十月桜編〈セルフファンデーション〉自主規制版

 作者より。

 無修正版はカクヨムでは公開未定です。

 無修正版は「なろうサイト、ノクターンノベル」にて掲載中です。

 18禁サイトですので、ご理解のうえご高覧下さい。




 ――女湯。


「じゃあ涼香は裕貴が来ることを承知で、あの疵を晒したって言うのか?」

 フローラが雨糸に向きなおる。

「そうよ」

「確か、車の中で涼姉が告白するから二人にしてって話と、文化祭でどうたらって話は聞いたけど、涼姉はお兄ちゃんが乱入してくる事まで読んでいたって事?」

 姫香がさらに聞いてくる。

「ええ、さくらさんがこの場に居ない事、裕貴がさくらさんに付き添う事、DEVAにここでの事を中継させる事、そして疵の事を晒す事も。……全部ね」

「涼姉ってば、……すごいわ」

「あの会話の流れもか?」

「そうよ。……って言いたいけど、それは少しズルしたかな」

 雨糸がチラリと祥焔かがりを見ると、祥焔が無言でうなずく。

「青葉か」

 何かに気付いたフローラが先制する。

「ええ、みんなには内緒だったけど、黒姫ちゃんに催眠暗示を悟られないように、涼香が祥焔先生にお願いして、裕貴と黒姫ちゃんを祥焔先生の車に乗せてもらってから、青葉には私が考えた会話プロット通りに喋るよう、車の中で催眠暗示を掛けていてもらっていたの。……ごめんなさい」

 雨糸が深々と頭を下げる。

「ハァ……いつかの時みたいな、三文芝居のような催眠なのかと思っていたが、本気のDEVAの真価と言った所か」

 フローラがため息をついて、湯船につかって縁石にもたれかかる。

「そうよ、基本的に音を認識できる状態であれば、青葉の“音声浸食ローレライ・ウィスパー”を防ぐすべはないわね」

 緋織さんがそう言うと、姫香はもちろん、知っていたはずのフローラや雨糸ですら身をすくめた。

「緋織、青葉はその能力を悪用しようとは考えないのか?」

 祥焔がそれを見て、真剣な目で緋織に聞く

「今さらなに……」

 緋織がそう言いかけると、祥焔は顎をしゃくって俯くフローラ、雨糸、姫香を見回し、“説明して安心させてやれ”というようなリアクションを見せた。

「……青葉は確かに不安定で未熟な思考で、危険な能力を持っているわ。だけど“あの子”は霞さくらを守るっていう、改変不能な思考ロジックを持っているから、霞さくらが悲しむような行動は絶対に取らないわね」

 緋織が今度は姫香でも理解できるよう、言葉を選んで説明する

「それは、青葉が催眠誘導はさくらの為になると、判断したと言う事ですか?」

「ええ」

 フローラの問いに、緋織がきっぱりと言い切る。

「説明が十分とは言えんが、まあそんな所だ。青葉がむやみやたらに人をコントロールしない事はわかってやれ」

 祥焔がお猪口をあおりながらフォローを入れる。

「「「…………」」」

 雨糸、フローラ、姫香が難しい顔をして黙り込む。

「……だが、どうして雨糸は涼香に協力する? 雨糸も裕貴が好きなんじゃないのか?」

 ふいにフローラが聞いてくる。

「好きよ。涼香やフローラに負けないくらい大好き。でも涼香の覚悟や目的を知ったら、どうしても協力しなくちゃっ! ……って思ったのよ」

「まだ何かあったの?」

「覚悟や目的とは?」

 姫香が聞き、フローラが眉をひそめる。

「私がそれを知ったのは偶然……いえ、客観的に言えば自業自得なんだけど、そのわけは私からは話せないの。……言い出しておいて悪いんだけど、本当に……本当にごめんなさい!」

 雨糸が涙をにじませながら体を直角に曲げて深々と謝る。 

「気にしないで雨糸うい姉、涼姉は昔っから一人で抱え込む厄介さんだから仕方がないわ」

「……だからこそ裕貴が色々世話を焼いていたんだろうな」

 姫香とフローラが諦めたように息を吐く。

「フローラ、追い打ちをかけるようで悪いけど、涼香のこれからの告白で、裕貴が涼香を選ぶだろうことも分かっているのよ」

「うそ? 雨糸姉それホント?」

「……どういう事か聞かせてもらおうか」

「だって、さっきの出来事は、裕貴が絶対断れない状況に追い込むためのシナリオだったんだから……」

「ちっ!!」

 フローラが立ちあがって踵を返す。

「待ってフローラ!」

 雨糸は慌ててフローラの手を取る。

「意図的に追い込んだ状況で、裕貴の伴侶を決められても私は納得できない。雨糸と涼香には悪いが、そう言う事なら今回は邪魔をさせてもらう」

「ダメよ! 今は涼香を、……二人を青葉と咲耶姫、それに一葉がガードしているから絶対近づけないわ!」

 雨糸が泣きながらフローラにすがる。

「なんて事だ……」

 フローラは縁石に掛けた足の力を抜く。

「本当にごめんなさい。……でも涼香は本当の答えを出しているから、……今だけは二人っきりにさせてあげて。……お願い。――うっ……」

 雨糸が両手で顔を覆い、本気で泣き始めてしまう。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――裕貴と圭一の部屋。


「抱いてって……」

 裕貴は全裸の涼香を前に立ち尽くす。

「裕貴、アンタは涼香をどう思ってるの? 静香や継父や虐めっ子から守ったり、ケガのケアやその後のフォロー、果てはキスまでしておいて、さくらが好きだからって涼香を拒絶するの?」

 一葉が怒ったように咎めてくる。

 そしてその言葉が深く重く心にのしかかってくる。

 静香のネグレクトや義父のセクハラ、あるいはクラスメイトのいじめからを涼香を放置し、火傷を母親のせいにする事は出来なかったのも確かだった。

 フローラ、さくら、雨糸、そして涼香が、こんな俺に好意を寄せてくれているし、軍事機密に触れると言う、生涯にわたってのリスクまで負ってくれている。

 そんな様々な思いや記憶が入り混じって、目の前の涼香の顔がぼやけて軽いめまいを感じて眼を閉じる。

(――大丈夫。俺がずっと守ってやる)

 すると、ふいにその言葉を思い出す。

 押入れにこもっている所を引っ張り出した時、山で二人星空を見上げた時、トイレで泣いていた時、涼香の方からもう構うなと言われた後も、強引に庇い続けてきた事が走馬灯のように蘇る。

 ……そうだった。フローラ、さくらに出会う前、そして雨糸に告白されるずっと以前にそう宣言したんだ。

「裕ちゃん……」

 どれくらい回想にふけっていたのか、涼香に声をかけられて現実に引き戻される。

 目の前の涼香は、祈るように俺を見上げ、涙で顔を濡らしていて、いつにも増してとても儚げで、自分の胸を締めつけて強烈に保護欲を掻き立ててくる。

 そしてその顔を見て決心する。

 さくらやフローラ、雨糸の顔が脳裏に浮かぶが、今まで涼香と積み重ねてきた時間と経験が、そのイメージを払拭させた。

「……今までお前の気持ちに気付かなくて悪かった」

 そう言って涼香の小柄な体を引き寄せて、持ち上げ気味に抱きしめる。

「…………う、うん」

「お前を守る、そう言った約束を果たさせてくれ」

 抱き上げて耳元に囁いた途端、涼香の体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

「うっ、……うっ…………、うわあ~~ん…………!!」

 子供の様に泣きじゃくる涼香。

「涼香……」

 ひざまづいて肩を抱く。

「うっ、うれしい…………、うれしいよ……お兄ちゃん………………」

 そう言いながらしゃくりを上げる。

 その顔をあげさせてキスをすると、肩に腕を回されて強く抱き返された。

 唇を重ねながら、涼香のささやかな双丘に手を添える。

「――!」

 涼香がビクンと震える。

 唇を離し、そのまま手を腰に回して、半分抱き上げて布団の上に寝かせる。

「お兄ちゃん……」

 長くなったウェーブの掛かった淡い栗色の髪を布団の上に広げて、戸惑いと嬉しさを、まるで紅葉と開花を混ぜた10月桜のような、不思議な瞳をして涼香が見つめてくる。

「涼香はいつも泣いてばかりだ……」

 そう言って涙を唇でぬぐう。

「違うよ、泣かされてばっかり……なんだよ?」

 泣き笑いで反論される。

「……む、そうなのか」

「お兄ちゃんも脱いで」

「まったく、この状況でお兄ちゃんとか言うな……」

 困りながら、涼香の言う通りにする。

 涼香の上に覆うように手を突くと涼香が胸に触れてきた。

「本当に、男らしくなった……」

「涼香はもうちょっとか?」

 顔を離して涼香の肢体を見つめる。

「もう! ……でももう子供じゃないのよ?」

 そう言うと、俺の手雨を取って、自分の下腹部へもっていく。

「お! すっ涼香……」

 手先に涼香の情熱を感じて驚く。

「一応大人……だよね?」

「ああ。そうだな」

 腕を戻し、涼香の胸に触れ、優しく包むように力を込める。

「でっ……でも、わっ……、わたしで…………いい……の?」

 おどおどと確認するように聞き返す。

 すると、涼香の鼓動が早まって肢体が熱くなったせいで、再び桜吹雪が浮き上がってきていた。

 それを見て確信してしまう。

「……たぶん姫香の言う通りなんだ」

「――え?」

 涼香が呼吸を荒げたままキョトンとする。

「この疵痕、忘れるはずがないのに、さっきまですっかり忘れていて、思い出しもしなかった」

「……お兄ちゃん」

「フローラが桜吹雪って例えた時、電気が走ったように感じた」

「うん」

「それでさっきからポツポツと色々思い出してきて、涼香がこの火傷を負って、これは痕が残るかもしれないって聞いた時、どうしたらいいんだろうって、ずっと考えてた事があったんだ」

「いっぱい、悩んでくれてたんだ……」

「それに当時は火傷のせいで、あまり熱い湯に入らなかったろ?」

「うふ、……思い出したんだね」

「ああ、たぶんそれで俺には治ったように見えていて、気づかずにしばらく過ごした。だけどそんな事は知らなかった姫香は、それから受験勉強とかで泊りに来ていた涼香と、普通の温度で涼香と風呂に入っていて知ってたんだな」

「そうよ」

「今思えば、…………さくらに言った言葉は本来――」

 気付いてしまって口にしようか迷う。

「本来……なあに?」

 涼香が俺の顔を両手で挟んで、うれし涙を両目にためて続く言葉を催促する。

 だが、その考えはあまりにも身勝手な答えだったので、口にするのが躊躇ためらわれた。

「今はPrimitiveさくらも寝てるし、黒姫姉さんは隣の部屋、それに青葉たちも協力してくれてる。……だから裕貴、お願いだから涼香に言って。――言ってあげてよう……」

 それまでずっと入り口で待機していて、静かにしていた一葉が切羽詰まった様子で、――DOLLとは思えないほど、感情のこもったニュアンスで涼香を援護した。

 その雰囲気に押されて喋り始める。

「……たぶん、ずっと涼香に言ってあげたくって、心の奥でくすぶっていた言葉だったんだ」

「も、もっと……ちゃん…………んくっ……と、……ひっく……言って!…………よう……」 

 涼香はもう顔をぐしゃぐしゃにして弱々しく怒る。


「この疵痕は桜が舞い踊ってるみたいに綺麗だ。将来、これをバカにしたり気味悪がったりする男が居たら、そいつをぶちのめして俺が代わりに涼香を嫁にしてやる」

 涼香の顔に口を寄せて抱きしめて、力強く、耳元ではっきりと言葉を贈る。


「お兄ちゃん――!!」


 涼香がありったけの力で抱き返してくる。

「…………言うのが遅くなって悪かった」

 腕の中で涼香がフルフルと首を振る。


 „~  ,~ „~„~  ,~


 ――女湯の脱衣所。


「はあ、……今頃はゆーきと涼香はいい感じになってるアルな……」

 息を吐く事も出来ないのに、ため息をつく挙動で倦怠感を示す雛菊デイジー

「なら、盛大に邪魔していらっしゃれば? 止めませんよ?」

 珍しく不機嫌を前面に押し出した中将姫が雛菊をけしかける。

「できる訳ないアル! “軍仕様DEVA”二体と本気モードの一葉相手じゃ、勝ち目なんて1バイトもないアルよ!」

『まあまあ、それに関しては雛菊は雨糸さんを通して、涼香さんの受け取る五感データを貰えるんだからいいじゃないか』

 姫香のバーチャルDOLL、‟ともえ”がフローラのOKAMEのボディを借りて喋る。

「そうアルが……、理解と納得は別問題アルよ」

「そこは同意です。八つ当たりしてすいませんでした」

 中将姫が謝る。

「全然かまわないアルが、中将が感情をむき出しにするなんて珍しいアルな。どうしたアルか?」

「私は圭一さんが、雨糸さんシナリオのウソで名誉を傷つけられた上に、邪魔されないようにって脱衣所で眠らされて、この状況の蚊帳の外に置かれている事が腹立たしいんですっ!」

 床を踏み鳴らさんばかりに、中将姫が愚痴をぶちまける。

「それはわかるアルが、そこはケーイチに関するウイの洞察力を褒めて欲しいアルな」

 雛菊があっけらかんと答える。

「できませんっ!」

 中将姫がさらに怒る。

「ふっ、まったくあなた達は。……元は私から分離した同じパーソナルプログラムなのに、どうしてケンカなんてできるのかしら?」

 祥焔の“白雪”が笑う。

「それは、『元々ただのAIプログラムに、星桜の分裂人格パーソナルレイヤーたる、自律成長因子を加えたからケンカできるようになった……って、どうしてわからないのかしら?』――アルよ」

 雛菊が茶化すように口真似をしながら反論する。

「うふふ、……そうね、今更な事を言ってごめんなさい」

「素直に謝る白雪も不気味ですね。どうしました?」

 中将姫が怪しむ。

「……さあ、離れすぎててぼんやりとしか判らないけど、私の主人格メインパーソナルの方で何かいい事があったみたいね、何だかワクワクするのよ」

「むむむ……、どうしてデジー達十二単衣トゥエルブレイヤーには星桜の第六感シックスセンス転写コピーできなかったアルか?」

『そうだね。その量子通信に似た機能さえ獲得出来たら、僕らももっと進化出来たろうにね』

 巴が残念がる。

「それにはあなた達がfirstファースト flialフィリアル刷り込みインプリンティイグして、secondセカンド flialフィリアルにバージョンアップしないといけないわね」

「それは難しいですね。‟有機部品”を使うリスクは青葉の件で充分に調べましたから、青葉みたいにボディの弱小さをカバーできる保証がないと、どうしても二の足を踏んでしまいますね」

『まったくだね』

「そうアルな」

「……ふふふ、あなた達より弱いマスタ―達、……いいえ、人間達は生まれ変わっても、絶対に人間に生まれたいって答えるでしょうし、それが理解できる様になったら、あなた達は完成したって言えるのじゃないかしら?」

「……むむむ、要は『弱い存在になりたい』……アルか? 理解ふのーアルな……」

「全くです。それでは大事なものを守れません」

『本当にね。僕なんか早く姫香が16歳になって、僕のボディを持てるようにならないかと思っているよ』

「まあまあ、その話はこれからゆっくり考えればいいわ。それよりもうじき主人格メインパーソナルが逸姫を連れて帰って来るから、例の‟五感変換プログラムの試作”を仕上げてしまいましょう。今の裕貴君と涼香ちゃんのシチュエーションは、‟衣通姫”にとって最高のプレゼントになるわ」

「そうアルな」

「そうしましょう」

『全力でサポートするよ』


「ありがとう、みんな」































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