1-3

 坂崎晃、確か年齢は三十二歳だったはず。

 さっぱりとした短髪は黒くて、スポーツマンな褐色の肌に、笑うと爽やかなイケメンの顔立ち。イケメン、と誤魔化してしまうけど、まぁ、美形というのとは違う顔だ。愛嬌?

 がっしりした体格で背も高いから、目の前に立たれた時にはヌリカベかと思ったりした。そしてこれが肝心なトコだけど、左手の薬指にはしっかりとキープの証の銀の指輪が嵌っていた。結婚三年目だそうだ。三年目とはまた微妙な年だけど。


 新婚の年も、その次の年も、この人は社員旅行には来なかった。どういう風の吹き回しなんだろうか。参加表明があっただけでもヒソヒソ話の種にされていた。

 ようするに、内情のアレコレが噂になる程度には、女子社員に人気のイケメンってヤツだ。


「奥さんが居ても構いません!」

 昨夜見たドラマのワンシーンが唐突に浮かんでくる。フラッシュバックってヤツだよね、普段なら流してしまう程度の、さして重要でもないシーンとセリフが、こんな時にはものすごい衝撃だ。

 男を寝取られた女が観るべき番組じゃあ、ない。

 あんなシーンがあって、こんなにダメージ受けると解かっていたなら、観なかったのに。


 やっぱりあのイケメン課長も、ちょっとした期待を抱いてこの旅行に参加したクチなんだろうか。今まで来なかった人が突然参加したら、そうなんだろうかなんて思ってしまう。

 偏見?

 ううん。僻んでいる。

 男がぜんぶ、祐介みたいなヤツだったら救われるような気がしてる。

 駄目だ、わたし、かなり参ってる。


「大丈夫? 紗江、なんか顔色悪いよ? ちょっと寝たら? 巧い事言っといてあげるからさ。」

「ああ、ごめん。ちょっと酔ったかも。」

「クスリあるよ? 大丈夫?」

「酔い止め飲んでから乗ったんだけどね。ちょっと気分的にキツかったかも。」

「寝たほうがいいよ、あんた、今フツーじゃないからさ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る