純愛? 恐喝?             038

38 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな

 わすらるる みをばおもず ちかてし ひとのいのちの しくもあるかな


【カテゴリ】女子悲恋

【タグ】女性 貴族 平安中期 拾遺集 恋


【超訳】死ぬかもしれないわよ?

私はいいのよ。別にあなたに忘れられたって。でもね、神様に永遠の愛を誓ったあなたに天罰が下るんじゃないの? 命は惜しくないの?


【詠み人】右近うこん

醍醐天皇の中宮穏子おんしに仕えた。百人一首に登場する歌人を始め、多くの男性との恋愛遍歴が「大和物語」に描かれている。


【決まり字】わすら(3)


【雑感】権中納言淳忠(43)に贈った歌だそうです。付き合っていたカレが通ってきてくれなくなり、連絡もとどこおりがちになってきて、「いいのよ? 私はいいのよ? それよりアナタが死んじゃわないか心配なのよ?」と詠いました。

 これも解釈が2パターン。


(その1)本当に私はあなたを愛しているの。神様に永遠の愛を誓ったのに、その誓いを破ってしまうと愛しいあなたが罰を受けるのではないかと心配でならないの。あなたが死んでしまうなんて考えられないの。

(その2)永遠の愛を誓ったくせにもう私達は終わりなの? いいのよ? 私はいいのよ。忘れられたって。でもね、あなたが神様に誓いを破って天罰が下るんじゃないの? いいわけ? 命を落とすことになっても。


 この方も恋多き方だったそうです。となると、解釈も(その1)の純粋で健気な女心というよりは(その2)のカレへの皮肉ととる方が面白そう。

 当時は生霊とか物の怪もののけなども信じられていたようです。原因不明で命を落とした場合は、呪いだとか祟りだとか天罰だとか噂したようです。源氏物語でも嫉妬に狂った六条御息所ろくじょうのみやすどころが源氏の正室の葵の上を呪い殺すお話もあります。夕顔もそうでしたっけ? 右近さまも「いいの? 呪うわよ?」と脅したのかもしれません。

 

 残念ながらカレから返歌は届かなかったそうです。淳忠さま、お命は大丈夫だったかしら?

 右近さま……、次行きますか? 次。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る