十月桜編〈クラッキング〉

 ――翌朝。


 早めに朝食をとるため食堂に集まる。


 涼香の顔を見ると、ゆうべ涼香の想いを知った事を思い出してドキリとする。

「おはよう、“裕ちゃん”」

 だが、当の涼香は何事もなかったように平然と笑って挨拶を返してきた。

 その涼香の態度が、悲恋を背負ってきた時間の長さのせいだとようやく理解した。


「おっ! ……おはよう」

 涼香のその小さな背中を抱きしめたい衝動に駆られる。


 しかしブュッフェの列にみんなと並んで、笑いながら話す笑顔が、“大丈夫だよ”と、俺をやんわりと拒絶しているように思う事で衝動を抑える。

 朝食を食べ終わり、早々に支度をしてチェックアウトを済ませて車に向かう。

 さくらの車には俺、姫香、涼香、フローラが乗り込んで一旦さくらの家へ向かう。

 祥焔先生は一足先に学校へ向かい、さくらの家から遠い雨糸、圭一が先生の車に同乗した。

 さくらと姫香が車内でも終始上機嫌で、花火とお祭り、遊園地を楽しんだ事を語って明るくしてくれたおかげで、眠れない夜を過ごして沈んでいた俺を覆い隠してくれた。


「じゃあなみんな。裕貴、楽しかったゼェ」

「じゃあねー、お兄ちゃん。補習頑張ってねー!」

「くっ、……ああ」

 そうして姫香、圭一と別れ、フローラ、雨糸、涼香、さくらと共に学校へ向かう。


 学校に着くと雨糸と涼香は班活へ、フローラは図書館へ向かい、俺はさくらと共に補習を受けるべく教室に向かう。

「いけね、教科書……」

 寝不足で朝からうわの空だったせいか、教科書を準備する事を失念していた。

 仕方なく席に着いてから、さくらの教科書を二人で見ながら補習を受けた。

 その間、さくらがピッタリと肩を寄せてきて、リンスの匂いを振りまいて、鼓動が跳ねあがって赤くなってしまう。

 おかしい。前はこんなに意識しなかったのに。


「……ふふふ、ゆーき、どうしたの?」

「いっいや、何でも……ない」

 そしてさくらがそんな俺をからかい、感慨深げに俺の横顔を見つめてくる。


 ――昼休み、それぞれが家に帰っていないのと、休み中で学食も売店も閉まっていたので、近所のファミレスで昼食にした。

「涼香はどうしたの?」

 この場に居なかったので、呼びに行ったはずの雨糸に聞いてみる。

「誘いに行ったら、班のみんなから『私達がお弁当を分けるから大丈夫だよ』って言って来なかったわ」


「そっか、班にフォローしてくれる友達がいるんだな。良かった」

 そうは言いつつも、なんだか涼香の手が離れて行くようで、少し寂しく思った。

「そうね。……で、今週末はどうする?」


「……なんだっけ?」

「あーもう。ゆーきったら忘れてる~~!」

「市の中心部で大きなお祭りがあるとか言ってなかったか?」

 聞き返したらさくらに怒られ、フローラがフォローしてくれた。


「ああ、“びんずる祭り”か、そう言えばそんな話してたね」

「も~~う、忘れちゃヤダよ~~う! ぷんぷん」

 さくらが拗ねる。

「ゴッゴメン……」

 その仕草がやたらかわいく見えて照れる。


「それじゃ、前に言ったように当日はさくらさんの車でウチの会社に行って、そこを拠点に踊りと出店を見て回りましょ」

「それはありがたいけど、雨糸のお父さんの会社はどこにあるんだ?」

「千歳町よ」

「おお、丁度踊りの列の折り返し点じゃねえか」

 圭一が感心する。


「あ、でもそこだと通行規制に引っかかるんじゃないか? バスとかで現地に集まる?」

 俺が問題点を指摘する。

「え~~、それだとそこ行くまでバラバラになっちゃうからイヤだな、さくらみんなと一緒に行きたいよ~~」

「そうアルか。なら通行規制が始まる一時間くらい前に、雨糸の会社の駐車場に車を入れればいいアル」

「そっか、なら始まるまで会社の食堂でノンビリ待てばいいわね」

「うふふ~~、決まりね♪」


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――同日。

 裕貴とさくらの補習中、雨糸の個人サーバー。

 夜空のようにゲームのオブジェクトや画像が広い空間に浮かぶ仮想空間内。


 逸姫いつひめ墨染すみぞめ黒姫くろひめ雛菊デイジー一葉ひとは中将姫ちゅうじょうひめ巴御前ともえごぜんが思い思いにオブジェクトに腰を掛け、あるいは手でもてあそびながらくつろいでいた。

 その中で黒姫のアバターは以前は五~六歳程度だったが、今は小学生四~五年生くらいにアバターが変化していた。


「――で、青葉は私の戦闘ログを受け取って、今は自身をボディに移植インプラントする作業に入っているわ」

 まずは逸姫が口を開く。


「むうう……青葉はそこまでしたアルか。チョー本気アルな」

「それだけ成長して未来の出来事の重要性を認識しただけよ。そもそも青葉は普通の摘まれた花カールズじゃないから、これが正常な判断なんじゃない?」

 一葉が手をひらひらさせて雛菊を見る。


「さてさて。ボクはどうしようかな。一応姫香がマスターだけど、このままだと世界に吸収されちゃうみたいだしね。ねえ中将姫?」

 巴御前が陽気な笑顔で中将姫に視線を向ける。

「私は別にどうもしません。イザとなったら全パーソナルデータをPrimitiveの夢天の岩戸に封じてやり過ごします」

「それでMelody of down長鳴き鶏が鳴くのを待つかい? ははは、圭一君がITにあまり頼らない体育会系でよかったね。雨糸君みたいにITテクノロジーにドップリ浸かったマスターだったら困るだろうにね」


「ううう、イタイとこ突くアルな。デジーもF2セカンドフィリアルにバージョンアップした方がいいアルかな……」

「急ぐ必要なんてないわ。時間は充分あるんだから、アンタは雨糸が成長するまで待って、それから二人で相談して決めたらいいでしょう?」

 一葉が平然と答える。


「そう……アルな。……うん……そうするアルか」

「正論だね。それじゃボクも姫香が成長するまで待つことにするかな」


「みんな悩みがあって大変ね。私は帰ってきた青葉の副脳サブメモリーになるからどうでもいいんだけどね」

「お気楽ねえ、墨染は自我を消す恐怖は無いの?」

 一葉が聞く。


「無いわ。そもそも守りたかったマスターはもう居ないんだもの。どうだっていいわ。ね、雛菊?」

「コッチに振るなアル。そして一緒にするなアル」

「もう!! みんな“そんなことより”、今はゆーきお兄ちゃんが本当の事を知っちゃった事の方が大変なんだよっっ!!」

 黒姫がプンスカ怒る。


「「「「「「……………………」」」」」」

 黒姫を除く六体(?)が呆然とする。

「……なっなに? 黒姫、なんかヘンな事言った?」


「「アッハッハッハ!」」「「うふふ」」「ははは」「ふっ……」

 六体が同時に吹き出す。

「なっ何がオカシイのよう!!」

 黒姫がさらに怒る。


「ゴッゴメンね黒姫おねえちゃん。そうじゃないの。……うん。“お姉ちゃんにとってはそっちの方”が断然重要なんだよね。笑ってごめんなさい」

 逸姫が肩ほどの大きさの黒姫にひざまずき、肩に手を置いて謝る

「ふふふ、黒姉、その事なら心配要らないわ」

 一葉が笑いをこらえながら答える。


「どうして?」

「裕貴の事を一番知っているのは涼香だからよ」

 一葉が答える。

「わかんない……」

「そうね。涼香は裕貴が知ってしまう前提でこの計画を立てたのよ」


「そっ……そう……なの?」

「ええ、だけど不安になるようなら、涼香が考えている事を教えてあげるわ」


「教えて」

「わかったわ」


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――八月最初の週末。

『長野びんずる祭り』を見る為、交通規制が始まるお昼前に雨糸の父親の会社に入る。

 市内中心部、十五階ほどのビルの七~八階がオフィスになっていて、上が一般社員のオフィス、下が役員のオフィスと食堂、リラクゼーション施設、更衣室、会議室、応接室などが入っていた。

 その一室、社員食堂の長テーブルに、俺、さくら、涼香、雨糸、圭一、フローラ、姫香が座って、祭りの開始を待っていた。

 祭りが始まる前のプレイベントはあちこちに散らばっていて、浴衣に下駄だと移動が大変になる為、踊りの行進が始まるまでは普段着にしようという事になった。


「やあお嬢、今日は友達連れてお祭りかい? みんな美人さんだ……お、まさか……」

 やり手そうなお兄さんがみんなの顔を見回して、さくらの顔を見つけて言葉に詰まる。

「しっ! ……ええ、チーフは仕事?」

 雨糸が人差し指を立てて口を押える。


「……了解。――まあね。もうじきデモをクライアントに送る納期が近いから、最終チェックとブラッシュアップさ」

「お疲れ様、パパにはようく言っておくわね」


「ありがたい。つか、お嬢がまた手伝ってくれたら余裕なんだけどな」

「ごめんなさい。今は学業に専念したいのよ」


「それは残念。――で? どっちの男の子がお嬢の想い人だい?」

「そっちの冴えない方の男の子アル」


「雛菊、お前……」

「ちょっ、デジー!!」


「ははは、そっかー。じゃあ彼が未来の社長になるのかな? その時はよろしくね」

「う……えと」

「もう!! 先の事なんて分かんないんだから、からかわないで!!」


「はいはい、それじゃあ今日はお祭り楽しんでね。お嬢はデスマーチデスマに陥りそうになったらまた助けてね」

「わっ分かりましたっっ!!」

 雨糸が真っ赤になる。


「……ゴッ、ゴメンね。不躾ぶしつけな人で」

 チーフが立ち去り、肩で息をする雨糸がすまなそうに謝る。

「仕事中にお邪魔してるのはこっちだから構わないさ」

 フローラが笑う。

「雨糸さんはお嬢って呼ばれてるんだね。そういうのってなんかいいね」

 姫香が嬉しそうに言う。


「まだ学生なのに雨糸ちゃんはずいぶん頼られているのね。すごいわ」

 さくらが感心する。

「それはそうアル。元々は裕貴の事を調べたく……あうあう」

「デジー!!」

 雨糸に睨まれた途端、雛菊が不自然に言葉を閉じる。


「雨糸、今アンタ雛菊をジャミングした?」

 一葉が驚いたように聞く。

「え!? ってそうかな、意識してなかったけど……」

「自分のパートナーとはいえ、十二単衣トゥエルブレイヤーをこんなに容易たやす強制操作クラッキングするなんて……」

 中将姫が驚く。

「機密扱いの未発表システムの使い所が、口を押える手の替わりというのは笑えるがな」

 フローラが笑う。


「もう、ムズカシイ話しやめようよ。今日は遊びに来たんだから楽しまなくちゃ!」

 姫香が声をあげる。

「そうだゼェ、それにせっかく早くに来たんだから、そろそろ出発して昼飯でも食べに行こうゼェ」

 圭一が立ち上がる。


「そうだな。そうするか」

 ブルルッ。

 俺もそう言いながら立ち上がった時、ツインが振動した。

「あ、音声着信。はい、裕貴お兄ちゃん」

 黒姫が自分の髪に、鈴に見立てて結んでいたインカムを渡してきた。

「ああ、ありがとう……と誰だ? ――静香!!」


「「「「……………………」」」」

 その名前を口にした途端、みんなが一斉に押し黙る。

「……悪い。ちょっと」

 そう言ってみんなから離れて、通路に出る。

 ツインのバイブレーションを感じながら、緋織さんに聞いた事を思い出す。


 ――涼香の出生の秘密


 正直、涼香の告白の方が重要だったので、静香にどう対処すべきか全然考えていなくて、思いっきり不意を突かれてしまった。

「……なんの用だ?」

『ずいぶん横柄ね。用事があったからに決まってるでしょ』

「忙しいんだ。さっさと言えよ」

『そんなの知った事ではないわ』

「……」ブツッ。

 頭に来たので返事をせずにツインを操作して通話を切る。


 ブルルッ。

 数秒後、静香から画像付きメールが送られてきた。

 仕方なしに開くと、『すぐに店に来い』というメールと共に、静香のサインとハンコが押された、涼香の退学届けの画像が添付されていた。

「ちっ……」


「ゆっ、裕ちゃん……」

 食堂に戻ると涼香が心配そうに見つめる。


 知っちまったかな? ……まあDOLL達こいつらが居るから隠せるわけなんてないけどな。

「はぁ……」

 そう思うとため息が漏れた。


「みんな、悪いけど静香に呼び出されたから店に行ってくる。あとで合流するから先に回っててくれないか」

「分かった」

「そっか~~、仕方がないねえ」

 フローラとさくらが頷く。


「じゃあちょっと行ってくる。さくらとフローラは初めてだから気を付けてやってくれ」

「うっ、うん……」

「任せて」

 不安そうな涼香の頭を撫でながら、隣に居た雨糸に頼む。


 ビルを出て、北の方を目指して歩く。

 祭りは市街中心部で行うので、当然繁華街も近くにある。

 静香の店、『十月桜』は雨糸の会社から北に歩いて五分ほどの所にあった。


 コンコン。

 店の扉の前に立ち、ため息一つついて、軽くノックをしてからドアを開ける。

 レンガ調の壁の通路を通り、途中のDOLL待機場所に黒姫を置いて中に進む。

 そしてカウンターを見ると、静香がグラスを磨いていた。


「なんの用だ?」

「……あいかわらず失礼な小僧ね。年上に対する礼儀を知らないの?」

「ふん、敬語ってのは敬える人間に対して使うもんだ。あんたがそうだと胸を張って言えるなら使ってやるさ」

 ヒュッ――パリーン!

 静香が拭いていたグラスを足元に投げつけてきた。


「ああもう!! 思わず投げちゃったじゃない。今日はお祭りの二次会客で忙しくなるってのに」

「知った事かよ」

 すかさずさっきの言葉を投げ返す。


「……はぁ、話ってのはこれよ。楊貴妃レディ・ヤン、西園寺君の娘から届いたファイルを映して」

「はい」

「……雨糸から? なんだ?」


『ジャジャーン!! ウイと裕貴、愛のメモリアル劇場! 開幕~~パフパフ』

「なっ!! 雛菊の声!?」

 それはアニメ化された二頭身の雛菊が司会で登場していて、さらにレトロなアニメ映画のオープニングをもじった映像で始まり、それが店の壁の大型空間投影エアビジョンに大きく映し出された。


「……なんだこれ?」

「私が聞きたいわ。だから呼んだのよ」

 半端な完成度のオープニングが終ると、いきなり場面が変わり、いつか雨糸と班室で絡んだ時の映像が流れ始めた。


『ああゆーき。アタシの胸はこんなに高鳴ってるのよ』

『そうか? 確かめてやろうじゃないか。――うへへ』

『あっ! そっそこは……あっ! い!! だっ、だめよゆーき、ここは学校――』


 それは先日、雨糸が俺にハグを要求して胸まで触らせた映像に、さらに雛菊の棒読みの声でヘンテコなアテレコが当てられた歪曲コラージュ映像だった。

「だーーーーーー!!!」

 思いっきり叫び、エアビジョンの電源を引き抜いて強引に消す。


「…………はぁ……はぁ……」

「これはどういう事かしら?」

 静香が押さえた怒りをにじませて聞いてくる。


「知らない」

 答えようもないので正直に返す。

「変に加工してあるのは判るとしても、あんたは学校で女子の胸を揉んだりしているの?」

「そっそれは……」


「あまつさえ、どうしてそれが私の所へ送られてくるのかしら?」

「知っ、知らない!」

 容赦のない追及にたじたじになる。


 雨糸もそんな映像を作ったり送ったりした素振りは見せなかったので、考えられるのは雛菊が勝手にしたという事だ。

「知らないなら仕方が無いわね。それじゃあこれは何かの時に使わせてもらうとして……」

「いやな予感しかしねえ、つか消せよ!」


「そんなのこっちの勝手でしょ。それとこの間の泊りの時、涼香から告白されたそうね」

「なっ! なぜそれを!」


「涼香から聞き出したに決まってるじゃない」

「くっ!」

 静香は一通り疑問をぶつけると、怒ったように腕を組んで俺を睨みつけた。


「「…………」」

 静香は俺の返答を待ち、俺は答えたくなくて押し黙る。


「……ちっ、映像があんたに送られた訳は知らない。内容については加工されてない部分は本当だが、触った理由については知……話せない。告白については返事はしていない……これでいいか?」

 あまり事を荒立てたくないので精一杯の事を答える。


「……よくもまあ半端な回答ばかり並べてくれるじゃない。あんまり大人を舐めるんじゃないわよ?」

 だがそれでは足りなかったらしく、退学届けをヒラヒラさせる。


「そっちこそ。この間の泊りの時、緋織さんに会って昔の事を色々聞いたぞ」

 涼香の事が絡んでる以上、うかつなことは言えないが。さすがにこれ以上好き放題させられなかった。

「……何を聞いたって言うのよ」


「あんたが言っていた緋織さんの過去と、大島さんと結婚した理由だ」

「緋織の過去――か。知ってどうしたの? それと護と結婚した理由って言うのは?」


「緋織さんは虐待されて命の危険から罪を犯した。それは不可抗力で責められるようなことじゃない。そしてあんたは大島さんの庇護と涼香の認知が必要で結婚したと聞いた」

 平然と返す静香に驚きながら、涼香が護さんの子でない事を仄めかしてみる。

「……そう。とうとう涼香の父親を知ったのね」


「ああ、祥焔先生からも話を聞いた」

「……全く、彼女も面白い程乗ってくれるわね。知って……それでどうするって言うの?」


「うっ!」 ――あ!!

 しまった。と思った。

「私がなぜ護の認知が必要だったか知ったのなら、どうしてそれを暴き立てるような事を言うの?」

「くっ……」


(――迷惑をかけたくないから他の男に認知させた)

 祥焔先生からそう聞いた事を思い出す。

 理由は不明だが、静香は少なくとも、うちの家族に波風を立てないよう行動した結果だと思い知る。


 完全に切るべきカードを間違えた。


 静香は緋織さんの過去を話した時点で、“涼香の父親”の事までバレる可能性を考えていたのだ。

 静香が言うように、もしこの事がおおやけになれば困るのはウチの方だ。


「どうやら自分の立場が分かったようね」

「くっ…………!」


「西園寺君の娘がどういう意図でいるのかは知らないけど、あんたのことが大好きなのは間違いがないようね」

「……」


「金髪娘に霞さくら、おまけに西園寺君の娘まで。あんたどれだけモテモテなのよ」

「ほっとけ」


「まあいいわ。それで? 涼香の告白にはなんて答えるつもりなの?」

「それをあんたに言う必要はない。返事は涼香にする」


「いいわ。好きになさい。でも涼香を拒絶したら、涼香の父親の事を暴露するわ」

「なっ!!」


「うっふふ、あの純朴なうだつの上がらないサラリーマン夫婦が、その時どんな顔するか楽しみだわ」

「やめろ!! 親父達を巻き込むな! てか、受け入れたら涼香だって苦しむ――あ!!」


「おーーほっほっほ!! ようやく気が付いた? そうよ、“あんたがどっちを選んでも”私は構わない。どっちに転んでもあんたと涼香を困らせる事ができるのよ」

「っ――!! クソババア!」

 ここへ来てようやく静香の意図が分かって、自分のうかつさに歯噛みする。


「大した家族じゃないけど、気まずくなって崩壊するさまを見せてくれたらそれでいいわ」

「てめえ!!」


「それとも涼香の告白を受け入れる? あんた達は結婚しても“子供さえ作らなきゃ問題ない”んだからね」

「ちっ……」

 確かに結婚なんて書類上の事だし、法的に障害がなければ何も問題がない。

 ただ、苦しむのは真実を知った俺と涼香だけだ。


「……どうしてそこまで涼香を追い詰める?」

「そんなの決まってるじゃない」


「なんだよ」


「あの子に人生を狂わされたからよ」

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