第27話 レース場のアイドル
『みなさ~ん、こんにちは~。ドラゴンレース場のアイドルミュウです』
レース場上空に浮かぶ巨大な魔法水晶球ディスプレイにピンクのフリフリ衣装を着こなした瞳の大きい少女が映し出された。
元気のよい雰囲気に茶色のショートカットがよく似合っている。
『いよいよ今年もはじまりました、若いレーシングドラゴンが目指す最高峰ドラゴンダービー予選トライアル。本選であるドラゴンダービーの出場券をかけ、強豪、古参、新鋭のチームがエース級ドラゴンで挑むドリームレース。出場枠はたったの十八、その数少ない席を獲得するためにみんなドラゴンのブレス以上に熱く燃えているぞ! みんなドラ券は買ったか!!』
レース場に設けられた観客席から歓声がおきた。
『ここでミュウちゃんがレース予想するから、まだドラ券を買ってない人がいたら参考にしてね』
ドラゴンレースは王国公認のギャンブルである。ギャンブルレースなら当然予想屋も存在する。魔法水晶に写だれたミュウというアイドルは外見に似合わずコアなことまでも勉強しており専門用語なども当たり前のように口にするところから、あざとい可愛さでもレースファンには人気が高かった。
『それじゃ本命予測から――え』
予想がはじめると思いきや、ミュウが言葉をとめる。
『みんなごめ~ん、予想より先にドラゴンダービーの説明しないといけないんだって、ジャーマネにおこられちゃった、テヘ』
舌をぺロリとだして謝るミュウ、客席からは気にするななどと声が投げかけられる。
『ありがと~。それじゃあ説明始めるね、面倒臭いと思うけど一度だけだからちゃんと聞いてくれるとミュウ嬉しいな』
ミュウはポケットから服と同じピンク色の手帳を取り出した。
『説明をはじめるね、まずドラゴンダービーについて、これはもうみんな知ってると思うけど二歳の若いドラゴンが出場できるレースの中で最大のものね、ドラゴンワンクラスでD1とも言うんだって。このダービーに勝てば間違いなく新竜最強の名が手に入るわ。そして、そのダービーに出場できるのは、さっきも言ったと思うけど十八頭だけなの、その十八頭を選ぶ予選レースが今日から三ヶ月間で十二回おこなわれるトライアルなの。一回でもトライアル一位を取れば出場券をもらえると、どうルールは簡単でしょ』
長いセリフを喋り終えたと大きなため息をつくミュウ。
『ふ~~疲れた、え、まだセリフあるの、ウソ!』
手帳を見直す。
『あ、ホントだ、え~出場枠が十八枠もあるのに予選が十二回しかなくて足りないジャン、と思ったそこの君は賢いぞ』
完璧な棒読みで残りをセリフを追加で喋った。
「君って誰だよ」
ピットでセッティングを終え最終点検をしていたナグリはあまりの大音量で解説をしているアイドルに思わずツッコミを入れてしまった。
『なにこの台本、君って誰だよってツッコミきそう』
ナグリは手に持ったハンマーを落としそうになった。
まるでナグリのツッコミを聞いたかのような返しに、隣にいたシェルとハルナは笑ってしまった。
『えっと、残りの六枠の出場券は、一位になれなかったドラゴンの中からファンの人気投票で選ばれるだって、なるほど、もしミュウがドライバーになれば、ミュウの乗ったドラゴンは人気がありすぎて簡単にダービーに出場できるってことだね』
レース関係者に喧嘩を売るようなことを平気でいうレース場のアイドル。
「逆に俺たちは人気に期待できないからな」
「そうだね」
先ほどのレース関係者たちの反応がシェルの脳裏に浮ぶ。人気投票どころか参加を取り下げるようにとの嘆願書が多く集まりそうな雰囲気だった。
「大丈夫だよハルナさん、私たちは一位をとるしかない」
「そうライフ牧場は実力でダービーの出場権を手に入れる、最初からそのつもりだったでしょ」
繰り上げ参加なんていらない、ライトは実力で出場権をモノにできるドラゴンだ。
「そうね、一位をとってダービーに参加しましょう」
ナグリの最終確認も問題なしで終わり、翼は完璧な状態に仕上がった。
『それじゃお待ちかねのミュウの予想コーナーね、ミュウが長々と説明している間にフリー飛行の時間になったみたいだし、フリー飛行を見ながら予想するね。ちなみにフリー飛行とはレース前にコースやドラゴン、翼の状態を調べるためにのテスト飛行のことね、ツウな人はこのフリー飛行の様子を見てドラ券を買う人もいるんだって』
建ち並ぶピットから数等のドラゴンがコースに飛び出していく。
『さぁフリー飛行が始まったよ!』
水晶ディスプレイの映像がミュウからコースを飛ぶ赤いドラゴンへと切り替わる。
『今回ミュウが一番に押すのは、いま映しだされているレッドドラゴンのマグマフェニックス。マグマの冠名でわかるように、多くの名ドラゴンを輩出したマグマファーム所属。翼のセッティングは主流のゴーゴー。ドライバーにはキャシー・マグナス。非公式ですが、最近練習場コースのレコードを塗り替えたと噂もあるほどの今もっとも乗れているコンビ、倍率もなんと1.2倍とド本命。対抗ドラゴンはブルードラゴンの――……』
「彼女が一番人気なのか」
「気になるの?」
シェルが拗ねたようにたずねる。
「別に、一番人気が女性で驚いただけだ」
「それって偏見じゃない」
「偏見があるなら、シェルにドライバーを任せたりはしない。俺はお前が勝てるドライバーだと信じてるからな」
「う、うん、ありがとう」
まっすぐに向けられた信頼のまなざしにシェルの顔が真っ赤になった。シャルがドライバーとして評価されたのは、この時が初めてであった。
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