十月桜編〈パレオ〉

「……モデル?」

 驚いて聞き返す。

「うん。ここに載ってるモデル」

 そう言って雨糸が示した雑誌には、なるほど涼香そっくり、……正確には若かりし日の静香が、1ページワンショットの大きさで写されていて、夏物ブラウスの組み合わせを、数ページにわたって紹介、そのモデルを静香一人がこなしている特集記事だった。

「スゲえな……。メインの特集記事を一人でこなしてるじゃねえか」

 まったくだ。と、圭一の感嘆に同意する。


 雑誌そのものはハイティーン向けで、派手でないスタイリッシュなブランド中心にした、落ち着いた雰囲気の、浮ついた所のない堅実そうな雑誌だった。

 そこに移っている静香は、十代らしい笑顔と若々しい肢体を、時代を感じるが秀逸なセンスの服で包み込んで、全力で青春を謳歌しているように見えた。


「本当だ。体格差を考えれば、同一人物でないのは一目瞭然だが、涼香の姉と言っても不思議じゃないほどよく似ているな」

 フローラらしい分析的な感想を言う。

「うおお! 涼香ももう少し太りゃあ、こんな風になるのか?」

 ページをめくり、薄手のブラウス姿で、胸元を強調している写真を見て、圭一が驚く。

「圭一さん。“グラマラス”と言ってください。言葉が下品です」

 圭一が中将姫ちゅうじょうひめにツッコまれる。

「そうね。でも、さくら的にはバッチグーなセンスだから、古いって言われるのはちょっとショック……」

 雨糸の言葉にさくらが拗ね気味に言う。

 おお、親父世代の生々しい死語。……そりゃそうか。時代の変遷を経験してないもんな。

 みんなを見るとやはり可笑しいのか、日本の流行語に疎いフローラを除いて、全員口元をヒクつかせている。

「……そっそうだね。確かに静香だけど、若い頃も綺麗だったんだな。……それによく似てる」

 さくらの古語に、微妙に吹き出しそうな内心を隠しつつ、本人が居ないので正直な感想を言う。


「え? 裕貴も知らなかったの?」

 すると雨糸がさらに聞いてくる。


「ああ、初耳だ」

 そう答えてから、聞かされなかった訳の説明を期待して涼香を見る。

「うっうん、ちっ中学二年のとっ時、……ふふ、古い荷物を……を整理ししてたら、そっそそこの棚の……ふ、ファッション関係の……、ほっ本と一緒に、そそその本もみ……見つけた……の」

 同じく聞きたがったみんなの注目を一身に集めて、涼香がキョドりながら説明した。


 そう言われて幅1メートルくらいの本棚を見ると、3段にわたって服飾関係の教科書や、ファッション雑誌が整然と並べられていた。


「うわあ……! さくらの知ってる本がいっぱいある~~。……あ! “amamアムアム”じゃない~~! うれし~~!」

 さくらが駆け寄って、二つ折りされた雑誌を取り出してパラパラめくる。


「……ふうむ。みんな年代が20年くらい前の本だな。……うん? 大学の教科書テキストもあるな。これも彼女のものか?」

 フローラも本棚に寄って、背文字を指差したり、時折本を引き出したりして見ている。

「…………」(コクコク)

 涼香が無言でうなずく。


「そうか。でもモデルだったとはな。意外な経歴だ……」

「うん。……そ、その本見つけた時、まっ、ママに聞いてみみたんだけど、『10代の時、モデルと舞台女優を数年間やっていただけだ』……って、怖い顔をしてお、教えてく、くれた……の」

 涼香が両手を胸の前で組んで、俯いてしまったので、『余計な詮索はするな』と、暗に静香ははおやに脅されたであろうことは手に取るように分かった。

 そしてそのせいで、俺にまで話した事がなかったのも、じゅうぶんうなずけた。

「……そうか。お前と似て美人だから不思議じゃないが、……芸名は分かるか?」

「似っ、似てって、……び、美人なんて…………」(ふるふる)

 涼香が照れながら、知らないと首を振る。

「……そうか。“一葉”、調べられるか?」

 涼香の肩の一葉に聞いてみる。

「お安い御用! ……って言いたいけど、涼香のその反応だと、知ったら何かされるかもしれないから、できれば調べたくはないわね」

「う~ん……そうか。そうだな」

「年はさくらと同じくらいかな? ……でもファッションモデルと舞台女優かあ……さくらは歌手と声優とグラビアモデルだったから、全然被ってないわねえ~~」

「うわ、世界が違うわ。……ねえ、雑誌にモデル名は載ってないの?」

「そうか。それぐらいなら……」

 雨糸から奪っていた雑誌は、ファッションの組み合わせの解説の他は、掲載ページにも撮影スタジオと撮影者しか書かれていない、アダルト感を出した雰囲気の雑誌で、文字や広告が少なくシンプルに作られていて、モデル名はそのページには載っていなかった。

「あれえ? ……載っていないなあ」

「この雑誌なら確か後ろの目次に、そのコーナーの協力会社とかが載っていたと思うよ~~」

 ペラペラめくって探していたら、さくらが下から覗き込んで雑誌名を確認して教えてくれた。

「そうか! ありがとう」

 ついでに、時代のタイムラグ無く雑誌を記憶し、即座に答えられた事に、やはり25年の時間が止まっていたのだと実感する。


 ……そういや、さっきも“懐かしい”じゃなくて、単に“うれしい”って言ってたもんな。


 後ろの方の目次を開くと、確かに協力会社、メイク、ロケ地などの情報の他に、モデル名と所属プロダクションが載っていた。

「……んと。…………あった! ……なになに?……モデル名が“志津しずカオリ”、これだな! ……かっこ“ビーナスプロダクション”だって」


「えええっっ!?」

 大声で驚いたのはなんと“さくら”だった。


「どっどうしたの?」

「ウッソ…………」

 そう聞き返すが、さくらは手を口に当てて驚いていて、とっさに言葉が出てこないようだった。


「……どうしたのって、そりゃあさくらさんの居たプロダクションだもの。同僚だったのなら当然よね」

 外野で聞いていた雨糸が代わりに答える。


「「「ええええっ!?」」」


 今度は全員が驚いた。

「はぁ、……ブルーフィーナスの昔の名前が、ビーナスプロダクションでしょ? 裕貴、ファンなのに知らなかったの?」

「……知らなかった。つか、本人さくらの事以外興味なかったし……」

「え!! そうなのゆーき?」

 さくらが目をハートにしてデレる。


「「「………………(じーー)」」」

 ついでに目を細めて見つめる女性陣の視線が痛い。


「う……まあそうだね」

「えっへへ~~……」

 さくらが背中にピトッと張り付いて、肩にアゴを乗せてきた。

「……で? 他にはなにか情報は?」

 それを見ながら雨糸が呆れたように聞き返してくる。

「いや、それ以上は何も書いてないな」

 広告が少ないおかげで、文字だけのページが探しやすくていいが、情報が少ないように感じた。

「涼香、マムの正確な年齢はわかるか?」

 フローラが聞く。

「えっ……と、確か今43歳で、……十月で44歳になる……よ?」

「そうか、……さくら、その年齢の同僚で心当りはあるか」

 フローラが聞き、その答えをさくらに振って聞き返す。

「さくらの二つ上かあ。……う~~ん、畑が違うからやっぱり覚えが無いわね~~」

 背中から俺にすり寄っていたさくらが顔を上げて、左手の人差し指を顎に当てて考え込む。

「そっか」


 ぐ~~……。

 手詰まり感の空気が満ちる中、空腹を訴える音が鳴った。


 音の方を見ると、涼香が恥ずかしそうに俯いている。

「くくく、……まあ涼香が困る事になるってなら、これ以上詮索すんの止めといてやろうや。涼香、そう言う事だからメシ食ってきちゃえ」

 圭一が笑いをこらえながら言う。

「そうだな。……悪い、引き留めちゃったな。圭一の言う通りだから、これ以上は調べないでおくよ」

「うっうん……ゴメンね」

 そう言って部屋を出て、涼香がリビングに行く。


「裕貴の作ったごはんかあ。いいなあ……」

 部屋を出た涼香を見送って、雨糸がこぼす。

「なら、今度作ってやるよ」

「本当!? うれしいー!」

「さくらも食べたいな~~」

「まさか誰かをひいきしたりははしないだろ?」


「……はい。じゃあ皆さんにお作りいたします」

 さくらとフローラにねだられた上にじっと見つめられ、あっさり屈服する。


「「「…………(にっこり)」」」

 雨糸、さくら。フローラが顔を見合わせて笑う。


「……とはいえ、静香が何でこんな田舎に来たのか? とか、さくらとゆかりのある、家の近所に住むようになったのは偶然なのかな? って思うよな」

「確かにねえ……ねえ雛菊デイジー?」

「何アルか?」

「涼香に内緒で調べられない?」

「それならもうとっくにブルーフィーナスのデータベースにアクセスしたアルが、引退時の本人の希望で非公開扱いになって、簡易プロテクトがかけられているアル。強引に覗く事も出来るアルが、それだと痕跡が残るから一葉にバレるし、結果的に涼香に知られる事になるアルよ?」

「そっか、引退後の流出対策ね?」

 過去の所属芸能人であれ、企業としては従業員でもある以上、必要な情報は残しておかねばならないが、その情報の流出を防ぐ措置は取らねばならない。

「そういう事アル」

「ダメだな。涼香は腹芸ができるタイプじゃないから、もし知られたら母親に見破られちまうゼェ?」

「同感だ」

「俺もそう思う。……気にはなるが、名の売れた芸能人って訳でもなさそうだし、見栄っ張りな静香の性格だと、そのあたりの事を恥ずかしがっているのかもしれない」

「そうですね。あまり個人のプライバシーを詮索するのは感心しませんし、この件はみなさん追及はしないと言う事に致しませんか?」

 中将姫ちゅうじょうひめが正論を言い、みんなが頷いてこの件はとりあえず収まった。


「お待たせー!」

 涼香の食事が終わるのを待つ間、姫香が何やら小さいバックを下げて戻ってきた。

「……来たか」

「来たよ……って、みんななんか神妙な顔しているけど、……どうしたの?」

「まあ、静香の過去がちょっと知れてな」


 ――そう言って雑誌を見せ、かいつまんで先ほどまでのやり取りを教える。

「……ふはあ、静香さんが元女優……。そっか……うん分かった。あたしも気を付けるよ」

 そうして涼香が朝食を終えるのを待ち、さくらの車に乗り込んで、“サンリバー長野”に向かう。


 „~  ,~ „~„~  ,~


「うわあ、大きいのねえ……」

 少し離れた駐車場へ車を止め、降りてさくらが施設を見て感嘆した。

「……これがプールか?」

 フローラが素直に驚く。

「まあ海がない田舎だから、逆に水遊びが好きな人間が多いんだよ。それにごみ処理工場の廃熱利用って目的があるからこんなに大きいんだよ」


 みんなと一緒になって見上げた施設は3階建てで、建物だけで1万平方メートルを超え、流水プール・造波プール・幼児プール・ウォータスライダー・50メートルプールに加えた通年プール施設で、さらにはサウナにジャグジーがついた各種浴場に、トレーニング場やゲートボール場、売店、レストラン、休憩施設まで備えた総合健康レクリエーション施設になっている。

 そして隣接した建物は、図書館や会議室などの多目的ホールと陶芸工房を備え、各種文化活動を行うための複合施設もあるのだ。


「海へ連れてってもらえない忙しい親を持ったここいらの子供は、たいていここへ放り込まれてお茶を濁されているんだゼェ」

「そうそう。親は中の売店やら浴場やらでノンビリしてて、子供はプールで遊ばせるってパターンな。……今思えば監視員や監視DOLLが居て安全だし、海に比べたら親は相当ラクできたはずだよな」

「……ふふ。小学生の頃はおばさんがついててくれたけど、中学生になったら圭ちゃんに姫ちゃんと一緒に4人だけで遊びに来たよね」

「……そうだけど、でもそういう裕兄ちゃんだってあたしと涼姉ほっといて、よく50メートルプールで圭ちゃんと二人だけで遊んでたじゃない。泳ぐのうまくないあたしと涼姉じゃ、あんなプールじゃ遊べなかったんだよ?」

「そうだったな。……中学生あのころはやたら体を動かしたかったんだよな」

「裕貴は体を鍛えたかったんだゼェ」

 圭一、俺、涼香、姫香でそれぞれに思い出話を口にする。


「私も誘って欲しかったなー…………」

 それを聞いていた雨糸が拗ねる。――が。

「……その時のアルか。ウイのファイルにあった隠し撮りし「わ~~~~~~~~~!! やーめーてー!!!!!」……おっと、すまんアル。口が滑りそーになたアル」

 ……ほぼ喋っている。

 雨糸が慌てて雛菊をわしづかみにしてブンブン振るが、DOLLが目を回すはずもなく雛菊は平然としている。

 そしてそんなやり取りをみんなが生暖かい目で見つめる。


「……と……まっ、まあ、ここいらの子供の放牧場ホームグラウンドだよって話ね」

 俺は笑っていいのか困ったが、かまわず笑いながら聞いていた、さくらとフローラに説明する。


「よし! じゃあ中へ入ろ~~!!」

「オ……私たちのbathingベイシング ribbonリボン姿を見せて二人を驚かせてやろう」

「黒姫、中将」

 まだ少し頬を赤らめている雨糸が、二体に声をかける。

「なあに?」「何でしょう」

「みんなの水着を見て、二人が誰に一番反応したか教えてくれる?」

「いいよ~」「承知しました」

「ちょっ! 雨糸!」「まっ、待ってくれだゼェ!」

 即答する二体に俺と圭一が不平を漏らす。

「いいじゃない二人とも。私も興味あるなー……」

 姫香がそう言って意味ありげに涼香を見る。

 その視線にみんなが涼香を見る。

「え!? わっ、わたし?」

「……んふ♪」

 姫香が嬉しそうに笑う。

「「「「「…………??」」」」」

 みんなが首を傾げた。



 „~  ,~ „~„~  ,~



 そうして必要経費さくらのフォローと言う事で、俺が全員分の入場料を払い、一日フリーパス権を貰う。

 といっても、入浴施設と供用のバンドタイプのローッカーキーを身につけるだけだ。


 これにはナンバーが振られていて、入り口で認証したDOLLの登録IDアイディーから、利用した飲食代をなどの店内サービスを支払うシステムになっていて、水着姿でも財布などの貴重品を持ち歩かなくてもいいようになっている。

 受付を済ませ、男女別のロッカールームに入る前にキーを全員に渡す。

「支払いは俺……ていうか、大島さんの好意から預かっている分から支払うから、気にせずに今日は遊んでね」

 圭一や姫香もいる手前、億越えした俺の小遣いとも言えず、適当にごまかす。


「「はーい!」」「YES」「は~~い」「了解だゼェ」「うっ……うん」


 圭一と二人で早々に着替え、入り口で女性陣を待つ。

 俺と圭一は何の変哲もないトランクスタイプの水着だ。

 圭一がアロハっぽい柄で、俺がブルー地に白や黒、赤などの裂け目模様のようなグラデーションが入っている。


「なぁ……」

 大きい施設で出入り口も幅が広く、10人くらいが平行に並んで歩けるほどの幅があり、待つ間に女性側出口を見てめていた圭一が口を開く。

「なんだ?」

「さっきの姫ちゃんの意味深な笑いは何だったと思う?」

「……さてな」

 分かりようもないのでそっけなく答える。

「………………」

 圭一も答えを期待していなかったようで、そのまま黙り込む。


「あ、一葉からつーしん。“順番に出てくるから目―見開いてよーっく見ていなさいよっ!”……だって」

 黒姫が一葉の通信を説明する。

「「……了解」」

「まずは“姫香”だって」

「おお、姫香か」

「どれどれ、どんだけ成長したかなー?」

「……いやらしい目で見んなよ?」

 圭一にくぎを刺すが、肩に乗っている中将が俺を見てにっこりと笑うので、心配要らないと察した。


「じゃー、エントリーナンバー1番! 水上姫香! 登場しまーす!」

 陰から大きな声が聞こえたかと思うと、パタパタと普通に歩いて姫香が登場し、目の前まで来てクルッとターンした。

 プロじゃないとはいえ、もう少しカッコつけて歩けよ……。

 心の中でツッコむが、そう言う所まで気が回らないのが、まだまだ子供なんだと思い、微笑ましくなる。


「「「「おおお!!」」」

「へえ、bathingベイシング ribbonリボンじゃない」

 俺らに加え、通路付近にいた人たちも感嘆する。


 姫香の着たbathingベイシング ribbonリボンは、手の平の幅のブルーのリボンで、その若干頼りないバストを覆う様に前から回し、背中でクロスさせて首を回し、そのまま一直線にもう一度背中でクロス、そして腰骨を経由して股間に回され、そのまま腰のあたりで際どいVラインを露わにして、最後は腰の左側で結び目が目立たないように締められていた。

 デザイン的には昔のタートルネックのハイレグ水着を、左右非対称にひし形にクロスさせながら輪郭だけなぞりつつ、時折リボンをねじったりして、要所を隠しているデザインといえば分かりやすい。

 雰囲気的にはスポーツ系の色に、姫香のスレンダーな肢体がマッチして非常に清楚で健康的なイメージに見える。

 ――が、

 大人だったら確実に見えてしまうであろうVラインのアノ部分で、姫香には“無い部分”を露わにし、逆に姫香のアピールポイントにしている点が、非常に不快になってしまった。


 ――く、肝心な部分がマイクロビキニ状態じゃねえか! つかこれじゃ余計に“見えている部分”が強調されちまう!


「うひょー! 青いねえ!」

「幼い……いやいや、若いっていいですねえ……」

「そうですねえ、特に天然のパ〇イ〇ンは……」

「それな!」

 などと、背後にいた中年どもから、下卑げびた呟きが聞こえてきた。


「おお!! 姫ちゃんやっぱまだ生えてねー……ンギャ!!」

 中年どもと似たようにツッコむ圭一を、中将が無言でいさめる。

「…………(グッ)」

 黙って中将に笑いかける。


「へっへー……どうよ!」

 無い胸とギリギリのVラインを見せつけ、鼻息荒く胸を張って威張る姫香。

 着付けられる人も、着てる人すらもまだまだ少ない、最新のbathingベイシング ribbonリボンを着られて、テンション上がりまくりの姫香は、アピールしている年代層をよく理解していないようだった。

「くっ、涼香め……つかお兄ちゃんはそんなデザイン許しません!!」

 そう言って持っていたタオルを腰に巻き付ける。


「「「「「「ええええ~~~~!?」」」」」」

 本人と共に、周りからブーイングが漏れた。


「はぁ、……もう裕兄ちゃんったら」

「……なんだよ?」

「何でもない。……でも顔を赤くして反対してくれてるから許してあげる」

 姫香に嬉しそうにそう言われ、思わず自分の顔に触れると、確かに火照っているのが分かった。

「こっ、これは……おまえがあんま恥ずかしいカッコしてるから…………」

 思わずどもっていると、姫香が人差し指で唇を塞いできた。

「うん。分かってるよ……ありがと」

 そういうと、すっと一旦壁の裏に戻り、何かを取ってきたようで、その手には1枚のハンカチみたいな布が握られていた。


「うふふ……」

 笑って巻いたタオルを取り、代わりに持っていた布を広げると、黒い薄手のレース状の四角い布だった。

「……なんだ?」

「これはね? ……」

 聞き返すと、姫香が解いたタオルの代わりに腰のあたりに結ぶ。

「おお、パレオか。……まあこれならいいか」

 太ももの上ぐらいの高さで、四角いミニスカート程度でギリギリVラインを隠す程度だったが、姫香が喜んでいるので妥協点とした。

「そ。……涼姉が“もし恥ずかしかったり、裕兄ちゃんが反対したら使って”って言って渡してくれたの」

「はっはー。お見通しか」

 圭一が笑う。

「…………くそっ!」

 図星を指されて舌打ちをする。

「うふふ……さ、次は?」

 姫香が左腕に絡み付き、肩に頭をのせてきた。


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