第25話 金髪のドリル少女

 ハチニーの翼を纏ったライフライトニング。

 ライフ牧場の三人とっては待ちに待った感動の瞬間である。しかし、その感動を理解できない人間の方が、このピットが並ぶ場所では圧倒的に多かった。

 はじめは両隣になったピットのチームスタッフらが、ライトの様子をしきりにうかがってくるだけだったが、次第によその離れたピットからもうかがいに訪れる者たちが現れ、その数が時間を追うごとに増えていき再び遠巻きに人垣ができてしまった。

「さすがにまずいわね」

 ハルナはピットのまわりに集まった人の多さに危機感をもったようだ。このままではレース進行に影響が出てしまう可能性がある。

「委員会にいきますか」

 とナグリが提案する。役員に力を借りて集まった人たちをどかしてもらおうと言うのだ。

「そこまでするの」

「このままだと、レース進行の妨害にしかならない」

 ナグリが行動に移ろうとしたとき、人垣に異変が起きた。

「ちょっとコレは何の集まりですの?」

 人垣の外から若い女性の声が聞こえてきた。

「道を明けてもらえる。みなさんレースの準備もしないで、そんなに面白いものでもあるのですか?」

 透きとおった声なのにどこか威厳があり、みなその言葉に従ってしまう。

 示し合わせたかのように人垣に割れ、声の主である女性が通る道ができあがる。

「ありがとうみなさん」

 真っ赤なライダースーツに長い金髪をドリルのような縦ロールにしたシェルと同い年くらいの少女がやってきた。

「あら、綺麗なドラゴンね」

 金髪ドリルの少女はライトを見てそうつぶやいた。

 まわりにいるレース関係者たちも驚くが、ライフ牧場の三人も驚きの表情を浮かべた。まさかこの場所でライトを褒める存在がいるとは驚くしかない。

「これだけ綺麗なドラゴンがいるなら人が集まるのも頷けますわね」

 一人納得する金髪少女。

「あんた、白いウィルスを知らないのか?」

 人垣を作っていた一人の男が金髪少女の間違った解釈を訂正するように問いかける。

「もちろん知っていますは、十年前の病気ですわね」

「それを知っていて、綺麗というのか?」

「だって綺麗じゃないですか」

 会話がかみ合っていない。

「自分のドラゴンに悪影響があるとは思わないのか」

「ん? 悪影響、どうしてですの?」

 男のこの質問は、この場にいる大多数の関係者の気持ちの代弁だ。だが、金髪少女には理解のできない質問であったようだ。

「病気が移るとは思わないのか」

「思いませんね」

 金髪少女はバッサリと否定した。

「ああ、なるほど」

 このやり取りで金髪少女はようやく人垣ができた理由を理解したようだ。

「あなたたちはこのドラゴンを侮辱するために集まったのですか、ありもしないウィルスをでっちあげて辱めようと」

「そんなことあるか、俺たちはただ自分たちのドラゴンが心配なだけだ!」

「このピットにいるということは、厳しいレース委員会の審査をクリアしたなりよりの証拠。違いますか?」

「当然です。審査は完璧にクリアしてきました」

 ハルナが一歩前に進みでて、集まった人たち全員に聞こえるように腹のそこから声を出して答えた。

「お聞きの通りです。まだこの美しいドラゴンを侮辱することは、レース委員会おも侮辱することと同義、それでも文句がおありでしたら、このキャシー・マグナスがお話を聞きましょう」

「マグナスだって」

 マグナス。その家名はレース関係者なら誰もが知っている。

「ドラゴン統括大臣マグナス」

「それはわたくしの伯父ですね」

 ざわめきが起こる。

 ドラゴダート国王より国内で行われるドラゴンレースの統括を任命された大臣、レース関係者の総元締めともいえる存在。

 この金髪ドリルの少女は、その大臣の血縁者だった。

「あ、いや、あの」

「なんでしょうか」

「噂にまどわされて、す、すみませんでした」

 体を直角に頭を下げる男は、さきほどキャシーに質問を投げかけた男だ。

「わかればいいのです。お互いレースに全力を注ぎましょう」

「そ、そうですね、翼の調整があるので、これで失礼します」

 男はけつまずきながらドタドタと逃げるように走り去った。

 一人が去れば、それを切っ掛けに囲いを作っていた関係者たちが堰を切った水のように自分たちのピットへと戻っていった。

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