第24話 トライアルの朝
ドラゴンダービー予選トライアル当日。
この日からドラゴンダービーを目指すチームの戦いが始まる。
ライフ牧場の面々は朝一番で届いた二足竜アギを継ぎ接ぎ竜車ライフナグリ号に繋ぎ、一路ドラゴンレース競技場を目指し出発する。
ナグリとハルナは御者の席に座り、シェルはライトと一緒に荷台にのった。荷物を計算してギリギリの大きさで作られた竜車はお世辞にも乗り心地が良いとは言えないが、直接歩いて行くことに比べたら天国であることには変わりない。
牧場をでて坂道を下り商店街を抜け、王城から伸びる大通りを進んでいくと。
「見えてきたな」
ナグリは手で太陽の光を遮りながら遠に見えた石造りの巨大な施設。
小さい村がすっぽりと入ってしまうほどの規模を誇るドラゴダート王国自慢のドラゴンレース競技場。国の象徴ともいえる建造物一つで予選トライアルが行われる会場でもある。
シェル、ナグリ、ハルナもドラゴンレースに憧れを抱く若者たち、もちろんのことこの場所には何度も訪れているが、参加者としてこの場にくることは三人ともがはじめてであった。
ナグリは入場門に向かおうとアギの手綱を操るが。
「ナグリくん、そっちは一般の客席の入り口よ」
ハルナにストップをかけられた。
「レース関係者の入り口は一般入場門とは逆にあるわ」
「そうか、ついいつもの感覚で」
「今日からナグリくんも関係者なんだからね」
関係者専用の入り口。
レースに参加するチームが続々と自慢のドラゴンを乗せた所属チームや牧場をアピールするために装飾された竜車で乗り込んできていた。
そんな中を場違いなボロボロの竜車が到着して周囲はざわめき注目を集めた。
「こうなるとは覚悟していましたが」
「そうね」
ハルナの悲しそうにうなづいた。
荷台にいたシェルはあまりにもボロボロなライフナグリ号が注目を集めているものと思ったが、周囲の視線は荷台のシェルのすぐ隣にいるライトへ注がれていた。
それも、どこか冷たさが混ざった視線や嫌悪の混じった視線。
関係者たちは遠巻きに様子を伺い、いつのまにか人垣ができていた。
その中には小さく白いウィルスとささやく者や、自身のチームのドラゴンを遠くに離す者たちまでいたのだ。その態度でシェルも白いドラゴンがレース関係者にとって、どういう存在であるかを思い出した。
十年前の血液病。
風評という傷跡は、十年たった今でも消えてはいなかった。
汚いものを見るような目でライトが見られる。
「オーナー」
ナグリが心配してハルナに声をかけた。
「大丈夫よ、覚悟してきたから、コレくらい想定内よ」
ハルナはライトのいる竜車の荷台にまわり、ライトの首をなでる。
「あなたはもう飛んでいいのよ、今日は思いっきり空を翔けてきなさい」
周囲の嫌悪を孕んだ雰囲気をライトも感じ取っているはずだ。ハルナはライトの首を愛おしそうになでる。ライトはハルナの気持ちに応えるように真直ぐに首を持ち上げ、集まる視線を堂々とうけとめた。
「そう、それよライト」
その堂々としたライフライトニングの姿はとても世間で騒がれている病弱白竜とは、まったく別の存在である。風評などに負けるものかと気迫が感じられた。
ライフの血統はドラゴンダービーを制覇した血統だ。
過去の王者の帰還である。臆する理由など一つもない。
「ナグリくん、作業に入りましょう」
「ああ、ライトを眺めて他のチームの作業が遅れるならコッチにしては有利だからな」
ナグリの言葉に何人かのワークマンが自分のチームへと走っていき、ライトに集まる視線は半減した。それでもまだいくつかの視線を感じるが、やましいことは一切ないライフ牧場の三人は胸をはり割り振られたピットへと移動する。
「これがピットか」
レース場専用の作業場『ピット』には前後におおきなシャッター式の出入り口があり、後ろの出入り口は竜車をとめるスペースに繋がっており、前の出入り口はそのままレースのコースへと続いている。
「客席には何度もきたけど、ピットにレース場、まったく空気が違うんだな」
空気の中に緊張というスパイスが含まれている。
ナグリは自分の工具ベルトからハンマーを取り、指で回転させる。人差し指、中指、薬指、逆の手、ハンマーは移動しながら回転速度をあげていく。
「よし」
ひとしきり曲芸をやったナグリはガンマンのように勢いを殺すことなくストンと腰のベルトにハンマーを戻す。
「何それ、カッコつけ?」
「ちがう」
シェルはレース場の雰囲気にナグリが浮かれているように感じられた。
「緊張しているのが自分でもわかったからな、指がいつも通りに動くか確認したんだ」
「なるほど」
「さぁ翼のセッティングをはじめるぞ」
竜車から降りたライトにさっそくレース用の翼が取り付けられる。
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