第238話 狂騒曲(Ⅰ)
それはアリスディアのその言葉から始まった。
今、考えるとこの時点でおかしいな、と考えなかったのが有斗の抜けているところであり、全ての悲劇の始まりだったといえよう。
「陛下、わたくし、最近体が変なのです」
王としての執務をこなしている有斗に、突然アリスディアがそれまで話していた話題とまったく脈絡のない話を振った。
彼女は風邪で熱気味の時もニコニコと笑みを絶やさずに仕事を行うことのできるできた娘なのだ。その我慢強い優等生のアリスディアが自らの体調が悪いなどと口に出して言うなんて、珍しいことだ。しかも執務中にだ。よっぽど体調が優れないのかもしれない。
「え・・・? 体調が悪いの? だいじょうぶ?」
「はい・・・少し体がおかしいのです」
それは大変だ!
もしアリスディアに倒れられでもしたら、有斗は明日からどうしたらいいというのだろう。
有斗の普段の生活と仕事を仕切っているのは全てアリスディアなのである。
「そんな! 仕事しすぎなんだよ。二、三日休むとかしたほうがいい! どこか痛いとか苦しいとかある?」
「胸が痛むんです。ちょうどこのあたりの・・・」
僕に見せるようにガバッと胸元を開いた。
おしい! もうちょっとで見えるのに・・・! だが見えそうで見えないところがまた実にイイ!
・・・いやいや違う、そうじゃない。胸が苦しいってことは心臓かなんかじゃないのか? 重症じゃなきゃいいけど・・・とりあえず医師だ! 話はそれからだ!
「苦しいなら侍医を呼ぼうか?」
医者を呼ぼうと立ち上がろうとする有斗を、アリスディアは手で制した。
「そこまでしていただなくても結構です。すぐに治まりますので・・・」
「本当に大丈夫? 原因は何?」
「陛下を見ているとその・・・胸が苦しいのです・・・」
というと胸の谷間が見えるくらいまで、さらに胸元を押し広げた。
なんという刺激的な光景! ばれないように顔を少し左か右に動かしたい! 少し動かせば見える気がするッ!
ああ、でもばれたらアリスディアに最低な人間と思われてしまうから動けない!
と、しきりに本能と葛藤する有斗をアリスディアはさらに誘惑する。
「触って・・・頂いたら、少しは収まるかも・・・」
ええええええええ!? 触るって・・・胸を!? 僕が!!?
他に誰が居ますかという顔でアリスディアは有斗に近づいた。
「陛下、お早く・・・早くしないと人が来てしまいますわよ」
「う、うん。そうだね。人が来たら大変だね!」
明らかに理屈が合わないその理屈を疑おうと活動を開始した有斗の大脳新皮質だったが、逆らうように視床下部が勢いよく働き始めてその活動を阻害した。ようは有斗は性欲に負けたのである。
我慢ができないとばかりに、有斗はゆっくりと手をアリスディアの胸めがけて伸ばそうとした。
が、触れる寸前に耳を力いっぱいつままれた。
「ちょっと、なにやってるんですか! 陛下!!」
この声は・・・アエネアスか?
・・・というか、万乗の君に対して耳をつまむなどという不敬な振る舞いをするような人間は朝廷内広しといえどもアエネアス唯一人と言ってよい。
アエネアスはきりきりと有斗の耳を
「何だよアエネアス! なんで怒るんだよ! これは僕から手を出したんじゃなくて、アリスディアから誘ってきたんだよ!」
そりゃあ親友のアリスディアに有斗がスケベ心で手を出そうとしているのを見たら、アエネアスが怒りたくなるのも無理はないが、この場合は誘ってきたのはアリスディアなのだから文句を言われる筋合いはない。怒るのならアリスディアに言うべきだ。
とはいえ昼間っから仕事をほっぽり出して女官とイチャイチャしようというのは決して褒められたことでは無いので、有斗も強くは出られないところなのが辛いところだ。
「何わけのわからないことを言ってるの?」
先程の口調と違ってアエネアスはもうにこやかに笑っていた。
もともと気まぐれな気分屋な側面があるアエネアスではあるが、このわずかな間での気持ちの切り替えの早さには有斗はついていけなかった。
「え? 何? さっきは何か怒ってなかったっけ!?」
「触りたかったんだよね? 有斗も男の子だもんね。男なら女の胸を触りたいと思うものなんでしょ? でも大事な親友のアリスのを触ることはわたしが許さないよ! でもそれじゃ有斗が可愛そうだものね。今回を逃せばこの先、有斗は一生、女性の胸を触るという行為ができないかもしれないもんね!」
「え・・・僕、この機会を逃すともう二度と女の人の胸を触れないの?」
なんだその飛躍しまくった論理は。意味が分からないぞ。
「あたりまえだよ! ちょっと鏡を
・・・・・・そりゃあ美男子だとは言わないけどさ。でも世の中には僕みたいな人を好きになってくれる博愛精神あふれる女性だっているはずだ。
それに男の価値は顔だけじゃない。僕にだっていいところはあるはず・・・たぶん。
そんなことを考えていると、アエネアスは有斗に見せつけるように胸を持ち上げ、近づけて見せ付けた。
次の瞬間、有斗にアエネアスは思いもよらない一言を投げかけた。
「だから、ね。代わりにわたしのを今日は特別に気が済むまで触らしてあ・げ・る♪」
・・・・・・はァ!!?
有斗は混乱した。突然、寝所に乱入された四師の乱の朝の時と同じくらい、いやそれ以上に狼狽した。
おかしい・・・アエネアスがこんなにしおらしいとは・・・それにこれではまるで痴女だ。
普段のアエネアスとはまったく真逆である。
どうもおかしいな。有斗は少しの間、思案に暮れた。
・・・
・・・・・・!
ははぁ・・・わかった。
これは夢だ。間違いない。
アエネアスがこんな可愛げのある女の子であるわけがないではないか。それにアリスディアがあんな淫乱であるはずも無い。
つまりこれは夢だ。
現実を夢と決め付けて大変なことになった過去があった気はするが・・・今振り返れば、あの時はまだリアル感がゼロではなかった。だがアエネアスがこんなにしおらしいなどというのは百パーセント夢でしかない!
もし夢でないのならエロゲーの世界に入り込んだに違いない! 異世界に魔法で召喚されることがあるなら、二次元の世界に入り込むことだってありうるはずだ!
つまりどちらにしてもここは現実の世界ではない!
・・・それにアエネアスのおっぱいを触るなんて、夢とはいえそうそうありえる話じゃないぞ。
アエネアスは何回となく夢の中に出てきたが、現実と変わらない、ちょっと抜けたところのある娘でしかなかった。これはかなりのレアパターンといえよう。
これはお言葉に甘えて触ったほうがいいんじゃないか?
アエネアスだってみてくれはなかなかの美少女だし、日々、剣術修行しているからかスタイルだって抜群だ。
それに現実では絶対触れられないだろうしな。
もし万一触ったりなんかしちゃった日には、まさに何とかに刃物、命の危険すら感じるような事件が待っていることだろう。
それじゃあ、お言葉に甘えて・・・
有斗は欲望のままに行動した。
・・・意外と硬いな・・・
初めて会った時、流れでアエネアスの胸を触った記憶があるんだけど、こんなのだったっけ?
一瞬だったしもう忘れちゃったなぁ・・・
でもアエネアスはああ見えて全身筋肉の固まりだから、胸も筋肉あるぶん普通の女の子より硬いのかも。
しかしそんなところまで再現してるとは・・・夢って馬鹿に出来ないな。
「意外とアエネアスって硬いんだね」
という有斗のもっともらしい感想に、
「それは悪ぅございましたね!」
アエネアスの声は突然、機嫌の悪さを表すように低い声になった。
背筋も凍るようなその声に、有斗の心は先程までの熱狂が嘘のように冷めていった。
何故か視界がぼやけて白くなって行く。
何故か有斗は先程までと違い寝所で
つまりアエネアスの胸を掴んで・・・
掴んで・・・
掴んでない・・・だと?
それはベッドのすぐ横に立っていたアエネアスのお尻だった。
え・・・?
なぜ尻? さっきまで確かに乳を触っていたはずだ・・・まぁお尻でも別に文句はないんだけど。
いや、違う、そういったことは問題じゃない。問題なのは・・・
「陛下、他に言うことある?」
「・・・へ?」
見上げたアエネアスの顔は真っ赤になっていた。羞恥と怒りで
あれれ、さっきまでは上機嫌に胸を触らせようとしていたアエネアスが何故かお怒りモードに入っているぞ?
有斗は何がなにやらわからずに混乱する。とりあえず周囲の状況を把握しようとした。
ここは有斗の寝所、有斗はベッドで腹ばいになり、ベッド脇に立つアエネアスのお尻を何故か掴んでいる。そしてその横には頬を薄く綺麗なピンク色に染め、手で口を塞いだアリスディアが立っていた。さっきまでのシーンとは大分食い違いがある。これは夢? それとも現実?
「え・・・これ・・・いったいどう言うこと!?」
有斗が上ずった声を上げると、その返答とばかりにご機嫌斜めモードのアエネアスが尻を掴んだままの有斗の手を叩いた。
「ごめんなさい」
有斗はベッドの上でちょこんと正座をして、腕を組んで頬を膨らまして顔を背けているアエネアスにひたすら頭を下げていた。
その怒りを必死にアリスディアが
どうやら途中までは本当に有斗の夢だったようだ。
夢の中のアエネアスに触ろうとする動きに合わせて現実でも手を前に伸ばしたら、運悪くそこにアエネアスのお尻があったということらしい。
本来なら有斗の部屋には誰一人入ってはいけないことになっている。本人は自覚症状が無かったのだが、どうやら連日の激務に身体が悲鳴を上げていたようで、アリスディアをはじめ女官が早朝から何度か声をかけたのだが、まったく起床する気配がなかったという。
そこは最近の有斗の疲れを気にしていたアリスディアが気を利かせて、陛下は体調がお悪いからと、朝議も朝食もキャンセルして起こさないでいてくれたらしい。ああ・・・アリスディアは本当に優しい、まるで女神様みたいだ。
それに対して気遣いのできない人間の代表がまさにアエネアスだといってよいだろう。
「陛下の自室には誰も入ってはならないと決められているのです」というアリスディアの手を「ダメだよ、仕事をさぼっちゃ!!」と払いのけて部屋に侵入し、耳たぶを軽く
だがどうやらそこら辺りから、有斗の夢と
それでも起きない有斗に、これからどうしようかとアリスディアと相談するためにアエネアスが後ろを向いた瞬間、そのお尻を有斗が掴んだというのがことの真相のようだ。
それにしてもベッドの上で正座をし小さく
「もうそろそろ許してくれない?」
有斗はおそるおそる上目遣いでアエネアスに許しを乞うた。
「王だからと言って人のお尻を鷲掴みにするとかありえない! しかも固いとか論評するのは失礼すぎるよ!!」
「だから謝ってるじゃないか・・・」
寝ぼけていただけなんだから、もう許してくれよというのが有斗の本音だった。故意ではないのである。
「・・・もう! 陛下は寝ぼけていた、夢を見ていたというけど、夢の中でなにがあったら、両手をつき出して前にあるものを握り締めるなんて動きになるの?」
アエネアスの怒りはさすがにようやく沈静しつつあるようだった。まぁそうでもなければ有斗が謝罪した意味がない。
「その・・・夢の中でアリスディアが胸を触って良いっていうから胸を触ろうとしたら、アエネアスがそれを止めたんだ」
「陛下! 夢の中とは言え、アリスになんてことをさせるんです!? それじゃまるでアリスが変態みたいじゃないですか!!」
「・・・」
うう、アエネアスの馬鹿にするような視線はともかく、横でそれを聞いたアリスディアの微妙な表情が有斗をいたたまれない気持ちにさせた。
あれは軽蔑の表情だ・・・嫌われちゃったかなぁ・・・
「そしたら夢の中のアエネアスが代わりに胸を触ってって言うから触ったんだよ」
「・・・はぁ!? なんなんです! 陛下はわたしをそんな羞恥心の無い女だと見ていたということですか! いくら夢でも許せませんよ!!」
「こうして謝ってるんだし、夢なんだし、そろそろ許してくれないかなぁ・・・」
有斗がそうぼやくと、
「わたしがお尻を触られたことまで夢にしないでください!!」
と、アエネアスの怒りの導火線にまた火が付いたようで、再び実に不毛な言い合いが再開された。
しばらく有斗とアエネアスの間で論争は繰り広げられていたが、やがて横合いから別な人物の声がかかった。
「陛下の御体調は良くなられたのか?」
部屋の入り口からひょっこり小さな頭がこちらを見つめていた。
「・・・陛下の寝室には誰も入れないとかいう話だったが・・・」
ラヴィーニアが執務室との境にある扉から顔を出して寝室を
「今日は緊急事態なの! 起きてこない陛下のせいなんだから!」
「いや、大事にないならそれはそれで構わないのだが・・・それより騒がしい声が内裏の外まで聞こえていたぞ」
女官だけでなく官吏にまでこの騒ぎは聞こえているんだから、王の権威のためにも静かにしてくれと言いたいらしい。
「お前は自分の尻を触られていないからそう言うんでしょ? 触られるほうの身にもなってよ!」
「赤毛のお嬢ちゃんの・・・?」
それを聞いたラヴィーニアは不思議な言葉を聞いたとばかりに首を傾げる。
「わたしのお尻を触るなどなんて物好きな、とかいう意味ッ!? あんたって、陛下を上回る失礼なやつね!!」
「いや、そういった意味ではなく、ただ不思議に思ったからだ。で、少し確認したいんだが、陛下がご自身の意思でお嬢ちゃんのお尻を触ったのかな?」
「うん」
間違いないとばかりにアエネアスは大きく頷いて見せた。
「お嬢ちゃんが無理に触らせたのではなく?」
「なんでわたしが無理矢理お尻を触らせなきゃならないのよ! わたしにはそんな趣味は無いんだから!」
憤慨するアエネアスを見てラヴィーニアは大きくその目を見開いた。
「・・・これは驚いた」
「何が?」
「ということは陛下は女に興味がおありだったのか・・・」
ラヴィーニアがもの凄く驚いた表情で有斗を眺めていた。
「は!?」
ラヴィーニアがなんでそう言った結論に達したのか有斗はわからずに困惑と戸惑いの表情を浮かべた。
「僕は普通に女の子が好きだけど」
「いや・・・てっきり興味が無いのかと」
ラヴィーニアがそう言うと、有斗が再び否定する前に、何故か有斗よりも更にびっくりした様子でアエネアスがその言を否定した。
「そんなわけあるわけないでしょ! 陛下ってば隙あらば女のことばかり考えてるんだから!!」
・・・別に有斗の名誉を守ろうとした殊勝な行動というわけでは無さそうだ。ベクトルが多少違うだけで不名誉さで言ったらどっこいどっこいだ。
しかしそこまで言われるほど変態じゃない・・・と思うんだけどな。
「言葉では女性に大いに興味があるようにおっしゃっている陛下ですが、あたしの家を訪れた時も、あたしが舞妓を呼びましょうかと言ったら喜びこそしましたが、結局それをお命じになりませんでした。喜んだふりをなされただけかと思っていたのです」
・・・それはラヴィーニアがアエネアスやアリスディアに告げ口するって脅したから引っ込めたんじゃないか! もし告げ口しないんだったら、呼んで欲しかったのが偽らざる本心だぞ!
「何より後宮には美女が揃っているし、
「そりゃアリスやわたしは美しすぎてそうそう手を出そうとは思わないでしょ! あれだよ、あれ! 高嶺の花ってやつ?」
それはアリスディアという点においては当たっているけどアエネアスには当てはまらない。あまりにも自分に都合のいいように解釈をするアエネアスに有斗は呆れて口がふさがらなかった。
「それに・・・四師の乱の時、誰だったっけ? 陛下が好きだった
「もちろん典侍の話は当時の宮廷ではかなり噂として広がっておりました」
「じゃあ有斗が女好きだってお前も知ってるだろ?」
「ですが帰って来た陛下は女人を寄り付ける様子は見られませんでした。それにどちらかと言うとダルタロスの将軍たちと一緒におられることが多い。ひょっとして
「え!!?」
有斗はラヴィーニアの口から飛び出した言葉に大きくうろたえた。いくらなんでもその噂はない! とんでもない濡れ衣だ!
「宮中の噂好きの女官たちの間では、あれは擬態で当時の本命のお目当てはプリクソス殿だった、その後はアエティウス殿がお相手だったとかいう噂も広がっているくらいです」
「ちょっと! いつの間にそんな不名誉な噂が広がっているんだよ! 断固として抗議するぞ!」
「ええ・・・? 陛下ってば、そういう趣味だったの? 引くなぁ・・・ちょっと引いちゃう、いやドン引きだよ」
先アエネアスは有斗からさりげなく距離を取ると侮蔑した目線を有斗に向けた。
「違う!」
有斗は必死になって否定するが、アエネアスとアリスディアから信頼を取り戻すことはできなかった。
「・・・いえ、別に陛下がどんなご趣味であろうとも陛下であることは変わりませんから、当然わたくしもこれからも変わらずにお仕えはいたしますが・・・」
「『が』、って何? そこで区切られると続きが妙に気になるんだけど、アリスディア?」
アリスディアは有斗とまったく目を合わせようとしなかった。
「そこは察して・・・」
アエネアスの声に振り返って見ると、アエネアスも慌てて有斗から目線を逸らす。
「アエネアスまで!?」
「それにあたしの家に来られた時にあたしの裸を見たのに特に反応しませんでしたし」
あ、馬鹿! それは今ここで言っちゃ駄目な奴だろ! 現実にあったこととは絶対違う意味に解釈しちゃうだろ!
「へ、陛下・・・」
ラヴィーニアの言葉にアリスディアはその端整な顔の眉と眉の間に幾本ものをしわを作って嫌悪感を表した。有斗との間にさらに心の溝を作ったようだった。
お願いだアリスディア、そんな目をしないで・・・アリスディアだけは何があっても最後まで味方してくれるとばかり思っていたのに・・・
捨てられた子犬のようにすがり付く目線をアリスディアに送っていた有斗だったが、「ちょっと、陛下」とアエネアスが有斗の腕を取って、力尽くで自分の方を向かせた。
「陛下はこのちんちくりんの家に行って何をしたの!? まさか姦淫の罪に当たるようなことを犯したんじゃないよね!? 陛下は幼女にしか興味が無いとか言う変態的な人間だったの!?」
「さっきまで僕をホモ扱いしてたのに、なんでラヴィーニアの裸を見たことで怒るんだよ!? 僕をどっちの立場だと思ってるわけ? 本当に訳が分からないよ!!」
「こいつの言葉は嘘じゃなくて、本当に裸を見たの!? ラヴィーニアはこの身体なんだよ? どう考えても犯罪じゃないですか! 犯罪!! それにどっちにしても変態であることには違いは無いじゃない!」
「どちらも濡れ衣だ! 僕は無実だよ! 変態じゃない!」
「ラヴィーニア、いったい陛下はあんたの家で何をしたの!? 答えて!」
詰め寄るアエネアスにラヴィーニアは平然と簡潔に答えた。
「別にたいしたことじゃない。一緒に風呂に入っただけ」
「ちょっと! ラヴィーニア、火に油を投じるような言い方はやめて!」
確かにあの状況を言葉で表すとそうなるかもしれないけどさ、もっといろいろ説明しないと勘違いしちゃうじゃないか! 一緒に風呂場には入ったかもしれないけど、浴槽に一緒に入ったわけでもないし、ラヴィーニアはすぐに出て行ったことを付け加えないと理解してくれないだろ!
ほら、まるで虫を見るような目付きでアエネアスが僕を見ているじゃないか。
「そうか・・・陛下は一応、女人に興味はおありだったということか・・・」
ラヴィーニアはそう言うと何かを思いついたらしく、こうしてはいられないとばかりに有斗の執務室を後にした。
後にはもはや有斗がどう弁解しても信用してくれそうにないアエネアスとアリスディア、そして有斗だけが残されるという最悪の展開が待ち受けていた。
修羅場だ。
これは完全に修羅場だ・・・
有斗は韮山でカヒに負けた時にも感じたことが無いような、とてつもなく不吉な予感に身を震わせた。
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