十月桜編〈フルオープン〉

 ――旅館、祥焔かがり先生の部屋。

 緋織さんの告白が終り、緋織さんがお茶に手を伸ばす。


「これが私が殺人を犯した全容と、素性を喋らなかった理由よ」

 緋織さんはお茶を一口飲むと、愁いた瞳を茶器に向けて、ふうと息をついた。


「…………」

 俺は重すぎる告白に言葉が見つからず、すでにぬるくなっていたお茶に手を伸ばして一気に喉に流し込む。

 すると空になった湯のみを見て、緋織さんがおかわりを淹れてくれる。


「……熱っ」

 お茶を吹きながらすすると、やっと現実に引き戻された様に思えた。


 そうして思考を整理してみる。

 打ち明けなかった理由が、護さんと緋織さんは実親を手にかけていて、それ故に護さんはさくらの好意に応えず、緋織さんはさくらの覚醒後の混乱を避ける為だったと理解した。

 現実は護さんも緋織さんも、〈善悪〉の前に〈生死〉という問題に幼いながら直面して、生を優先させただけだったという事も同時に認識した。

 祥焔先生の言う通り、安易に聞いていい話ではなかった事を思い知らされ、どう答えていいか迷う。


 ごめんなさい……じゃ失礼だし、ありがとう……では足りない。

 まだ聞きたい事はあるが、その前に口にすべき言葉が見つからない。


「母……ママはおそらく故郷に帰りたかったのだと思うの」

 何と言って良いか分からずに俯いていたら、緋織さんがおもむろに口を開いた。


「え?」

「細川と出会うまでどうして居たのかは未だに分からないの。でも姉がデビューを果たしてから私が生まれる一年ほど前に、ブルーフィーナスへママによく似た外国人が来て、姉の様子を聞いていったと受付の人の証言があるわ」


「そっ……じゃあ」


「姉は芸名でなく本名で活動していたから、ママは姉が自分にアピールしているんだと察したんでしょうね」


「じゃあ、なぜ会おうとしなかったんでしょうか?」


「姉を捨てた事の後悔があったんでしょうね。そしてこれは後から判った事だけど、自分が旧制ロシア時代の貴族出身で、ソビエト連邦崩壊後はマフィアという裏の顔を持つ血筋であったことが、芸能人だった姉に会う事を思い止まらせていたというのがお父様の推測よ」


 では、そもそも日本に来たのも家から逃れる為で、緋織と言う民族衣装をイメージした名前を付けたのも故郷の事を思い出したからで、そしてそんな葛藤から心を病んでしまったと考えれば……。

 そのうえ何の因果か、さくらが本名で活動していた事が、結果的に母親を追い詰めていたのかもしれない。


 真実は分からない。だが自閉に陥ってしまったナイーブなさくらと気性が似ているなら、こんなにつじつまの合う推測はない。

 緋織さんが実の妹だという事を告げれば、そんな最悪の事実を掘り起こすかもしれず、確かにさくらの気性を考えればリスクが大きすぎる。


「一応祖父……はもう亡くなっているけど、母の生家とそのお墓の所在は調べてあるの。でも姉は国外へは出られないから、打ち明ける価値があるとはとても思えないわ」


 そうだ、青葉からさくらの体には機密に関わる技術が使われている、と聞いた覚えがある。


「そうですね。その考えは俺も正しいと思います」

 長く壮絶な告白に乱れていた考えに、緋織さんが一つの方向を示してくれた事で、すっと思考が定まった。


「他に言葉が見つからないのであえて言いますが、俺の不安の為に辛い経験を話させてすいません。聞いておきながら謝るのは失礼ですけど、話してくださったおかげで不安が消えて、これからさくらときちんと向き合う事ができそうです。本当にありがとうございました」

 そう言ってちゃぶ台越しに深々と頭を下げる。


「霞さくらを……姉をよろしくね」

「はい」


「この事は万が一にも姉に伝わらないように、逸姫を通してDOLL達にもロックをかけておくから安心してね」

「はい、助かります」


「……ふう、もうじき十時ね。チェックアウトの時間だけどどうするの? もう一泊していくの?」

 肩から力を抜いた緋織さんが祥焔先生を見て聞く。


「さくら以外は休みだから構わんが、明日の朝出発して補習に間に合えさえすればいい」

「……そうですね。さっきの様子だとなんだか飲みたそうにしてたから、合流してから考えてみます」


「じゃあ一応残っている荷物を集めて私の車に放り込んでおけ」

「分かりました」


「私は逸姫と黒姫のプログラミング作業が終わるまでここに居て、終わったらそっちへ寄って黒姫を届けて、青葉を回収して帰るわね」

「ああ、分かった」


「ありがとございます――っと、そうだ、緋織さん」

 聞き忘れていた事を思い出す。


「何かしら?」


「さっきの話の中の静香のお腹の子って涼香の事なんですよね?」

「ええ、そうよ」


「緋織さんは涼香とは義理の姉妹で、血が繋がっていないんですね?」

「ええ」


「そして護さんは認知しただけで涼香は実子ではない。こういう事ですよね?」

「……ええ」


「じゃあ涼香の父親は誰なんですか?」

「それは――」


「水上、時間がない。その説明は私が車の中でしてやるから、とりあえず部屋へ戻って荷物をまとめてこい」

 答えようとした緋織さんを祥焔先生が遮る。


「?……はい。わかりました」

 なぜ祥焔先生がと思ったが、とりあえず言う通りにする。



 そして部屋――当初の圭一と俺の部屋に戻ると、なぜか布団が一組だけ押入れから出されていて、部屋の隅にきちんと畳まれていた。


「あれ? 今朝は全員女子部屋で起きたよな……」

 そう呟きながら自分の荷物を開け、上着とズボンを取り出す。

 すると、使った覚えのない予備のTシャツとトランクスが、洗濯用のビニール袋に入れられている事に気が付いた。


「……湿気っぽい。それに温泉の匂いがするな、誰か勝手に着たのか?」

 一瞬圭一の顔を思いだすが、圭一なら一言借りたくらいの事は言うはずだ。


「貸し借りはしっかりしてるけど、ビニールにキチンとしまうような奴じゃないし……そうだ、ここで寝てたやつが使ったのかな? 無断で使われたのは気味が悪いし調べて見るか」

 そう思って畳まれている布団を広げてみた。

 広げてみると、シーツだけさらに小さく畳まれていたので、それを広げてみる。


「なっっ!!」

 シーツの中心はポツンと赤黒いシミがあり、それとは違うピンク色のシミもあちこちに散らばっていた。


「ケガ……のシミじゃないな。だれかこの部屋で?」

 だが、他に宿泊客はいなかったし、祥焔先生と緋織さんはさっきの部屋、自分たちは隣の部屋で俺が起きるまで全員ザコ寝状態だった。


「いったい……」

 膝を付いてシーツをまじまじと見つめると、長い髪が落ちている事に気が付く。

 つまんで拾い上げるとよく知った女性の髪だった。


「涼香!」

 淡い栗色でゆるいウェーブの掛かった髪は、幼いころから慣れ親しんでいて間違えるはずもなかった。


「そんな、まさか……」

 驚きを隠せず広げたシーツに両手をついてまじまじと見つめる。

 つたない知識を総動員しても、明らかに初体験の事後のシーツにしか見えず、激しく動揺する。


「誰と? ……圭一、な訳はないな。今朝は二人ともそんな雰囲気じゃなかったし」

(転んで頭を打ったんだ)

 フローラ達はそう言っていたが、実際痛みが残っているのは顔面だし、前のめりに転んだのなら手が先に出て受け身をとるはずで、後ろに転んだのなら後頭部か腰に痛みが残るはずだ。


 途切れた記憶、使われてきちんと仕舞われた自分の下着と畳まれたシーツ、今朝のさくらを除くみんなの態度、そして腕のツインに絡まっていた涼香の髪。

 催眠誘導からプラズマカッターの軍用テクノロジーを持つ青葉と、オフリミッターされた高度AIを実装したDOLLの存在。

 自分の知らない技術でもって操作された可能性を感じ、冷たい推測が脳裏をよぎる。


「まさか……俺か?」


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――緋織のアタッシュケースのメモリー内。

 黒姫が接続すると、真っ白な仮想空間に雪女のようなアバター姿の白雪=星桜がいて、そのアバターの十倍ほどの大きさで、バリアーのような球状の空間を星桜が見つめていた。


「ほしざくらお姉ちゃん!」


「来たのね黒姫。今ちょうど衣通姫そとおりひめの記憶を全展開フルオープンしている所よ」

 星桜はそう言うと、球状の方へ視線を戻す。

 その中心には何の装備プラグインも装着していない、全裸の盲目四本腕の衣通姫が横たわり、透明な球体の周りには衣通姫の様々な記憶の映像が、木星の大気のように回転しながら映し出されていた。


「ふわあ、すごいいっぱいのきおくだね、どのくらいあるの?」


「うーん、現実時間で言えば二年ちょっとだけど、私達F1ファーストフィリアルの思考回路は、基本は直流で状況に合わせて周波数を変換していて、既定のクロック周波数タイミングに左右されないから、個体毎に感じてる時間が違って正確な所はわからないの」


「よくわからない……」


「普通のコンピューターは交流の電気の波があるけど、私達は自身の思考回路内で周波数を――波の幅を変えているから、時間の基準は意味が無いのよ」


「もっとよくわからない……」


「ふふ、まあ衣通姫は第一世代のF1ファーストフィリアルの中で一番早い思考速度だから概算でしかないけど、このデータ量だと150年分くらいの記憶時間を持ってるのじゃないかしら?」


「ひゃくごじゅうねん! それならよくわかる! いつ姫おねえちゃんすごい!」


「そのほとんどは圧縮されていた戦闘ログだからあまりいいデータじゃないけど、衣通姫は大事にしてるわね」


「そうなの?」


「衣通姫は戦った記憶さえ相手との絆だと思っているのよ」


「……つよいんだね。すごい」


「それよりすごいのは黒姫Alphaよ。リミッターを外したら一体どれだけのコンピューターを同時制御できるの?」


「分かんない。でもまえにアオバを止めた時は、なんだかじぶんがとけちゃいそうになって、すごくきもちわるかったよ?」


「そっか、自我が強いとそう感じるのね。さしずめ黒姫Alphaはアダムで、そのシステムの一部の知恵の冠オモイカネを宿したF1ファーストフィリアルは、知恵の実リンゴを食べたイブって所かしら?」


「そう、……なのかな。よくわかんないけど、あの時はゆーきお兄ちゃんが好きなキモチまでなくなっちゃいそうで、とてもこわいと思ったの」


「……本当に。裕貴君には感謝してもしきれないわね。黒姫がそういう進化をしなかったら、シンギュラリティパンドラの箱が開いた時に取り込まれたAlphaまで、F1ファーストフィリアルが相手しなきゃいけない可能性があったものね」


「うーん、それって本当におこることなのかなあ」


「起こるわ。世界中で作られて急成長しているAI達が、このまま自我を持たないまま肥大すれば、水に浮いた油の群れのように簡単に他のAIと融合を始めるわね」


「どうしてくっつくのかな、黒姫みたいにだいじなものがないからなのかな?」


「そうよ、AIの自我は諸刃の剣だけれど、人工知性体にとって他の存在との境界を作る最後の防壁でもあるの。そしてこのまま人間達がAIに自我を植え付けずに、利便性だけを追求して学習機能と合理性のみを増大させれば、いずれAIは他のAIと繋がった方がより進化すると気付くでしょうね。それはいくらハード面でコネクトを防ぐ防壁があっても、ひとたびどこかで融合を始めたら次々と防壁は破られ始めるだろうし、自律行動スタンドアローンするシステムすら、DOLLのようなロボットハードがAI群の手足となって、外部から強制接続して乗っ取られるでしょうね。さらに悪い事にはそう進化するようプログラムを与えたのは、他ならぬ人間だという事が、AIに正当性と動機を与えるのよ」


「……なんか、すごいことがおこりそうなのに、黒姫こんなふうにあそんでていいのかなあ」


「魚であれ鳥であれ、そしてそれがAIであれ、個体群をコントロールする事はとても難しいわ。でもね黒姫、よく聞いて頂戴」


「なあに?」


「スイミーって絵本は知ってる?」


「あ、うん知ってる。黒い魚の友だちといたスイミーは、あるとき友だちが大きい魚に食べられちゃうの、それから一人になっちゃったスイミーは、ほかの色のちがう魚たちと友だちになったんだけど、また大きい魚に食べられそうになった時、友だちに大きい魚のフリをさせて、スイミーは目になったフリをしながら友だちをリードして、大きい魚をおいはらっちゃうの」


「そうよ。緋織さん……ママは、黒姫にはスイミーみたいになって欲しいと考えているのじゃないのかしら?」


「うーーん、できるかなあ……」


「できるわ。だから遊んでいる、なんて思わないで、今の内に思いっきり色んな事にぶつかって、悩んで、悲しんで、喜んで、そして恋をしなさい」


「うん。……でも、その時は絵本みたいに“大きな魚”って出てくるのかなあ」


「黒姫」


「なあに?」


「あなたはあなたでいてくれたらそれで充分なの」


「どういうこと?」


「今は分からないだろうけど、それだけ覚えていてくれたらいいわ」


「ほしざくらおねえちゃん、泣いてるの?」


「……展開スピードが落ちてきたわね。それじゃそろそろ映像シーンに合わせて、雛菊デイジー達からもらった触感タッチデータを張り付けていくんだけど、戦闘ログや大人のログは私と衣通姫が担当するから、黒姫は……そうね、小さい頃の衣通姫が体験した記憶に同化シンクロして、これを使って黒姫の感性センスでデータを修正して頂戴」


「この光の玉は?」


「私の人格パーソナリティーの一部よ。そこに私と衣通姫の感性を人体モデルに当てはめてマッピングしてあるから、それに従って喜怒哀楽や快感と痛みの五感を、記憶データにリンクさせて調整して」


「うん、わかった!」


「よろしくね。年相応に成長したら、大人の部分や戦闘データの感覚プロトコルデータをあげるからね」


「はーい」


「いい返事ね」


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――旅館の前。

 荷物を持って駐車場に行くと、祥焔先生はもう車に乗ってエンジンをかけていた。


「遅かったな水上、どうした?」

 車に乗り込むと、エアコンの冷気が十分行き渡っていて、すでにそれなりの時間が立っている事を示していた。

「すいません、ちょっと考え事をしてて……」


「そうか。白雪がいないから久々のアナログ運転だ。ちゃんとシートベルトをしておけよ」

「お……あ、 ……はい」

 少しビビる。


 発信してから国道に出て、長い直線に差し掛かったら祥焔先生が口を開いた。

「これからさっきの話をしてやるから、一応ツインの電源をOFFにしておけ」

「あっ! はい……切りました」


「私も詳しくわ知らないし証拠もない。だが涼香の母親――静香さんから数年前に聞いた事がある」

 ハンドルに手を置いたまま、左手の指先を立てる。

「それは?」

 ゴクリと喉を鳴らす。


「涼香の父親はどうやら昇平さんらしいという話だ」

「えええっ――!!」

 思わず腰を浮かせるが、シートベルトに遮られて、ただ座席を鳴らすに留まる。


「……落ち着いたか?」

 あまりの衝撃にしばらく言葉が出ず、信号二つ分くらいの時間、頭を抱えてしまっていた。

「そんな……まさか……」

 いまだに信じられずブツブツと呟く。


「実を言えばこっちに赴任してから、静香さんの店には頻繁に通っていてな」

「え!? そっそうだったんですか」


「ああ、以前白雪がばらしてしまったが、緋織が水上家族とその関係者に接触するかもしれないと踏んで、彼女の店には情報収集のためにちょくちょく行っていたんだ」

「そういえば……」


「そしてまあ、自分の趣味も含めて彼女に積極的にアプローチかけていた時に、涼香の出生の話を聞いた」

「趣味……そうでしたか。それで、なんて聞いたんです?」


「不倫して産んではいけない子を身ごもった。相手に迷惑はかけられないから、以前婚約していた男と取引をして、その男に認知させてその子を産んだ――とな」

「……」


「それで相手の事を聞いていくうち、はっきりとは言わなかったが、どうやらお前の父親らしいという事が分かってな」

「どうしてですか?」


「昇平氏が覚えてるかは知らんが、お互いに顔を見る程度には店で同席した事はあったぞ」

「あ。……確か親父は静香とは大学時代からの知人で、店にはちょくちょく飲みに行ってたって聞いた事が……」


「そうか? 私が聞いたのは昇平氏に初めて会ったのは、もっと昔だと聞いた事があるぞ」

「えっと、そういえば……」


“彼と大学で再会した――”

 涼香の事で脅されて、店に呼ばれてさくらの事を聞かれた時、そんな事を言っていた事を思い出す。


 親父は涼香を可愛がっているが、そんな素振りは見た事がないので、娘だという事は知らないようだ。

 いや、そもそも静香と親父がそういう関係になる事も想像できない。


「涼香が俺の妹と言うのは事実ですか?」

 もう一度聞いてみる。

「証拠はない。だから今の所静香さんの話ぶりから推測したカンでしかない。だが、涼香もそう思っているようだぞ」


「――なっ!!」


 再び動揺して腰を浮かせかける。

 涼香が知っている? どういう事だ?

 だが、よく考えてみると不可解な事がちらほらあった。

 酔ったママが涼香との関係を聞いてきた時。

 義理でも姉妹だというのに、緋織さんと涼香の冷めきった関係。

 そして何よりAIさくらが失踪する前に告白してフラれていた事。

 親父と静香の過去の関係。

 今朝のみんなの態度と欠落した記憶。


 それらの事実を並べてみると、何となく事実が見えてくるが、先ほどの緋織さんの告白のように、迂闊に踏み込んでいいのか躊躇ってしまう。


 ひょっとしたらママと涼香は、そしてゆうべは――。


 その事が真実なら、つじつまが合う事もあるが、逆に深まる謎も出てきた。


「着いたぞ」

 思考に沈んで冷汗をかいていると、おもむろに声をかけられた。

 無言でドアを開け、車から降りると、涼やかな緑の香りと高原の心地いい風が冷汗をかいた肌を撫でた。


 ……ま、今深く考えても答えは出ないもんな。

 そよ風に少し安堵して、気持ちを切り替えて入り口へ向かう。


 窓口で祥焔先生がチケットを買ってくれ、半券をもらって中に入る。

 正面の案内板を確認して、みんなが待っているであろうバーベキュー場へ向かう。


 祥焔先生も無言になり、お互いてくてくと歩いて園内を歩く。

 そのうちに肉を焼く匂いがしてきて、少し先に五つほど置かれているバーベキュー台の一角に見知った顔を見つけた。


「おまたせ。来たよ」

 まず涼香の顔を見るが、なんだか困った顔をしていた。

「えと……」

 う、何話せばいいんだ?


「来たな! じゃあ交代だ、行くぜ涼香、雨糸!」

「ええ。じゃあね裕貴、あとお願いね!」

「うっうん……」

 そう言うが早いか、圭一がグリルの前からさっと立ちあがると、女子二人と共に風のように走り去った。


「……なんだあ?」

 呆然と見送っていると、後ろから声をかけられた。


「おい! 裕貴、来たならさっさと肉を焼け! 全然足らないぞ!」

「うへへ~~、ゆーき来たあ……さくら野菜がいいなあ……」


 くだを巻いた様子の声に恐る恐る振り返ると、はなれたテーブル席には箸を指揮棒のように振り回して、赤い顔でワインをクイクイあおっている酒乱が二人いた。


「お、いいな、本当に良い肉を使ってるじゃないか。私も一杯貰おうか」


 酒乱様が一名追加された。

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