第23話 ライフナグリ号
「何か聞こえませんか?」
「作業場じゃない、裏手からかしら」
音の発信源は作業場ではなかった。二人が裏へと向かうと近づくにつれ、カンカンカンと鉄を叩くハンマーの音が聞こえてきた。
「この先は廃材置き場よね」
そんなところでナグリは何の作業をしているのだろうか。
二人が廃品置き場へ到着すると、そこには竜車っぽい物が置かれていた。
「おかえり、その様子だとやっぱり竜車は見つからなかったようですね」
シェルたちに気が付いたナグリが竜車の影からハンマー片手に顔を出した。
「ナグリくん、この竜車はいったい」
「ああ、廃材で作りました」
「作った!?」
驚きの声をあげたのはシェル。
「廃材がたくさんあったからな」
薄暗くてわからなかったが近づけば、竜車には無数の繋ぎ目が見てとれた。荷台どころか車輪までもが廃材で繋ぎ合わせで作られている。
「急ごしらえにしてはなかなかのできだぞ、名づけて『ライフナグリ号』だ」
ツギハギ竜車を前に一人満足しているナグリ。
「アギの手配はどうでした?」
「それはなんとかできたけど、明日の朝一でここに届くことになってるわ」
「それなら問題無いですね、あとは荷物の積み込みだけだ」
「積み込むって」
積み込んで壊れないか、大丈夫なのかと心配になったシェルは荷物より先に乗り込んで確認をする。
「あ、いがいとしっかりできてる」
シェルが乗ってもびくともしない見た目と違う頑丈な作り、そのまま軽く飛び跳ねてみても竜車モドキが軋みをあげることはなかった。
「これならライトが乗っても大丈夫かも」
「当たり前だろ、俺が白いドラゴンを傷つけるような乗り物を作るわけがない」
「なっとく」
そうだった忙しすぎてシェルは忘れていたが、この男は白バカ同盟の盟主である。間違っても白いドラゴンを貶めることはしない。
「ナグリくん、本当にありがとう」
ハルナの目には涙が浮かんでいた。
竜車の手配を忘れ絶望の沸に立たされていたハルナは自分を責め続けていたに違いない。
「頼りないオーナーでごめんね」
「謝る必要ありませんよハルナさん、ミスった時に助け合うのが仲間ってもんですよ」
「その通りだがシェル、それは俺のセリフじゃないか」
竜車を作ったナグリよりも得意げにハルナを慰める調子のいいドライバーに呆れ顔のワークマンがつっこみを入れた。
「私は最高の仲間に恵まれた、二人に合わせてくれたライトに感謝しないとね」
ハルナは一頭の白いドラゴンから繋がった三人の縁に感謝を捧げる。
「絶対にダービーを勝ちぬきましょう」
「当然です」
「明日は私に任せてください」
三人は改めてダービーで優勝することを誓いあった。
「そうと決まれば早く荷物を積み込まないとね」
「竜車を作業場の前に移動させます」
「よろしくナグリくん」
「ナグリ、私は何を手伝えばいい?」
「シェルはもう寝ろよ」
てきぱきと動き出したハルナに竜車を移動させるナグリ、シェルも手伝いを申し出たが、休むように言い渡されてしまった。
「でも私だけ」
「お前はドライバーなんだ、体調管理もドライバーの仕事だろ」
「そ、それはそうだけど……」
この三人でいる気持ち良い空間にずっといたいと感じてしまう。ドライバーのライセンスを習得してからこれまで、気の合う仲間と巡り合ったことのなかったシェルも、ハルナが先ほどいったようにライトがめぐり合わせてくれたナグリたちといる時間に安らぎを感じていた。
でもこの安らぎに浸るわけにはいかない。
ここに集まったのは趣味を語り合うためではない。
「わかったわよ、悪いけど先に休ませてもらうわ」
「そうしろ」
三人が集まったのはレースに勝つためなのだから。ナグリはワークマンとしての仕事をこなした。ドライバーとしてシェルの仕事はコンディションを万全にすることである。
「ナグリ、深夜にハルナさんと二人っきりになるからって変なことしたらダメだからね」
「な、なに言ってるんだ!」
「えへへ、おやすみ」
「おやすみシェルちゃん」
ペロリと舌を出したシェルは逃げるように事務所兼住居へと帰っていった。
「まったく、明日がレースだってわかっているのか」
「わかっているわよ」
だからこそ休めと言う指示に素直に従ったのだ。
「だから、私たちも変なことはお預けね」
「は?」
ナグリが困惑の声をこぼした。
「冗談よ」
「ちょっとオーナー!」
こうしてライフ牧場の予選トライアル前夜がくれていく。
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