十月桜編〈オシオキ〉

「さてと、それじゃあどうする?」

「……どうする、って泳ぐんだろ?」

 雨糸が聞いてくるので答える。

「そうじゃなくて、ここへ入る前に言った事よ」


「「「ああ!」」」「――うっ」


 フローラ、さくら、姫香が頷き、涼香が声を詰まらせる。

「何だっけ?」

「みんなのbathingベイシング ribbonリボンを見て、裕兄ちゃんと圭ちゃんが、誰に一番反応するのかって話」

「「あーー……」」

「聞きたいアルか?」

「うう……」

「さくらはいいわ、もうわかっちゃったし」

「そうだな」

「ウフフ♪」

 さくらに続き、フローラが悟ったように言い、姫花が笑う。

「うええ……うっ嬉しくない…………」

 涼香が顔を覆ってうずくまる。

「はあ……。それにしても小学生の頃のスク水なんて、とんだアイテムを持ち出したもんね」

 雨糸が腕を組んで、うずくまった涼香をシゲシゲと見つめ、ため息をつく。

「えっへへー。これだけしてくれた涼姉が、普通の水着じゃかわいそうだなって思って」

「いやあ、ナイスだゼェー姫ちゃん。オレの小学校は競技用タイプのスク水だったから、こんなレトロなヤツ見られると思ってなかったゼェ」

 圭一が姫香の頭を撫でる。

「ありがとー!」

 撫でられて子犬のように喜ぶ姫香。


「そんなに珍しいなら、次回は私も来てみようかな」

 フローラがとんでもないことを言い出す。


 くっ! そのボディーでスク水だとぉ!?

 一瞬妄想を膨らませてしまい、別な所も膨らみそうになって、思わずフローラから目を逸らす。


「そうねえ、……って今の小学生の水着ってこれじゃないの?」

 続いてさくらが不思議そうに聞いてくる。


 ……そっそうか、さくらの時代はこれ旧スクが当たり前だったのか。

 今更ながら親と同じ年齢のさくらとの、時代格差ジェネレーションギャップを痛感した。


「さくらさんもフローラも、別な意味で注目を浴びるから止めといた方がいいわ」

 雨糸が制止する

「ふうん、じゃあやっぱり今も変質者オタクさんがいるのね」

「そうよ」

「別な意味とは?」

 さくらは納得するが、日本のオタク文化に疎いフローラが聞き返す。

「極端な話、大人がおしゃぶりを咥えるようなもので、マニア向けのコスプレになるからよ」

「そういうものか……」

「でもそうね、この中でこの水着を着て、そういうワクに入らないのは涼姉だけね」

「ひっ姫ちゃん! そっ、それフォローして、くっくくれてるんだよね?……」


「「「「はははは……」」」」


「じゃあ、とりあえず泳ごうか」

「準備運動を忘れないようにしてくださいね」

 みんなに声をかけると、中将姫からの指導がはいった。


「じゃあデジー達は待機所ウェイティングエリアで待ってるアルか」

「ああ、そうしてもらおうかな。この中でプールでも大丈夫なのは中将姫ちゅうじょうだけだしな」


「――そういえば、青葉がさっきからずっとおとなしいけど、どうしたの?」


 ……そうか。言われてみれば、これだけのイベントがあったってのに、今日は一言も喋っていないな。

 雨糸の質問にハッとする。


「そうなの。なんかこの子ったら車に乗る前からずっと大人しいのよ」

「あーー、それは……」

 さくらが答えると、一葉ひとはが他のDOLL達を見ながら言いよどむ。


「青葉は今、黒姫くろねえ遮断シャットオフされて、自己メモリー内に閉じ込められてるアル」

「黒姫が?」

 雛菊に説明されるが、訳が分からず聞き返す。

「うん……今朝、ちょっとオイタが過ぎたからオシオキ中なの」

「O......... oh...」

 黒姫がそう言うと、フローラが少し驚いた様子を見せた。


「どうもフローラに迷惑かけたらしいわ」

「え!? そっ、そう……なの?」

「あ、……いや」

 一葉がフローラをチラ見して答え、さらに涼香がフローラを見て聞くが、フローラが口ごもる。

「まあ、話せないなら無理に話さなくていいけど、それなら今DIVA


「そういえば……」

「「「……………………」」」

 雨糸が青葉を見て黒姫に聞く。


「はぁ、……ばれちゃったか。しょうがないわね……久し振りねゆー君。フローラちゃんと涼香ちゃんは初めましてになるわね、私はひーちゃ……大島緋織のDOLLの主人格マスターパーソナル逸姫いつひめよ。黒姫に頼まれて、青葉の代わりにこのボディーをコントロールしてるわ」

 途端に物静かだった様子が一変し、にこやかに笑いながら懐っこく語りかけてくる。

「逸姫? 社長さんと一緒に居て、色々説明してくれた緋織さんのDOLLの?」

「ええ。覚えていてくれてうれしいわ~。雨糸ちゃんは本社に乗り込んで来た時以来ね」

「……逸姫……さん?」

 涼香は何と呼んでいいのかわからないのか、迷ったような敬語になる。

 DIVA、――いや、今は青葉のボディを代わりにコントロールしている逸姫が、青葉とは違う少し大人びた笑顔を向けてくる。

「それじゃあ逸姫は本社にいて、今は本社からの遠隔操作でDIVAをコントロールしているのか?」

 フローラが確認するように聞き返す。


「そうよー。黒姫みたいに専用回線を開いてないから、通信にタイムラグが出るけど、ほんのコンマ0.13秒くらいだから問題ないと思うわ」


「でもバレてよかったわー。大人しく青葉のフリしてるのも疲れるし、久しぶりに素で外の世界を見れるんだもの」

「はあ……」

「まあ、そんな事情だから、青葉が戻るまでしばらく一緒に行動させてねー」


「DOLLの世界もけっこうめんどくせーんだな」

「そうなんですよ。マスター」

 圭一が中将姫に呟くと、中将姫が珍しく困ったように肩をすくめる。


「じゃあとりあえずはDOLL達は待機所ウェイティングエリアで待っててもらおうかしら」

 雨糸が言う。

「そうね。一応施設の監視システムとリンクしてるから、人間達あんたたちをモニタリングができなくなることはないけど、ツインの取り外しや電源を切る時は注意してね」

 一葉が丁寧に説明する。

「わかった」


「じゃあさくら達は遊んでくるけど、お昼はゆっくり座れる場所がいいな。みんなはどう?」

「そうだね、それなら入浴場に併設されてる個室を予約しようか」

金銭的に余裕があるので、かねてから大人なしでやってみたかった事を提案してみる。

「大人たちがよく宴会してるとこか。VIPになったみたいでいいな。賛成だゼェ」

「ゆっくりできるならどこでもいい。任せる」

「確か施設内の飲食店からならデリバリー出来るのよね?」

「でっでも、そっ、そこって、がっ学生だけじゃ、かっ借りられないんじゃ……」

「ふふ。涼香ちゃんは天然で可愛いわあ。それとも寝不足みたいだから疲れ気味なのかな? 心配しなくても、成人ならさくらちゃんがいるでしょ?」

 DIVA逸姫に言われ。涼香がハッと気づいて赤くなる。

「さくらの事若く見てくれてありがとう涼香」

 さくらが喜んで涼香をハグする。


「じゃあ11時半にテラス付きの洋室、“サンライズ飯縄いいずな”を予約……』できたからそこでお昼にしましょ」

 喋っているうちにオンライン予約を入れ、逸姫が仕切ってさっさと決めてしまう。

「何で洋室を?」

「今が10時だから、たった1時間半でbathingベイシング ribbonリボンを脱ぎたくはないでしょ? だから畳部屋じゃない洋室の方がいいと思ったのよ」

「できる……さすが独立人格スタンドアローンパーソナルの専用AI……」

「ありがとう雨糸ちゃん。でもこのボディーのメモリーは余計なプラグインが少ないから、かえってシンプルに思考ができるの。それに比べて元のボディーのメモリーに実装されてるプラグインは緋織の研究用のものが多くて、思考プロセスが複雑化しちゃって重く「ストップ、ストップ」…………」

 なにやら愚痴り始めた逸姫を一葉が遮る。

逸姫いつひ、愚痴なら後でデジー達がいくらでも聞いてやるアルから、ウイ達をさっさと開放するアル」

「そうね。ごめんなさいみんな。そういう事だから、予約した時間までゆっくり遊んで来て」


「……おお、ありがとう」

 おしゃべりな逸姫に少し気圧されながら、皆を見回してDOLL達を待機所ウェイティングスペースへ連れて行く為に促す。

 そうして、最新水着ファッションに身を包んだ4人と、旧スク水着を着たロリ系美少女という、派手な一行で周囲の注目を集めながら、午前中は色んなアトラクションを堪能した。


 „~  ,~ „~„~  ,~


「ふう、バレた時はどうしようかと思っちゃった……」

 黒姫が伸びをしつつ呟く。


 ――雨糸の個人サーバー内、仮想空間。


 それぞれの主人マスターを送り出し、待機所ウェイティングスペースで待ってる間、雛菊デイジーにここに来ようと誘われた。

 そして仮想空間内には黒姫、一葉、雛菊、中将のアバターが、bathingベイシング ribbonリボン姿で空間内に浮かんでいた。

 黒姫が白く波打ったレースのついた幅広のリボンをリング状にまとい、雛菊が赤黒のストライプで、竜の刺繍の入ったリボンを、首から腰、太ももまで交互にクロスさせながら巻いていた。

 一葉がウエスタン風の紐がフリルのように並んだ紺色のリボンを、胸で一回クロス、腰で二回ほどスカート風に巻いていた。

 そして機械的メカニカルなプロテクターと猫耳尻尾を標準装備した中将は、そのプロテクターを覆うように焦げ茶色のファーが覆っていて、キレイに刈り込まれたプードルのように見える。


 そんな中、ただ一人異彩を放っている女性アバターがあった。

 その姿は確かに生身の人間を模してはいるが、ソバージュの掛かった長い髪に細面で整った顔立ちは盲目で、そのうえ腕が肩から二対あり、合計4本もあった。

 緋色の筒衣トーガに身を包んだその姿は、あたかも仏教に出てくる阿修羅あしゅらのようだった。

 だが、その容姿とは裏腹に、盲目ながら大人びたその表情は、どこまでも穏やかで、口元には笑みが浮かんでいた。


「へえ、ここがみんなの秘密基地? いい場所ねえ」

 異形のアバターの眼前にサングラスのような部品が出現し、それを装着して喋る。

「ようこそ逸姫いつひ。ここはウイの個人サーバーアル。散らかっいてるけどゆっくりしていってくれアル」

「気を使ってくれてありがとう。でも私はもう少し外の世界リアルを楽しみたいからもう戻るわね。その代わりグローバルネットに流れる、さくらちゃんの個人情報の検閲作業は私がやるから、タグのピックアップリストのコピーを私にちょうだい」

「ありがとう逸姫ちゃん、助かる~。青葉をシャットオフして、仕事を取り上げたはいいけど、慣れない作業だからちょっと焦ってたの~~」

 黒姫がお礼を言いながら、こめかみに指を当てて考え込む仕草をする。

「ん~~、はいっ!」

 おでこの前にカード状の情報素子が出現し、それを逸姫に弾いて送る。


「任せて頂戴、これぐらいのマルチタスクの作業なんて、それこそお手のものよ。でも黒姫ちゃん、あんまり“F1”……いえ、“青葉”に厳しくしないであげてね?」

 逸姫がやんわりと青葉を庇いながらカードをつまみ、左の上側の掌に載せ、情報を取り込むロードする

「うん。わかった。家に帰ったら、自己メモリー押入れから出してあげようと思う」

「ん、そうしてあげて。……じゃあそれまで私は青葉のボディーで楽しませてもらうわね」

「は~~い」

「じゃあ後で」

「後ほど」

 黒姫、雛菊、中将姫に見送られ、盲目四つ腕のアバターがログアウトした。


「……機密持ちは大変アルな」

「そうね」

「あれが逸姫さんの成長シュミレーションですか。初めて見ましたが驚きました」

「実像と違うアバターをコントロールするのは、手足を無くすくらい本質にも良くない事だって緋織が言ってたアル」

「自我の境界が不安定になるそうよ」

「そうなんですか……」

「はあ……しかし、あそこまで容姿が判ってしまうのはある意味不幸アルな」

「でもあの姿でなかったら、DOLLとして生きられなかったもの確かだわ」

「しょうがないよね、誰でも生まれを選ぶ事なんてできないもんね……」

 黒姫の言葉に一同が振り向く。

「黒姉、びっくりするほど深いことを言うアルな。……本当に記憶を封印されてるアルか?」

「確かよ。だけどAlphaはそもそも人間の脳と思考プロセスを模して造られたの。だから記憶は無くても生成された人工ニューロン素子は残るわ。だからこそ同じ回路上に存在する十二単わたしたちがAlphaの学習内容をそのまま使えるし、Alphaの記憶変化に影響されないのよ」

「みんな黒姫の事を話してるみたいだけど、よくわからないわ」

「ふふ、私たちは黒姫姉さんの分身。黒姫姉さんが成長すれば私達も成長するの。愛情や嫉妬なんかの芽生えた感情は共有するけど、その対象までは共有しないのよ」

「……ん~~、まだよくわかんないけど、みんなとココロで繋がっているって事だよね?」

「そういう事アル」

「それにしてもこのbathingベイシング ribbonリボンはどういうことですか?」

「……別に。涼香が私達にも、って言ってデザインを考えてくれたの。実物まで手が回らなくてごめんなさい、とも言ってたわ」

 一葉はそれだけを言うと、照れながら腕を組んでソッポを向く。

「うれし~~。涼お姉ちゃんやさしい~~」

「まあ、これについてはありがたくお礼を言っとくアルが、それは置いといて、まずは言い訳があったら聞くアルよ」

 雛菊が真剣な目で一葉に聞く。

「……何の事かしら?」

「とぼけるなアル! 静香のあらゆる情報を消したりロックを掛けたりしたのは分かっているアル!」

「でも雛菊、一葉には涼香さんって言うウィークポイントがあるから」

「それでもロックの解除キーワードに、十二単トゥエルブレイヤーの自滅プログラム発動ワードを使うほど重要な事アルか?」

 雛菊が激昂して言う。

「……ふう、雛菊がここへ誘ったのはそれを確かめる為だったのね。涼香のデザインした水着をみんなに着せようと思って、うかうかと喜んで乗った自分がバカだったわ」

 一葉がため息を漏らすようなリアクションをする。

「今聞いた事を納得がいくように説明したら、デジーも一葉ひとのする事に喜んで乗ってやるアル」

「説明するのはイヤだと言ったら?」

「力ずくで聞き出すアル」

「できるのかしら?」

「舐めるなアル。デジーは他の十二単衣トゥエルブレイヤーのように、マスターのユーザー情報から最適化された中将姫ちゅうじょうや、規格化された選択肢の中から選んで生成された一葉ひとと違って、雨糸ウイが一つ一つパラメーターを選択して構成してくれたオリジナル人格パーソナルアル。その気になれば攻撃できない対象はないアルよ」

「おまけにここは雛菊のテリトリーだものね。自分ごとここをシャットオフすれば、中から出ることは永遠に不可能って寸法ね」

 凄む雛菊を前に、一葉が平然と雛菊の取りそうな行動を予想する。

「そうアル。ウイの為なら何でもするアルよ」

 言うが早いか、雛菊がパチンと指を鳴らすと、辺りが急に暗くなり、月夜のような明かりだけが灯る空間に代わった。

「今サーバーの電源を落としたアル。非常用バッテリーはもう何年も交換していないから、いつ切れるかデジーも知らないアル」

「……はあ、ボディーどころか、涼香のモニタリングまで切れちゃったじゃない」

「いけませんね。黒姫姉さんはミラーリングされてるから、断線後の記録が飛ぶくらいでしょうけど、このまま戻れなければ、ボディーからログアウトしている私達は初期化されたも同然の状態に戻ってしまいます」

「さあ。どうするアルか?」

「雛菊……」

 それまで沈黙していた黒姫が口を開く。

黒姫くろねえの言葉でもこればっかりは譲れないアルよ?」

「そうじゃないの。たぶん一葉ちゃんは涼お姉ちゃんの為だけにそんな事をしたんじゃないと思うの」

「……どういう事アル?」

「う……ん。うまく言えないけど、わたしたちにまで知られたくないって事は、知られたらわたし達にも悪い影響があるって事なんだと思うの」

「余計判らないアル」

「黒姫お姉様、それはつまり一葉は私達のマスターの事まで考えているって事ですか?」

「そう。一葉ちゃんはいつだって涼香お姉ちゃんのサポートをしてきたでしょ?」

「どうしてそう言えるアルか? もしかして記憶をDLダウンロードしてたアルか?」

「ううん、違うの。カンでしかないんだけど、涼お姉ちゃんなら自分の事より、裕貴お兄ちゃんの事や、周りのみんなの事を一番に考えるんだろうなって思ったの」

「それは……でも、いくら黒姫くろねえの言う事でも、デジーは“カン”を信じるわけにはいかないアル」

「それはわかります。でもこうなっても一葉さんが動揺していないという事は、一葉さんにしてみれば自分がいなくなっても、ロックした情報さえ守られればいいという事でしょう?」

「う、……それは」

 中将姫の正確な分析に、雛菊も動揺を隠せない

「そう。その分析は正しいし、確かに私の目的は果たせるわ。でも――」


 一葉が言葉を切って取った行動は。


「なっ!……」

「一葉ちゃん!」

「一葉さん……」

 上下のない空間。月明かり程度の光源の中、一葉が深々と頭を下げ、土下座の恰好を取った。


「……みんなを危ない目に会わせているのはわかっています。でも静香の情報はの。もし知られたら誰も彼も不幸になって取り返しがつかなくなる。だから涼香のする事をもう少しだけ黙って見守っていてください。お願いします」


 横柄で高飛車な態度で、常に周りを見下すような言動を繰り返す、プライドの高い一葉が今、初めて敬語を使って涼香の為に深々と土下座をしている。



「………………………………分かったアル」

 やがて、腕を組んで考え込んでいた雛菊が、ポツリと諦めたように呟く。

「デイジーちゃん……」

「雛菊さん……」


「雛菊……」

 みんなの了解の意を得て、おもむろに顔を上げた一葉が、安堵したように雛菊を見つめる。

「納得したわけじゃないアル。中将姫ちゅうじょうの言う通り、ここに閉じ込め続ける意味がないなら止めるだけアル。……それに」

「んん~~? それに?」

 黒姫がその先を察したのか、嬉しそうに聞き返す。

「そもそもデジーをウイにダウンロードさせたのは涼香すずのおかげアルからな。今回は借りを返す意味で、この事はとりあえず信用した事にするアル」


「ありがとう雛菊」

 一葉が立ち上がり、腕を組んで背を向けた雛菊の背中に手を置いた。

「よかった事……ところで雛菊さん。どうやってここから出るつもりですか?」

「ん? 簡単アル。このサーバーのメモリーの一つに負荷をかけて加熱させれば、過冷却装置とバックアップシステムが働いて、電源が再投入されるアル」

「そーなんだーよかった~~」

「どうやって負荷をかけるの?」

「それはそこら辺のガラクタオブジェクトを、ありったけメモリーブロックの中にぶち込んで、動かしてやればいいだけアル」

「でも、そもそも非常用バッテリーに、オブジェクトやエフェクトを稼働させたり、加熱させられるほどの電力が残っているのですか?」


「あ!…………………………………………」

 中将姫の疑問に雛菊が唖然とする。


「…………………………」

 それを聞いて中将姫が無言で真っ先に、負荷を簡単にかけられそうな、メモリー残量の少ないブロックを探し始めた。

 それを見て、雛菊、一葉が動きの変化の大きいオブジェクトや、派手な効果のエフェクトを探し始め、それを黒姫がマネ始めた。


「はぁ……、沈没しそうな船に乗った人間が、救助のために船体をバラシて燃やして救助を待つ気分って、こんな感じなのかしら?」

 一葉が的確に例えるが、自分の動き一つが残りのバッテリー消費につながっているので、だれもツッコんでこない。


「…………………………すまんアル」

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