空白の切符

 狂った烏の鳴き声に耳を塞いでいる間に、向こう側の老人は歩き始めてたどり着いただろう。

 そこは終着駅の雛菊の咲いた丘であり、しかし誰一人としてその場所にたどり着いたものはいない、これまでは。


 花咲き乱れる丘に、雛菊ばかり咲いている丘に老人は一人佇む、誰もそこを訪れたりはしない。

 烏は未だに鳴き続けていることだろう、烏が鳴きやむまでは、老人はその丘を離れることはしない。


 狂った烏の叫びが、世の中を満たす頃には、誰もが駅へ殺到する。


 はち切れそうな車両、子供一人余分には乗り込めず、蟻一匹入り込む余地はあろうはずがない。

 いつまでたっても列車は発車しない。ただ大人たちは子供たちも、ずっと列車の中でその時を待つ。


 やがて烏は狂った叫びを止めた。列車はようやくの出発である。


 終着駅の老人は、静かに雛菊を摘み取り始めた。一輪一輪、列車がたどり着く頃には、雛菊の丘は丸坊主。

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