第26話 突然のスカウト

「ありがとうございました」

 代表者であるハルナがチームを代表してキャシー・マグナスにお礼をのべる。

「礼を言われことなどしていませんよ、わたくしは問題がおきてレースそのものが中止なるのを恐れただけですから」

「相変わらず、上からのものいいね」

 ハルナの前に大股歩きで割り込むようにシェルが進み出た。

「あら、どなたかと思えば、ドボンクイーンさんじゃありませんか」

「誰がドボンクイーンよ!」

「落水記録を現在進行形で更新しているシェルさんに決まっているじゃありませんか」

「ぐッ」

「シェル、知り合いなのか」

「練習場で何度かあったことがあるだけよ」

 シェルはナグリにすねたように返す。練習場で遭遇するたびに勝負をふっかけられていた。これは後からわかった事だが、フランで落水した時の相手も彼女であったようだ。

「練習対戦の結果はわたくしの全戦全勝ですわ」

「今日こそ勝つわ」

「あら『今日こそ落ないわ』の間違えじゃありませんか」

「ぐッぬ~」

 ねじられたようなうめき声。

 シェルが言い返そうとするが返す言葉が出てこない。キャシーに勝とうとして翼をオーバーブローさせたことがあるのだ。悔しいがシェルはキャシーの実力を身に染みて知っている。

 だがそれはシェルが一人であったころの話しである。今のシェルは一人ではない、ライフ牧場の仲間、白バカ同盟がいる。

「シェルを今までと同じに思わないことだな」

 白バカ同盟の盟主であるナグリが金髪ドリル少女キャシーに忠告をする。

「これまでは、シェルに合った翼が練習場には一対も置いてなかっただけだろ、だが、今日のトライアルでシェルが使うのは彼女専用の翼だ」

「あなたは?」

 キャシーは、割り込んできたナグリを睨み付けた。

「ライフ牧場所属ライフライトニング専属ウィングワークマン、ナグリ・ドーゴル」

 堂々と名乗る怖いもの知らずのナグリ、キャシーは少し驚いた表情を浮かべた。

「わたくしが高貴な立場と知って、まともに意見してきたのはシェルさんに続いて二人目ですね」

「そうか」

「あなたの瞳もホワイトドラゴンに負けないくらい綺麗ですね」

「そいつはありがとう」

「どうです、わたくしのチームに移籍しませんか、最高の待遇をご用意いたしますわ」

「ちょっと、なに言ってるのよ!」

 話がいきなりナグリの引き抜きに変わりシェルが猛抗議するのだが。

「設備も最新式が揃っていましてよ」

 シェルの抗議など無かったようにスルーされ、キャシーはナグリのヘッドハンティングを続ける。

「俺の腕も知らないのにどうしてスカウトなんてするんですか?」

「わたくし、人を見る目は持っていますの」

 ものすごい自信である。

「誘ってくれるのは嬉しいけど、俺は白いドラゴンのワークマン以外やる気はないです」

 流石は白バカ同盟の盟主、キャシーの誘いに乗れば間違いなく最高の環境で仕事ができることは誰もが分かることなのに即答で断った。

「そうですか残念です」

 キャシーもナグリの答えは予想していたようで、それ以上の勧誘はしなかった。

「フリー飛行の時間も迫っているので失礼いたしますわ。気が変わりましたらいつでもわたくしを尋ねてください」

「あ、ああ」

「それでは」

 ナグリだけに頬笑みを残してキャシーは自分のピットへと戻っていった。

「貴族に気に入られるなんて、やるわねナグリくん」

 ハルナがナグリをからかい。

「ナグリ、早く翼のセッティングしてよ、フリー飛行の時間がなくなるでしょ!!」

 シェルはナグリをどなりつけた。

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