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坂崎晃、確か年齢は三十二歳だったはず。
さっぱりとした短髪は黒くて、スポーツマンな褐色の肌に、笑うと爽やかなイケメンの顔立ち。イケメン、と誤魔化してしまうけど、まぁ、美形というのとは違う顔だ。愛嬌?
がっしりした体格で背も高いから、目の前に立たれた時にはヌリカベかと思ったりした。そしてこれが肝心なトコだけど、左手の薬指にはしっかりとキープの証の銀の指輪が嵌っていた。結婚三年目だそうだ。三年目とはまた微妙な年だけど。
新婚の年も、その次の年も、この人は社員旅行には来なかった。どういう風の吹き回しなんだろうか。参加表明があっただけでもヒソヒソ話の種にされていた。
ようするに、内情のアレコレが噂になる程度には、女子社員に人気のイケメンってヤツだ。
「奥さんが居ても構いません!」
昨夜見たドラマのワンシーンが唐突に浮かんでくる。フラッシュバックってヤツだよね、普段なら流してしまう程度の、さして重要でもないシーンとセリフが、こんな時にはものすごい衝撃だ。
男を寝取られた女が観るべき番組じゃあ、ない。
あんなシーンがあって、こんなにダメージ受けると解かっていたなら、観なかったのに。
やっぱりあのイケメン課長も、ちょっとした期待を抱いてこの旅行に参加したクチなんだろうか。今まで来なかった人が突然参加したら、そうなんだろうかなんて思ってしまう。
偏見?
ううん。僻んでいる。
男がぜんぶ、祐介みたいなヤツだったら救われるような気がしてる。
駄目だ、わたし、かなり参ってる。
「大丈夫? 紗江、なんか顔色悪いよ? ちょっと寝たら? 巧い事言っといてあげるからさ。」
「ああ、ごめん。ちょっと酔ったかも。」
「クスリあるよ? 大丈夫?」
「酔い止め飲んでから乗ったんだけどね。ちょっと気分的にキツかったかも。」
「寝たほうがいいよ、あんた、今フツーじゃないからさ。」
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