたと考えれば、どれぐらい得なのかは一目瞭然です。


 とまあ一見するとオトクな文美ですが、覚えておくべき問題点がいくつかあります。

 まず厄介なのは、文美保険に入るには下記の資格が必要だということです。


「日本国内に住所を融資、文芸、美術お呼び著作活動に従事し、かつ、組合加盟の各団体の会員である者とその家族」


 ようするに、特定の『組合加盟の各団体』にまず入らなければ文芸美術健康保険組合にも入れないということです。


 私の場合、『日本推理作家協会』に入っているので、そこから文美保険に加入できました。(文美に入りたいがために推理作家協会に入ったと言うべきですが)

 ただ、『日本推理作家協会』は入会に理事の方と他の協会員の方の推薦が必要なので、結構入るのが難しいです。


 もちろん、団体は他にもあります。よく聞くのは『日本アニメーター・演出協会(JAniCA)』の準会員とか、『日本児童文学者協会』とかですね。本を一冊でも出していれば、結構入れます。

(最近ではドワンゴがやっている『日本ネットクリエイター協会』というのもあり、歌い手さんとかユーチューバーさんなんかはそちら経由で入れるそうですが)


 なので団体への入会もまあなんとかなるんですが、問題は入会金と年会費です。どの団体でも、入会費・年会費がそれぞれ2~3万は取られると思った方がいいです。(経費で落とせると考えれば25%引きにはなりますが)


 もちろん50万かかる国保が、文美にすることで20万+年会費3万とかになるならなんの問題もありません。ただもう一つ考慮しなければならないのが、国保との料金比較です。


 まず本エッセイでは、国保で取られる金額をざっくり8%(個人的には10%、より正確を期すなら8%+4万)として扱ってきました。


・国保は上限がある

・翌年の所得税と住民税の控除になる

・地域差もある


 これらの条件を考慮してのことです。(国保自体は他にも年齢・扶養家族の有無などで大きく変動します)

 ですが国保と文美と直接比較する場合、2つ目の『所得税と住民税の控除になる』ことについては考慮する必要なくなりますし、より正確に料金比較したいので、今回は8%+4万円で具体例を示しましょう。


 年収を仮に300万、控除と経費で50万あったとします。


 その場合、国保は250万×8%+4万で24万円です。

 つまり、年23万で済む文美の方が安く済みます。


 とはいえ青色申告特別控除の65万が出ていれば、基礎控除と経費を合わせて簡単に100万はいくでしょう。


 年収を300万、控除分と経費分で100万あったとします。

 国保は200万×8%+4万で20万円です。

 国保の方が安くなります。


 では年収350万、控除分と経費分で100万あったら?

 国保は250万×8%+4万で24万円。

 今度は文美の方が安いです。


 年収400万、控除分と経費分で100万あったら?

 国保は300万×8%+4万で28万円。

 同じく文美の方が安いです。


 ようするに年収300万ぐらいの場合、国保・文美のどちらが安くなるかは人ぞれぞれなんですね。経費の額、扶養家族の有無、年齢、地域などで分岐点は大きく左右されるため、一概にオススメと申し上げることができません。


 ただこの比較の通り、たとえば控除分と経費分で100万あり、かつ年収が向こう数年350万以上稼げるのであれば、ほぼ間違いなく文美の方が安いということになります。文美と国保にあまり差がない状態が続くのでしたら、文美に入っていた方がいいかもしれません。


 ただなにせ作家にしろ出版不況が長く叫ばれ、収入が不安定なのがフリーランスです。ある一定以上の年収がコンスタントに稼げるのであれば恐らく問題ありませんが、数年間安定しそうにない、ということでしたら国保の方が安い場合もかなりあるでしょう。


 おまけに昨今の日本の情勢のためか、文美保険料もいつ値上がりしてもおかしくない、なんてことがこの間の報告書に書かれてました。(国保も同じような状況みたいですけど・・・!) 

 実際、私の回りでも「ウチの場合、文美より国保の方が安いのでは?」なんて仰る作家さんが増えてきたことを追記しておきます。


 ただし!

 何度も書いている通り国保は地域によって変動します。この地域差は非常に激しく、一番高いところと低いところでは2倍近い差があります。一部地域の場合、ほぼ文美に入っておいた方がいいでしょう。


 参考までに、新宿区と国保が高いことで有名な人気都市・神戸市との比較計算を乗せておきます。もし興味があったら読んでみてください。


(結論だけここで言うと、

・新宿区 22万3800円

・神戸市 36万2100円

 神戸市だったら文美に入ろう!)


ーーーーーーーたまには正確に計算してみる国保ーーーーーーーーー


 まず保険加入者の年齢を25歳、扶養家族なしの一人暮らし、固定資産なしと仮定してみましょう。

(注:30歳でも35歳でも変わりません。40越えると増えますが)


 年収を例によって300万。経費と控除で、100万ぐらいとします。

 青色申告特別控除65万は国保にも適用されますし、基礎控除33万もありますので、100万という数字は多分少ないぐらいですが。


 300万-100万=200万。この200万という数字が、国保を算出する際に基準となる『算定基礎額』という数値になります。


 それから国保は、次の3つの要素から計算されます。


・医療分

・後期高齢者支援金分

・介護分


 国保の正式な数値を出すには、この三つをそれぞれ別の計算で算出して合算しなければなりません。ここまでも大概めんどいですが、ここからはさらにクッソめんどいですよ!


 では東京都新宿区を例に挙げて早速計算してみましょう。

 まず医療分。新宿区の医療分は次のような式になります。


『算定基礎額×6.86%+被保険者均等割額×加入者数』


 数字に直すと、

『200万×6.86%+35400円×1』

=『17万2600円』


 おっと、まだ医療分だけです。続いて後期高齢者支援金分。


『算定基礎額×2.02%+被保険者均等割額×加入者数』

=『200万×2.02%+10800×1』

=『5万1200円』


 最後に介護分です。

 ただし、安心してください。これは40歳以上64歳以下の加入者がおられる世帯のみ必要です。つまり今回のサンプルである25歳独身一人暮らしの場合、不要です。


 つまり年収300万、経費・控除分100万として、新宿区における国保の金額は、


 17万2600円+5万1200円=『22万3800円』となります。


 ただ翌年の所得税・住民税の控除対象になることを考えると19万ぐらいになりますね。

(本エッセイで、国保について8%ないし8%+4万とかの数字を使っている根拠はこの辺から来てます。基礎額に対するパーセンテージと加算される固有の金額だけを見れば、8%+4万円ぐらいなんですね)


 続いて神戸市を例に挙げて計算してみましょう。神戸市と言えば住みたい街ランキングといったアンケートで必ず上位に入るような人気都市である一方、非常に国保が高い自治体としても有名です。


 まず医療分。神戸市の医療分は次のような式になります。

『算定基礎額×11.55%+被保険者均等割額×加入者数+世帯別平等割額』

 数字に直すと、

『200万×11.55%+24690円×1+26990円』

 合計で『28万2680円』です。


 続いて後期高齢者支援金分。

『算定基礎額×3.23%+被保険者均等割額×加入者数+世帯平等割り額』

=『200万×3.23%+7080×1+7740』

=7万9420円


 最後に介護分ですが、例によって今回のサンプルである25歳独身一人暮らしの場合不要です。


 つまり年収300万、経費・控除分100万として、神戸市における国保の金額は『36万2100円』です! 8%+4万どころじゃねえ、15%+6万ぐらいだ!


 というわけで。

 あなたのお住まいの地域によっては、今すぐ文美に入った方がいいこともあり得ます。(特に国保が高いことで有名なのは、神戸市の他に広島市、函館市などですね)




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ーーーー余談。ひょっとしてお気付きでしょうかーーーーー


 本エッセイでは、『最低25%』という数値が何度も登場しました。

 これは国保で8%取られるという前提で出てきた数値です。経費の節税効果も、この25%という数値で行ってきました。


 ですが国保から文美に切り替えた場合。以後の保険料はパーセンテージではなく固定の20万+年会費2万前後になります。つまり、経費計算には『最低25%』ではなく『15%ないし17%』というという数字を使うことになるのでは……?


 そう思われるかもしれません。

 しかし、ここで平成27年の所得税率一覧を見てみましょう。


課税される所得金額      税率  控除額

195万円以下          5%  0

195万円を超え 330万円以下  10%  97,500

330万円を超え 695万円以下  20%  427,500

695万円を超え 900万円以下  23%  636,000


 国保から文美に切り替えるには、ある一定以上の年収がないと意味がありません。


 そして、たとえば年収から経費・控除を除いた額が400万、500万とかあった場合、所得税率は15%ぐらいになります。


 住民税10%を合わせると、25%。

 結局、国保の8%分がなくても、『文美に切り替えた方がいいぐらいの収入』があった場合、『最低25%』という数値が大体使えるというお話でした。


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