第5話 都会と田舎
都会と田舎
「お~い。だれか、このフィギュアを動かしたか?何か位置が変
わったような・・・」
「ユミさん。昨日、自分でいろいろ動かしていたじゃないですか。
何故かわからないけど。その犬のフィギュアなんかはあっちこっち
に動かしていましたよ。」
「おっ。そうだったか。ショウちゃんが言うのだからそうなのか。
俺、物になると神経質になってしまうな。ごめん。アハハハ。」
確かにユミさんは物になるとかなり拘りがあるようだね。他のこ
とには何の興味もないようで、ニシさんが作ったまかない料理も一
気食いのたった5分で完食してしまうし、何もしゃべらない。ニシ
さんは、そんなユミさんを見ながらニコニコしているだけ。俺なん
かニシさんのまかない料理が一番楽しみで嬉しいけどなぁ。ユミさ
んは食べたら即、物たちの方へ行っちゃうし、変わった人だ。
「俺さぁ~。田舎者というか、小さな時の遊びと言えば山や川で
ドロドロになるまで男の子と遊んでいたでしょ。高校を卒業してこ
の町に来てからは、何もかもが新鮮で楽しい。
今でも時々小さなころには見たことがなかった物たちには引き寄
せられるように見入ってしまうの。古い物、新しい物全部好き。そ
れが生まれた理由や使われてきた歴史なんかにも興味があるんだよ
ね・」
「ふ~ん。そうなんですか。私はず~っとこの町の近くで生まれ
て育ったので地方のことなどは全然知らないですね。まだ25歳だ
し。これからいろいろな経験をするだろうけれど、生まれた時から
周りには何でもあったような気がする。親も普通のサラリーマンだ
からね。
滝くんは、どこの出身なの?何でこの町に来たの?」
「えっ。俺ですか?四国の愛媛松山です。道後温泉ぐらいしかあ
りません。結構田舎ですよ。」
「へぇ~、松山か~。夏目漱石の坊っちゃんや正岡子規なんか有
名じゃないの。あっ、ちょっと古かったかな。アハハハ。」
「いやそれだけじゃないよ。道後温泉近くのチンチン電車や今治
タオルなんかあって、俺、一度だけ言ったことがある。良い所だよ
ね。」
あっ。ユミさん、よく知っているんだ。確かにいろいろなものや
建物はあるけれど、やっぱり地方であり、田舎は田舎で変わらない
でほしい気がする。
みんな、地方の活性化をやっているが、何をすればそうなるのか、
わかっているのかな?田舎や故郷が大きく変わっちゃうと残念だね。
しっかり考えないとね。
「ユミさん、よく知っていますね。やっぱり物探しのために行か
れたんですか?俺、もう2年も帰っていません。」
「うん。物もそうだけど、温泉も好きなんでね。地方の山や川を
観るのも大好きだね。やっぱり俺って田舎が合っているのだろうね。
まっ、美羽が生まれる前のことだけどね。今はなかなか行けなくて、
物もインターネットで探しているのが現状だけどね。
久しぶりに沢山の旅に出たいなぁ~。へへへ。」
「そうですね。今はネットで何でも探せるし、田舎でもパソコン
があれば都会の情報も即、わかるしね。都会と田舎との境なんて地
理上だけで、いろいろな情報は共有されていますから、いやでもグ
ローバルな視点が大切になるのでしょうね。」
確かに、ショウさんはパソコンの前に座っている時が多いね。シ
ョウさんの知識ってほとんどがネット検索で得たものだったりして
・・・。
まっ。俺もそうだけど。やっぱり都会と田舎の違いのようなもの
は地理上だけなのかな?空気や人も全然違うような気がするが・・
・。
『滝くん、良いこと言うね。そうなのよね。都会と田舎って空気
や雰囲気、季節感などの情景が全然違うのよね。私“白い家”を建
てている材料や庭の素材なども様々な地域から集められているのよ。
だから、いろんな空気感というのか、臭いがあって性格も様々なの
です。そのモノたちが集まってうまく折り合いをつけてこの家がで
きています。いろいろなヒトやモノの気持ちがしっかりと入ってい
るのです。
あっ。何か上からの目線でしたね。
でもね、今も昔もそれは変わらないし都会も田舎も同じだと思い
ます。特にモノたちの気持ちはね。・・・うふふ。』
「うんうん。でもね、情報は共有されても田舎は田舎であってほ
しいし、都会も都会らしく最先端のモノやコトを探求する町であっ
てほしいのよね。それにどこで生まれようがどこから来ようが、そ
こが自分にとって大切な故郷だなと思う。
アハ、ちょっと気持ちが入っちゃった。ゴメンゴメン。アハハハ。
」
「いや、わかります。私はこの隣の町で、すぐ近くですが、たま
に帰ると何か空気が違うというのか、そんなにいい思い出があるわ
けじゃないけれど、ホッとしますね。やっぱり故郷ですよ。」
あぁ~あ。こんな話を聞いていると、久しぶりに田舎に故郷に帰
りたくなっちゃった。
「コラ~。おまえたち、いくら3時で暇だからってズーっとしゃ
べっているんじゃない!今のうちに備品や服装などのチェックして
おきなさい。へへへ。」
「あっ。ニシさんってどこの出身なの?ユミさんは岐阜らしいし、
滝くんは愛媛松山だけど。私は隣町ですが。へへへ。」
「ん?俺か?どこだと思う?この美しい言葉と容姿を見ればわか
るでしょう。へへへ。」
「あのね。クイズじゃないし、言葉はバラバラだし、容姿は出身
地、関係無いでしょ。ちゃんと答えなさい。」
「は~い。ショウにかかったら俺は。」
「えっ、何?」
「いえ、なんでもありません。はい。」
「ね~、どこの出身なの?」
「え~とね。オイは鹿児島生まれで大阪育ちやねん。そして、名
古屋で就職してチョ、東京に出て来てさ。その後、2年ほどは北海
道にいたベェ。その時に晶子が生まれたっちゃ。そして何故か離婚
をしてここに流れ着いたんだよね。」
「ん?いったいどこの人だ?言葉がメチャメチャでワザと言って
いるでしょ。本当にモデルなんかやっていたの?オーナーとはどこ
で知り合ったのですか?」
「あ~。長野のスキー場だったね。ロッジで1人呑んでいたら隣
に寂しそうなオッサンが居てね。それがオーナーってわけ。」
「そうなんですか。じゃ長野にも居たんですね?」
「そそ。この料理は長野のロッジで覚えたのだ。へへへ。」
「滝くん。その話は後にして。ニシさんは自分の故郷ってどこに
なるのですか?やっぱり、生まれた鹿児島かな?」
「ショウちゃん、俺の故郷は日本だよ。この国が俺の田舎であり
故郷なのだ。」
「えっ。日本?みんな日本じゃないの?大きく出ましたね、ニシ
さん。」
「そうかな。みんな四国だの岐阜だのと言っているけれど、言葉の
違いはあっても、日本の中では少し離れているだけで一緒でしょ。
まっ、性格の違いはどうしようもないけれどね。アハ。
だから大きく考えれば、日本ってことになる。
ただね、この“白い家”が今の俺の故郷なんだ。こんな居心地の
良いところはなかなか無いし、みんな面白くて楽しい。そして、こ
の空間も刺激的で生きているって実感できる。いろんなお客様とも
出会えて日々ワクワクしているよ。小さな空間と時間だけどね。」
「うんうん。そうだね。俺も同じく!」
「ユミさん・・・じゃ、私も。へへへ。」
何か良いなぁ~。みんな家族って感じがする。俺もここに来てま
だ日は浅いけれど、中身が濃い生活をしている気がしている。俺も
早くこの家族の一員になりたい。
都会でも田舎でもない、この小さな世界はみんなの第二の故郷っ
てことかな。マキさんがあんなに丁寧に掃除をするのもそんな思い
があるのだろうね。
少しだけど、この“白い家”がわかって来たようで、オーナーの
心も理解できそう。
『うん。いいんじゃない、滝くん。少しは大人になって来たよう
ね。そんなふうに感じてくれると私もうれしいです。
“白い家”の白っていうのは、何も無い純粋という意味もあるけ
れど、どんな色にでも染まる、変わるという意味もあるのです。人
それぞれの思いと共にこの家もあなたたちと一緒に育って行きます。
この再生された家たちを大切にして、自分に素直に生きてほしいで
す。その故郷となればと思っています。
アハ、良いこと言っちゃったかも・・・。うふふ。
アラ!ちなみに、マキちゃんはどこの出身だったかしら。オーナ
ーも含めてまた改めてご報告いたします。故郷を大切に。』
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