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外に出るとまず風に包まれた。夜の山から吹き降ろす癒しの風だ。
大きなパーキングに停まったようで、ひろびろとした駐車場に五台の観光バスがずらりと並んでも、ぜんぜん目立たなかった。
たくさんの同じような大型バスが停車していて、しっかり覚えないとどれが自分とこのバスだか解からなくなりそう。
休憩所も賑わっていて、混雑していた。
敬子が手招きしてて、休憩所の棟続きの建物へ誘っている。
不況のせいか、ちょっと割高の食堂コーナーは人がまばらだった。
「あっちはすごい人でしょ? 珈琲一杯飲むだけで並ぶなんてムリ!」
敬子は大袈裟なジェスチュアで、顔の前で手をパタパタと振ってみせた。
ディズニーフリークな彼女が、並ぶのが苦手だなんて、ヘタクソな嘘だ。
わたしに気を遣っての言葉だ。
「向こうほどじゃないけど、こっちもそれなりに混んでるね。」
見回したところ、空席はない様子だった。
二人で六人掛けを占領しているのが申し訳ない気分になる。
ウエイトレスが来たところで、二人で珈琲を注文した。
「あの、お客様。合席をお願いしてよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。」
混雑を知ってて嫌な顔をする勇気は、わたし達にはなかった。
ウエイトレスは注文を復唱して、引っ込むついでにレジ横の行列の先頭に声をかけていた。
背の高いゴツい男は目印に最適だと実感する景色だ。
「お、美作さんだったか。」
課長だったか。
て、早々に部署違いのお偉いさんに名前なんぞ覚えられたくなかったのに。
「室長はどうなさったんです?」
敬子が失礼な質問をした。
怖いもの知らず、素直さがウリのこの子らしいんだけど、その質問はまかり間違うと彼をナントカのフン扱いしていると取られてしまう危険性がある。
幸い、課長はそうとは取らなかったようで普通に返事を返した。
「田坂室長は土産物コーナーを冷かしてるよ。ひどく混んでたから、俺は遠慮してきた。」
にゃ、と。笑った顔はそんな擬音が似合いそうだった。
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