第19話 再生と新生 弐
再生と新生 弐
「お~い。みんな集まってくれるかなぁ。」
「は~い。」
「どうしたのですか?ニシさん。」
「マキちゃんから、今後のスケジュールを話していただくので、
よく聞いておいてね。今は、お客様もおられないので調度いいし、
夕方まで少し時間があるから、それを聞いてそれぞれの準備をよろ
しく。」
「じゃ、えっと・・・。」
「ちょっと待って。何、何のスケジュールなの?オヤジ何をやる
の?」
「アハ。そっか。アキちゃんは知らなかったんだね。先週、みん
なで新しいイベントをやろうと話したんだよ。タイトルは“再生と
新生”という古いモノや新しいモノをコラボレーションしたイベン
トで“温故知新”を感じていただこうということなの。アキちゃん
も手伝ってくれるよね。」
「へぇ~、面白そうだね。私は何をすればいいの?」
「ニシさん、お父さんのサポートというか、管理をしてほしいの。
ニシさんは頼りにはなるのだけれど、時々横道に逸れるし、必要の
ないことまでやっちゃうでしょ。進まなくなりそうだから。
それに、担当は、食の世界だからアキちゃんにはピッタリだと思
うの。」
「は~い。やります。やりたいです。オヤジの暴走を止めて、管
理しながらお手伝いをさせてください。」
「おいおい。晶子に管理されたくないぞ。俺の任せておきなさい。
へへへ。」
「ニシさんはひとりだと何をするかわからないから、アキちゃん
とのペアでよろしく。」
「アハ。オヤジ頑張れ。エヘへ。」
「では、スケジュールとそれぞれの担当の方の作業を発表します。
まず。全体の予定は、2月いっぱいで全てのモノのリストを作成し、
発注しなければならい物は連絡を下さい。そして、3月20日まで
にすべてのモノを収集してチェックして下さい。
また、そのモノの紹介文のラフを同じ20日までに提出をして下
さい。それをショウさんの方でワープロ打ちをしてまとめます。
今回が初めてのイベントですから、不備なことが出てくるかと思
いますがお互いに協力して進めましょう。
衣に関しては、私、麻紀が。
食は、ニシさんとアキちゃんに。
住に関しては、ユミさんを中心に滝くんも手伝って下さい。
最後の遊はショウさんが中心となりますが、皆さんのご協力をよ
ろしく。
オーナーは基本的には全体の管理をお願いしますが、遊の進行の
サポートもお願いします。この“白い家”にも参加していただきま
すので、“白い家”さん、宜しくお願いします。
また、『温故知新』という、サブタイトルもつけたいと思います。
古いモノだけじゃなく、新しいモノへの思いも表現ができればと思
っています。
以上、私の思いも含めてお話ししましたが、このイベントを是非、
成功させましょう。」
「マキちゃんの思いに少し付け加えると、イベントは3月末を考
えていますが、それは、新芽が出て、新入学の季節ですが、その時
こそ、古きモノを忘れることなく、新しさを感じていただきたいと
思いますから楽しんでやりましょう。」
「は~い。」
オーナーのマキさんに対するちょっとしたフォローだね。マキさ
んは、自分の思いを半分しか言えてないように思う。あまり、成功
させようと力が入り過ぎないように見守ってあげたいね。俺、年下
だけど、手助けをさせていただきます。
『うふ。滝くん、よろしく。マキちゃんは人を使ったことが全く
ないようなので迷っているようですね。でも、それでいいのですよ。
いろんな思いがみんなにあるのだから、自分の思いだけを全てぶつ
けないでね。少し控えめの方がまとめやすいよ。
私も、いろいろな霊や魂たちをまとめていますが、中にはワガマ
マなヤツも居ますし、1人で勝手に盛り上がっているものも居ます。
みんなそれぞれです。さっきのオーナーの話じゃないけれど、頑張
りすぎるとどこかで摩擦が起きてしまうし、疲れますよ。楽しくや
って下さいね。
我々霊の世界ではなかなかそうはいかないけれど、人間界なら大
丈夫です。人間は一生懸命に考えることができる生物です。きっと
上手く行きますよ。うふふ。』
「ねぇ~、滝くん。この“白い家”の屋根裏部屋って知っている
?行ったことはある?」
「えっ。屋根裏があるのですか?知らなかった。マキさんは知っ
ていたの?」
「うん。少しね。行ったことは無いけどね。ユミさんとオーナー
は良く行っているようだけどね。あそこにはユミさんも知らないし、
オーナーも忘れているモノが沢山眠っているらしいのよ。何がある
かわからないぇれど、ちょっと面白そうだと思わない?行って見た
くない?」
「え~、いいんですか?オーナーやユミさんに怒られないですか。
勝手に触ったらこの前のようにユミさんに怒られますよ。」
「いいのよ。一応、オーナーとユミさんには言ってあるから大丈
夫よ。ユミさんが、あなたたちの視点でもう一度モノたちを観てあ
げてねって言っていた。オーナーも長く行ってないから好きなだけ
探検して来いって言っていた。へへへ。」
「そっか。じゃ、行って見ようか。へへへ。ところでどこから行
けるのですか?」
「知らない。・・・」
「え~。知らなったらどうやって行くのですか?まったく。」
「俺が案内をしてやるよ。暇だから。今からちょっと行って見る
か?長い時間は無理だよ。」
「は~い。ユミさん。宜しくお願いします。行き方がわかったら、
後は2人でモノたちを探します。」
「ほ~、2人で大丈夫かな。どんな所か知らないだろ。ムフフフ。
」
「えっ。何それ。ユミさん、ちょっと怖いのですが、その顔。」
「アハ。マキちゃんは怖いものは苦手だもんね。どうするの?」
「滝くんが一緒だから大丈夫。よろしく。」
「アハ。・・・」
「じゃ。行くか。・・・そこのトイレの右横に折れ戸があるでし
ょ。それを押すと向こう側に開くから。そこに階段があるのよ。ち
ょっと長いけれど上がると屋根裏よ。屋根裏部屋に着いたら引き戸
があるからそっと開けて中に入ってね。そっとね。ムフフ。」
「うっ。なんか怖い。嫌な予感がするね。ん?マキさん、どうか
しましたか?固まっていますね。アハハハ。」
「う~、動けない。いや、動きたくない。滝くんだけ取りあえず
行って来てくれないかな。へへへ。」
「え~。いやですよ。一緒に行きましょうよ。」
「あっ。それから、照明のスイッチは扉を開けたらすぐ横にある
からね。暗くても見にくいけど、小さな窓が近くにあるからそれを
開ければ明るくなるし、空気も変わるからね。よろしく。フフフ。」
「ユミさん。ワザと怖く言っているでしょ。やめてください。」
「マキちゃん、ごめんね。だって、2人ともすごく怖がっている
んだもの、面白くなってきた。アハ。じゃ、俺はここまでね。」
「・・・。」
『アハ。マキちゃん、滝くん、そんなに怖がらなくてもいいでし
ょ。私が見守ってあげるし、他のみんなもあなたたちを見ているか
ら安心してね。でも、このことを知ったら余計に怖がりそうね。
うふふ。』
「ワァ~、意外に広いですね。下のカフェの床より一回り狭いく
らいで天井高もセンターだったら俺が十分立って歩けますよ。マキ
さんだったら十分に天井高は足りていますね。
ん?どうしたんですか?早く仲に入って下さい。照明をつけたの
で明るいし、良く見えるから怖くないでしょ。」
「フン。滝くんは建築に興味あるのね。おいてある物より、柱や
天井、床ばかり見ているじゃない。確かにそれも古いモノばかりだ
けどね。あれ?これ何だろう。袋が被せてあるよ。開けてもいいよ
ね。」
「いいんじゃないですか。オーナーもよく観て来いって言ってい
たし。開けたら首が出てきたりして・・・。アハハハ。」
「きゃっ。バ~カ。あっ、地球儀だよ。これって超古いね。昔の
地球儀じゃないの。ワァ~、こんなの初めて見る。なんか茶色に変
色しているのかな。良く文字が見えないね。
あれ、これは何?何の箱だろう。開けてみるね。」
「マキさん。やたら開けていますがいいんですか?何が飛び出す
かわからないですよ。慎重に扱わないと。壊したらメチャ怒られま
すよ。」
「うん。あっ。中に羽ばかりが入っているよ。羽だけのもの以外
に羽ペンもある。ワァ~綺麗!箱に入っていたから全然汚れていま
いね。いろんな種類の鳥の羽だ。これも結構古いね~。」
「へぇ~。それいいですね。ほしくなります。あっ、これは何で
すか?やたら重い箱ですよ。中は何だろう。・・・
お~、石だ!小石が沢山ある。全部種類が違いますね。あっ、小
石に彫刻がされているものもありますよ。綺麗だね。マキさん、そ
の羽とか小石はファッションにも使えそうですか?」
「うんうん。そうね。どこから来てどんな意味があるのか、スト
ーリーのようなものがあればより面白くなるだろうね。一度ユミさ
んに尋ねてみよう。」
「あっ。マキさん。これ見て!古い布切れが沢山入っているよ。
大小様々だけどかなり古いもののようですね。すごい。」
「ワァ~、いいね、これ。加工してもいいのかしら。これもユミ
さんに聞こうっと。でも、入り口近くでこんなんじゃ、全部観よう
と思ったら何日かかるだろうね。ここに寝泊まりをしないと無理ね。
うふ。」
あのね・・・。
「おっ。これって・・・。古いオイルランプとオイルライターが
ありますよ。ライターはジッポが多いですね。いろいろあって楽し
い。
ん?これは古い図面ですね。へぇ~、桂離宮や修学院離宮もの、
それに、金閣寺のもの。あっ。東京駅のものまでありますよ。これ
持ち出してもいいのかな?」
「滝くん。私が言っていたことを全然聞いていなかったでしょ。
そんな図面、興味あるのは滝くんくらいよ。フン。それよりどうす
るの?時間が全然足りないと思わない?」
「あっ、ですね。明日はカフェが休みですからもう一度来ましょ
うよ。オーナーやユミさんに確認してからね。持ち出せるものをリ
ストアップしましょう。」
「そうだね。じゃ、明日一日でリストを作ろう。写真も撮ってお
こうね。じゃ、今日はここまで。アハ。」
『あらま。たった1時間で出てきちゃったのね。確かにいろいろ
なものが沢山あり過ぎるようです。私の仲間はみんなワイワイ言っ
ていました。外に出ることができるかもわかりませんから、すごく
楽しみにしています。
でも、屋根裏部屋だけれど、結構風通しもいいし、小さな窓だけ
ど沢山あるから、ブラインドを開け、窓の扉を開ければ、日も差し
込んで風も入ってくるからみんな快適に過ごしています。時々、ユ
ミさんが開けに来てくれます。・・・
あっ、明日、おふたりが来たらちょっと脅かそうってみんなが相
談していますから気をつけてね。・・・アハ。聞こえないか・・・
うふふ。』
そして、翌日の朝早くにマキさんが・・・
「お~い。滝くん。屋根裏に行くよ。早く。」
「は~い。こんなに早くから行くんですか?ちょっと寒いし、早
過ぎますよ。取りあえずお茶にしましょう。へへへ。」
「何それ。行くよ!」
「ん?マキさん。何か昨日とは雰囲気が違いませんか?やけに部
屋が静かに感じるのですが・・・。」
「当たり前でしょ。下のカフェは今日はお休みで音楽もないし、
人もいないのよ。この部屋には最初から音は無いからね。」
「そうですが・・・。」
バキッ。コンコン。ザー・・・
「滝くん。その辺のものをやたら触っちゃダメよ。昨日、ユミさ
んに言われたでしょ。」
「えっ。まだ何も触っていませんよ。」
「ん?そうなの?今何か音がしなかった?
パキッとか、コンコンとか・・・。」
「いえ。何も。・・・」
パキッ。ズタッ。
「え~、何なの今の。また、音がしているよ。あ~何か、ヒソヒ
ソ話のような声も聞こえてきた。・・・いや~。」
「あのね。外の風の音でしょ。こんなに早くから誰もカフェに来
ませんから。それに、今日は休みですよ。・・・
もう、マキさんは怖がりなんですから。
それとも、マキさんの耳にだけ聞こえているのかな。やっぱり、
マキさんは何かを感じやすい体質なんですよ。アハハハ。」
「フン。・・・・」
『いえ。滝くんが鈍感なのです。みんなしっかりイタズラをして
いますよ。でも、話声まで聞こえるなんて、やっぱりマキさんには
霊感のような力があるのかもね。私も一度確かめてみようっと。・
・・
みんな。もうやめるって。よかったわね。昔のようなことになる
と大変ですからね。・・・うふ。ゆっくり観てね。』
「あっ。これ珍しいですよ。ほら、古いファッション雑誌じゃな
いですか。マキさん興味あるでしょ。
へぇ~、1962年や70年代のものもありますよ。すごくノス
タルジックですが、今でも似たようなファッションがありますよね
?」
「ん?何も聞こえなくなった。ふ~ぅ。えっ、何?見せて。
あ~いいね。私、日本に居なかったし、こんな雑誌があったのね。
主婦の友という雑誌は古いんだね。いや歴史があるのね。へへへ。
いつごろから出版されていたのかな。」
「わかりませんが、おばあちゃんが昔よく読んでいたような気が
します。だから、かなり古いんじゃないですか。あっ。歴史がある
んじゃないですか。アハ。
戦前とか戦中じゃないですか。うちのおばあちゃんは昭和8年生
まれだからね。へへへ。」
「そうなんだ。これ、演出に使えるよ。私が作った服に似たよう
なものがあるし、いいね。」
「じゃ。他の人たちの家にも沢山の古い歴史のある本があるんじ
ゃないですか。今回は間に合いそうにはないけれど、次の時はもっ
と広い範囲で探してみたいですね。」
「うん。そうね。結構古いものから何かが生まれそうな気がする
ね。」
「なんか、まだまだあって楽しいですね。」
「アッ!」
「マキさん大丈夫ですか?物の隙間に入ると躓いてケガをします
よ。気を付けてね。」
「アハ。ありがとう。ちょっと手を貸してくれる?よいしょ。」
「・・・・・。」
『ん?何かいい雰囲気ですね~。うふふ。』
「早くリストを作らないとね。おい!滝くん。何やっているの?
全部の写真を撮って。私はメモをとるから。・・・何赤くなってい
るの?わからんヤツ。」
「あっ。はい。了解です。順番に撮り行きます。」
『この2人いい感じですね。新鮮な感じがします。初々しいとは
このことですね。うふ。意外とお似合いのような気がします。古い
モノが取り持つ縁でしょうね。どう進展するのか楽しみ。
さぁ~いよいよ、“再生と新生”そして“温故知新”のイベント
の始まりです。かなり楽しそうだし、勉強にもなりますね。仲間の
みんなも屋根裏部屋から出られたモノたちと楽しく過ごせそうです。
みんなに久しぶりに会うモノもいます。そう、あれ以来ね。・・・
皆様もどうぞご来店を・・・。うふふ。』
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ。」
始まりました。どうなるかな。成功するとは思うけれどね。・・・
へへへ。
「あっ!これ、面白い!」
「へぇ~、こんなコーディネートもあるのか。古いモノだからっ
てバカにできないな。」
「ほう。懐かしいな。うちの母さんがよく読んでいたね。それに、
このファッションは今でもありそう・・・。ちょっと、母を連れて
きます。」
「えっ。これって、うちの納戸にあるモノと同じじゃない?一緒
よ、これ。こんな使い方があったのね。新ためて見ると面白いね。」
「なんか、古いんだけれど、新しく感じるのは私だけかしら。」
「おっ。これほしい。このランプいいね~。」
「あれ?この布ってお母さんが着ていた着物の柄によく似ている
ね。」
「あっ。そうね。もう箪笥の中にしまったままだけどね。こうや
って再生されると、また違うモノに見えるね。」
「うんうん。帰ったら箪笥の中を調査しよう。へへへ。」
「そうね。お父さんのものも出てくると思うわよ。」
「これええな。懐かしいな。お前らにはわからんやろなぁ。昔、
こんな扇子が欲しかったんや。」
「へぇ~、なんか古臭い扇子ですね。師匠はこんなん欲しかった
んですか?扇子だけにそのセンスを疑いますわ。へへへ。」
「おっ。旨いな、アール。」
「アハ。今思いついた。ヌーボーもなんかないか?ここにある古
いモノとかけて・・・という感じでな。アハハハ。」
「古いモノとかけて、扇子ととく。・・・その心は、師匠の歴史
をアオギ見た気がします。・・・アハ。」
「おっ。ええやないか、ヌーボー。ちょっと苦しいがええんちゃ
うか。ねっ、師匠。」
「アホか。アハハハ。」
この前の母娘だね。元気そうでよかった。それに、あの漫才コン
ビと師匠さんか。
あっ、芸名をアールとヌーボーに変えたのか。確かにその方がし
っくりくるね。アハ。
たまには、古いモノ、歴史のあるモノに触れて楽しむのもいいね。
マキさんも満足そうに接客をしている。アハ、ユミさんもモノに囲
まれているから生き生きして見える。
ショウさんはゲームの説明ばかりして、子供が離れないね。でも、
嬉しそう。
食の世界もすごいなぁ~。流石、ニシさんだ。でも、説明が下手
だね。アキちゃんが代わりにやっている。アハハハ。
やっぱりね。・・・
あれ?オーナーはあの漫才コンビの師匠とテーブルに座って、小
物を前に話が盛り上がっている。どんな小物かな?あ~~、さっき
の扇子ですね。へぇ~、古い扇子もあったのか。みんなそれぞれで
すね。楽しそうだ。
このイベント、定期的にやりたいな。オーナーに提案してみよう
・・・。
『滝くん、いいですね。またやって下さい。この古いモノも時々
外に出たいですし、新しいモノと出会いたいですから。よろしく。
モノたちを代表してお願いします。うふ。』
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