神王VS戦神⑤

 雷雲に先に気が付いたのは、大地に組み伏せられていたスカハサだった。

 突如現れたあの雷雲が自然発生した者でないのは自明の理。

 衣服を破り捨てられ白い肌が露出し、乳房を乱暴に掴み上げらた状態で、彼女は僅かに笑う。

「ふふ………バロールおじ様。久しぶりに若い肉の体を得て、熱り立つのは結構ですけど―――」

 僅かに身を捩じらせ魔神の股座に足を滑り込ませる。

 衣服が破れて肌蹴た素足を、汗ばんだ滴に沿って擦り合わせるように忍び込ませた右足は、明らかに異性の劣情を誘うような素振りを見せている。

 極上の絹を這わせたようなその柔肌に触れ、魔神の息が荒くなる。

 相手もその気になったと思ったのだろう。

 ならば蹂躙ではなく共に愉しむのも吝かではないと、バロールがスカハサの乳房に舌を這わせようとした刹那―――

 スカハサは、バロールの前言を返すように凛と吼えた。

「私……、全く興味がありませんから―――!!」

 股座に滑り込んだ右足が勢いよく振り上げられる。

 バロールは堪らず

 断っておくが、痛みは無い。巨人族の肉体は固い。

 しかし痛みは無かろうと、この展開から股座を蹴り上げられれば、男ならば誰であれ。完全に無防備な状態でかち上げられたバロールを狙い澄ます様に落雷が降り注いだ。

「っ、落雷………!? ええい、いいところに!! クサレ孫が戻って来やがったか!?」

 空中で稲妻に撃たれながら天を仰ぐ。

 雷雲が巨大な象の姿を取るや否や、その巨大な足でバロールを蹴り飛ばした。

「PAaaaaaOOOOOOOOON!!!」

 吼える巨象の足に吹き飛ばされるバロール。傷も痛みもないが、空中では成す術もない。二つ先の谷まで吹き飛ばされた魔神は怒髪天を衝くかのような形相で猛り狂う。だがこの相手は理性を無くしたまま戦うには危険すぎると、直ぐに狂気の裏の知性が働いた。

「巨象………!? 天空の象王、アイラーヴァタだと!? ならばこの落雷は―――!!?」

 極西の魔王なれど、この相手を無視するのは慢心が過ぎる。

 この神霊こそ人類の文明の膿より生み出され、〝善〟と〝悪〟という相反する二つの神格を得るに至る者。太古の昔、文明発祥の地の一つにて様々な文明の裏側に潜み根を張った民族―――〝高貴アーリアなる人類〟の信仰を一身に受けた、最強の軍神。インドに、イランに、ギリシャに、ヨーロッパ諸国に青き星に息吹く文明の希望を隠すように指示した、神々の王。

 象王アイラーヴァタの背より現れた神王インドラが、死眼の魔神を天上より見据えていた。



 

 


 

  

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る